▼ 17 頑張るレオシュさん 2 ※
「では、いきますね。ロキ」
「は、はい。よろしくお願いします」
レオシュさんの寝室で、俺は眼鏡を取った素の彼に見下ろされていた。ベッド上で愛撫が始められ、首に彼の唇が優しく当たっていく。
Tシャツの隙間から手がすべってきて、いつもより更に緊張した。
「ロキ……力を抜いて。体がこわばっているよ」
「ひゃ、ひゃい!」
彼の聞きなれぬ言葉づかいに声が裏返ってしまった。
俺は馬鹿か。せっかくあの物腰丁寧な店長が頑張ってタメ口に挑戦してくれているというのに。
「あのっ店長、先にマッサージしてくれませんか? このままレアなあなたのお姿と触れ合っていきなりエロいことしちゃうと、俺数秒で出ちゃうと思うんですよ」
恥をしのんでの提案は彼にとって予想外なようだった。
「そうなんですか…? 君がそんなにこの口調の方が好きだったとは気づかず、申し訳ありません。わかりました、先にそうしましょう」
はっとなった彼に迅速に対処されるが、全然そうではないと否定する。ただ珍しくて興奮がやまないのだ。
俺は、常に大好きな彼の色んな面を見てみたいと思っているからだ。
レオシュさんにうつぶせにされ、上の服も丁寧に脱がされた。
枕を抱えて彼の繊細な指と手の動きに耐えていく。
「ここはどうかな? ……しかし、実に美しい筋肉だ。こうやってじっくり見る機会を与えられて、私は幸運だな」
後ろから彼の美声に褒められて、ずしっと男らしい体重も感じられ、俺は悶えに悶えていた。
「そ…そうっすか。……ああ! すげえ気持ちいいっす…そこ、押してください…!」
「ふふ。いいよ。もっとほぐしてあげようね、ロキ」
全てを許してくれるレオシュさんの神々しさは変わらず、俺のちんぽはシーツに擦り付けられて限界が迫る。
もうギブアップしようと手を上げかけたその時、彼の声のほうが先に止まった。
「あの、すみません。ロキ。なんだか変ですよね…? 子供に話しかけているように聞こえませんか」
突然耳元に普段の店長で囁きかけられるという不意打ち。
そういうプレイでも大歓迎ですという嗜好は置いといて、彼の不安が伝わった。
「ひぅ…っ、おれ、もうやばいっす、店長さわって…っ」
彼は俺の異変を感じ取ってくれ、「ん?」という顔をしてすぐに寝返りを打たせてくれた。
びくびくするちんぽをハーフパンツから取りだし、握って彼に懇願する。
すると店長は瞳を柔らかく緩めて手で包み込んでくれた。
「ああ、ロキ。こんなに硬くして。君はなんていやらしい子なんだろうね?」
「はい! 僕は常にどうしようもなく淫乱な男子です店長!」
「ふふ、そこまでは言っていないが。素直なところも好きだよ。では私が、ここもマッサージしてあげようか」
もうやばい。
まるで店長の庇護下にある少年にでもなったような気分で俺はしごかれ始めた。
彼の新しい一面にも瞬く間にノックダウンである。
「あ、あぁ、あ、出る……っ!!」
腹筋を揺らし盛大に精を放つ。レオシュさんの手ほど快感を与えてくるものはこの世に存在しない。
「っあ、はあ、ぁぁ……」
上体を起こしぶちまけてしまった精液を見つめると、店長が穏やかな顔つきでそれを綺麗にしてくれる。
俺は思わず彼の首に抱きつく。顔をよせて口づけを求めると、一瞬驚いたレオシュさんはすぐに受け止めてくれた。
背中を抱えられ、ねっとりとしたキスを交わす。
彼の唇に味わわれているうちに、彼のものをくわえたくなった。
「……っ、ロキ? どうしたんだ」
「レオシュさん、しゃぶらせてください」
俺は身を屈めて彼のズボンに迫る。股間部分を口ではみ、ペニスを見つけて直に口に含んだ。
大きくなった彼のものが嬉しく夢中でフェラをする。すると頭上から色っぽいうめきが聞こえ、髪を優しく撫でられた。
「とても上手だ……君は私のペニスがよっぽど好きみたいだな」
「ふ、むっ……んぅうっ」
攻めた発言が下半身を直撃する。なんだかフランクな店長に俺のM気質を刺激され続けている。
そのまま彼の射精まで見届けたかったのだが、残念ながら止められてしまった。
足を淫らに開かされ中を彼の気持ちのよい指でぐちょぐちょに濡らされる。
ジェルが浸透し一刻も早く挿入してほしいと思ったのだが、真面目な顔でゴムを取り付ける紳士な店長にあることを告げた。
「はあ、はあ、レオシュさん。もうひとつお願い聞いてくれませんか」
「はい。なんでしょうか」
彼はうっかりプレイを忘れ敬語で返してきた。俺はドキドキしながらもこの場のどさくさに紛れ、彼の寛大な心につけ込もうとしていた。
「ぜひ生でしてください。あなたさえよければ」
一世一代の気持ちとして彼に懇願すると、店長はぽろりとゴムを落とす。
しかし言っている意味がすぐに分かったのか、俺を囲むように見下ろしてきて、躊躇いがちに口を開いた。
「ロキ。本気で言っているのですか? 生というのは、つまり中に出すということですよね」
「はいっ。レオシュさんに中出しされたいんです俺、ずっとそう思ってました…!」
率直に明かすと彼の目元が次第に赤くなる。絶対に嫌という雰囲気ではないようで胸が高鳴る。
「あの、俺一応初めてなんで…その、夢というか……ダメっすかね…?」
「いえ、駄目などと、とんでもありません。……私も嬉しいです。君にそんな風に求められるとは」
彼はふわりとはにかんだ顔を、少しして曇らせた。
「しかし、確かお腹が痛くなってしまうのではないですか。そんな思いはさせたくないのです。私の欲求のせいで…」
「え! ああ、確かにそういうことも聞いたことがーー」
経験はあっても無知な俺は目をぱちくりさせるが、そのぐらいの犠牲なら平気だとも安直に考えた。
しかし優しい彼の言葉尻に気づく。
「もしかして、レオシュさんもしたいって思ってくれてたことあるんですか」
「それは……正直に言うと、そうですね。想像したことはあります。すみません」
途端にいつもの紳士的な店長が申し訳なさそうに頷く。
だが俺はやましくも有頂天になった。正直どう思われるか分からず言い出せなかったのだが、両思いだったとは。
俺も彼も短い時間でじっくり考えた。
やっぱり彼さえよければそうしたいと再度提案しようと思った矢先、レオシュさんのたくましい腕にがしりと触れられる。
「しましょうか。私のわがままになってしまいますが、君がほしいです。直接中に出して、自分のものにしたいという気持ちがすごくあります」
突然まっすぐな瞳に赤裸々に告白され、俺は沸騰しそうになりながら何度も頷いた。
さらに彼のものになりたいという自分の欲求を、彼も同じように持っていてくれたとは。
その後、俺達は熱く愛し合った。
もはや口調など関係ない。ーーいやもちろん全てのレオシュさんの見せる側面が素晴らしい。だがそのすべてに、彼の優しさは悠然と染み渡っているのだ。
ギシギシと体ごと揺らされる。二人とも汗だくになり、交わりは深夜まで続いた。
俺は何度も射精をしてしまった。その都度彼に甘い言葉をかけられ、口づけをもらう。
何も隔てるもののないセックスは、また格別だった。
信じてもらえるか分からないが正真正銘初めての夜だ。
「う、う……気持ちいいっ……やばいです、レオシュさんっ」
直接こすられる感覚。濡れた中を彼の大きな逸物が前後に動く。
その快感は挿入してくれている店長にもかなりの違いをもたらした様子だった。
「そうだね……ロキ、……これは……大変なことになったようだ。暖かくて、君の締めつけを更に感じてしまう。もう少し、抑えてくれないか?」
上で息を浅くする彼にお願いされるがもはや意図的に出来るものではない。すべてはこの人が元凶なのだ。
「あっ! うぁっ、あぁぅ、いく、いくっ、レオシュさん!」
「いいよ、ロキ、いってくれ、私も……ああ、君の奥に、出すぞ…!」
激しい律動の末に、正常位で覆い被さった大きな体にぐうう、と抱きしめられる。
脈打つ彼のペニスを感じ、直接愛しいものが流れこむのを味わう。
この時を長い間願っていた俺にとっては、何よりの幸福の瞬間だった。
しばらくそのままの体勢でいたが、やがてレオシュさんが起き上がる。
抜いたときに液が出てしまうのを恐れてか、そっと離れようとする姿が寂しくも感動的である。
「ロキ……」
彼はしかしすぐに俺をまた抱擁してきた。
恍惚とする俺の顔と唇にキスを落とし、なんだか普段よりさらに甘い空気が包む。
「へへっ。やばいっすね。俺幸せすぎちゃって……ありがとうございます、レオシュさん」
お礼を言うのもおかしいかもしれないが、店長は笑うこともなく「こちらこそ」と感動した面持ちで微笑んでくれた。
中に出したものは一応掻き出せば腹痛は減るらしい。でも彼のものをすぐに出すなどもったいない、そんな少しおかしな感覚にも囚われていた。
「あとできちんとしますからね。一緒にお風呂に入りましょうね」
横で若干心配げな眼鏡のレオシュさんに語りかけられる。
そうか。こんなご褒美もついてくるとは。ラッキーすぎじゃないかと笑顔で返事をする。
それに彼はこんなことも言ってきた。
「あの、ロキ。不測の事態に興奮してしまったという言い訳もあるのですが、結局中途半端な口調になっていますね。私もまだまだです」
「え! いいんですよ、そんなの。俺のほうこそわがまま言って申し訳ないです。ちょっと気になっていたというか……きっとそっちも素敵に違いないと思って」
そこまで深い意味もなかったのだと伝えると、彼も納得してくれたようだった。
「口調が変わっても、レオシュさんの完璧な人柄は何も変わりませんからね。だからほんとにいつものレオシュさんでいてください、というかあなたの楽な方で!」
調子よく結論を出すと彼は安堵を見せて笑む。
けれどやはり、あとでこっそりと「でも君の願いなら、いつでも頑張りますよ」と言われてしまった。
結構気にしているらしい。
だから俺もついその言葉に応える。
「うーん。そうですか。じゃあ時々タメ口で叱ってください」
「え? 叱るんですか?」
「はい。それが一番キます。ていうか俺、敬語でもフランクでも、あなたに厳しくされるのがすごく好きみたいでーー」
へらりと頭を掻いて明かせば、苦笑する彼をまた呆れさせてしまったようだ。
「それは、知っていましたが。君を知れば知るほど、甘やかしたくなってしまうんですよね。……でも分かりました。お任せください、ロキ」
「は、はい! 楽しみにしてます!」
「そんな頻繁にはできませんよ。君が可愛いので」
頭を愛情深くよしよしされる。こうして俺はその日何度目か分からない彼の大人びた笑みにやられてしまうのだった。
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