店長に抱かれたい | ナノ


▼ 23 眼鏡が壊れた ※

アーガスとの一件がひとまず片付き、俺達には平穏が訪れた。
共通のダチであるクレイから「あいつ何か知らんがジムですげえ鍛え始めてんぞ」と聞き、戦々恐々とはしたが。

きっと奴も遥か年上の店長に力で圧され、プライドがへし折られたのだろう。
優しい人が怒るとマジで怖い。それは俺も実感したことだった。

「ん、んうっ……レオシュさんっ」
「ロキ……服も全部脱いでしまいましょうね」

薄暗い寝室に入るやいなや、壁際で抱き合い深い口づけをされている。
最近の店長、なんか激しい。俺の周囲のせいで彼の静かな嫉妬や怒りを呼び起こしたのか、クールな姿にしびれてしまう。

彼は眼鏡を外し、俺のTシャツを優しくまくりながらベッドに腰かけようとする。
その時だった。興奮した俺はそのがっしりとした体つきを覆うように、膝にまたがろうとした。

「んっ? ……ああっ」

レオシュさんの珍しく驚く声が響く。
同時にガシャっと下から鈍い音がした。

「え? どうしました、店長」
「いえ、眼鏡をーー踏んでしまったようです」

驚きと焦りに目を見開く彼の手元を見る。俺も絶叫した。
なんてことを。店長のトレードマークであるお洒落な黒渕眼鏡が無惨に折れ、ガラスにもヒビが入っている。

「ああああぁ"ッ、ど、どうしよう、すみません俺のせいで!」
「違いますよ、私が乗ったんですから。興奮してここに置きっぱなしだったのがまずかったですね」

苦笑する店長が優しく声をかけてくれるが、一大事だ。
話によると今彼は予備の眼鏡を持っていないという。
作り直すにしても時間はかかるし、レオシュさんが完全に無防備状態になってしまうと俺も頭を抱えた。

「俺、あなたにずっと付きっきりでお世話します! 何でも言ってください!」
「ふふ。優しいですね、君は。ありがとうございます。でもきっと大丈夫ですから…」

言いながら眼鏡をくいっとやる仕草をしてしまう店長。
どことなく気落ちした様子にも見えて俺は非常にせつなくなった。



その夜もしっかりと触れ合いはしたものの、心配は消えない。
翌朝俺は早起きをし、彼の部屋の台所で勝手に朝御飯も準備した。

「おはようございます、レオシュさん。ささっ、どうぞこちらに、俺の手を取ってください」

栄誉な召使いのごとく彼を食卓に招き椅子を引いた。従ってくれた彼はこらえきれずに笑いをこぼす。

「あの、ロキ。とても可愛らしい姿なのですが。私は盲目じゃないんですよ。かなり目は悪いほうではありますけど……ああ、新聞はこのままでもよく見えます」

老眼を自虐し寝起きのレオシュさんが悪戯っぽく笑む。
眼鏡がない素顔なだけで、部屋着でくつろぐ彼はほんとに無防備で色気もむんむんしてるし、朝から目に毒だ。

だが家では何とかなるとはいえ、仕事ではやはり支障を来すらしかった。彼の丁寧な接客は店の評判でもあるし、ここは責任のある俺が支えなければ。

そう決意をした午前からのバイトで、店長は俺ともう一人の従業員に店を任せ、ひとり外出した。
眼鏡屋に行くといい、俺も弁償しようと思ったのだが「とんでもない」と断られる。

新しい眼鏡を買いに行くのか聞くと、そうではないと答えた。
不思議に思い人々でにぎわう喫茶店で働いていると、店長が帰ってきた。

店の奥から現れた彼はいつも通り、黒のベストにネクタイをしめ、黒髪もセットされて洗練された風貌だ。
しかし、眼鏡はなかった。

「店長! 大丈夫なんですか? 仕事に戻っても」
「ええ。コンタクトレンズを買ってきました。久々なので、おかしな感じですね」

にこりと明かす彼に驚愕する。
そうか、その手があったか。何でもレオシュさんは少年期から青年期にかけて視力が落ち、成人した免許取得の際に眼鏡をかけ始めたようだ。

前の職場でも装着していたが、体を動かす訓練の時にはコンタクトをつけていて、それ以来らしかった。

「は、はあ〜。そうなんすね。てことはしばらくそのままで…」
「はい。次に買う眼鏡は……もしよかったら君の意見も聞きたいので、一緒に来ていただけませんか?」

爽やかで照れまじりの微笑みが俺の胸をうちぬく。
店の隅で、嬉しすぎるお誘いをもちろんお受けした俺は、その日も新たな姿の店長とともに一生懸命働いた。

喫茶店には常連も多い。普段とは違う店主の姿に気づくお客さんもたくさん現れた。

「あれ? ヴァルナーさん今日眼鏡なし? いい男だなあ、あんた。眼福眼福〜」

テーブル席のおば様に声をかけられ恐縮をしている。
確かに、整った目鼻立ちから知的な雰囲気はそのままなのだが、甘い目元の柔らかさが際立って美男子であるということが更にばれている。

カウンターで目を光らせていた俺の隣で、男の先輩も面白がって「店長モテてんなぁ。やっぱイケメンは年関係ねえよなぁ」と言っていた。

さらに夕方になるにつれ、仕事終わりの女性達が店に増える。
バータイムに入ると俺も店長の隣で酒を作っていたのだが、今日はやたらと隣に視線をびしびし感じた。

「マスター、今日は素顔なんですね。やだ、格好いい! ねえ、そう思わない?」
「うん、こっちのほうが私好き〜。これからはそれでいくんですか?」
「いえ、たまたま眼鏡が壊れてしまったので……ご好評なのは有り難いのですが」

にこっと店長スマイルを受けた彼女達は「きゃーっ」と賑やかにしていた。
なんだか久々にメラメラする。俺の嫉妬心がうずまいていく。

考えてみれば彼と一緒にお風呂に入ったりセックスするときだけに見ることのできた特権だったのだ。
その奇跡が皆の目にも触れてしまうとは……。


業務が終わり、控え室で制服から着替えていた。
あとからやって来た店長も同様に服を脱ぎ始める。

「お疲れ様です、店長。大丈夫でしたか? 疲れてませんか」
「そうですね…少しだけ。目は大丈夫なんですが、周りの反応が結構変わりましたね」

自嘲気味に笑う彼だが、それもそのはずだ。
大袈裟ではなく彼はこの店の顔だし、彼の人柄やお姿を慕って通っている客も多くいるのだ。

「おかしいことじゃないっすよ、やっぱり店長素敵なんで」

自信をもって頷くと彼がこちらに向き直る。
シャツがはだけた厚い胸板が目の前にあり、息をのんだ。

「ロキ。君も、眼鏡をかけない方がいいと思いますか?」

真剣だがうかがうような視線に俺は一瞬考えた。
しかしすぐに左右に首を振る。

「いえいえ、俺は眼鏡姿のレオシュさんが大好きです。いやもちろん素顔もめちゃくちゃ好きです。つまり、どちらも比べられないほどというか、ギャップ萌えといいますか……でも今日みたいになってしまうんなら眼鏡しておいてほしいっす」

熱弁するうちについ本音を吐露してしまった。
彼はびっくりした様だが、やがて瞳を柔らかくする。

「分かりました。私もかけていたほうが楽なのですが、一番は君の好みが気になります。……ですが、キスをするときは、やはりしてないほうがいいですね」

顔を傾けて、彼の唇が俺のに触れた。
職場でのキスはとたんに全身がしびれ甘い毒がまわっていく。

「店長……っ、今日もあなたのそばにいたいです……たくさんしたいです…!」
「ええ。いいですよ、ロキ。私もです。もう少しだけ……我慢してくださいね」

艶かしく舌を入れられて意識が遠のいていった。



俺とレオシュさんは風呂場にいた。壁に手をついて後ろに密着する重みがずしりとくる。

「あ、あぁ、気持ち、いい」

腹に腕を回されて、しっかり抱かれながら腰に振動が伝わり、卑猥な音がぱんぱんっと響く。
まさかお風呂場で生挿入されるとは。

「う、ぁあ、レオシュさん、そこもいじって、ください」
「……っ、はい、ここ…ですね?」

律動を止めずに胸を手のひらで覆われ、撫でるように揉まれる。
彼の大きな手がくいこみ、汗か水か分からない湿った肌が熱くなる。

「んっ、んく、あぁ、いい、イク、いく」

半開きの口から漏らすと彼の息づかいと腰つきが激しくなる。 
ちんぽをぎゅっと握られていよいよ我慢が出来なくなった。

「あっ、ああぁ、出る、出ます、店長ぉ」

硬い彼のものに奥を突かれて中が痙攣した。同時に手に握られたちんぽもドクドクと果てる。
腹をいとしむように撫でられて、首もとに這わさった指先に顎をとられ、後ろを向いて口を吸われた。

「んぅ、んん、…は、あ…っ……あ、ああっ。だめです、店長っ」

唇を奪われながら彼の腰がまた動く。
色気のにじむ視線と合い、しばらく中を攻められていたが突然ぴたりと止まった。

「ロキ……あ、まずいです」
「えっ? ……どうしました? もうイキます…?」

いつでもいいですよ、とへたりそうな下半身で告げたのだが違うようだった。

「コンタクトを外すのを忘れていました」
「え!? 大丈夫ですかそれ、危ないですよね」

慌てて振り向こうとしたのだが、現実的な台詞とは裏腹にまだ店長のペニスはガチガチだ。

「でも君の姿がよく見えます。素晴らしいですね」
「……それは嬉しいですけどっ……どこ見てんですかっ? 恥ずかしいっす…!」

口だけの抵抗を示しているとずるりと彼のものが抜かれる。
一旦休憩か、と寂しく思ったのもつかの間、体を反転された俺はシャワーが流れる浴室で向かい合わせになった。

レオシュさんはすぐに上半身をよせてきて、俺にまたキスを再開し、太い腕で腰をつかむ。
激しめの彼にうっとりしていると、太ももをもたれてゆっくりと開かされた。

うそ。正面から犯されるのか?
興奮が爆発しそうな俺の予測は当たった。
彼は優しく声をかけながら、俺の足を広げさせて間に入ってきた。

「うっ、あぁっ、んぁっ、ヤバイっす、きもち、いい」
「ええ、私も、とても良いです、ロキ」

押し上げるようなピストンを繰り返し激しく胸を上下させる。
これは夢か何かなのか。こんな荒々しい雄っぽいレオシュさんの姿が見れるとは。

出来ればあとでベッドでもたっぷりお願いしたい。

「またイク、いくぅッ、店長!」
「はい、一緒にイキましょうね、いいですか、出しますよ……ロキ!」

中に流れ込む彼の愛そのものに視界が眩んでいく。
ああ……気持ちの満たされ具合が半端ない。

「はあ……っあ、く……いっぱい出してしまいました……君の前では、我慢がきかなくなりますね」

ぎゅっと抱きしめられて耳元でハスキーに囁かれる。
大人な彼なのにその素直な言葉にときめきが止まらない。

「我慢しないでください、レオシュさん。俺のこといつでも好きにしてください」

こちらもはあはあ言いながら懇願すると、彼の嬉しそうな笑顔にまた心が奪われた。
その夜は寝室でも店長の熱い愛を受け止め続け、もう大満足である。


後日、レオシュさんと一緒に新しい眼鏡も選んだ。前より少し縁が薄い黒渕眼鏡だ。
それを喜んでかけてくれた店長を見て、やっぱりしっくり、何度目か分からない一目惚れもしてしまった。



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