ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 22.5 その後 ※ (弟視点)

合わさっていた腰を、ゆっくり兄から離した。
ずるり、と自身を引き抜くと、下から一瞬高い喘ぎが聞こえた。
見上げたままの赤く染まった目元には、薄く涙が滲んでいた。

「……クレッド……」

ぽつりと俺の名前を呟く。
腕を微かな力で掴んできて、何か言いたそうな顔をしている。

ああ、また無理をさせてしまった。
申し訳なく思いながら、汗に濡れた黒髪をそっと指で梳く。

「どうしたの? 兄貴」

尋ねると、唇をきゅっと噛んで口を閉ざしてしまった。
伏せ目がちに視線を逸らされる。

何を言いたいのかは分かっている。
でも兄からの反応が欲しくて、わざと知らないふりをしてしまう。

「……中の、やつ……」

か細い声で訴えてくる。
恥じらいのせいで肌を赤らめる姿が、いつになく扇情的だ。

「つらい?」

一言だけ問うと、兄はこくんと頷いた。
俺が出したものを早く掻き出して欲しいのだろう。

新たな呪いによって、俺と思い合う兄との間には、精液に媚薬成分が生まれる。
俺がそれを感じることは出来ないが、いつも兄が乱れる様子を見ていると、いかに効力が強いのかが分かる。

申し訳ない。
そう思いながら、なんとも言えぬ愛しさが募る俺は、ひどい奴かもしれない。

「ここでする? お風呂がいい?」

兄を抱き起こし、自分の上に座らせると、くたりと顔を肩の上に乗せてきた。
やっぱり相当疲れている。
風呂に連れて行って体をきちんと洗い、ふかふかのタオルに包んで、後はゆっくりベッドで休ませようーー。

元凶である自分を責める頭を持ちながら、冷静に考えた。
しかし兄はゆっくり首を横に振った。

「ここでして……」

首に弱々しく両手をまわし、体を寄せてきた。
予想外の答えに驚きながらも、俺はとっさに兄の腰を支え、体勢を取るのを手助けした。

瞳を潤ませ、薄く口を開いて細かく息をつく兄と目が合う。
表情が見たくてキスするのを我慢する。

「ん、あ……」

濡れそぼった場所に指を挿し入れ、優しく中を撫でていく。
とろとろで柔らかい。
俺が出したものがどんどん指を伝って溢れ出てくる。

「あぁぁ……ん……っ」

兄の腰がガクガクと震え、耳元では嬌声が絶えず響く。
冷静に努めるけれど、ぎゅっと体を押し付けられ理性が揺さぶられる。

「……あぁックレッド……!」
「兄貴、そんなに動いたら、ちゃんと掻き出せないだろ?」
「だって、あぁ、や、ぐちゃぐちゃ、しないで」
「ゆっくり触ってほしい?」

兄がこくこくと懸命に頷く。
あぁ、かわいい。
今すぐーーしたらどうなるだろう?

不埒な思考を即座に振り払う。

じっくりともどかし過ぎるぐらいに掻き回していると、細い腰が揺れ始めた。
はぁ、はぁ、と短い息が聞こえてくる。

「クレッド」
「ん? 指、気持ち良くなった?」
「……気持ちいい…」
「そっか。じゃあもっとしよう」
「だめ、やだ……」

兄が俺を咎める声を出した。
途端に俺の中で欲望がくすぶり始める。
耳にぴたりと唇を添えられ、甘い吐息にぞくりと震える。

「……おねが、い……お前のいれて、もっとして」

切なそうにねだる誘いが、全身を痺れさせていく。
その瞬間、俺は我を忘れて、掴んでいた腰を強く自分の方に引いた。

「ん、あぁッ」
「兄貴もう挿れるよ、たくさんしていい? 中にまたいっぱい出していいの?」

返事を聞く前にズブズプと自身を埋め込んでいく。
ぬるついた内壁を擦りながら、奥へ奥へと俺の場所へ戻っていく。

「あ、ん、っん、はぁっ、もっと、深いとこ……っ」

髪をふり乱し、腰を揺らしながらねだってくる。
あまりに魅惑的な姿に、一体誰が兄をこんな風にしてしまったのだろうと、頭の隅で考える。

「クレッド、早く、あぁッ、動いて、おねがい」

俺しかいない。
兄は俺しか見ていない。

深緑の瞳がうっすらと不安を映し出している。
俺はすかさず顔を近づけ、唇を奪った。
丹念に舌を絡ませ、腰の動きも合わせる。

「ふ、ぅむっ、ん、う」

ぬちぬちと卑猥な音が繰り返される中、二人で体を何度も揺らし合った。
兄の満足いくまで気持ちよくしてあげたい。
やり過ぎたかと反省していたのに、求められればすぐに全て忘れるぐらい、俺は愚かなのだ。

「あぁ、兄貴、かわいい」

少し高い目線にいる兄を見つめると、快感に翻弄された表情が一瞬緩んだ。

「……お前も、可愛い……好き」

甘い笑顔で呟き、ぎゅっと肩に掴まってきた。
こっちの思惑を完全に奪われ、面食らってしまう。

負けじと兄の体を強引に引き寄せた。

「俺のこと好き? もっと言って」
「好き、だいすき……」
「……俺のことだけ?」
「そうだよ、ずっと、お前だけ……愛してる」

俺が目を見張ると、うっとりと夢うつつの様子で微笑まれた。
やっぱりこの兄に勝とうとしても、無理かもしれない。

「兄貴。俺もずっと兄貴だけ愛してる」
「……うん。知ってる……」

知ってるのか。
だよな。俺のしつこさはきっと兄が一番よく分かってるのだろう。
でもその事が嬉しくてたまらない。


繋げた体を大事に抱いて、たくさん愛を伝え合った。
二人で求めるがまま交じり合った後は、何よりも心が満たされていた。

ベッドに横たわり、二人で眠りにつこうとする。
隣の兄は、もうすやすやと寝息を立てていた。

頬にキスをして最後に唇にも触れると、ゆっくりと口が開かれた。
無意識に応えようとしてるのか、俺は慌てて短いキスで済ませ、体を離した。

「ん……」

少し身じろいだ兄を腕に包むと、胸に顔をすり寄せてくる。

髪の毛を撫でながら、どうしてこんなに愛しいんだろうと考える。
当たり前すぎて、幸せすぎて、時々混乱するほどだ。

心臓の音に気づかれないように、気持ちを静めて目を閉じた。



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