ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 52 世話を焼く弟 -休日のプチデート-

「おはよう、兄貴。ご飯できたよ」

布団にくるまり頭だけを出した俺の髪をそっと撫で、弟が優しく声をかけてきた。
休日だというのにすでに小奇麗な部屋着姿で、表情もやたら健やかだ。

「ああ゛……体が……怠くてさ」
「えっ。大丈夫か? どうした?」

ベッドの端に腰を掛け、俺を心配げに見つめるが、お前理由は分かってるよな。
誰かさんが昨日また散々無茶したからなんだが? 体中筋肉痛なんだけど。

物言いたげにじとりと睨む俺のことを、クレッドが口元をひくつかせ、若干笑いを堪えたように抱き上げた。

「ごめん。じゃあ今日はゆっくりして。俺が兄貴の面倒みてあげるから」

どういう意味だ。
その台詞と怪しげな微笑みを不審に思いながらも、俺はとりあえずふらつく体を弟に支えられ、身支度を整えることにした。

顔を洗って歯を磨き、あんまり寝間着と変わらないだるっとした半袖長ズボン姿になった俺は、食卓へと向かった。

休日になると弟が食事を作ってくれる。
もうほぼ同棲してるような雰囲気だが、こうして将来の準備もばっちりである。

「ああ、うめえ……お前最高……」

疲れとさっき起きたばかりのせいか、しゃがれた声が出てしまうが、弟特製のパンケーキと茹でソーセージ、フレッシュなサラダをもぐもぐと堪能した。

「ほんとに? それは良かった」

珈琲を口にしながら笑顔で俺に告げる弟の金髪が、窓からの光に反射してキラキラ眩しい。

朝っぱらからいい男だな、こんな風にご飯まで作ってくれるし。
甲斐甲斐しい自分の弟に見とれていると、クレッドが俺の頭のてっぺんに目をやった。

「あ。兄貴、寝癖がついてるよ」
「……えっ。そう? 後で水つけて直すよ」

さっき鏡で見たら確かにぼさぼさだった。
弟の柔らかな毛とは違い、俺の黒髪はちょっとコシがあって癖がつきやすいのだ。いつもハネてるし。

「直さなくていいよ。凄くかわいいから」

にこっとまぶしい笑みを向けられるが、じゃあなんで指摘したんだこいつ。
照れを隠すようにぼりぼり頭を掻きながら、愛する弟へのツッコミをご飯と一緒にのみ込んだ。






体はまだ重かったが、少し休息を取った後、せっかくだからとその日の午後は弟とお出かけした。
休日は日頃の疲れもあって家で過ごすことが多い俺達だが、たまに二人で近くの街をぶらぶら歩いたりする。

服装や心構えに気合をいれた、ちゃんとしたデートではない気もするが、穏やかで楽しい時間を過ごしていた。


午後になっても日差しが強く、まだまだ汗ばむ季節だ。
背の高い木々が立ち並ぶ遊歩道を歩いていると、ふと看板が目に入り、俺は店の前で立ち止まった。

「あっ。クレッド、俺アイス食べたい。買っていい?」
「うん、いいよ。何がいい?」

財布を取り出した弟にアップルシナモンがいいと告げると、弟は店員にそれを注文した。自分はダークチョコアイスを頼んでいた。

「奢り? ありがと〜」

普通に受け取り、すぐさま口に入れる。
ああ美味い。この季節に外で食べるアイスは格別だな。

ぺろぺろ舐めながら少しずつ味わっていると、弟は俺のことをどこか生温かい表情で眺めていた。
けれどその透明な蒼い瞳が段々見開かれていった。

「なぁ、兄貴の食べ方変じゃないか? 舐めてるだけで味わかるのか?」

そう言いながら、コーン部分を握る弟は大きな口を開けて、ジェラート部分をなぜかバクバクとかじるように食べていた。

「は? アイスを舐めるのは当たり前だろ。お前こそなんで噛んでんだよ。もったいないな、すぐ無くなるぞ」
「だって溶けるだろ。手に垂れたら嫌なんだよ」
「だから溶けないようにこまめに舐めとくんだろうが。初心者だなお前」

散歩しながら兄弟で食べ方議論を白熱させるうちに、クレッドはいつの間にか全部食べ終わっていた。

俺はまだ半分以上残ってるそれを夢中で口に含んでいたが、弟の視線がじっと自分に向かってることに気づいた。

「ああ……兄貴。ほら、口の周りについちゃってるよ」
「へぁ?」

子供に言うように優しい口調で、弟の手が伸びてきた。親指でクリームを拭われたかと思ったら、なぜかそれを俺の口に突っ込んできた。「ぅむっ」と変な声を出しながら思わず咥えてしまう。

するっと抜かれた指を呆然と見ていると、クレッドはにやりと笑った。

「キレイになったな。よかった」
「何すんだっ、ばかやろーっ」
「兄貴声がでかい。周りの人が勘づくぞ」

何にだよ。いつの間にか人気のない裏通りに来てて誰もいねえし。
つうか普通はさりげなく舐め取ってくれるんじゃないの? やっぱこいつ鬼畜?

……ああくだらない。外で何を慌ててんだ。
そう思いつつドキドキしてしまった俺は馬鹿だと思った。






そんなこんなで夕方近くになった。少し寂しいことにプチデートも終盤に差し掛かっている。
だが俺はまたちょっと自分勝手な行動をしてしまっていた。

「あー買った買った。悪いな、途中で本たくさん買っちゃって。いやーあの魔術書シリーズの新刊がこんなに出てるとは思わなかったわ」

ずっしり本が詰まった紙袋を両腕に抱え、隣を歩いている弟を見やった。今度は心配げな表情だ。

「絶対重いだろそれ、すごい無理してるように見える。ほら、持つから貸して」
「えっいいの? じゃあ半分」
「いいよ全部で」

ひょいっと荷物を取り上げ、片腕に軽々と抱える弟に悪いと思いながらも、半分ラッキーと思ってしまう姑息な俺だった。
まあもうすぐ家着くから。弟との外出が終わってしまうのは悲しいが、またデートのチャンスもあるだろう。


そうして夜になった頃合いに、騎士団領内へと戻ってきた。
今からご飯を作るのもかったるいと思い、俺達は周辺にあるお気に入りの惣菜屋で夕飯を買い込んだ。

麦酒やツマミなども選んでるうちに、またクレッドの荷物が増えてしまっていたが、俺も少しは軽いものを持って手伝いをした。

主に俺がぺちゃくちゃ喋りながら夕食を済ませ、入浴タイムがやってきた。
寝る前の至福の時間だ。明日も休みだし、クレッドの部屋の大きな風呂場で、頭をまっさらにしてゆっくりお湯に浸かり楽しもうーー

そう思っていたのだが、やっぱり弟が俺の後を追ってきた。「今日は絶対に一緒に入る」と頑なに譲らない男に押され続け、結局二人になってしまった。

「あー気持ちいい。この入浴剤この前街の専門店で買ったやつなんだけどさ、いい匂いしねえ?」
「ああ。最高だな。体の凝りがみるみるうちに無くなってくよ。兄貴もそろそろ疲れがすっかり取れたんじゃないか?」

湯気の立つ浴槽で向かい合う、弟の不気味な微笑みが目に入ったが、「うん、まあな…いや、まだあんま取れてない」とどっちつかずの返事をし、俺はさらに警戒心を強めた。

なんとか無事に弟との入浴を終え、浴室の外に出た。
しかし……また俺はクレッドが広げたバスタオルに包まれ、熱心に体を拭かれていた。

「あのなぁ、俺自分で出来るからっ。なんかくすぐったいしっ」
「でも俺がやりたいんだ。やらせてくれ。それに今日は兄貴の面倒見るって言っただろ?」

妙に真剣な顔をする全裸の男に見下ろされ、それ以上何も言えなくなる。
いつもの事だと言えど、こいつの甲斐甲斐しさは時折しつこいぐらいなのだ。

「はぁ。俺お前のペットじゃないんだけど」

体を拭き終わり、今度は濡れた頭をタオルでわしゃわしゃとやられながら溜息をつく。

「え……ペット?」

クレッドの声色が変わった。
恐る恐る振り向くと、なんか興奮した様子で目がギラついていた。

「いや今の冗談。ただの言葉の文だから。忘れてくれ」
「……ああ。そうだよな。ごめん」

なんで謝るんだよ。なんか変な想像されたのか?

全身を乾かされ、服は自分で着るからいいと奴から取り上げ、急いで着込み、今度は俺の前でいそいそと着替え始める弟をじっと見ていた。

濡れたままの金色の髪から、ぽたりと雫が落ちる。
俺も奴の頭にタオルをかぶせ、拭いてやった。こいつは長身のため、なんかやりづらい。

「んっ? 何してるんだ兄貴」
「お前も同じ目に合わせてやろうと思って。ほらどうだ」
「……どうだって……、最高に気持ちいいけど」

拭いていた腕を掴まれ、顔をじっと覗き込まれた。
おい顔は赤らんでるけどいきなり真面目な顔すんな。
ドキドキするだろうが。

「もっとして欲しいけど、駄目だな。……俺は兄貴に少しでも世話を焼かれると、我慢出来なくなる」

そう言って口に軽くちゅっと触れてきた。
顔を上気させて見つめられ、なんかやばいとその場から逃げ出そうとした。
しかし長い腕が後ろから絡みついてくる。

「うわ、ちょっ、バカッ我慢しろ!」
「嫌だ。もうそういう雰囲気になった」
「それはお前だけだッ」

お風呂では安全だったから油断したらすぐこれだ。
結局その後俺の身がどうなってしまったのかは、言うまでもない。



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