ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 72 聖誕祭の贈り物 U

「あっ……これ、香水か? とても綺麗なボトルだ。ありがとう兄貴……!」

箱の中には透明な青のガラス小瓶が入っていた。トップには水晶がはめられ、中々洗練された様相をしている。

クレッドがゆっくり蓋を開けるのを、俺も隣でわくわくしながら見ていた。

「……うわ、凄く良い匂いがする。なんだか初めて嗅ぐ香りだ。甘くて、色っぽい感じ……」
「そうだろ。気に入ったか? それ、お前のイメージで作ったものなんだ。オーダーメイドってやつ。こういう大人っぽいのも絶対似合うと思って」
「え! 兄貴が俺の為に、考えてくれたのか? なんて最高のプレゼントなんだ……嬉しい、俺……絶対つけるよ!!」

感動した顔でぷるぷる震えていたかと思うと、突然弟が俺のことを抱きしめてきた。
ぎゅうっと胸の厚みを感じ、一気に全身が沸騰する。

おいこいつ頭大丈夫か、家族皆がいる前で一体何をしてーー

恐れながら横目で確認すると、大人たちは酔ってるのか騒々しく誰も気にしてなかった。
ああ良かった、危ねえあぶねえ。

「じゃあ兄貴、今度は俺からの贈り物だ。気に入ってもらえるといいんだけど、ちょっと心配だな」
「なになに? 気に入るに決まってんだろ。マジ楽しみだわ〜」

実は中身がずっと気になっていた弟のやたら大きな箱は、俺へのものだったのだ。
赤いリボンをほどき、丁寧に包装紙を開けてみる。

「……えっ! なんだこれ、すげえ色々入ってるぞ!」

俺が目にしたのは意外なブツの品々で、結構予想外だった。

まずモコモコのフード付きニットパーカー。小さめポケットとポンポンがついたその冬服は、俺のサイズぴったりだった。

「服かよ、お前どんな顔でこれ買ったんだ。可愛すぎだろ。つうかちゃんと男用だよな」
「うん。当たり前だろ。……ああ、やっぱり兄貴に似合ってる。かわいい!」

興奮したクレッドに勝手に着させられ、まんざらではない俺も照れてしまう。
箱にはその他にも同じ色合いのあったかニット帽、そして更に茶色のふわもこブーツまで入っていた。

すげえ……こいつ、完全に自分の趣味で一式揃えてきやがった。結構可愛いセンスしてんだな。

「兄貴、帽子もすごいかわいい。足元もばっちりだ。もうほんと完璧だよ!」
「えっそう? なんか俺お前に全身コーディネートされてんだけど。まぁ全部お洒落で気に入ったよ、ありがとなクレッド」

部屋の中は暖炉があって温かいため、すでに汗だくになってきていたが、心から嬉しい気持ちを告げた。

弟が俺のことを考えながら準備してくれたんだな……そう思うと余計に幸せを感じてくる。

「良かった、兄貴。じゃあさっそくーー」
「へ?」

急に立ち上がろうとした弟に気を取られると、俺はいつの間にか自分に向けられている好奇の目に気がついた。

「あれ、セラウェ。それクレッドからのプレゼントか? そんなモコモコになって、冬の小さい時のお前みたいだ。可愛いじゃないか」
「ほんとね、可愛い〜セラウェ。どうしちゃったの一体。20歳ぐらいに見えるわよ」
「……アハハ、そう? ちょっと、照れるからあんま見ないでくれる?」

急に恥ずかしくなり帽子を脱ごうとすると、弟の大きな手にやんわり阻止された。
俺の目をじっと見下ろし、何やら真剣な表情にドキリとする。

「このままでいいよ、兄貴。今から外行くから」
「えっ。出かけるのか?」
「ああ。一緒に教会に行かないか?」

思わぬクレッドの提案に俺は目をぱちくりさせた。
確かに聖誕祭の夜、教会では信者たちによるミサが行われてるが……俺一回もそんなとこ行ったことないんだけど。

でも、こいつと二人きりになれるチャンスだ。
弟もそう考えてるのかと思い、現金な俺はすぐに「うん、行く!」と喜び勇んで返事をした。

しかしそんな二人の挙動を、目ざとい家族が見逃さないはずがない。

「お前達教会行くのか? 珍しいなぁ。でも考えてみたらクレッド聖騎士だもんな。よし、じゃあ三人でーー」
「それは駄目だ、兄さん。今日は兄貴と約束してるから」
「ええ! なんでそんな仲良いんだよ、また俺のけ者なのか? さすがに寂しいぞ!」
「そんな事ないって、シグ兄さん。あ、そうだ。お祖母ちゃんと行ってきたら?」

話題を変えようと何気なく祖母を見ると、ワイングラスを片手にじろりと睨まれた。

「教会だって? 勘弁してくれよ。年寄りにはね、もう長々と高説聞いてる時間なんてないんだよ。ほら大人しく私の酒に付き合え、シグリット」

祖母の小気味よい口調に皆が笑い出し、なんとか注意がそれてほっとする。
そんなこんなで弟と俺は、さりげなくその場を抜け出すことに成功した。



二人揃って屋敷の外に出ると、ひんやりとした冬の空気が肌に刺さる。
空はすでに真っ暗で、星星がきらきら輝きを見せていた。

ロングコートを羽織ったクレッドが、俺の手をぎゅっと握った。

「うぉっ、おい、何してんだよ」
「兄貴、寒くないか?」
「え、うん。大丈夫だよ。コートの下にお前から貰ったニット着てるし」

二人きりになったせいか、俺は気の抜けた笑顔を晒した。すると弟も嬉しそうに頬を緩ませる。

「じゃあ行こうか。馬車を予約してあるんだ。もう来てると思う」
「……えっマジで!? すごい用意周到だな、お前」

全然そんな素振りを見せなかった為、びっくりした。

クレッドに手を繋がれたまま、門の外へと向かう。
見られてないかとヒヤヒヤしたが、皆の出来上がった様子を思い出し、大丈夫かと楽観的に考えた。

「クレッド。お前と出かけるの、俺嬉しい。今日聖誕祭だし。誘ってくれてありがとな」

隣をちらっと見ると、なぜか弟は少し緊張した面持ちだった。
しかしその時、突然近付いてきた顔に、ちゅっと軽く唇が触れられた。

ぴたりと歩みを止めた俺は、一瞬のことだが急激に顔が火照ってしまう。

「ちょっ、お、おい! 何してんだよ、ここ家だぞっ」
「ごめん。ちょっと我慢できなかった。大丈夫、もうすぐ二人きりだから」

何が大丈夫なのかよく分からないが、すぐに前を向いたクレッドの横顔は、耳まで真っ赤になっているように見えた。



prev / list / next

back to top



×
「#甘々」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -