Otherside | ナノ

▼ 47 離れても ※

ベルンホーンが勾留されて一ヶ月が経過した。
シスタは週に二度面会が許され、二時間のみと決まっていたが会うことを楽しみにしていた。

今日も嗜好品などの差し入れをし、午後の時間を二人で過ごしている。

「お前の職場はどうだ? あいつにちょっかい出されていないか」
「リンデか? 彼は優秀だよ。管理局で事務をしていて忙しそうだ。私とは同僚としての付き合いしかしていないから安心しろ」

怪我の治療をしてくれた元天使の男に怪しいところはなく、同じ堕天使の反逆行為を目の当たりにしたことで、さらに使命感がわいたようだった。

「ならいいが。ああ、外の様子がまるで分からないと心配でたまらないよ、シスタ。お前に瞳の魔法をかけることも出来ないしな」

顔を撫でながら監視できない辛さを訴えられる。
けれど表情はどこか柔らかく、浮足立っているようにも見えた。こんな状況なのにも関わらずだ。

ソファで隣に座るシスタは彼をじっと見た。

「お前は上機嫌だな。結婚することがそんなに嬉しいか」
「もちろんさ。こうなったことの唯一の幸だ」
「馬鹿なことを言うな」
「悪い。お前は二度とあんな目に合わせないよ」

向き直ったベルンホーンは真剣な瞳で告げ、頬をそっと手で包んで青年に口づける。

温かさを感じながらゆっくり開いたシスタの瞳は、憂いを帯びている。いくら約束をしても、今の自分達は暗闇に足を掴まれて抜け出せない状況だ。

「……結婚したって、お前はここにいるんだろう。とんだ結婚生活だな」

ふっ、と皮肉めいてこぼすと、ベルンホーンは言葉に詰まる。
シスタが自分のことで悲しんでいることは鈍感な悪魔にも伝わった。

「私もここに住めればいいのに」

そう呟かれると、何が起こったのか分からないほど悪魔は動転する。

「シスタ。俺とここに数十年閉じ込められてもいいのか? それほど俺と離れるのが耐え難いか」

胸を高鳴らせて尋ねるとシスタは間を置いて頷いた。
素直じゃない性格が赤らんだ顔に感情を示している。

ベルンホーンは腕を組みながら考え、予想外のことを言った。

「わかった。トロイエに寂しさを埋めてもらえ」
「…………なんだと?」

声を萎れさせたシスタにベルンホーンは気づいていない。考えたのはあくまで合理的なことだった。

「なにも抱いてもらえなどと言ってるんじゃないぞ。お前は俺が抱く。限りある時間の中でな。……けれど、外ではお前のそばにいてやることが出来ない。白旗だ」

両手をあげてあっさりと認めたようにシスタには聞こえた。
むかむかと腹の底から怒りが湧き上がってくる。

「なんだよそれは……弱音を吐くな、私を簡単に他の者に渡すな! お前はそんな軟弱者だったのか?」
「渡してなどいないさ、譲歩してやってるんだ。俺の悔しさがわからないか? 本当は誰よりもお前を手にしたいんだ」
「じゃあ早く出てこい! 私は……お前がいないと嫌だ。お前が開けた心の穴は、お前にしか埋められないんだ、ベルンホーン……」

シスタはいつの間にか拳を握り、唇を震わせていた。

今日だけは気持ちをはっきり伝えておこうとする。
こうして会えるときに伝えないと、必ず後悔するからだ。

「お前が必要だ……好きなんだ」

シスタは体を寄せ、キスを求めた。
自分からこんなにもこの男を欲しいと思ったことはなかった。
心が、全身が求めていた。

「シスタ……」

ベルンホーンは顔を傾けて青年の顔を掴み、熱く口づけをする。唇をこじ開け、舌を絡ませて熱を与えた。

激しくなるキスは止まらず、ベルンホーンは青年の体を抱き上げた。
そのまま居間のソファから寝室へと移動し、ベッドに下ろす。

それから時間切れになるまで二人は愛し合った。
看守がいるのも構わず、身体をベッドで重ね合わせるのに没頭したのだった。





「んっ、あぁ、はぁっ」

シスタは裸のベルンホーンの腰に乗せられ、自ら下半身を動かしていた。
白い肌は汗が滴り、快感に酔いしれている。

「俺といる時は、理性など捨てろ。ほら、分からせてやる。お前のものだと……感じろ」

こうなるはずではなかった。
今日は大きな胸板に包まれ、甘く抱かれることを想像していた。

けれどベルンホーンは正しい。
今必要なのは、この男はどこにも行かず、離れていても自分の手が繋がるところに在るということを確かめることだ。

「はあ……はあ……どうかしている……すごく、お前を感じる」

腰を上下に動かしながら、シスタの濡れた瞳が悪魔を見下ろす。

「どう感じるんだ? 気持ちがいいのか、俺のは」
「……あぁ……すごく良い……」

両手指を絡ませて、シスタの尻がなまめかしく弾む。
心だけではなく、身体も悪魔に魅せられていると、もう認めざるを得なかった。

今度はじっと耐えていたベルンホーンが仕掛ける番だ。
がしりと腰を持ち下からペニスを突き立てていく。

青年の背はがくがくと揺れ始めた。

「あっあっ、ぁあっ」

身体は跳ね続け、ベッドが規則的にきしみ、シスタの目が恍惚にとろけていく。

「どこがいい、俺に言え、シスタ」
「んあっ、ぁあ、あっ、そこ、あぁぁ」
「……ここか? お前は奥をぐりぐりされるのが大好きだものな?」
「んっあぁっ! あ、んぁ、あぁっ!」

激しく責められ、下半身は悪魔の腰に繋がり快感を惜しげもなく与えられる。
自然に濡れたそこはぐちょぐちょと音を立て、ベルンホーンの大きなペニスを喜んでしめつけている。

「んっ、いく、いくっ」
「いいぞ、イケ、ほらここだろ、ずっとイカせてやる」
「んっんっ、あぁあっ、だ、めだ、んあっ、いく、あぁ〜っ」

シスタらしくないいやらしい声が天井まで響く。
ベルンホーンは彼を抱きかかえ、うつぶせに寝かせた。次はバックで容赦なく突いていく。

「ひっ、う、やぁ、あぁっ!」

悪魔にとって青年は淫乱だ。一度こうなってしまえばもう言う通りになる。

青年の液が垂れたペニスをベッドに押し付けさせ、激しいピストンでさらに虜にしていく。

「はぁ、やはりこんなお前は、俺しか満足させられないな。どの男にも無理だ。真面目なお前をこんなふうにいやらしく喘がせるのは」

今日は弱っていて素直だから少しそこにつけこみたい。
もっと自分好みの言葉を吐かせたい。
そんな欲が、とめどない精液とともにあふれていく。

再び体勢を変え、息も浅く横たわるシスタの乳首を舐めあげ、全身に舌を這わせていく。

「んぅ、はぁ、ベルン、ホーン」
「ん? どうして欲しい? 好きなことをしてやるぞ」

屈んだ大きな背中が動き、口で咥えられる。
なまめかしい舌の近くにある手首には、贈った腕輪が光っている。
これは自分への愛情のこもった奉仕だと、一層感じながらシスタはじっと見つめていた。

予期せぬ出来事は彼の口の中で果てた後だ。

シスタは上半身を起こし、悪魔の前で身を屈めた。
尻を上げた状態だが手と口元はベルンホーンのペニスの前に引き寄せられている。

「私もお前のを……してやる」

晴天の霹靂だったが、急激に満悦したベルンホーンは望むままにやらせてやった。

懸命にしゃぶる姿はいつもの大人びた冷静な青年とは違い、どこかあどけなささえ映った。

「ふふ。ようやく俺のを好きになってくれたか。知っているか? お前の口はとても気持ちがいいんだ。キスをしても、俺のを咥えさせても、たまらなく具合が良い」

やらしい言い方にも反論せず、シスタは自ら口と舌を使って愛撫を続けた。

「ん、っ、む、ふ、ぅ」

ベルンホーンの瞳の瞳孔が開いていく。じっくりと見つめ記憶に留める。
一番濃いのが出そうだ。そう思いながら腰を動かすのは我慢して愛しい青年に絞り出させた。

「出すぞシスタ。頑張ったお前へのご褒美だ、すべて飲み干せよ」
「……ん、んんっ、……んむっ!」

なんともいえない色気のある表情でごくりと喉を潤したシスタは、はぁはぁと細かい息をついた。

ベルンホーンはそんな彼の黒髪をなで上げ、顔を近づけて口に深いキスをする。

「ふふっ。とてもいい子だ。俺の味はどうだ?」
「聞くな……」

恥ずかしそうに目をそらす青年が愛しくてたまらず、悪魔はまた彼の細身に覆いかぶさり、愛を与え続けるのだった。





「はあ、くそ、時間が足りなすぎる。もうあとわずかしかない」

熱気のこもった寝室に裸で寝そべる悪魔の悪態が響く。
隣に横たわっていたシスタはまだ顔が赤らんでいたが、ベルンホーンの胸元に離れがたい手を置いていた。

やがてゆっくりと体を起こす。

「……着替えないと」

少しふらつきながら服を着ようとする白い背中を、ベルンホーンもまた切なげに見つめていた。長い指が伸ばされ、シスタの肌をなぞる。

「シスタ。悪い。来週は一度しか会えないんだ」
「……え?」
「そんな顔をするな。気が変わってしまう」

起き上がり、座った体勢でシスタを抱きしめて告げる。

「俺の成人した弟達が訪問しに来るんだ。多忙な奴らなんでな、時間を合わせて会いに来てくれる」
「あ……そうだったのか。もちろんだ、面会の機会をすべて私にする必要はない。家族とゆっくり大切な時間を過ごしてくれ、ベルンホーン」

シスタは身を乗り出して抱擁する力を強める。
家族が彼に寄り添ってくれることに安心と喜びもあった。

「おい、お前も家族になるんだぞ。来週だけだ。それからはずっとお前との時間なんだからな?」
「わかったよ、ありがとう。だが本当に、お前個人が好きに過ごしてほしい、ただでさえこんな風に隔離された生活でーー」

青年の生真面目さがまたすぐ戻ってきて悪魔は不満に思う。
さっきはあれほど自分の腕の中で理性を手放し、とろけていたというのに。

もっと執着してほしいと思うのだが、彼の秩序立った思考はこんな会話にも表れた。

「ところで、お前の兄弟は私との結婚に反対しないだろうか。少し心配だな」
「それは大丈夫だ。反対する者などいないし、俺は好き勝手に生きていると皆知っている。今さら口を出す者など皆無さ」

頭を優しく撫でられたシスタはひとまず納得するように努めた。
今は自分もしっかりしていなければならない。
ベルンホーンを微力ながらも支えていくために。

いつもは時間前に玄関へ向かい、悪魔に別れを告げていたが、この日はどうにも離れがたく、シスタは彼の暖かく広い胸の中に最後まで抱かれていた。



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