ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 76 二人のおじさん U

聖誕祭二日目の昼食は、家族全員で豪勢な食事をするのが恒例となっている。
祖母や四兄弟も集まり、アルベール一家、そして両親と団欒のひと時を過ごしながら、あっという間に時間が過ぎた。

買い物へ出かける夫婦二組を見送り、甥っ子と姪っ子を任された俺たちは、四人で雪が残る道を歩き、市場へと向かった。

そこは祭りの装飾でキラキラした屋台が立ち並び、多くの人でごった返していた。

「わぁすごい、お店がたくさんある! おれ、あのお菓子食べたい!」
「ぅおっ、ちょっ、ルイ。いきなり走り出すなよ、はぐれたら大変だからな」
「分かったよセラウェ叔父さん、でも早く早くっ」

元気いっぱいで悪く言えば落ち着きのない甥っ子を、すかさずクレッドががしっと掴み、鋭く目を光らせていた。
対して俺と手を繋いでいる妹のフランは、大人しく静かだ。

「フランは何したい? いろいろお店見てみるか」
「……温かいもの飲みたい。オレンジシナモンのやつ」
「えっマジで? 俺もそれ好き。じゃあ買いに行こっか。つうか寒いのかお前、大丈夫?」
「大丈夫…おじちゃん。手袋もある」

シャイな性格なのかと思えば、握った手を持ち上げてしっかり意思表示をしてくる為、単にマイペースな子なのかもしれない。

二人とはほぼ会ってなかったのに、結構すんなり俺を受け入れてくれて、実はちょっとホッとしていた。

「兄貴。あっちに出店がある。ルイの好きな菓子も売ってるぞ」
「おっじゃあ行こうぜ。それアレだよな、粉砂糖いっぱいついた揚げ菓子のやつ。うまいんだよなぁ」
「うん。俺達も昔よく一緒に食べたよな。二人みたいに小さかったとき」

クレッドが感慨深げに微笑み、俺もつられて笑みを浮かべ、うんうん頷いた。

確かにそうだ。小さな子と手を繋ぐと、俺はいい年なのに幼い弟を思い出す。なぜか昨日のことのように感じるんだよな。

途中、装飾の小物類やミニチュアなど、土産物屋をわいわい見ながら、二人が欲しがった飴やチョコなどもいつの間にかたくさん買わされていた。

店に着くと俺たち四人はさっそく小さな丸テーブルを囲み、冬の名物に舌鼓を打った。

「ごちそうさまぁ! あー美味しかった。おれ今度あそこのゲームやりたい!」
「おい、ルイ! お前全部ボロボロ下にこぼしてんじゃねえか、どうやって掃除すんだこれっ」
「だって食べるの難しいんだもん。セラウェ叔父さんだってテーブル汚いよ、おれのこと言えないよ」

早食いしたせいでしゃっくりが止まらない甥っ子が、文句を言いつつせっせと掃除をする。

なんか慣れてきたのか、こいつ段々生意気になってきたな。

「おじちゃん…これ美味しい。お母さんとお父さんにもあげたい。……だめ?」
「んっ? おーお土産か、いいじゃんそうしよ。優しいなお前」

帽子の上から頭を撫でると、フランが初めてにこっと可愛らしい笑顔を見せた。

うわ、やべえ。今叔父さんの心を完全に掴んだぞ。これは何でも言うこと聞いてあげたくなるかもしれん。

「ねえねえクレッド叔父さん、あの的に当てて商品もらうやつ、一緒にやろうよ!」
「ん? ああ、あれか。よし、やってみるか」

俺の弟も結構なんでも買ってあげたり、言うことを聞いたりしていた。
次の店へと向かう途中、俺はこっそりクレッドに近づいた。

「なあお前、毎年こうやって連れてったりしてんのか。すげえな」
「まあ、そうだな。年に数回しか会えないし。それにいつもは兄さん達がいたりするけど。今日は兄貴がいるから、俺も余計に楽しいよ」

ずっと凛々しい大人の顔を見せていた弟が、ふいに可愛い弟の表情になる。
俺もへらっと頬が緩みそうなのをこらえ、「何言ってんだお前っ」とバンバン弟の肩を叩いてごまかした。


厳つい坊主頭の親父が立っているその露店は、くるくる回る円盤に数字が並んでおり、くっつくボールをそこに投げて目当ての商品を当てるという趣向のものだった。

「へいらっしゃい! 今なら五回分の料金で六回出来るよ、どうするお父さん」
「いや俺お父さんじゃなくて叔父さんです。……んーどうしよっかなぁ」

ケチな俺は一人だったら、そんなお得に見せかけた料金設定など無視するのだが、わくわくしたルイの顔に負けてしょうがなく代金を払おうとした。

すると弟が前にずいっと出てきた。

「その倍で頼む、店主。三人分だ」
「おっ気前良いねえお父さん。よっしゃ、頑張れよ」
「いやお父さんじゃなくて叔父だが」
「ちょ、おいクレッド頼みすぎだろ、なに本気になってんだお前っ」
「え、兄貴がやるんだよ。絶対かわいいし俺見てみたい」

……はっ?
幼い子二人とおっさんの前で何を言い出すんだ。大人しくしてると思ったらいきなり暴走しやがったのか?

結局弟の熱意に負けた俺は、子供用の台にのった甥姪と三人でゲームに挑戦した。

「……はぁ。全然できないよ、クレッドおじちゃん」
「大丈夫だフラン。さあ俺が今だ!って言ったらまっすぐ投げてごらん」
「うん…わかった。…………あ、できた! やったぁ、最後にぬいぐるみ当たったよ」
「すごいぞ、やったな! 随分巨大なクマだなこれ。よし、俺がちゃんと持って帰ってあげるからな」

うまく的を当てた姪と弟が、笑顔で喜んでいる。
そんな二人を、俺はジト目で眺めていた。

「……くそっ。全然当たんねえよ、インチキしてんじゃねえかこの店。……もう魔法使っちゃおっかなー」

投げても投げても円盤にすら当たらず、自分のコントロール力のなさを呪った俺は、ついズルをしようと考えた。
しかし子供たちがいるため、万が一バレたら教育に良くない。

「わーやった! 見てみてセラウェ叔父さん、カッコいいおもちゃの剣取れたよ! あと帽子とバッグも!」
「へ、へえー。そうなんだ、おめでとう。つうか元取りすぎだろお前……俺にもその運分けてくれよ」

もちろん運だけでなく、ルイはさすがアルベールの長男だけあって、何らかの素質があるのだろう。

くそ。全然子供に勝てないなんて、情けない。
かっこいい叔父さんの姿見せたかったのに。

「兄貴、頑張って。俺も応援してるから」
「あぁ? もう無理だよクレッド、お前がやってくれよ。はい」
「おいおいお兄さん、手助け厳禁だからね。そうだ、大きいお兄さんもどうよ一回」

なぜか人にやらせるだけやらせて、自分は応援だけしていたクレッドが、店主に勧められて目を丸くする。

「そうだよ、お前も挑戦しろよ。なんだ、もしかして自信ないのか? ……ふっ」
「いや、そういう訳じゃないけど……。まあいいか、じゃあ兄貴と一緒にやろうかな」

ふわっとした笑顔で述べ、それから俺と弟は子ども達に見守られながら、仲良くボールを投げ始めた。

「あっ! やった、最後の一回出来た! ほら見てフラン、ルイ、観葉植物当たったぞ!」
「ほんとだ、おめでとうおじちゃん。すごく嬉しそう…」
「おめでとー! なにこれ、長いサボテン? どうやって持って帰るの?」

正直当たったブツなんかどうでもいい。ゲットしたという事実が大事なのだ。

誇らしげに弟はどうなったのだろうと見やると、なんと信じがたい事態が起きていた。

「ちょ、ちょっとちょっと、何なんだあんた、全部的当てちゃって……しかも全部うちの目玉商品だよ!」
「ああ。すまない。少し本気を出してしまった。……あ、兄貴の好きそうなの当てたよ。どれがいい?」

肩を抱いて上機嫌に述べるクレッドの前に並べられたのは、高級な酒、安眠できそうな枕、マッサージ器、食器類などだった。

こいつ……この店潰す気か?

「す、すげえなお前。ちょっと侮ってたわ。色んな才能あるんだな」
「いやそんな事ないけど……兄貴のこと考えたら、手抜けなくて」

まあそんな風に照れた様子で言われたら、正直俺も嬉しくなってしまうが。
甥と姪もこいつの活躍に興奮して、「すごいすごい」と喜んでるみたいだし。

弟の好意に甘えつつも、若干店主が可哀想になった俺は、そのうちの酒と枕だけ選びだして店を後にした。



辺りが薄暗くなり、雪がまだ残る帰り道。
すっかり大荷物となった俺たち四人は、皆で仲良く屋敷へと歩いていた。

「……重い。市場に行っただけでなんでこんなに荷物が……やべえよ、お前らのお母さんお父さんびっくりすんぞ」
「はは、本当だ。でもすっごい楽しかった、ありがとうセラウェ叔父さん、クレッド叔父さん!」

まだまだ元気な様子で飛び跳ねながら、甥のルイがはしゃぎだす。

喜んでもらえたなら俺達も何よりだと、弟と微笑みあった。
結構金使ったしな。まあ年に数回だし。

「わたしも楽しかった。ありがとう、おじちゃんたち。今日はクマさんと寝る」

手を繋ぎ、真ん中を歩く姪のフランが再び笑顔を見せてくれた。

「あ、クレッドが背負ってるそのバカでかいやつ? モフモフ良いよな、分かる! 実は俺も毛並みマニアでーー」

意気投合して姪と喋っていると、じっと弟の視線を感じて口を素早く閉じた。

楽しそうに雪に足跡を残しながら、前を歩く子供二人を眺めつつ、俺と弟は再び顔を見合わせる。

「結構楽しいな、こういうの。またやりたいかも」
「うん。だろ? 二人もいつもより、もっと楽しかったと思う。やっぱ兄貴がいるほうがいい」
「はは、そうかなぁ。褒めすぎだよお前」
「でも一番嬉しいのはこの俺だけど」

本気の顔で頷く弟に、がくっと肩の力が抜けそうになる。
それを見てクレッドが小さな笑い声をもらした。

「はぁ。やっぱり子供が三人か…」
「ひどいな。ゲームしてた兄貴も、かなりかわいかったぞ」
「……もういいよそれっ、恥ずかしいから下手だったこと皆に喋んなよ!」
「はいはい。でも二人が喋るだろうな、たぶん」

苦笑する弟に対し、俺は長いため息を吐いた。

まぁいいか。
甥と姪とも思い出を作れたし、お土産も色々手に入れた。

もう少し格好いい姿を見せたかったような気もするが、次また会った時に頑張ろうと、密かに決意したのだった。



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