ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 2 まっさらな心 ※ (弟視点)

兄を抱きかかえ、寝室のベッドの上にそっと降ろした。
ちょこんと座る兄は無垢な顔で俺を見上げ、瞳はどこか潤んでいる。

ベッドを沈ませ近くに迫ると、兄の肩がわずかに動いた。
正面にあぐらをかき、腰を抱き寄せる。口づけをし、ゆっくりと中をこじ開けていく。

「ん、んぅ、ぅ……」

吐息を漏らす柔らかな唇を味わいながら、兄の服を脱がし始める。
白く艶かしいうなじがちらりと覗いた瞬間に、そこに吸いつきたくなるのを堪え、一枚一枚身に着けているものを剥いでいった。

俺の前で一糸まとわぬ姿になった兄を見て、ああ、今からこの身体を俺の好きに出来るのだと思うと、胸が熱くなる。

口に出来ない妄想を膨らませる俺のことを、顔を赤らめた兄が不思議そうに見つめていた。

「クレッド。なんで俺だけ、裸なんだ……?」
「恥ずかしい?」
「うん……。俺もお前の裸見たいよ」

俺の服の裾を掴み、純粋な面持ちで告げられ、瞬時に意志が揺らぐ。
本当は兄だけを裸にして己の征服欲を満たすつもりだったが、そんな事を言われると脱ぐしかない。

「兄貴、俺の体好きなの?」
「大好き。筋肉がしなやかで綺麗だし、逞しくてすげえ格好いい」

にこりと告げる兄に意識をもっていかれる。

本当にこの兄はどうしたのだろう。
おかしな術にかかっているとはいえ、猛烈に俺を照れさせる褒め言葉の連続で、こんなにも心を掻き乱してくるなんてーー

すでに理性の限界を感じながら必死に耐える。

「そう思っててくれたのか、嬉しいな。全部兄貴のものだよ。だから兄貴の好きにしていいよ」

笑みを向けて言うと、深緑の瞳が嬉しそうにきらめいた。
突然兄の両手が俺のシャツを掴み、ボタンを一つずつ開けていく。
胸がはだけたところで手を中に回し入れ、ぴったりと上半身を密着させてきた。

「んん……やっぱり、肌と肌がいい……」

肩口に頬をすり寄せ、気持ち良さそうに呟く。

もう無理だ。
俺の中の何かが崩れ去り、まだくっついている兄を涙を飲んで一度引き剥がした。

呆気に取られる兄に構わず俺はその体を押し倒し、細い片腕を頭の上で掴み上げた。
膝で腰をはさみ動きを封じこめても、兄は全く抵抗を見せない。
浅い息をつきながら、期待を込めた目で見上げてくる。

「兄貴……俺が欲しい?」

問いかけると、兄はこくりと頷き、上に覆いかぶさっている俺の脇腹に触れた。
滑らかな指で優しく撫でて、自分の腰を少し上げ、誘うような動きをしてくる。

「クレッド、もうきて……」

素直なのは嬉しいが段々不安になってきた。
優しい兄が俺の行動を広く受け入れてくれることは、身をもって知っている。

でも俺の欲望が尽きることはない。
今の兄にぶつけるべきじゃない、そう思っているのに、何故か火がついてしまいそうになる。

衝動に任せて首筋に舌を這わせ、丹念に舐め上げた。
白く浮かび上がる体に隈なく口づけを落とし、唇で愛撫していく。

「あぁぁ……気持ちいい」

徐々に下にさがり、胸の先を口に含んだ。
可愛らしい突起を舐めとると、兄の体がびくりと震え、俺の頭に手をおいて髪を撫でてくる。
そのまま全てを口で愛撫したい、そう思っていたのだが、今日の自分は兄のせいで更に性急になっている。

起き上がり、両手をついて囲むように見下ろした。
はぁはぁと息を切らす兄の口を、指でゆっくりとなぞる。
もったいぶるように触れていると、兄が俺の手をそっと掴んで口を開き、指を自ら中へと導いた。

「ん、む……っ……んん……ぅ」

ぱくりと咥え、唾液で絡めとる。
指がぬらぬらと温かい舌に当たり、全身が熱くなった。
音を出して前後に吸いつかれ、見ているだけでも理性を保てなくなる。

「上手だ、兄貴。気持ちいいよ」

湧き上がるものを堪えて伝えると、一瞬眉を寄せた兄も興奮しているのだろうか、頬を紅潮させたまま行為を続けた。

足の間に膝を入れ、少し考えた後、小さな口からそっと自分の指を引き抜いた。
名残惜しそうにする兄の片足を持ちあげ、目の前で大きく開かせる。

「やだぁっ、なにっ」

驚いた顔で今日初めての抗議の声を上げられ、注意を引かれる。
全て俺の前に晒すように体勢を取らせると、余計に腰をよじり抵抗しようとする。

「どうして? 恥ずかしい?」
「……う、あぁ、やだ、見るなぁ……」
「でも兄貴は俺が欲しいんだろ?」
「欲しい、けど……やめ、て」

か細い声で訴え、羞恥によって瞳が濡れる。
今は術のせいで素直になっているはずなのに……もしかして、これは本当に恥ずかしくて嫌なのか。
いつもの兄の振る舞いが垣間見え、何故か安心したような、愛おしい気持ちになった。

でも残念だが止めることは出来ない。

兄の唾液でベトベトになった指先を露わになった尻にあてがい、優しく撫でる。
円を描くように押しながら、指を挿し入れていく。

「んあっ、あぁっ、クレッド、まって」

可愛らしい声が響き、もっと中へ入り込ませたくなる。

「兄貴、すごくきつい。やっぱり、久しぶりだからかな?」

中をぐるぐると押し広げるように指を動かす。
淫靡な視界と、兄の嬌声がさらに俺の興奮をかき立てる。

手を反転させ、指の腹で擦り上げるように前後に出し入れした。
もう片方の手で兄の濡れた性器を包みこみ、優しく扱く。

「はあっ、あ、あぁ、どっちも、あぁっだめッ」

ぐちゅぐちゅと両方の甘美な場所から、淫らな音が漏れ出していく。
足を広げて開脚し、真っ赤になった顔をそむけて、目をつむり息を吐く兄がたまらなく可愛い。
膝をついて兄の気持ち良いところを愛撫し、全身を眺めることが出来るのは至福の時にほかならない。

「兄貴、良い?」
「んんっ、ん、い、いいっ」
「かわいい。もっとして欲しい?」
「やだっ、もう、いい!」

喘ぎながら、首をぶんぶんと振る兄の意図を読むのは難しい。

「嫌じゃないだろ? こんなに中、俺の指ぎゅうぎゅう押してくる。欲しくてしょうがないって、言ってるみたいだぞ」
「……ッ、なに、言ってっ、や、やだぁ、もう………っ」
「イキたい? いっていいよ」

俺が優しく告げると、不満げな顔で苦しそうに喘いだ。

兄の態度が急に素直じゃなくなったようで、怪訝に思う。
もしや術が切れたのか?
俺の試したい事は、これからだというのにーー

元々の理性がすでに吹っ飛んでいた俺は、一人最低な思惑を胸にはらんでいた。
だが兄は突然俺のほうをじっと見てきた。

「だって、指じゃ足りない。もう抜いて、俺、お前ので……イキたいっ」

切実な思いには、はっきりとした意志を感じた。
同時に俺はあまりの可愛いお願いに、頭をガツンとやられた。

兄に翻弄されるのもそろそろ慣れてきたかと思ったが、完全に間違いだったと痛感する。

「分かった、兄貴。こんな指じゃなくて俺の、今すぐあげるから。な?」

急な焦りを感じながらすぐに指を引き抜き、足を高く持ち上げる。
すでに昂ぶった自身を真ん中にあてがい、先を徐々に中へと挿入させていく。
兄の腰が大きく震えたのを見て、手でがっしりと押さえ、奥までしっかり達するように腰を沈める。

「はぁ、っあ、あぁ、クレッドっ」
「入ったよ兄貴、あぁ中すごい、気持ちいい」

挿れた瞬間に頭の奥まで痺れていくほどの快感に包まれる。

俺は馬鹿だ。兄が正しい。
こんなにも自分を満たすものを我慢しようとしていたなんて。

兄の甘い吐息に酔いしれながら、何度も腰を打ちつける。
その度にきつく締め付けられ、兄が切なそうに喘ぎを漏らし、ベッドについた俺の手を強く握ってくる。

「クレッド、あぁぁっ、好き、もっとして」

激しく息をつきながら、濡れた口元がねだってくる。
思わず前のめりになり、衝動的に唇を塞ぐ。
ん、ん、とやらしく漏れる兄の声にじわりと気持ちまで溶かされていく。

「俺も好き、兄貴、大好きだよ」

その想いに応えるように勢いを強め、大きく揺さぶる。
肌と肌を重ね合わせ、境目を無くしたくなるほど互いを繋げ合う。

やがて兄の体は大きく跳ね上げ、腰をびくんびくん震わせて果てた。
中の急激な締めつけに俺も我慢出来ず、ほとんど同時に達してしまった。

ぎゅうっとしがみついていた兄の体が、すっと脱力し、シーツの上に沈み込む。

「はぁ、あ、……兄貴?」

肩で休ませていた額を上げ、兄を見やると、すやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
まだ一回しかしていないのに、いつもと様子が違う。おかしい。

戸惑いながらも、汗で濡れた髪を優しく梳かし、顔を撫でる。
しばらくそのまま寝顔を眺めていたが、再び兄が目を覚ましたのは数時間経ってからだった。




腕の中で眠っていた兄が身動きするのを感じ、俺は目を開けた。
すると兄はすでに、ぱっちりと大きな瞳で俺を見ていた。

「あれ……起きたのか、兄貴」
「クレッド、俺……変な夢見た」
「ん? どんな夢?」

兄は深緑の目をきょろきょろと混乱したように動かした。

「師匠の家で、術をかけてもらったんだ。それで恥ずかしいこといっぱいして……」
「……恥ずかしいことって、なに?」

それは夢じゃないぞ。
正しく指摘する前に、俺は無性にその内容が気になり尋ねた。

「いや別に……大したことじゃない」

目を逸らされ怪しく感じ、顔を迫らせる。
困ったように怯える兄を見て、なんとなく可哀想になった俺は、頭を撫でて小さく溜息をついた。

今までの、俺との事も夢だと思っているのだろうか。
だとしたら少し、いやかなり寂しい。

けれど兄は俺の胸に顔をすり寄せ、呟いた。

「今日の俺、何か変だった? たくさん喋り過ぎた気がする」
「変じゃないよ。凄くかわいかった」

率直に伝えると、兄は恥ずかしそうに顔をうつむかせた。
ああ、どこか懐かしささえ感じる、久しぶりに目にする兄の照れた顔だ。

どうやら体を重ね合わせていたことは、覚えててくれているみたいだ。
良かった、嬉しい。

でもおそらく以前のように、術が切れたばかりで、記憶がごちゃ混ぜになっているのかもしれない。
考えると混乱してきたが、俺に告げてくれた様々な気持ちは、どれも兄のまっさらな本心から生まれたようだ。

最初はどうなることかと思ったけれど、そんな素直な兄に触れ、今再び腕の中に抱きしめている。
いつもと変わらぬ幸福感に、絶え間なく満たされていくのを感じた。



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