ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 54 朝の凶行 ※

昨日は酒場から帰ってきて、ベッドに直行した。

酔いが覚めるまでしばらく弟の腕の中にいたが、結局どちらともなくそういう行為に耽ってしまい、何時間経ったか分からないが眠りに落ちた。
そしてついさっき、カーテンから差す日の光に朝だと知らされた。時計を見るとまだ起きるまではだいぶ余裕がある。

しかし俺の身体には余裕がなかった。異変が起きていたのだ。
横向きの俺は後ろから弟にがっしりと抱きしめられていた。寝息が聞こえることから奴は眠っているのだと分かる。

だが腰はぴたりとくっついたまま。そして何かが……入ったままだった。自分の中に。

「んん、……うそ……やだ、ぁ……」

力の抜けた声を出しながらゆっくり身じろぐと、くちゅっと水音がした。
濡れた感触からなんとか逃れようと、クレッドの手をはがそうとするが固い。こいつ寝たままでも力が強いと焦りながら、必死に腰を前に突きだそうとする。

「ん、あっ……とれ、ねえ……っ」

動けば動くほど弟のものが馴染みのある硬さを取り戻していく。自分のせいとはいえ絶妙な当たり具合で中を擦り上げてくる。

これはまずい、なんでこんな事に。段々刺激がダイレクトに伝わってきてしまい、淫猥な動きになってくる。
このバカ野郎、最悪だ、俺の弟何考えてるんだろう。

「ふぁっ……や、やぁ……んああぁ」
「……兄貴。なに一人で気持ちいいことしてるの?」

腰を必死に揺らしていた俺の背後から、突然悪魔の囁きが聞こえてきた。

「……なっ! お前、起きてーーふざけんなよ、何考えてんだ!」
「ちょっと、頭に響くだろ……俺さっき寝たばっかりなんだ……眠い」

そう言って弟は俺をさらにぎゅっと抱きしめて、肩に自分の頭をうずめた。眠気を紛らすように額を左右に擦りつけるが、しっかり抱えて離す気はないらしい。

「つうかなんでこのまま寝たんだ、阿呆かお前っ」
「だって離れたくない……。駄目だったか?」

駄目に決まってるだろう馬鹿なのかこいつ。
こんな事やられたのは始めてだ。弟の凶行が最近どんどん酷くなっているような気がする。

「もうやだ……とって……っ」
「……取ってって……物じゃないんだから。……兄貴、俺の、好きじゃない?」

うつむいていた顔を上げ、首にキスをしてくる。細かな音を立てながら唇が頬や耳たぶにも触れてきた。

こいつはずるい、好きか嫌いかと言えば好きだが今はそういう問題じゃないだろ。返答できず黙っていると、クレッドはあろうことか腰をぐぐっと前に入れてきた。

「んああっ」
「……はー……きもちいい……こうやって兄貴の中で起きるの、いいな…」
「なにっバカ、やめろ、うご、くなぁっ」

やっぱ頭がおかしくなったのか。
ブチ切れたいのに弟に羽交い締めにされて身動きが取れない。
その間もいつの間にかいつもの硬度を保ち始めたそれが、徐々に奥へと達してきた。ぬちぬちと音をさせながらさらに深くまで埋まっていく。

「はっ、はぁ、うぁっ、クレッドっ」
「ん? どうしたの、様子が変だ……肌も赤いし、体が熱くなってきてるぞ……?」

後ろで腹の立つことを言ってくる弟の腕を掴み、なんとか止めようとする。
そんな俺の僅かな抵抗をあざ笑うかのように、クレッドは自身をゆっくりと前後に動かしてきた。
根本まで入ったものがずるりとぎりぎりまで引き抜かれ、速度をもって中へと押し入ってくる。

「やだ、まって、あああっ」
「待てない、兄貴、止まらないよ」

次第に速くなる律動に腰がびくびく震えだす。打ち付けられ前に跳ねてしまう下半身が、弟の両手に捕まり引き戻される。
体を揺すられ気持ちいいところを擦られ、視点があちこちに散らばっていく。

「あっあっ、んあああっ、ダメ、イっ、くっ」

中がじんじん疼き出し、まったく刺激を受けてない前も、張り詰めて辛くなってくる。

「んっ、ん、やだ、やぁ、んんーーっ!」

奥が大きくひくついたのを感じて強く目をつむる。波のようにうねる快感が全身に伝わり始め、震えるつま先をぎゅっと閉じた。
クレッドの腕が股の間に伸びてきて、太ももを大きな手のひらで優しく撫で上げる。

「は、あ、あ」
「……いっちゃった? かわいい、兄貴」

付け根を焦れったくさすりながら足を開かせようとする。まだ敏感になっていた俺は少しでも動かれたくなくて体を強張らせた。
だがクレッドの柔い唇が首に触れ、温かな舌と一緒に吸いつかれ、みるみるうちに力が奪われる。

「や、だ……もう、離して……っ」
「駄目だよ、俺まだイッてない……」

甘えるような声でキスを落とされるけれど、夜通し弟のモノが入っていたせいか、中が狂おしいほど疼いて仕方がない。これ以上されたらおかしくなってしまうと思った。

抵抗して動かずにいるとクレッドは俺の体に強引に覆いかぶさってきた。ベッドの上にうつ伏せにされ、大きな体にのしかかられ、両手両足を封じ込まれてしまった。

「んああっなに、やめろよっ」
「でも俺も…気持ちよくなりたい……兄貴の中で」
「……っん、あぁ、なっ、……もう、夜たくさんした、だろ!」

昨日のことを思い出してまた体が火照りだす。いつもみたいに中に何度も注ぎ込まれた。なのに起きた時途端にまた、こんな目に合うとは。

「ん、そうだね……いっぱいしたね。どうだった? 兄貴」

尋ねながら緩やかに腰を揺らす。起き上がろうとした肩の下に腕を回され、優しく抱きしめられる。
腰が揺れる度に、弟の乱れた息遣いが耳に触れて、ぐらぐらする熱に体が侵されていく。

「気持ちよかった……? ほら、思い出して……」
「んん、ぅあ、よかった、からっ」
「ほんとに? じゃあ今もいい……? どっちが好き?」
「わっ分かんない、そんな、あぁっ」

くすっと笑う声が聞こえた。恥ずかしくて顔が熱くなる。この体勢は嫌だけど見られてなくて良かったと思った。

「俺は、起きてからするのも好きだな……」

呟いた弟は一度上体を起こした。背中に合わさった肌が離れてしまったと思ったら、俺を囲うように両手をつき、また腰を大きく揺らし始める。

「あ、ああ、クレッドっ、やだ、んんっまた、んああっ」
「うん、またイッちゃうね? ……ああ、ほんとにかわいいな、兄貴は」

弟の息が段々と上がっていき、興奮している様子が伝わってくる。

「でも俺も、もう、イキそうだ。……出していい?」

背中を抱き込み、うなじにキスをしてくる。何度も口づけされるが、俺は体を震わすだけで何も答えずにいた。
言葉を返す余裕もなくただ喘ぐのが止まらなかった。

「出すよ、兄貴」

弟の艶めいた声に告げられ、さらに激しく打ち付けられる。強引にベッドに擦り付けられ、びくびくと全身に刺激が行き渡っていく。

二度目の急激な快感に襲われ、シーツを両手で思いきり握った。
クレッドが無我夢中で腰を振る。俺は自分の声が抑えられず、俺の腕をがっしり掴んだままの弟の手に唇を這わせた。

後ろから激しくされると、つい触れ合いたい欲求が湧いてくるのは、もう変えられない癖のようになってしまった気がする。

「ああ、兄貴、もうい、くぞ……ッ」

声を絞り出した弟に、さらにガンガン突き上げられた。

「や、っあ、あぁっ、ああぁーーっ」

腰を震わすと同時に弟のモノがびくんびくんと大きくうごめいた。
中に注ぎ込まれるのを感じ反射的に顔を上げると、後ろから苦しくなるほど力強く抱きしめられた。
一滴残らず吐き出すまで俺の一番奥深くにとどまり、さらに強い快感を分け与えてくる。

「う、うぁ、あぁ……」

じわりと液が浸透していき自然に尻が浮く。中に深く沈んだままの弟が、せわしない呼吸を耳元で繰り返した。

「クレッド……」
「……う、ん……?」

弟はまだ起き上がろうとせず、俺の背中の上で休息を取っている。重みも苦しいが、押し寄せる快感のせいで俺は頭がおかしくなりそうだった。でもそれだけじゃない。

「もう、やだ……お前」
「どうして……? 怒った?」

さっきまでの強気が急にどこかへ消えたように、若干の焦りを滲ませながら、クレッドが体を起こそうとした。
ゆっくりと慎重に抜かれたそれに、下にある腰が情けなく震える。

ああ、やっと出ていった。
この期に及んで全くの寂しさがないわけじゃない。けれど解放されて安堵した。
そう思ったのに。

「兄貴……起きる?」

弟に聞かれても俺は無視してシーツに這いつくばっていた。まだ起きたくない。起きれなかった。

「どうしたんだ、大丈夫ーー」

心配した弟に無理やり仰向けにされて、全身が晒されてしまった。思わず手の甲で顔を隠す。
体を隠そうとも思ったが、恥ずかしさのあまり火が吹きそうな顔のほうが、見られたくなかった。

「……ああ、兄貴……前……イッちゃったのか。びちょびちょに濡れてるな……」

どこか興奮した様子で卑猥な言葉を浴びせる弟が、俺の湿った下腹をそっと撫でてきた。
まだ敏感に感じてしまう身をよじりながら、「うるさい黙れ」と反論することも出来ず、俺は奴から顔を背けて体を丸めた。

「もうお前きらい」
「えっ、なんで? 嘘だろ?」
「嘘じゃない」
「兄貴……ごめん、謝るから……嘘って言って」

急に捨てられた子犬のような声で縋り、クレッドが上から抱きついてきた。
もちろん本気で言ったわけじゃない。こんなことされても本当は好きだ。けれど恥ずかしさが消えるまで、当分許してやらないことにした。



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