ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 25 波乱の続き

クレッドは怒りを溜め込んだとき、俺を無視する。
そこまでいかなくても、俺から遠ざかっていく。
普段は優しい顔で懐いてくるものだから、その落差はいっそう俺のことを苦しめる。

「はあ……」

まだ騎士団の妙な夏合宿中だ。
浜辺に簡易テーブルがいくつか並べられ、そのうちの一つを弟子と使役獣と三人で囲み、夕飯を食べていた。

「マスター、カレー美味しいです。調理お疲れ様。ところで、クレッドさんどうしたんですか? 全然こっち来ないですね」
「聞いてやるな、オズ。こいつの暗い表情を見れば分かるだろう」

弟子とロイザがヒソヒソと喋りだす。
ああそうだよ、喧嘩みたいになっちゃったよ。俺が余計なこと言わなければ……。

クレッドを探すと、離れた席で部下の騎士、グレモリーとユトナと一緒に夕食を取っていた。
予想通り俺のことは見てこない。代わりに、別テーブルで仲間と楽しそうに話す渦中の若騎士、ジャレッドに鋭い視線をやっている。

「なあオズ。あそこの若い騎士いるだろ、あいつクレッドに似てない?」
「は? あの金髪の人ですか。全然似てませんけど。なんでですか?」

自分を正当化しようとしたわけじゃないが、何気ない質問を完全否定され言葉に詰まった。
弟子は大きく茶色の目を見開いた。

「あっ、もしかしてマスター、浮気? さいてー! やっぱ若いほうがいいんだ、だからクレッドさん怒ってんですか」

頭のおかしい事を言い出す弟子の口を無理やり塞いだ。
声がでけえんだよ、馬鹿なのか。
ていうかもう相手が男だということに驚きはないのか。

「そんな事あるわけないだろ! 違うんだよ、だからさっき……」

俺は小声でオズに事情を打ち明けた。こんなことを弟子に相談するとはイカれた師匠である。
けど孤独に耐えられそうになかった。

「ああ〜それはまずいとこ見られましたね。自分より若くて強気なタイプでしょ。極めつけに似てるとか言われたら、さすがにクレッドさんでも不安になるんじゃないですかね。普段は冷静だけどマスターのことになると異常に嫉妬深いし」

……こいつ一体何なんだ。
ペラペラと的を射たこと並べやがって。

「不安なのか、あいつ……」

ただ怒ってるんじゃなくて?

でも逆の立場だったら俺だって不安っていうか、死にそうになるかもしれない。
俺は考えが足りなかった。

「やっぱ後でちゃんと話しよう。謝んないとな」

ぼそっと呟き決意すると、オズは俺の肩をぽんと叩き、生温かい目で頷いてきた。
無性に腹の立つ童顔だが一応助言めいたものをもらい、礼を言っておく。
ロイザはそんな俺達を白けた顔で見ていた。



しかし夕食後、予期せぬことが起こる。
辺りは点々と篝火が灯る暗闇で、夜が訪れていた。

隊長のグレモリーがまた騎士たちを集めだし、高らかに宣言する。

「よし、では恒例の肝試しを始めるぞ! 二人一組のペアになり、各自配られた魔石をゴールの祭壇にセットしてこい。地点は事前に教えた通りだが、ルートは自分たちで探れ。一番早かったペアには褒美をくれてやる。以上だ」

肝試しだと?
もう俺の大嫌いなイベント満載じゃないか。
つうかペアって何だよ。

混乱する俺をよそに、グレモリーが名簿を読み上げ、次々とペアが決まっていく。
嫌な予感しかしないでいると、なぜかオズとロイザが同時に呼ばれた。

「あれ、俺達同じだな。なんか新鮮味ないなぁ、ロイザ」
「そうだな。屈強な騎士と遊べるチャンスかと思ったが」
「はあ? お前らずるいぞ、俺も入れてくれよ、このままじゃ俺知らねえ騎士とペアにーー」

二人に掴みかかると、ふと俺の名前が呼ばれた。

「魔導師。お前はユトナと一緒だ。弱そうだから特別に隊長と組ませてやる。光栄に思えよ」

は?
いけしゃあしゃあと述べるグレモリーの隣で、ユトナが俺ににこっと微笑んだ。

勘弁してくれ、なぜここにきて存在を忘れていた変態鬼畜の美形騎士、ユトナくんがーー。
震えてると、騎士はすでに近くにやって来ていた。

「セラウェ。嬉しいな、やっと君と一緒になれたね」
「は、はは。ちょっと変な感じに言うの止めてくれるか」

焦りながら二人で会話していたが、何か違和感がある。

そうだ。
いつもなら真っ先に文句を言ってくる男がいるはずなのに、誰も来ない。

「なあ、クレッドは……」

ぽつりと尋ねて辺りを見回すと、弟は知らない騎士とペアを組まされていた。
平然とした顔つきで喋っている。

なんだよ、もう俺のこと全然気にしてないのか。
そんなに怒んなくてもいいんじゃないのか。

「またハイデルと喧嘩でもした?」

落ち込む俺にユトナの容赦ない質問が突き刺さる。
こいつは俺達兄弟の関係を知ってるし、今まで色々と恥ずかしい場面も見られているのだ。

答えられないでいると、俺達が出発する場面になった。



松明を掲げたユトナの後を、とぼとぼと歩いていく。
この島は無人島で、海岸から奥まった場所は木々や植物が生い茂るちょっとしたジャングルのようになっていた。
虫もいるし夜も更けて不気味な音に包まれているというのに、俺は心ここにあらずだった。

「ユトナ。お前の隊にさ、ジャレッドってやついるだろ。あいつどんな奴なんだ?」

俺に関心があると言ってたことが引っかかり、思い切って尋ねることにした。
すると振り返った騎士は驚きの目で見返してきた。

「やっぱりあいつのせいか。……君たち兄弟って、やっぱ似てるよな」
「は? なんの事だ」
「いや。ハイデルもさっき、しつこくジャレッドのことを聞いてきたんだ。団長は当然団全体のことはよく見てるが、騎士個人にはあまり関心もたないからな。なんとなく妙だと思って。俺の隊員が君にちょっかいでもかけたのか?」

心配げな感じを装っているが、形の良い目元は愉しそうに細められている。
なんか腹立たしい。

「別に大したことじゃないけどさ。……そっか、クレッドも気にしてたんだ」
「ああ。いつもより余裕ない感じで苛立ってたよ。ジャレッドは入団してまだ長くないが、剣術のセンスが抜群なんだ。隊でもかなりの有望株でね。将来的にはハイデルを脅かす存在になると、俺は見ているんだが」
「ふうん、そうなんだ……」

隊長らしい真面目な顔つきで述べられるが、悪いけど騎士事情にはあまり興味がない。
というか弟が脅威に怯えるということを想像できない。

と思っていたが……今のあいつは気にしてるみたいだ。
俺の不用意な発言のせいで。

「まあ俺が言うのもどうかと思うけど、ちょっと気をつけたほうがいいかもな」
「どういう意味だよ?」
「いや……あいつは人当たりもよくて素直そうに見えるけど、結構好戦的なとこがあるんだよ。それに、俺と同類のような気がして」

なんだその爆弾発言は。
それはそっち方面の人という意味なのか。

「あ、着いたぞセラウェ」

話してるうちに、いつの間にかゴールの祭壇へとたどり着いた。
すでに煌々と光る色とりどりの魔石が並べられ、一瞬目を奪われるが、すぐに騎士の声に現実に引き戻される。

「セラウェ。ぽっと出の若い男も良いが、俺のことも忘れないでほしいな」
「はい?」
「覚えてないのか? まだ諦めてないんだけどな。ハイデルと壊れそうなら俺にもチャンスあるだろ?」

優しい笑顔でものすげえ残酷なことを吐かれた。
やっぱこいつ鬼畜だろ。

「こ、壊れるわけないだろ! こんなことで! ふざけんじゃねえ、変態野郎!」
「ああ、そんな泣きそうな顔で怒らないで。俺も抑えられなくなるだろう。悪かったよ、セラウェ」

どさくさに紛れて騎士が俺の頭を撫でてきた。

何言ってんだ。
もう嫌だ。
早く弟に会いたい。なんでこんな寂しい思いしてんだ。

ずっと一緒にいたのに。
早く抱きしめてほしい。



騎士になだめられながらビーチに戻ると、大きな篝火の前に皆が集まっていた。
いつの間にか緑の四角いテントが砂浜に並べられている。
また名簿を持って仁王立ちになっている隊長グレモリーを見て、さらに嫌な予感がした。

「全員揃ったな。では今日の所はこれでお開きだ。後はテントの割り振りを行う。今から順に呼ぶからーー」

虚ろな目で様子を見ていると、ふと俺の名が呼ばれた。

「魔導師。お前は第二小隊のジャレッドとペアだ」
「……は? いやいやいや。冗談だろ」

思わず震えた声を漏らすと、隣のユトナが「なんで俺じゃないんだ?」と平然と呟いた。

しかし俺のもとに体格の良い騎士が近づいてくる。
金色の髪が炎に照らされ、目を奪われる。

「セラウェさん、また同じになりましたね。嬉しいです。俺、あなたとゆっくりお話出来たらいいなと思ってたので」
「……え、ああ、うん。そうなのか」

柔らかい笑顔で声をかけられ、俺はか細い声で返事をした。

こいつは悪い奴じゃないんだろう。
なぜ俺にそんなことを言ってくるのかは分からないが。
昔の弟に似た雰囲気で来られると、邪険に出来ない。

でもこれはーー。

「駄目だ、変更しろ。兄貴は別の奴と組ませる」

突然響いてきたのはクレッドの声だった。
俺ははっとなって、心臓が急に動き出したように、こっちを強い眼差しで見つめている弟を見返した。

周りの騎士たちは皆それぞれ喧騒の中にいる中、グレモリーが怪訝な目を弟に向けた。

「やっぱ噛み付いてきやがったか、団長。だが悪いけど却下だ。ここを取り仕切るのは俺なんでな。言うことを聞いてもらうぞ」
「くだらないことを言うな。割り振りなんかどうだっていいだろ」
「どうだっていいなら誰だっていいだろ。ちなみにあんたはあのチビ助とペアだからな」

どうやら弟はオズと同じテントらしい。
クレッドは静かに怒りを燻らせた顔つきで黙りこくった。

俺は思わずグレモリーに駆け寄った。
些細なことだが俺にとってはもはや譲れない事態になっている。

「なあ、悪いんだけど俺とロイザ一緒にしてくれないか。あいつは魔力供給が必要なんだ。いいだろ、そんぐらい」
「ああ? 駄目だ。例外は認めねえ。これは合宿だぞ、身内で固まってどうする」

ぴしゃりと最もなことを言われ、言葉が出てこなくなった。

その後も延々と説教を聞かされ、なぜか俺の使役獣はグレモリーと同じ寝所ということが判明した。
肝試しの時と同じくお目付け役が必要らしい。

なんなんだ。
もう決まってしまったのか。

「こっちですよ。行きましょう、セラウェさん」

俺の不自然な行動を見ていたはずなのに、いつの間にか近くに佇んでいたジャレッドは、そう言って微笑みかけてきた。



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