店長に抱かれたい | ナノ


▼ 13 言ってしまった ※

自宅であるアパートメントの一階で、私は食卓を挟み、甥のニコルを座らせていた。隣には不安げに目を泳がしているロキもいる。

「ニコル。なぜあんなことをしていたんだ? 理由があるなら言いなさい」

机の上で手を組み、正面から見据えると、甥はあからさまに肩をびくりと揺らした。
もっと早くに言うべきだった。私は感じたことのない怒りに翻弄されていた。

「ええっと……いや、マジでふざけてただけっていうかさ。あの……そんなにおじさんが怒るとは、思わなくて。……その、おじさんのもんだって、知らなかったし……」

いつもは飄々と大人びた態度を見せる高校生の甥が、たどたどしく言葉を選んでいる。
無言で全てを吐き出すまで待っていると、やがて甥は音をあげたようだった。

「悪かったよ。ごめんなさい。もうしないから。許してくれ。……でもさ、本当にこいつと付き合ってるの? おじさん、本気なのか」

弟とそっくりな青い瞳を揺れ動かし、金髪の少年が問いかけてくる。まだ彼に対する怒りは燻っていたが、私ははっきりと頷いた。

「そうだよ。私は本気だ。……彼も」

ようやくロキのことをじっと見つめることが出来ると、ロキは何度も顔を縦に振り、同意をしてくれた。
今度は私が責任を持って家族に伝えるべきだろう。

「ニコル。お前に告げるのが遅くなってすまない。隠していたと思われても、言い訳は出来ないね。……お前はまだ高校生だし、私はロキとこの通り、かなり年も離れている。二人の関係を知れば、深く動揺させるのではと思って、すぐには言えなかった。結局、こんな形になってしまったが」

絡めた手に力を入れ、一呼吸置いた。二人の若者の真剣な眼差しが突き刺さっている。

「私は本当にロキのことが好きで、大事に思っているんだ。お前はまだ若いが、もうすぐ成人するな。だから一人の人間として、知っておいてほしい。……それから、もう二度とロキにああいうことはするな。私は今度は許さないぞ」

冷静に話していたつもりが、最後のほうは感情がこもってしまった。だが、その甲斐あってかニコルは思慮深く「……分かった」と頷いてくれたのだった。

「ロキ」
「はっ、はいっ」

なぜか当事者であるこの隣の青年まで、私の声に怯え背筋をぴんと正している。つい小さく笑みがこぼれた。

「君に怒っていたわけではありません。緊張しないでください」
「……あ、はいっ。よかったです……っ」

彼の目元が少し涙ぐんでいた。震えさせてしまったのか、私の本心が届いたのか、その両方かもしれない。健気な姿を見ているとその場で抱きしめて、もっと安心させたくなった。
しかしロキは、遠慮がちに自身の気持ちを口にし始めた。

「俺、すげえ嬉しくて。でもやっぱ、こいつに黙ってるのがちょっと心苦しかったというのもあって、だから……」
「……そうだったのですね。すみません、ロキ。君の気持ちも考えずにーー」
「いや! 違うんです、俺がやっぱり言わないとって…!」

彼は突然真面目な面持ちでニコルに向き直った。

「黙っててすまん! こんなのびっくりだよな、大事なおじさんにさ。でもな、俺が店長のこと最初に好きになって、それで、押し迫って、付き合ってもらえるようになったんだ! だから本当に俺が原因でっ」
「何を言ってるんです、ロキ。そんなことはありませんよ。私も君のことが元々好きだったんですから」
「……て、てんちょおっ」

どうしてか焦りに焦っている彼のことを、落ち着かせようとした。
これは二人に関係することではあるが、どちらかに責任があるとするならば、それはやはり年長者の私なのだ。

二人の様子を食卓に肘つきながら見ていたのは、甥のニコルだった。

「まあ、よく分かんねえけど、そういうことなのか。……でもさ、ラブラブな二人に水を差すようだけどな。俺なんかより元カレのこと気を付けたほうがいいんじゃね、おじさん。なんかあいつやばそうだったぜ」

私達の姿がそれほど物珍しかったのか、甥が途端にいつもの余裕を浮かべて忠告をしてくる。対してロキは「てめえ余計なこと言うな!」と卒倒した様子だった。

あの男か。すぐに思い当たった。
ニコルは私の身内で性格もよく知っているし、話せば分かる子だ。
だが、以前店先で会ったあの派手な出で立ちの青年は非常に馴れ馴れしく、見境のないタイプに感じた。

「あの大丈夫っすよ。そういう関係じゃないんで、全然。……ていうかレオシュさん、て、手がっ。甥っ子が見てますよ!」
「そうですね。でも、私は気にしません」
「ええ! そんなぁ! 嬉しいですけどッ」

気がつくと、想いをこめてロキの両手を握っていた。
年甲斐もなく、この一連の出来事には紛れもない自分の嫉妬心を自覚することになる。

彼を誰にも渡したくない。
姿格好ならば私よりも断然似合うであろう甥ですら、ましてや彼と以前関係のあった男にだってーー。

思いを伝えたときに、「気の済むまででいい」などと言っておきながら、私はすでにロキに対して、並々ならぬ気持ちを抱いているのだ。

結局、甥のニコルは私達のことを理解してくれたようだった。
そればかりか、気を遣って「外でなんか食ってくるわ。ごゆっくり」と言われてしまった。

今回ばかりは素直にその気持ちを受け取り、私はロキと二人きりになった。





その夜、ロキを抱いた。付き合い始めたばかりだというのに、この一ヶ月、あまりに少ない触れ合いに、らしくもなく忍耐が限界に達していたようだ。

今日は正面から彼を感じたかった。寝室で互いに肌をさらけ出し、絡み合いながら、よく鍛えられた若い体を見下ろす。

「……あ、んぁあ、店長、……ん、ぃ、いく、」
「もうイッてしまうのですか? まだ入れたばかりですよ……」

口元をなぞり見つめながら、ゆっくりと腰を入れ続ける。
口を開けて舌を出し、私を誘うロキ。

舌先ですくい取り望み通りに絡み合わせる。
吸ってあげると中も細かく締まって反応をする。彼の全ての箇所が愛らしく魅了される。

私の恋人はとても敏感で達しやすく、引き締まった腹筋の上で跳ねるペニスからも液が何度も溢れ出ていた。それをさらに押し付けるように、動かないでじっと抱き締める。

耐えられないでいるロキから声が上がった。

「うごいてください…っ」
「もう少し、このままがいいです…」

しかし私は聞く耳を持たず、彼を自分のものにしたいという勝手な感情から肌を隙間なく合わせ覆い被さっていた。

「あ、あ、ずっときもちいい、ん、ああ」

目も口も半開きで訴えられ、赤く顔を染める彼をいよいよ乱れさせたくなった。
徐々に腰を動かすと、筋肉質な肢体がビクビクとしなり、もうイってしまった様子だ。
こんなにも素直な反応をする彼を心配しながら、自分だけがそうさせたいという願いが強まった。

「ロキ、好きですよ、君だけです」
「え、ええっ…? あ、あふ、あ、ぁ」

律動を繰り返し、汗で濡れる茶色の髪をときながら伝えた。
だが彼の瞳は悦楽に揺れ、夢見心地に見えた。

「君が愛おしいです、とても…」

まっすぐに見つめていると、その先も言ってしまいそうになる。
すると彼を囲う私の腕が、ぐっと捕まえられた。

「てんちょ、店長、すき」

快感の最中、ロキがうわ言のようにそう繰り返す。

「俺、あ、愛、愛してます、レオシュさん」

そう告げられた瞬間、私は体に電撃を落とされたかのように、動きを止めてしまった。下半身に来たものをぐっとこらえる。衝動的に返事をした。

「私も愛してます。きみを、ロキ、君のことを、愛していますよ」

私が迷っていた言葉を、さらりと言ってのけた彼に、今度はすぐに伝える。
彼は目元を緩ませ、「やべえ、うれしい……」と呟いたのだった。愛しさと歯がゆさが爆発しそうになり、私は即座にロキを抱きすくめた。

ああ、そう感じたのなら、すぐに口に出せばよかったのだ。
出してもいいのだ。大切な、愛しい恋人なのだから。

「愛してます、ロキ、大好きです、分かっていただけますか」

繋がった部分をさらに感じながら、腰を深く入れる。初めての大きな感情で思いをぶつけた。

「あ、ああ、まって、まっ、れお、しゅさ、」

「だめ、だ、いく、いく、レオシュさ、まって」
    
囁き続けていると彼は連続してまた達した。腰を一段と跳ねさせ、私も引きずられて中で果ててしまった。
こんな事態は、初めてだった。

ベッドの軋みが静かになった寝室で、二人の呼吸音だけが響く。なぜかロキは顔をそむけ、胸を上下させていた。
どうしたのだろうと、無性に気になり、頬を撫でて名前を呼んだ。

「うぁ、あ……見ないでください」
「どうしてですか、見せてください」

優しく伝えて視線を合わせると、彼の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

「はず、かしい、っす」

しっかりした体格の彼の、子供のようなあどけなさを見た私は、胸が痛いくらいに掴まれた。

「レオシュさん、もう一回、言って…」

顔を隠すように首に腕をまわし、ぎゅっと抱きつかれる。
私も心をこめて抱きしめ返した。

「愛していますよ、ロキ」

落ち着いて出た言葉がなじんできて、不思議な感覚に陥る。
ぐすぐす聞こえていた彼が私と再び視線を合わせてくれた。

「俺も…っ……愛してますレオシュさん…っ……ううっ」
「はい。ありがとうございます。とても幸せです」

あやすようにキスでなだめる。
もっと早くに自分から言えばよかった。
何を迷っていたのだろう。彼の大きな気持ちと同じぐらい、私は彼をすでに愛していたのだと、伝えていればよかった。



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