店長に抱かれたい | ナノ


▼ 16 頑張るレオシュさん 1

この間、俺の愛するレオシュさんに両親と会ってもらった。皆で観光がてら食事をし、その時に俺達の秘めた関係を告白したのだが。

相当な修羅場だった。しかし俺の両親は結果的に受け入れてくれた様子で、ひと安心である。
早く彼の存在を明らかにしたかった反面、身勝手な俺は最悪認められなくても構わないと開き直っていたのだが、やはり今は嬉しい気分だ。

こうなれたのは、大事な家族は大切にしたほうがいいと、背中で教えてくれた彼のおかげでもある。

「レオーーあっ、店長、お疲れ様です! 片付け俺がやっときますんで大丈夫っすよ!」

喫茶店の営業時間が終わり、テーブルに椅子を乗せる制服姿の店長に声をかける。
振り向いた彼はいつもの紳士的な微笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、ロキ。ですが大丈夫ですよ。一緒に取りかかったほうが、君と早く家に帰れますから」

仕事中なのにそんな甘い台詞を囁きかけられると、俺は憤死しそうになる。
早くも彼の自宅でいちゃいちゃしている自分達を想像しながら、元気よく「はい!」と返事をした。

帰宅したのは午後11時ぐらいで夜遅かったが、ここから俺とレオシュさんの恋人タイムが始まる。
なるべく節度を保つために、お風呂は順番に入り、先に出た俺は広いリビングで待っていた。

ここはアパート一階にあるお洒落な店長の居住空間だが、すでに合鍵を所持している自分は台所も使っていいと言われていた。

なので入浴を済ませたあとのレオシュさんのために、お酒を二つ作って待っていた。

「ロキ。お待たせしました。……おや、そんなに美味しそうなものを用意してくださったんですか」

眼鏡をかけ、タオルで黒髪を拭く彼の色気たっぷりの姿を拝みながら俺は頷く。

「はい! レオシュさんのお口に合うといいんですが」

Tシャツに短パンという格好の俺はそそくさと、同じくラフな部屋着をまとう彼に差し出し、二人でカウンター前に座った。

彼はグラスを口に含み男らしい喉仏をごくりと動かす。
生唾をのむ俺も同じく酒を堪能した。普段の店長の仕事ぶりを間近で見ているせいか、味はよく彼も美味しいと褒めてくれた。

さて……これからが本番だとそわそわしていると、レオシュさんはあることを尋ねてきた。

「そういえば、ロキのご両親はお元気ですか」
「えっ。はい、もちろん! めちゃめちゃ元気ですよ。店長のこともやたら聞いてきますし」

俺は気恥ずかしくも正直に述べた。あれ以来、とくに話好きの母は他の兄弟にも俺達のことを面白おかしく伝えたらしく、とくに姉達なんかは会いたい会いたいなどと言ってるそうだ。
絶対に嫌だけどな。レオシュさん格好良いし。

評判を伝えると彼は照れた感じだったが安心もしてくれたようだった。親父もかなり柔軟になり、今では普通に話している。

俺の家のことなのに、レオシュさんはすごく気を使ってくれて本当に優しい人だと感謝もした。

「やっぱり、気になってしまって。大切な君のご家族なので、出来る限りうまくいければなどと、欲が出てしまいますね」

穏やかに笑いながら、彼は片方の肩を何気なく回す。俺は「そんなの大丈夫ですって、超うまくいってますから!」と返したものの、ストレッチするようなその仕草が気になった。

「ん? 店長? どうしたんすか、肩痛いんですか?」
「あ、いえ。最近朝にジョギングを始めてから、もっと体をほぐしたほうがいいのかと考えまして」

驚きの発言に俺は目を丸くする。
レオシュさんは仕事が忙しい中、筋トレも時々行っているようだが、走る頻度も増やしたらしい。

「もっとハードにするんですか? 十分完璧な肉体ですよレオシュさん!」

興奮した俺は目をぎらつかせ迫った。すると彼はやや恥ずかしそうに眼鏡を直す。

「そうですか…? しかし私も最近思うんです。もっと君にふさわしい男になりたいと…」

彼の眼差しは何か底に燃えるものがあるように真剣だ。
だが俺は心配になった。体のことはもちろん、それ以上に。

「何言ってるんですか、俺のほうがふさわしくなるべきなんですから! それにこれ以上素敵になったら女達がむらがってきちゃいますよ、そんなの絶対ダメですッ」

最後の方は熱弁すると彼は苦笑をする。

「いえいえ。君こそ完璧ですよ。私など、心配は無用ですよロキ。こんな年ですし。……ああいえ、卑下しているわけではなく、事実ですからね」

彼の控えめな笑みに幾度となく胸がきゅんとしてしまうのだが、店長はまったく自分の迸る魅力を分かってないようだ。
やきもきしつつ考える。するとやっぱり、原因はひとつしか考えられなかった。

「あの、ひょっとして俺の親が口走ったこと気にしてませんか…? そんなの嘘ですから、年の差なんて全然大丈夫なんですよレオシュさんっ」

隣に腰かける彼に必死に語りかける。すると彼は頷きながらも瞳を曇らせた。

「はい。私もそう考えるようにしているのですが、やはり、今はよくても段々衰えも…あるでしょうし。出来るだけ頑張りたいのです」
「店長……っ。でもこれだけは言わせてください、あなたは何年経っても何十年経っても永遠に素敵な男性です! 俺はそんなあなたのそばにずっとずっといたいですし、隣は誰にも譲るつもりはないんです! つうか俺だってあと二十年もすりゃただのおっさんですよ、何の問題もないでしょう! ……あっ、レオシュさんが気に入るかは分かりませんが」

途端に自信を無くし汗が出るが、彼は心なしか瞳を潤ませ俺をじっと見つめた。

「ロキ……。ありがとうございます。君は本当に、心の優しい人ですね。すみません、情けない面を見せてしまい」

申し訳なさそうに述べた彼は、少しずつ瞳を柔らかくする。

「君のほうこそ、絶対に素敵な男性になりますよ。さらに、ですね。……こちらこそ嬉しいです。そんな風に考えて頂けるとはーー」

彼の手が俺の後ろ髪にそっと伸ばされる。ふいに腰を上げ、こちらに肩が近づいてきたときは未だに心臓が止まるかと思った。

レオシュさんの端正な大人の顔立ちが寄せられ、優しい口づけをされる。

「んっ……あ、あの、そんなタイミングはマジでずるいです」
「すみません。言葉よりも先に、手が出てしまいました」

にこりといつもの微笑みに当てられ、俺は一気に全身が燃え上がる。
だがまずい。こんなロマンチックな空気の中で自分だけ淫らに興奮できるか。
俺だって、成熟した彼に釣り合う男になりたいのだ。

しかしそんななけなしの思いのさらに上をいくのが店長だ。

「私もずっと君のそばにいたいですよ、ロキ……そう願ってしまいます。こんなに可愛い君がいつも隣にいてくれると……」

耳に来る低音が俺の目をぐるぐると回す。
やばいと思いつつも舞い上がり、何度かキスをされてしまった。

こんなのもう互いにプロポーズしあったようなもんだろう。
目眩が治まらない俺はとっさに似合わない自制をして、声を発する。

「……あっ! そうだ。俺マッサージしましょうか? レオシュさんの肩とか背中。小中高と運動部にいたんでうまいっすよ」

はははっと不自然に笑いながらなんか怪しく聞こえたかもと内心焦るが、彼は一瞬驚きつつも「はい。いいのですか」と快く承諾してくれた。

けっしてやましい気持ちでは、ないこともないが、彼の体を酷使させるよりもほぐす手伝いができたらと考えた。

明日は店も講義も休みだし、時間はたっぷりある。
ほくそ笑みながら俺は一緒に寝室へと向かった。

暖色の明かりがともる、綺麗に整頓されたベッドルームだ。
普段と違い服を着たまま、ベッドに腰を下ろす店長の後ろにいると、逆にドキドキする。

「じゃあまず、肩から揉んでいきますね」
「はい。よろしくお願いします」

丁寧に頼まれて気合いをいれマッサージをする。
ああ、好きな人の体に遠慮なく好きなだけ触れられる時間ーー。なぜもっと早く思いつかなかったのか。

邪な思いを隠し、彼の筋肉質な立派な肉体をもみほぐす。
本当に、改善すべきところなんて皆無なほど、すばらしく引き締まった体だ。

「ロキ」
「はいっ。あ、強いですか?」
「いいえ、ちょうどいいです。とても気持ちいいですよ」

前からくすりと笑う声が届き、心地よい緊張に包まれる。
その後も俺はレオシュさんにうつぶせで寝てもらい、精一杯背中のつぼを押した。

時々会話をしたが彼は本当にリラックスしてるようで、眼鏡をはずしサイドテーブルに置く。

「ふふ。これはまずいですね。気持ちがよすぎて眠ってしまいそうです」
「えっ! マジですか、嬉しいな。いいですよ寝てても」
「それは嫌ですよ、まだ君を抱いていないですから」

さらりと凄い事を言われ俺が赤い顔で黙りこくると、再び微笑む声が届いた。
なんとか彼に勝てないかと話題を探す。
するとある疑問が思い浮かんだ。

「あのー、そういえばレオシュさんって、どうしていつも敬語なんですか? もちろんすごく素敵で好きなんですけど、俺ちょっと気になっちゃって」

さりげなく聞いたことに彼は一瞬体を起こして振り向いた。

「……えっ? 私の、言葉遣いですか。確かに、そう言われてみると……不自然かもしれませんね」

店長は起き上がり、俺の前に座って考え込むそぶりを見せた。
あれ、なんか踏み込んだこと聞いてしまったか。

「すみません、言いたくないことだったらーー」
「いえ、そうではないんです。ただ、……そうですね。私の家は少し厳しくて、気がつくと中学校時代から…こういう話し方になっていたと思います」

思慮深く話してくれた事実に驚愕する。
厳しかったのは主にお父さんだったそうだが、レオシュさんは無意識に反抗心が生まれ、逆に丁寧な敬語を使うようになったのだそうだ。

なんとも驚くべき秘密に感じたが、彼は淡々と教えてくれた。

「今では完全に慣れてしまったのですが、やはりおかしいとは思います。もしかして……ロキ、あなたも止めてほしかったりしますか? その、距離感を感じていたら、申し訳ないので」

真面目なレオシュさんは俺にそう尋ねてくれたが、そんな思いは全くないと否定する。
確かに俺はかなりの年下だし、むしろこちらが悪いんじゃないかという気持ちもあったが、そんな事情があったとは知らなかったのだ。

彼の甥のニコルのことを尋ねると、「彼は赤ん坊だったのでさすがに普通に話していました」と恥ずかしそうに明かされた。

「……あの、やっぱり、嫌だったら言ってください。直しますから」

彼が近くに来てまっすぐ瞳を見つめ、手まで握ってくる。

「いやっ、本当に俺あなたの敬語大好きです。すげえ萌えます。……でも、な、直せる……んですか? レオシュさん」

好奇心から恐る恐る聞いてみると、彼は即答しなかった。
だが少しして「はい、頑張ります」と胸を張り、俺をせつなげに見てくる。

なんだか今日はやけにこの愛しい店長の珍しい姿に悶えそうになるが、急にやる気を出してしまった彼に、俺はいつのまにか押し倒されていた。



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