ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 59 浴場ハプニング

ソラサーグ聖騎士団は、貴族や有力者からの寄付金がたんまり入ってるのか、なにげに内部は豪華施設となっている。

レストランばりのお洒落な食堂や、剣術の稽古場のほかに騎士達の筋力トレーニングを行うジムなども備わっているし、そのジムに付随して、実は大きな浴場(豪華スパ)も存在するのだ。

風呂好きの俺にとって、ずっと気になる場所ではあった。
しかしそこは水着着用禁止で、他人との入浴があまり好きでない俺は、訪れることを躊躇っていたのだがーー。

「マスター見てください、やっぱ人いませんよ。俺たちだけですね、やった〜」
「おいおいオズ。子供じゃねえんだから、あんまはしゃぐなよ。みっともねえ奴だなぁ」

今日ついに、俺は弟子のオズと団内の浴場に足を踏み入れた。
奴の事前情報通り、今日は隊の騎士達が演習に出ているということもあって、湯けむりが舞う中、室内はがらんとしてた。

二人だけで満喫出来るぞ、わーいっ!

心の中で叫び、とりあえず俺たちは高そうなタイルの上をぺたぺたと移動し、スパ内を歩き回った。

全面白のきらびやかな内装には、荘厳な女神像や彫刻が飾られ、天井にはまるで宗教画のような幻想的な絵が描かれている。
風呂は楕円やひし形など芸術的な形の浴槽が数多く並び、異様に凝った造りだった。

「ったくよー、こんな噴水とか必要か? 無駄に金使いやがって。教会直属の騎士団がこんな贅沢していいのかねぇ?」

弟の職場の悪口を言いながら、内心わくわくが止まらなかった。
わしゃわしゃと全身泡まみれになり素早く体を洗い終え、目をつけていた一番大きな風呂へと飛び込む。
ザッパーンと水しぶきが飛んだが気にしない。

「うわぁすげえ気持ちいい! ほらオズ、泳げるぞ〜見てみて!」
「……マスター。頭とおしりだけ出てますよ。さっきははしゃぐなって言ってたくせに、もう」

薄笑いの弟子に嘲笑されるが、やっぱり楽しさは隠せない。
俺は構わず平泳ぎをしながら、ここにクレッドと一緒に来れたらなぁ。もちろん二人だけで。などと夢想していた。

その後オズも入ってきて、二人でのんびりと湯船に浸かった。
ロイザは風呂嫌いだから連れて来れなかったが、気のおけない仲間との入浴はなかなか良いものだ。

「ふぅ〜。マスター、俺ちょっとあっちのサウナに挑戦してきます。一緒にどうですか?」
「いや俺はいい、暑いの苦手だから。ここで待ってるから行ってこい。あんま遅くなんなよ」
「はいはい。じゃあまた後で。のぼせないでくださいよ」

ざばん、とオズが風呂から上がり、奥の方へと去っていった。
さらなる開放感を手にした俺は、「フンフン〜♪」と鼻歌交じりにお湯の中を動き回る。

その時だった。外からワイワイガヤガヤと異常な物音がし始めたのは。
明らかに男達の騒々しい話し声と足音が近づいてくる。

うそ、貸し切りだと思ってたのに。

愕然としながら大人しく尻をついて座り、入り口に目を向けた。
扉が開け放たれ、次から次へと屈強な騎士達が入って来る。
長身で勇ましい体つきの男共だ。皆全裸で前を隠す者は一人もいない。

しかし彼らは一人ぽつんと湯に入る俺に気がつくと、なぜか皆一礼をしてきた。

「あっ。どうも、団長の兄君。失礼致します」
「い、いえ。ごゆっくりどうぞ」

一人ひとりと互いに敬語で挨拶を交わす。仲間と話しながら体を洗う騎士達を眺めているうちに、完全に出るタイミングを逃した。

皆ムキムキの男らしい肉体の持ち主だ。
それに比べて俺は……ひょろっとした全裸を晒すのが恥ずかしく、頭にタオルを乗せたまま肩までお湯に浸かっていた。

そうこうしているうちに騎士達がまたぺこりと会釈しながら、同じ風呂へと入ってくる。
結構な大人数だ。俺はいつの間にか、周囲を頑強な男達に囲まれてしまった。

頼むオズ、早く帰ってきて…!
この空気きつすぎる、つうか風呂もぎゅうぎゅうで狭いんですけど。

汗ダラダラで悶々と耐えていると、予期せぬことが起きた。

「あのー、団長のお兄さんですよね。今日はお一人ですか?」
「はっ? あ、はい。いや違います、弟子と一緒です」
「おいやめろよ、失礼だろ話しかけたら。すみません、うちの隊の奴が」

突然見知らぬ若い騎士達に声をかけられたのだ。そんな事は初めての為、若干挙動不審になってしまう。

「いや、別にいいっすよ。そんな気使わなくても。はは。皆さんは演習帰りですか?」
「……えっ、はい、そうなんです。今日は登山演習でグレモリー隊長のシゴキがあったんですが、団長が早めに切り上げさせてくれまして」
「そうなんですよ! 隊長が厳しい分団長がいい具合に加減をしてくれるんです。おかげで俺達助かってます、ありがとうございます!」

何故か俺が弟へのお礼を言われてしまった。
つうか騎士達が入ってきたのクレッドのせいだったのかよ。弟の話が聞けるのは新鮮だし嬉しいが、今の状況どうすんだこれ。

話してみると意外にお喋りだった騎士二人に、適当に相槌をうっていると、また扉の外から新たな男達が入ってくる声が聞こえてきた。
しかも耳によく馴染んだ、滑らかで澄んだ声だ。

「ーーその戦法だと正攻法より夜襲のほうが有効だろうな。山の斜面を利用し敵を誘い込み、両側から一気に叩き込む方がいい」
「なるほど。では次回の演習でさっそく取り入れてみましょう。隊長に進言しておきます」
「ああ、そうしてくれ」

何やら小難しい顔で取り巻きの部下たちと現れたのは、団長こと俺の弟だった。
またもや全員恥ずかしげもなく全裸を晒す中、俺の視線はクレッドに釘付けだった。

奴ももちろん俺に気づく。
そして固まり、顔面蒼白になった。
その上若干フラッと後ろに倒れ込みそうになり、部下の騎士に「団長!? 大丈夫ですかッ」と心配されていた。

やっべえ。
まさかこんな場所で出くわすとは。
いや違うから。誤解だから。別に見知らぬ騎士と仲良く風呂なんて入ってないから。

クレッドはぷるぷる拳を握りしめ、逞しい裸体のまま風呂場に迫ってきた。
団長に気づいた騎士達の空気が途端にびしっと張り詰め、皆一斉に立ち上がり「お疲れ様です、団長!」と敬礼を始める。

「ああ、……ご苦労。悪いが、全員隣の風呂場に移ってもらえるか。今すぐに、だ」
「「はッ!」」

団長の命令を受けた騎士達は、即座に近くの四角い風呂場へと移動した。
俺は一人でぽつんと取り残されてしまった。
助かった…のか? だが弟は血の気のない顔をしている。

クレッドは、ざばざばと俺と同じ浴槽に入ってきた。
他の騎士達は少し離れたとこで再びわいわい楽しくやり始める。
近くに人もいなくなり、俺は唇をふるわせながら弟を見上げた。

「よ、よぉクレッド。これは全くの偶然だぞ。そういうんじゃないからな」

隣にざぷんと腰を下ろした弟は、俺の肩をぐっと掴み寄せてきた。

「……兄貴。勘弁してくれないか、なんでこんなとこにいるんだ、俺はもう、死にそうだぞッ」
「いやそんな思いつめなくても。ただ風呂に入ってただけだろ、大げさだなぁお前」
「まさか一人で来たのか? 何考えてるんだ、そんな綺麗な裸を晒したりして…っ!」
「いやオズと一緒だよ。つうかお前だって全裸で登場したの見たぞ。俺は一応腰にタオル巻いてたし、今だって恥ずかしくて湯から上がれなかったんだよ」
「出なくていい。というか絶対出ないでくれ」

おい無茶言うなよ。
小声でぼそぼそ話しているが、顔を赤くして興奮状態の弟をなだめるのに必死になる。
そこにすっかり忘れかけていた奴が帰ってきた。

「ただいまーマスター! あれ、なんかいつの間にかいっぱい騎士さん達いますねえ。……ていうか、クレッドさん? わぁ〜海は一緒に入りましたけど、お風呂は始めてですね♪」

空気を読まずに弟子が湯をかき分けてきた。
ちなみに奴も全裸で俺の隣にぴたっとくっついて座ったが、クレッドは無反応だった。

「オズ、遅えよお前っ。俺一人ぼっちで頑張ってただろうがっ」
「へへ、すみません。あっちも凄いんですよ、流れるプールみたいになってて。ほんとここ良いスパですね〜クレッドさん」
「……あ? ああ、そうだな…」
「どうしたんですか、なんか元気なさそうですけど」

無邪気に尋ねる弟子に対し、クレッドが切羽詰まった表情で顔を上げた。

「……そりゃ元気なくなるだろ、こんな状態で。好きな人の裸を他人に見られるなんて…」

俺と弟子は目を丸くしたままクレッドをガン見した。
オズはなぜかぽっと顔を赤らめている。

「ええっ、ど、どうしよう。なんかクレッドさん可哀想……。もうマスター、駄目じゃないですか、悲しませたら!」
「は、はぁ? お前が誘ったんだろ、絶対行きましょ〜とか言ってっ」
「マスターだって喜んでたじゃないですか、朝からそわそわしちゃってタオルどれにする?とか言って!」
「もういい、もう大丈夫だから、喧嘩しないでくれ二人とも」 

下から死んだような弟の暗い声が聞こえてきた。
俺は慌ててクレッドの顔を覗き込み、肩にぽんと手を置いた。

「ごめんな、クレッド。もうこんなスパになんか来ないから。あんま気にすんなよ」
「……いや、違うんだ。兄貴は風呂好きだし、俺は別に行動を制限するつもりなんか、ないんだ」

え? そうなのか?
意外な言葉に数回瞬きをする。するとクレッドは決意をこめた瞳で見つめてきた。

「よし、いい事考えたぞ。この浴場では水着着用OKにしよう。誰も困らないだろうし。俺が施設管理部にかけあってみるから。安心してくれ、兄貴」
「え、そんな事出来んの? つうか職権乱用じゃねえ? それ」

俺のツッコミにも弟は真摯な顔で頷くだけだった。
俺達のやり取りを隣でオズが、生温かい目で見ている。

あぁ、なんか今更恥ずかしくなってきた。

もうそろそろのぼせてきたと風呂から上がろうとしたら、すかさずクレッドが飛び出し、持ってきた大きなタオルを投げられたので腰に巻いた。

はぁ。俺の弟は変なとこで心配性だな。
可愛いんだけど、時々こっちが心配になってくる。こいつの心臓大丈夫なのかなって。

困惑しつつ、その後このスパで規則が若干緩められる日も、そう遠くはないのであった。



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