ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 70 贈り物の準備

「オズ、この酒とツマミも。あ、そうだ。靴下穴が空いちゃったから新しいの買おっと。寒いしモコモコのやつにしよっかな〜」
「マスター、あんまり動き回らないでくださいよ。すぐ迷子になるんですから」
「はぁ? 俺を子供扱いすんじゃねえよ、いくつだと思ってんだ。つうかロイザどこ行った?」
「さあ。会計の頃には戻ってくるように言いましたけど。荷物持ちだし」

俺と弟子のオズは今、大型ショッピングモールで買い物をしている。
人混みで賑わっている食品街のみならず、至るところで歳末セールが行われ、普段ケチケチしている俺の財布もここぞとばかりに大活躍するのだ。

そして今回ここに来た目的は食い物や雑貨だけでなく、もう一つあった。

「あークレッドへのプレゼントどうしようかなぁ。お前何がいいと思う?」
「えっ俺に聞くんですか。聖誕祭の贈り物ですよねえ……クレッドさんの欲しいものかぁ……マスター以外に何かあるんですか?」

真面目な顔の弟子に逆に聞かれ、俺は全身がぼわっと熱くなるのを感じた。
出先で何言い出すんだこいつ阿呆なのか?

「あるに決まってんだろ! うちは家族全員でプレゼント交換しなきゃなんないんだよ! なんかアドバイスくれよッ」
「はいはい。分かってますよ、うちも実家でパーティーあるけど兄弟10人いますからね。もっと大変なんですから」

げっ。そうだった、こいつの農家は大家族だから選ぶ苦労も出費もすごそうだな。
だからといって、俺の悩みとはちょっと異なる。

なぜなら今年の聖誕祭は例年とは違い、俺とクレッドが特別な関係になって、初めて迎えるイベントなのだ。まあ家族全員で過ごすんだけどな。

「マスター達は今や恋人同士ですもんねえ。何か特別なものを贈らないと格好つかないですよね」
「だよな。俺さあ、いつも決まってあいつの興味なさそうな本あげてたからさ。今年も本じゃ流石にまずいし」
「うーんそれは確かに。あ、クレッドさんは何くれたんですか? なんか凄い気になる」

カートを引くオズがぴたりと足を止め、わくわく顔で俺に振り向いた。

「なにって、チョコだよ。あいつなぜか毎年高そうな洋菓子店のチョコレートくれたな」
「そうなんですか! なんだか可愛らしいですね、てっきり薔薇の花束とか送ってるのかと……あ、でもマスターチョコマニアだよなぁ」
「はっ? まぁそうだけど…つうか兄貴に花束送ったらおかしいだろ! それに俺ら最近までぶっちゃけ仲良くなかったし…」

くっちゃべりながら買い物を続けていたが、結局弟子と話していても良い案は浮かばなかった。

財布やら服やらネクタイやらは好みもあるし、どれもしっくりこない。一瞬アクセサリーも思い浮かんだが、あいつそういうの一切つけてるの見たことないし、選ぶ自信もセンスもなかった。

「はぁ……。マジでやべえ。普段からそういう事してこなかったから、こういう時困るわ」
「なんでもいいじゃないですか。マスターから貰えるなら、クレッドさんどんな物でも喜びますよ、きっと」

オズが笑顔で何の為にもならない励ましをしてくる。
確かにそうかもしんないが、やっぱ特別な存在には、何か良いものを送りたいんだよなぁ。







その後どこからか現れたロイザに購入した荷物を全部持たせ、とりあえず俺はプレゼントを探しに単独行動をすることに決めた。

だだっ広いモールの一階から四階を歩き回り、店の隅々までチェックし、体力の限界が近づいてきた頃ーー
最上階のある一角に、とりわけ興味深い店を見つけた。

小さなボトルがところ狭しと並ぶガラスの棚から、良い香りが漂ってくる。

そう、ここは見るからに普段の俺とは縁遠い、オシャレな香水店だった。

「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか、お客様」

入ってすぐにモデルのような長身イケメンが出迎えてくる。
俺は場違い感に焦りながら、おずおずと「ええっと、男性用の香水探してるんですけど…一応ギフト用で」と正直に答えた。

「なるほど、承知致しました。その方の好みの香りはございますか? できれば趣味嗜好や性格のタイプ、体格なども教えて頂けると大変参考になります」
「ええっ。そんなことまで聞くんすか? 香りに関係ありますそれ?」
「はい、ございます。私はその道のエキスパートですので。必ずや完璧にマッチしたものをお選び致しますよ」

誰かさんに似た美しい金髪をなびかせる店員は、ちょっとナルシストが入った感じにも見えたが、自信ありげな表情でスーツを正した。

確かにこの男に選んでもらえば、間違いないかもしれない。
なんか嗅いだことのないような良い香りが胸元から漂ってくるし。

「そうっすか。そこまで言うんならお願いします。好みの香りは知らないんですけど、奴の汗の匂いは中々男らしくてスポーツマンって感じですね。性格は表向きは冷静沈着でクール系かな。時々ガキっぽいというか可愛らしい面も見せるけど。リーダータイプで仕事は出来ると思います。体格はそうだなぁ…肌が白い筋肉質な長身です。あとすげえイケメン」

俺はもう二度とこの店には来ないだろうと踏んで、恥ずかしげもなく弟の全情報を明かした。
店員は俺の饒舌っぷりに呆気に取られたのか、目を丸くして一瞬黙った。

だがさすが百戦錬磨の専門家らしく、すぐに店員スマイルでにこりと微笑む。

「素晴らしい……そこまで詳細に教えて頂けるとは。久々に腕がなりますね。分かりました、さっそく仕事にかかりましょう。ああ、そうでした。一番重要なことなのですが、その方はお客様にとってどのようなお相手でいらっしゃるのか、教えて頂いても?」

突然の予期せぬ問いにズドン、と胸が撃ち抜かれる。
どうしよう、ここまで調子よく喋った後で正直に「俺の愛する存在です」などと言う勇気がない。

「その……えっと……大切な人です。はい」
「ーー承知致しました。ありがとうございます。それともう一つ」

まだあんのかよ。段々恥ずかしくて外に出たくなってきた。
しかし店員はある驚きの提案をもちかけてきた。

「実は本店ではオーダーメイドの香水も手がけておりまして。少し値が張りますが、お時間を頂ければ腕によりをかけた最高の一品をお作りさせて頂きます。よろしければお試しになってみませんか?」
「えっマジすか。そっちのほうが良さそうですね、特別感あって。時間も金もまぁまぁあるんで、じゃあ宜しくお願いします」
「かしこまりました、お客様。どうぞお任せくださいませ」

こうして俺はひょんな事から、クレッドへの特別な香りをこの店員と一緒に考えることになったのだ。

なんかこんなの初めてだから、ワクワクすんな。
それに普段魔法薬の調合してるから、香りなどは違う分野だけど興味がある。

「運動をする方だということなので、制汗系をベースに甘さを含んだ爽やかな香りはいかがでしょうか。こちらはすっきりとライトな樹脂系アンバーで、非常に使いやすいカジュアルさがあります」
「ほほう、なるほど。そうですね、僕はもう少し甘さの中にぐっとくるような雄々しさというか、若干の動物的な色気が滲むような雰囲気もほしいんですが」
「色気ですか…確かにそれは重要な要素ですね。でしたらこちらの動物香が含まれた、やや艶やかさを強調するスパイスなどがいいかもしれません」

二人であーだこーだ言いながら、わりと時間をかけて選び回った。

やべえ楽しい。これをクレッドがつけてくれるのか。
あいつの好みなんか全く知らないのに、勝手に選んじゃってるけど、テンションが抑えきれない。

「よし! これにしましょう、中々良いものになったんじゃないすかね」
「はい、お客様。素晴らしい香料になると確信しております。ご協力頂きありがとうございます」
「いえいえこちらこそ。じゃあ出来上がるの楽しみに待ってますんで。よろしくお願いします〜」

妙な連帯感が生まれた店員とがっちり握手をし、完成品はまた後日受け取りにくると約束をして、俺はひと仕事を終えた。

ああ良かった。
この店見つけてマジでラッキーだったな。結構すんなりいったし。

これで聖誕祭のプレゼントはもう決まりだ。あいつ、喜んでくれるといいんだけどな……。

その前に、年中行事を迎えるということは、久しぶりに実家に帰ることなのだと思い出す。
前回の帰省の際は色々あったが、今度はどんな雰囲気になるんだろう。

二人きりではないが、長めの休暇をまた弟と一緒に過ごせるのが嬉しい。
俺はすでに、今から胸が高鳴るのを感じていた。



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