ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 37 兄弟の休日 T (弟視点)

カーテンから差し込む光に、瞼がぴくりと震える。
うつ伏せで枕に顔を埋めていた俺は、自分の腰の上にけして重くはない重みを感じていた。
柔らかく丸みを帯びた何かが当たって、ゆさゆさと動いている。

「クレッド、起きろよ」

囁かれた言葉にゆっくりと目を開ける。
まだ頭がはっきりしておらず、素肌の上半身をわずかに動かすことしか出来ない。

「ん……」
「なぁ。起きたか?」

やたらと弾んだ声は兄のものだと分かり、俺はとっさに片腕を隣のシーツ上に伸ばしてまさぐった。誰もいない。
寝坊が標準の兄が、俺より早くベッドから抜け出してるなんて。

「兄貴……なんで俺の上に乗ってるんだ。嬉しいけど……」
「だってお前起きねえんだもん」

言いながら急かすように、腰を前後に動かしてくる。
あんまり揺すられると、振動がーー。
すでに下半身が熱を帯び、朝の生理現象に追い打ちをかけられる。

「わ、わかったから、ちょっと退いてくれ」
「嫌だ。なぁ早くっ」

かわいいけどなんでそんな元気なんだ。

起き抜けで混乱してるこっちの身にもなってほしいと、無理やり起き上がろうとすると、兄は俺の背にしがみつくように上体を倒してきた。

あたたかな体温が広がり、うなじにすりすり頬を寄せられ、誘われてるのかと固まってしまう。
平静を保つために、一度落ち着こうとする。

「そんなことしていいのか? ……当たってるぞ、兄貴の」

羞恥を煽る指摘にきっと狼狽えて飛び起きると思ったが、兄はぴたりとくっついたまま、俺の耳元に口を近づけた。

「ん? 当ててるんだよ。わざと……」

その艷やかな声色にぞくっと体に何かが走り、俺は衝動的に背に手を伸ばした。
後ろ手で兄の服を掴み、強引に引っ張って横に引きずり下ろす。

「んあぁっっ」

シーツに滑り落ちた半袖短パン姿の兄を、両肘でがっちり囲み、上から見下ろした。
一瞬で形勢逆転し内心笑みがとまらない。

でもなぜか兄は大きな緑の瞳をらんらんと輝かせ、俺を見つめていた。

「おはよう。クレッド」
「……おはよう、兄貴」

とりあえず今までのことは隅に置いといて口づけをし、深く味わうことにした。
だがしばらくして、兄は俺の体を両手で押しのけてきた。

誘ってきたんじゃないのか、訝しみながら腰をぐっと押し付けると、兄はさらに逃れようとする。

「おい、待てよ、もうっ」
「なんで?」
「だから、朝なんだぞ。それに今日は休日だろ」
「うん。兄貴が早起きするなんて珍しいな。じゃあ今日はずっと一緒にいような」

段々と色々覚醒してきて、さぁ始めるかと思ったとき、兄は俺の手をもって自らの腹に当てた。

えっ? まさかーー。
そのまま下腹部にもっていってくれないかと期待したが、その部分からきゅるるると音が聞こえた。

俺の下で、兄が恥ずかしそうに目配せする。

「クレッド。お腹空いた。なんか作って」

きらきらした目に懇願され、思考が止まる俺にかまわず、兄は下から体を揺さぶりながら何度もお願いしてきた。

そうか。
俺が朝食を作るというこの前の約束を覚えていて、だから兄はさっそく早起きしてたのか?

なんなんだ、可愛すぎだろうと、柄にもなく胸がきゅっとときめいた。

「兄貴……そんなに俺の、食べたいのか……」
「なぁ。まだ?」
「分かった。今作ってあげるから」
「やったぁ!」

兄は嬉しそうにはしゃいで飛び起き、身支度をする俺の周りをずっとうろちょろしていた。
こんなに楽しみにしているなんて、正直料理に不安はあったが、自然とやる気が湧いてきた。



部屋着に着替え、キッチンでフライパンや調理器具を用意した。
隣でわくわくしている兄をちらと見やる。

「あの、兄貴。自分で言っといてなんだけど、俺、ベーコンエッグとサラダくらいしか作れないぞ。それでもいい?」
「良いに決まってるだろ。十分だよ。お前の朝食っていうのが凄いことなんだから」

にこりと微笑まれ、俺もつい肩の力が抜けて笑顔になる。
抱きしめたくなるのを我慢して、調理を始めた。

焼きベーコンと目玉焼きを作ってる間に、野菜を切りドレッシングを完成させ、パンも焼いて温める。
兄は俺の様子をちらちら伺いながら、食器類と飲み物、珈琲を準備してくれた。

もくもくと作業していると、いきなり背中に抱きつかれ、顔を覗き込まれた。

「はは。邪魔してやるっ」

悪戯っぽく笑って、俺にまとわりついてくる。
今日は凄いテンションが高いなと、兄の珍しい姿に驚きながら、振り向いて抱きしめ返した。

「兄貴が邪魔なんてそんな、どんな瞬間でもあり得ないよ……」

黒髪を撫でながら本心を告げると、兄はぱぁっと顔を明るくし、胸に頬をこすりつけてきた。

そういえば兄が料理してる時は、同じように監視してる俺を邪魔っぽくあしらっていたなと思い返し、密かに苦笑いした。



そうこうしてる間に準備が整い、俺たちは食卓で二人きりの朝食を取った。
俺が作った簡単な料理に感動した様子で喋りまくる兄を、幸せな思いで眺める。

いつかこれが毎日の風景になると思うと、その時のことを想像して多幸感が押し寄せ、一人別の世界に飛んでいってしまいそうだった。

「ごちそうさま。ありがとう、クレッド。超美味かった」

先に食べ終わった俺がじっと見ている前で、ようやく食事を終えた兄は、満足そうに微笑んで立ち上がった。
目の前まできて頬に伸ばされた手を掴み、俺は兄を引き寄せ、自分の膝の上に乗せた。

「うわっ、ちょっと!」
「お腹いっぱいになった? 兄貴」

変わらず薄いままの腹を撫でて、後ろから囁くように尋ねる。
びくん、とわずかに背が反るのを見逃さない。
まだ寝癖で跳ねている黒髪からのぞく横顔が、少し赤らんで見えた。

「うん……もういっぱいだよ。でもまたお前の食べたい……今度も作って」
「もちろん。約束したからな。じゃあ来週もかわいく起こしてくれる?」

ぎゅっと抱きしめてお願いすると、兄は今更恥ずかしくなったのか、こくんと小さく頷いた。

正直言ってあんなふうに起こされたら、料理どころではなくなる。
でもそれとこれとは別の話だ。

「クレッド……、片付けないと……っ」

左右に身じろぐ腰を離すまいと、しっかり抱いたまま、首や髪にキスをしていく。
兄を見ているとすぐに触れたくなってしまうのは、俺の悪い癖だと思う。

「俺がやるからいいよ。兄貴は休んで……」
「……んッ、……おい、これじゃ休めないだろぉ!」
「そうだな。じゃあもうちょっとだけ」
「ちょっとで終わんないだろお前ッ」

段々腕の中の体が火照り、兄のじわりとした焦りが感じ取れた。
素早く一考するが、せっかく喜んでもらえたのに、このまま突っ走り機嫌を損ねたらまずい。

「確かにそうだな。じゃあもう少し我慢しよう」

朝から煽られ踏みとどまった自分の理性を褒めてやりたいと思ったが、振り返った兄は、呆れ混じりにじろっと見てきた。

「……ほら早く、一緒に片付けるぞっ」
「はいはい」

休日はまだ始まったばかりで、今日の俺はすでに、兄と全力でいちゃいちゃしようと決めていた。

さて、何をしようかな?
不埒な俺の考えに、まだ頬を紅潮させたままの兄は、まったく気づいてないようだった。



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