Undying | ナノ


▼ 25 悪から人へ ※

シグリエルは片腕に弟、もう片方に神父を抱えていた。両者とも意識はない。
廃墟を出ると、ちょうどサウレスの青い魔法鳥がやって来て、嘴を開け彼の声でこう告げる。

『よお、お疲れ。僕達は魔術協会のコネを使って宿屋に集結している。お前達もそいつを連れてすぐに来い』

偉そうに合流地点を述べ、メッセージは終わった。シグリエルは直接その都市に転移魔法で飛ぶ。
魔術協会とは関わりがないが、以前仕事で会員と一緒になり、本部を訪れたことがあった。

指定先は大衆酒場が併設した宿で、協会の息がかかった安全な施設らしい。
玄関前に物々しく立つラノウの部下らは、男を二人抱えたシグリエルを見ると、すぐに運ぶのを手伝い中に通した。

「帰ってきたのか、兄ちゃん。ご苦労さん。そいつが親父の腰巾着か? もう死にそうじゃねえか。まだ死ぬなよ。……おい、尋問部屋に連れて行け」

神父の頭を小突いた後、部下に命じた当主はシグリエルが大事に抱えるアディルを見る。

「何があったんだ、大丈夫か。寝かせて休ませろ。お前には紹介したい奴がいる」
「ああ、わかった」

すでに普通の状態に戻ったシグリエルだが、妙な落ち着きの無さと殺気を当主は感じていた。傷だらけの服従者を見るに当然のことではあったが。

弟を別室のベッドに横たえてから、一階の大広間に向かう。
そこには魔術師のサウレス、側近のジャスパー、他に幹部数人と多くの手下が集まっていた。

暑苦しい屈強な男達の中で、黒装束をまとった肌の白い、美しい容姿の死霊術師は浮いていたが、構わず歩み寄る。

ラノウが立ち上がり、二人の幹部を紹介した。

「お前のことは全部説明してある。こいつは俺の隊をまとめているゾルタンだ。軍隊上りの男でな、もう年だが誰よりも強い。武器管理も任せている、頼れる奴だ」
「それは光栄だが、一応あんたより年下なんだがな。よろしく、シグリエル」

顔や腕に傷跡がある短い銀髪の男が、愛想よく握手を求める。自分も固く手を握った。
魔力はなく普通の人間だが、かなり手強いことは纏う精神力で感じる。そして殺しのプロのはずなのに、悪霊にも呪われていない。

二人目の幹部は見るからに悪そうな武闘派で、入墨をした静かなスキンヘッドだ。鋭い目つきで手を差し出してくる。
気になったのは、巨体の彼の後ろには不似合いな老婦人の守護霊がついていた。

「……アディルの兄貴だな。俺はゼスだ。爆弾や魔法薬の製造を指揮している。体術が得意であんたの弟ともよく組手をしていた。元気になったら顔が見たい」

シグリエルは考えた後、「ああ。会わせよう」と頷いた。人は外見通りのことが多いが、一番年代の近そうなこの男は少なくとも弟に対して友好的なようだ。

そしてゼスは、小さな声でシグリエルに告げた。

「気づいたと思うが俺には魔力がある。普段は使わないがな。あっちの側近もそうだ」

彼の視線の先には、眼鏡をかけた中年のジャスパーがいた。知的で冷静、無駄口を叩かないというイメージの側近が、聞こえていたようにこちらを見る。

近づいてきて、こう告げた。

「シグリエルさん。ラノウ。サウレスさん。尋問の準備が出来ました。こちらへどうぞ」

側近に案内されるまま三人は向かった。
数階建ての大衆宿の地下に、防音防護の監禁部屋があるとは驚きだ。

鉄扉を観察するシグリエルの正面から、疲れたふうに骨を鳴らす男達が出てきた。

「起こしといたぜ、ラノウ。あの野郎、ずっと防御しやがって。ひょろい奴なのに数人がかりだよ」

愚痴りながら役目を引き渡し、去っていく。
目で追ったシグリエルは当主に尋ねた。

「今の男達も魔力があったが?」
「だからそいつらを優先して集めたんだよ。魔術師は使わないと言ったが奴等は俺の部下共だ。文句あるか」
「いいや、ない。助かる」

素直に答ると肩を竦められたが、普段武力だけで組織を運営している当主の譲歩と協力は有り難かった。

敵は遥かに格上の魔術師だ。少しでも対等に渡り合える者達が必要だった。

部屋は灰壁に囲まれ、中央に椅子がぽつんとあり、そこに頭をうなだれた神父ターゴが縛り付けられていた。
ローブは取られ、後ろに手を封じられている。

「あーあー、顔がボッコボコじゃねえか。おい俺を見ろ。お前がアディルを襲ったんだな?」
「…………私じゃないです、私は指示しただけです。あなたに恨みはない、あなたの弟にもっ」

急にはっきりと喋りだした神父は、当主とシグリエルに交互に訴えた。
その横っ面にラノウの拳が叩き込まれる。連続で、何発も。

「う゛っ、ぅぐッ、ぶッ」
「じゃあお前がやったんだな! よくも俺の仲間を殺しやがって! 誰に命令された、言え!」
「マルグス! マルグス・ファラトです! うぶぅッ」

残りの二人は殴りつける当主を黙って見ていた。
気が済んだと思われた後、青ローブ姿のサウレスが前に出る。

「奴は今どこにいる? 一言で答えろよ。お前が嘘をついたらすぐに分かる。途端に火炙りにしてやるぞ」

そう言って神父の指先を軽くつつくと、そこに小さな火が燃え移った。叫んだターゴが呪文で消そうとするが、サウレスは「消えないんだよ」とあざ笑う。

「どこにいるかは知らないんですよ、近づきたくもない、殺されるから! 私は逃げているだけです、何でも答えますから命は助けて!」

惨めに乞う中年の男に、当主らは舌打ちをする。
シグリエルは男の指に一本ずつ広がる炎と焦げ跡を見つめながら、口を開いた。

「マルグスの悪魔について知っているか」
「知らない、知りませんっ。私なんかは姿を見たこともない! その孤高の存在は、滅多に現れないんですから!」

じろりと鋭い紫色の瞳が、神父の目を見透かすように捕らえる。
息を呑んだターゴは、鼓動までも支配下に置かれたように逆に静まっていった。

「ではマルグスが転生した男のことを知っているか」
「……は、はい。あれは奴が主催していた儀式グループのリーダー、バイルです。かわいそうに、いい奴だったのに騙されて殺されて……。他の皆も同じように全員ーー私も一員だったけれど、生き残るために仕方なく……!」

詳しく話を聞くと、父マルグスは大学卒業後のおよそ三十年前から、儀式魔術を行う集団を形成していたらしい。
教団とも言えぬ少数の集まりは、本来魔術師が深遠な精神修養を行う場となる。

しかしマルグスのことだ、自分個人の霊性を高めるために周りを利用していたのは想像に容易い。
現にリーダー格として据えられたバイルという男は、天涯孤独で天才と呼ばれた男だった。

感性が似ており金髪に青い瞳という容姿も共通し、父に目をつけられる。
ただひとつ彼はお人好しな性格で、口が上手く実力者の父を完全に信用してしまったことが仇となった。

彼を殺した父は当時から死体を綺麗に保存し、いつか転生する時まで丁寧に保管していたのだろう。
神父が言うには、その魂を担保に悪魔ベルンホーンとの契約を開始したとされる。

話を聞いたシグリエルに、もう驚きはなかった。標的は再び神父に戻る。

「仕方なく、お前はマルグスに服従していたのか。ならばなぜ拐った娘達に乱暴をした」
「そ……っそれは……どうせ殺すのなら好きにしてもいいじゃないですか。私は二十年以上あの男にこき使われてきたんだ、生きるために必要な楽しみぐらいーー」

のうのうと述べられ、当主とサウレスは胸糞悪いといった風に表情をしかめる。
シグリエルはもっとも暗い顔つきをしていた。

生きるため。
何度もそう話す神父の首を掴み上げる。
男の体が浮かび、締まる首根を必死に引き剥がそうとする。

「苦しいか? なぜお前が生きていて、俺の弟が死んだのだろうな。お前はマルグスの共謀者だ。今日ここで死ぬ」

地を這う声が響き、シグリエルは悪魔の力を発現した。
背から出た黒い幾重もの雷光は、針のごとく神父の体の側面に突き刺さる。
叫び声をあげた男はまだ生きており、苦痛の顔で呻いた。

「ぐっ、ぅ、グァッ、やめて゛っぐれッ」

それだけでは終わらない。触手のように蠢く棘つきの雷光は男の両肩を貫き後ろの壁に貼り付けた。
シグリエルは不可思議な言語を唱え、男の正面に大きな黒い影の物体を出す。

そいつは太い手足がある化け物で、むしゃむしゃと頭から神父を食べた。するとすぐに叫び声は聞こえなくなった。

ただ黙ってその様子を見ている死霊術師と、言葉を失う二人の男。
ようやく当主ラノウは口を開く。

「おいおい……えげつねえことするなお前……組織の俺等も真っ青だぞ」

腕を組み、首をひねるサウレスも「…確かに」と呆れている。

最後まで見届ける三人の背後に、突如悪魔ディーエが現れた。長い黒髪を揺らし、人間が死ぬ様を愉しげに眺めている。

「なあ、その魂。どうすんだ? 俺に食わせろ、シグリエル」

にやりと提案してくる。
悪魔は力の均衡を図るため、魂を無理やり奪うことを禁じられている。魂の殻である肉体をもつ、人間の許可がないと手に入れられないのだ。

「やめておけ、シグリエル」

サウレスは様々な可能性を危惧して首を振る。
神父の魂は父に奪われる恐れがあるため、消滅させるつもりなのはこの場の皆が知っていた。

だがシグリエル本人は、すでに決めたことを翻意しなかった。

「……好きにしろ」

許可をもらい、ディーエは早速その場に残った青白い魂を取り上げる。
まばゆい光とともに自身の胸に吸収させると、「あ、あ、あ〜ッ」と気持ちの悪い声を出して恍惚となった。

これで一層強くなる。マルグスを倒す源になるのならば。
たとえ禁忌でも、自らをより深く闇に沈めることになろうとも、構わなかった。





シグリエルは宿の三階に戻ってきた。木目調の広々とした二人部屋で、片方のベッドにまだ弟が寝ている。

そばに腰掛け、そっと柔らかな黒髪を梳く。

どんどん人から離れていく自分。
力を得て、あいつに勝つということはそういうことだと、納得させる。
もうとっくに自分は捨てていたけれど。

まだここに在るのは、自分らしくいられる瞬間は、アディルがくれたものだった。

「……う、ん……」

ちょうど目覚めたアディルの、ぱちりとした金色の瞳が兄を捕らえる。

「兄貴……? ……あっ! あいつは……!」
「神父はもうどこにもいない」

穏やかに告げたシグリエルの言葉に、弟は全てを悟ったようだった。

「そっか……ははっ……」

自分を間接的に殺した男の最後は、見れなかった。偶然なのか、兄の計らいなのかは分からないが。

弟の表情には恐れと心細さが入り混じっている。
シグリエルには痛いほどその気持ちが分かった。悪魔の力により変貌した自分に、深く動揺しているのだ。

「アディル……」
「……ごめん、兄貴。……軽々しく、悪魔の力を使えばいいとか言って……悪かった」

呟かれて、思わず弟のことを腕の中に引き寄せる。
はっとなったアディルは、兄の指先に顎を上向かせられ、口づけをされた。

その瞬間は時間が止まったように安堵がもたらされ、心が軽くなる。
目を開けると、心配したシグリエルの紫の瞳が、じっと見つめていた。

「大丈夫だ。お前は何も変わっていない。俺の大切な弟だ。俺がいつもそばにいる。恐れなくていい」

優しい兄の声が、すんなりと胸の内に入ってくる。
アディルは泣きそうな顔をしていた。その言葉は、いつも兄に対して思っている事だったから。

「…………キスしてくれ、兄貴」

俺もだよとか、ありがとうだとか、そういう反応をする前に優先させてしまった。

シグリエルは目を見開いたが、弟の頬を大事そうに手のひらで包むと、深い口付けを再開した。




時間が経ち、室内は淫靡な音に濡れる。
口の中を湿らせて、二人はキスに没頭していた。
裸の弟を大きな背中で覆う兄は、律動によりベッドをきしませる。

「あ、あ……んあ……もっと……兄貴……」

とろける瞳に乞われて、シグリエルは太ももを逞しい腕で持ち上げ、さらに奥に性器を沈ませた。
もう知っている弟の良い場所を攻めると、継続的に声が呼応し水音がぴちゃぴちゃと響く。

「っん……い、ああ、そこ、良いっ」
「……イキたいか? アディル」
「あっ、んぁ、いきっ、たい…っ」

見つめ合う瞳が濡れて見え、上から抱きしめた兄は弟をいかせることに専念する。腰を固定して振り上げているとアディルはあっという間に何度目かの絶頂を味わった。

「兄貴も、出せって……」
「ああ……今出してやる」

耳に甘い声が伝わり、まだ震わせている弟の首に吸い付く。ここを軽く咬みながら中を突くと、アディルはさらに気持ちがよくなると分かっていた。

「あっ、あぁっ、やぁっ!」

イッたのを感じた瞬間、ようやく兄も中で射精をした。二人が同時に達することの素晴らしさを知って以来、シグリエルはいつも実践しようとする。

結果的に弟は何度も全身を降参させてしまうのだが、快感に溺れ理性がふわついているこの夜は、余計にされるがままだった。

アディルは脚をだらりと開く。薄暗いベッドの上で片腕を上げ、兄の汗がまとわりついた肌を惜しげもなく見せ、誘うような目つきで寝そべっていた。

「……アディル……先に後ろからお前を犯したい」
「ん、え……っ?」

直接的な言い分に驚く前に、シグリエルは弟の体を反転させ、シーツに押しつける。問答無用で上に乗り、背中に胸板を密着させて性器を挿入した。

寝た体勢の弟を我欲のままに抱き尽くす。自由を奪われたアディルは初めてこれほど強い拘束具合で、大きなペニスに中を無尽に行き来される。

「やっ、やめっ、んあっ、兄貴ッ」

抗う声とは裏腹に腰は喜び、すぐにガクガクとイッてしまう。
その歓喜の痙攣を味わったあと、シグリエルは体を起こした。
弟の尻肉の弾力をわし掴んで確かめる。指の腹で覗いた桃色のくぼみからは、だらりと精液があふれてくる。

「……アディル……」

興奮に上ずった声を出し、そこにまた反り立つ自身を埋め込もうと思った。
だがその時、廊下の奥の階段から上ってくる足音が聞こえた。

動きを止めたシグリエルに気づいたアディルも、聴力を研ぎ澄ます。

男は、当主のラノウだった。酒を呑んだ様子でドンドンと扉を叩く。

「おい、シグリエル! アディルはどうだ?」
「……まだ寝ている」

静かに答えた兄は、あろうことかその時点で挿入を始めた。
いきなりペニスが入ってきた穴の中が収縮するのを感じ、アディルはうめくのを我慢して枕を掴む。

「…んっ……あっ……あにッ…」
「大丈夫だ、声は聞こえない。魔法をかけてある」

そう耳元で囁かれるものの、信じられるはずもなく、動き始めた兄の腰に翻弄される。

「まだ寝てんのかよ。せっかく女達を呼んだんだけどな。お前はどうだ、シグリエル。こんな時こそ俺達男共には快楽と癒やしが必要だろ? 一緒に親睦を深めようぜ」

下品な笑いとともにラノウが誘ってくる。
シグリエルは腰を止めずに揺らし続ける。真下にいる、染まった横顔で快感に悶える弟をひたすら見つめて。

「俺と弟に女はいらない」

そう告げてさらに奥深くを突いていくと、枕に顔を埋めた弟が「ん〜〜ッ」と声にならない声を上げ、尻を震わせて幾度も兄のペニスを締め付けた。

外からラノウの舌打ちが響く。その上、ガチャガチャと扉を開けようとし、弟はさらに気が気でない状態でイキ続ける。

「んだよクソっ、鍵閉めやがって。ああ、ああ。そうかい。ったく最近の若い野郎は……つまらねえな。もっと遊べよ、ガッチガチに勃つうちによ。……あっ、俺はいつでも現役だけどな? あとでそいつに聞いてみろ。ハッハッハ! じゃあな」

聞き捨てならない酔っ払いの言葉をシグリエルは無視し、腰を突き上げ、弟の中に精液を流し込む。
当主が去ったと分かったアディルだったが、掴まっていた枕を兄に取られ、思い切り声を出してしまう。

「あっああっ、兄貴ぃっ、もっとイクッ、んっ、いくぅっ!」

シーツに擦り付けた性器でもいき、たっぷり液を絞り取る最奥でも達し、弟は背中を反らせて動物のように下半身を揺らした。

アディルを起こして膝立ちにさせ、後ろから抱きしめたシグリエルは一滴残らず注いだあと、顎を手のひらで包んで振り向かせる。

「んっふっあっ」

舌をねじ込み、ようやくキスが出来ると忙しなく絡ませた。
まだ硬い性器を抜かずに口も繋げて離れないように抱きしめる。

「あ、あにき、んっう、もう、」
「わかっている、前からお前を抱いてやる」

少しの距離も名残惜しく、腰を離したあとはすぐにアディルを寝かせ、上からのしかかった。自然に開かれたそこに導かれるままペニスを進ませる。

こうするのが弟は一番好きなのだろう。視線を繋ぎ合わせて、兄に愛されていると感じるこの瞬間が。

「んぅっ、あぁっ、はぁっ、突いてっ、突いてっ、兄貴っ」

半開きの口は普段の硬派な弟とは似つかない、いやらしい言葉を言わせ、兄の下半身をなお高ぶらせる。

「ああ、いくらでも、気持ちよくしてやる、アディル」

腰をくっつけたまま揺らし、速度を上げて弟の内壁を擦り上げ、摩擦によって何度もいかせる。

頭ごと抱きしめてきつくきつくこぼれないよう注ぎ込んでやると、アディルも声をかすらせて喘ぎ、兄の首に腕を回し、脚を腰に巻きつけて受け止めた。

「んあぁぁあっ!」

ふらりと落ちる頭を支え、口づけをする。激しい愛の律動を終えたシグリエルは、弟の胸の上に倒れ込んだ。

「兄貴……好きだ…………好きぃ……っ」

可愛らしく喘ぐ弟を見つめ、堪えきれずにまた唇を塞ぐ。
いくらでも足りず、この愛欲の行為は終わることを知らない。

「アディル……お前を離さない。誰にもやらない。親父にも、当主にも……分かったか」

シグリエルは顔を愛おしそうに撫でて伝える。
当主はもう敵ではないが、先程の台詞はやけに心に残っていた。

放心したまま見つめるアディルに、声が届いてないのかと不安になる。
だがそんな兄に、弟はこう言った。

「あ……ああ。俺も……愛してる……兄貴。……兄貴だけ……だよ」

それが兄が言いたかった事への答えだろうと、ぼんやりとした頭で考えた。

だから、いつも一緒に居てくれと耳元で頼む。
すると兄は久しく見せなかった柔らかな表情で、微笑みを見せてくれた。



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