ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 75 二人のおじさん T

熱い一夜を過ごした俺たちは、翌日になって実家へと帰った。
後ろめたさが全くなかったわけじゃないが、聖誕祭の期間は教会で夜通しミサや礼拝などが行われるため、家族にはとくに怪しまれないと踏んでいた。

指輪は二人の時につけようということにし、俺とクレッドは幸せ気分のまま屋敷に戻った。その時だった。

「……あっ! クレッド叔父さんだっ」

居間から駆け出してきたのは、小さな子供だった。茶色のツンツン頭にきりっとした茶目が、完全に誰かに似ている。

「やあ、ルイ。元気だったか? 聖誕祭おめでとう。フランもいるな」

弟は当然のように床に跪き、少年の頭を撫でたあと、後ろからおずおず歩いてくる少女を抱き上げた。

「おめでとー! 元気だよ! ねえねえ、今日もたくさん遊んでくれる?」
「ああ、もちろんだよ。今日はセラウェ叔父さんもいるからな、皆で遊ぼうか」
「……セラウェおじちゃん?」

ふわふわした髪の少女のくりっと大きな青目が、俺をじーっと見つめた。
……やべえ。まさか俺、この二人に忘れられてる?

そうなのだ。彼らは兄アルベールの長男と長女であり、六歳になったルイは俺たちの甥、四歳のフランは姪なのである。

「そ、そうだぞ〜久しぶりだな。お前ら大きくなったなぁ。前は半分ぐらいのサイズだったのに。ハハハ」

会うのは三年ぶりなため、二人に誰これ状態で首を傾げられても、まぁ納得は出来る。自業自得だな。
ため息を飲み込んだ俺に、ルイが突然目を大きく見開いた。

「あ! 本屋のセラウェだ、おれたくさん絵本持ってる! なっフラン」
「……絵本? ほんとだ。本屋さんのひとだ」

なぜか二人は途端に目を輝かせ、持っている本の内容をペラペラ喋りまくった。それはどれも聞き覚えがあり、俺が行事ごとに、甥と姪にプレゼントとして家に贈ってきたものだった。

「兄貴、そんなことしてたのか。さすがだ。素敵だな」
「はは、大したことじゃねーけど。つうか俺本屋じゃないからな、魔導師だから」

完全に誤解されたまま四人で和気あいあいと喋っていると、その場に大柄な騎士二人目が入ってきた。
俺たちを見るなり、にこりと表情を明るくし、ぐんぐん向かってくる。

「よう、セラウェにクレッド。聖誕祭おめでとう! 今年はきちんとお前もいて嬉しいぞ、セラウェ」

長男のアルベールが子どもたちの前で俺を抱きしめ、頭を撫でる。
おいやめてくれ頼むから。叔父さんとしての威厳がなくなるだろうが。

「お前らも嬉しいだろ? クレッドは毎年会ってるけど、こいつは久しぶりだからな」
「うん! お父さん、セラウェも一緒に遊んでくれるの?」
「ん? 頼めばもちろん遊んでくれるぞ。つうかこら、ちゃんと叔父さんって呼べ。ーーあ、そうだ。じゃあ後でみんなで、街の市場に行ってきたらどうだ?」

アルベールの提案に子ども達が「行きたい行きたい!」とはしゃぎだす。

俺と弟も顔を見合わせた。確かにそう遠くない場所で、お祭り雰囲気たっぷりの市場が開かれているのだ。

「そうだな、毎年行ってるし。俺と兄貴はもちろん行くけど。兄さんは行かないのか?」
「ああ、そう思ったんだけど……二人の婦人がな……いつものあれを発症して…」
「え? なに。もしやお母さんとエレノアさん?」

渋い表情をする兄の背後から、噂の女性二人がやって来た。銀のトレーに巨大な七面鳥の丸焼きを乗せ、食事の準備を進めている。

金色の長い髪を後ろでまとめた可愛らしい顔立ちの女性は、兄の妻であるエレノアさんだ。

「セラウェくん、クレッドくん。聖誕祭おめでとう〜。二人とも元気そうで良かったわ」
「「おめでとうございます、お義姉さん」」

年上の義姉にお辞儀をして挨拶する。明るく快活な兄とは反対に、おっとりした感じの小柄な女性である。
だがもちろんハイデル家にいるのだから、少し変わったとこがあった。

「エレノアちゃん、そろそろ始めましょうか。急がないと特別セールに間に合わなくなっちゃうわ」
「あぁ! そうですねお義母さん。今年は限定福袋が多いので遅刻は禁物ですし。じゃあ皆席について〜ルイとフランもちゃんと手洗ってね」

急に生き生きと会話する二人の女性に促され、子どもたちも「うんっ」と元気よく返事をし食卓へ向かう。
横目で見やるアルベールが俺と弟にこっそり耳打ちしてきた。

「ほらな。あの二人の買い物に付き合わされんだよ俺。荷物もちと財布だよ、聖誕祭の日に。親父もだけどな」
「ふうんそっか〜。まぁ男の宿命ってやつだね、頑張ってアルお兄さん」
「おい冷たくねえ? やっぱお前も来るか、セラウェ。あ、でもあんま戦力になんねえな…」
「兄さん。兄貴は俺達と一緒に出かけるんだ。三人のことは俺に任せて、気をつけて行ってくるといい」

妙にやる気を見せ若干偉そうに答えたクレッドに、長男はぐぐっと言葉を引っ込めた。

まぁ俺もぶっちゃけ子供の相手は得意じゃないが、人の買い物に長々と付き合わされるよりマシだ。
それにクレッドと一緒だし…。

どっちが子供なのか分からないが、またお出かけ出来ることが何となく楽しみな俺だった。



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