ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 21 服選び U

「クレッド、落ち着け。俺がこいつの服を一緒に選んでたのは事実だけど、それは保護者的目線というか、単なるアドバイザー的立場で……」

一生懸命取り繕うとするが、弟の冷たい視線は変わらない。
きっと俺の背後にいる、人型の使役獣の挑発に神経を逆なでされてるのだろう。

「おい、弟。悔しかったら今すぐその怒りを俺にぶつけても構わんぞ。ちょうど戦闘服が手に入るところだ、思う存分相手してやろう」
「ふざけるな。俺の兄貴にまた裸で抱きつくとかいう真似をしてみろ、ぶち殺すぞ」

ひい。
クレッドが凍りついた形相で暴言を吐くのは、相当怒髪天をついている証拠だ。

こいつ、いつか使役獣もいれて三人で暮らすこと、考えてくれてるって言ってたのに。
こんな仲悪いんじゃ、そんなの夢のまた夢なのではーー。

二人の間でぶるぶる震えていると、また空気の読めない女顔が割り込んできた。

「はは、お兄ちゃんモテモテだなぁ。ええっと、ロイザ……だっけ? こいつはセラウェお兄ちゃん大好きだから、あんま怒らせないほうがいいよ。面倒なことになるって」
「誰だお前は。馴れ馴れしい奴だな。俺はわざと小僧を怒らせてるんだ、気にするな」
「俺は二人の幼馴染のカナンだよ。あんた面白い奴だね、クレッドが怖くない奴とか、俺以外にもいるんだ〜」

何の話をしてるんだ、こいつらは。
でも一触即発と恐れられた空気が、一瞬だけ和んだ?気がする。
二人でぺちゃくちゃと無駄話始めてるし。

俺はすかさず、まだ不機嫌そうに眉間に皺を作るクレッドの両腕を掴んだ。
ビクッと体が反応し、とたんに困った顔で見下ろされる。

「ごめん、クレッド。あいつには、もうふざけるなって言っておくから。だから許してくれないか……?」

出来るだけ控えめに許しを乞うと、弟は突然俺の背に手を回し、ぐいっと引き寄せた。
いつの間にか、俺は弟の温かい腕の中に抱かれてしまう。

「お、おいおいおい。何やってんだお前、離せよッ」

馬鹿か。ここどこだと思ってんだ、家じゃないんだぞ、店だぞ。
つうかカナンがいるんだぞ。
焦りまくってもがく俺を、クレッドはさらにぎゅっと抱きしめてきた。

「なんで駄目なんだ? あいつだってやってただろ……」

弟は納得がいかなそうに、耳元でぽつりと呟いた。
俺は反応出来ず固まってしまう。

そ、そんな甘えるような声音で言われちゃったら、お兄さんはもう……どうすれば……。

一瞬めまいが襲い、ふらつく体をゆっくりと離される。
あれ、もう終わっちゃったのか。
そうだよな。ちょっと残念。

名残惜しげに弟を見上げると、その鋭い蒼い瞳は、俺たちの真横でじっと様子を見ていたカナンに向けられていた。

「お前ほんと焼きもち焼きだよなぁ、クレッド。そんなに腹立つんなら、お前もお兄ちゃんに服買ってもらえばいいじゃん。な?」

にやにやと訳の分からない事を言い出す幼馴染。
すると弟は目を見開き、動揺したように瞳を動かした。
俺を一瞬見て、恥ずかしそうに目を逸らす。

「何言ってるんだ、カナン。俺は別にそんなつもりじゃ……」

あ、あれ。もしかして、全く興味がないわけでもないのか?
俺はピンときた。

「なあ、クレッド。お前にも何か買ってやろうか? この店わりとセンス良いし、質も十分だし、お前も気にいると思うぞ」
「えっ。兄貴、俺ほんとにそういう我儘言いたかったんじゃなくて……」
「分かってるよ。でも俺、お前に何かプレゼントしたい。まあ嫌じゃなかったらだけど、あ、でも一緒に選べばーー」

本音を告げて弟に迫った。するとクレッドは急にあたふたし始めた。

「嫌なわけない。嬉しいよ。で、でも」
「何遠慮してんだよ。そうだ、この前のデー……二人で外出した時も、お前がご飯おごってくれただろ? その時のお礼だよ」

やべえ、危うく初めてのデートのことを口走りそうになった。
確かにあの時はクレッドがレストランのお金を出してくれたのだ。俺、兄貴なのに。

「そんなの、当たり前だろ。俺の兄貴なんだから……」

弟は頬を赤く染めて、俺の心の内と重なるような言葉を言ってきた。
どうしよう。
俺まで段々熱くなって汗ばんできた。

なんだこの互いに照れたような甘い雰囲気は。さっきまで修羅場かと思っていたのに。

あ! 
二人の世界を作るあまり、近くにカナンがいるの忘れてた。
横目で見ると、奴はすでに店内でロイザを連れ回していた。

あいつは勿論俺たちの関係など知らないが、クレッドのことを分かっているから、気を遣ってくれたのだろうか?

ロイザも無邪気なカナンの勢いに押され、相手をしてやってるようだ。
もう放っておいていいか。

「ありがとう、クレッド。じゃあ今日は俺の番でいいな? お前、どんなのがいい? シンプルなのが好きだよな、白とか多いし」
「う、うん。考えるのが面倒だから、簡単な色合いにしてるだけなんだけど……兄貴はどんなのが好き?」

おずおずと恥ずかしそうに尋ねてくる。
俺の好みが気になるのか?

か、かわいい……こいつ……

一瞬飛びそうになった意識を戻し、俺は瞬時に考えを巡らせた。

「そうだな……普段のすっきりした装いも好きだよ。落ち着いた濃いめの色も、大人っぽくていいんじゃないか? つうかスタイルいいから制服も完璧に決まってるよな。あ、俺お前がスーツ着てるとこもみたいかも。一回も見たことないし、すごい興味あるーー」

やばい、調子乗ってペラペラと喋りすぎた。これじゃ変に思われたかも…!
クレッドは案の上、俺の意見に驚愕しているようだった。

「驚いたな。兄貴、そんなに服に興味あったのか。知らなかった……」
「えっ? いや服には別に興味ないんだけど。俺も普段ぼさっとしてるし。でもお前のことになると別っていうか、想像するの楽しいんだよな。絶対似合うし、格好いいと思って」

そこまで言ってまたハッと我に返った。
今日の俺は、外で偶然弟に会えたからか、緊張から解かれたせいか、無意識にテンションが上がってしまっている。

浮かれて恥ずかしくなっていると、クレッドの顔は俺以上に赤くなっていた。

「……俺、外でそんな嬉しいこと言われ続けたら、また兄貴のこと、抱きしめたくなる」

えっ。
目を潤ませて迫ってきた弟を、寸出のところでがしっと押さえた。

「ちょっ、ここはまずい。家まで我慢しろ。は、ははは早く服選ぶぞ。あっ、この黒いシャツどう? 俺、クレッドがこういうの着てるの見たことないなぁ」
「うん。それいいと思う。素敵だな」

こいつ、うっとりした顔で俺しか見てないぞ。
じとっと訝しげに見やると、にこりと微笑まれてしまった。

「だって兄貴が選んでくれたんだろう? 良いに決まってる。何でも嬉しいんだ、俺……」

さっきまで使役獣にぶち切れていたのに、どうしてこいつはこんなに可愛く変貌するんだろう。
俺はもう、服なんか何着でも、好きなものなんでも与えたくなってしまう。

「そ、そっか。じゃあこれにしよう。他に欲しいもんあるか?」
「うん。帰ったらキスしてほしい」

おい。
何暴走してんだこいつ。時と場所を考えろといつもいつも言ってるんだけど。
けれど今日の俺は甘い。すでに頭がふやけている。

「……わ、分かった、帰ったらな。ほら、はやく会計するぞッ」
「よし。じゃあ行こう」

店内でこそこそ何をやってるんだと思いつつ、俺は弟の服をもってカウンターへと向かった。
すでに店主から服を受け取ったらしきカナンと、隣には腕組みをして退屈そうなロイザがいた。

「あれ、決まったの? 見せて見せて〜うわ、大人っぽくて格好いいじゃん! 良かったなぁ、クレッド」
「え……ま、まあな。ありがとう」

ぼそっと気恥ずかしそうに呟く弟を、カナンがにたっと嫌らしい笑みで見つめていた。

「なんだ小僧。もう機嫌が直ったのか? ふっ、兄に対しては素直な奴だな」
「……白虎、お前に礼は言わないぞ。いいか、もう兄貴に変なことすんなよ」

クレッドがなぜか屈辱的な面持ちで低い声を出した。

「さあな。そんな事は俺の自由だろう。お前も少しは心にゆとりをもったらどうだ?」
「なんだとこの野郎、お前の自由は兄貴の不自由だろうがッ」

ああ。また喧嘩してるし。
まあ仲良くなっても気持ち悪いけど。

「落ち着けよ、お前ら。頼むからここで暴れるなよ、ロイザ」
「暴れるのはもう少し待ってやる。さっさと済ませろ、セラウェ」
「そうそう、お兄ちゃん。じゃあせっかくだし、帰りに何か四人で食べて帰ろうぜ〜。いいだろ、クレッド」
「「は?」」

俺たち兄弟の疑問符が重なった。
また余計なことを言い出して、この幼馴染は。
いや、クレッドとご飯食べるのは嬉しいが。この四人って……どうなんだよ。



会計を済ませた後、結局四人でレストランへ行き、夕食を食べた。
弟と使役獣は時折、飽きることなく言い合いをしていたが、なだめる俺の横でカナンの突っ込みが火に油を注いでいた。

変な組み合わせだ。
一応男四人なのに、皆バラバラで好きなことを言っている。
ここにもう一人の幼馴染であるカナンの兄ーー俺の親友が加わったら、もっと大変なことになってたな。

ひとまず胸を撫で下ろし、俺たちは腹を満たしてから店を後にした。
すでに暗がりの中、街灯がともる路地をゆく。

ロイザに絡んでいるカナンを遠目で眺めつつ、俺は隣を歩く弟に目を向けた。
するとクレッドは手にある紙袋を持ち上げて、俺にそっと微笑んだ。

「兄貴、今日はありがとう。すごく嬉しかった」
「え、いやそんな、俺もお前が気に入ってくれたら満足だよ」

二人で見つめあい、優しい時間が流れていた。
弟は立ち止まり、ふと真剣に考え込む素振りをした。

「でも俺も、何か兄貴に贈り物したいな。この前のクッキーもそうだし、いつも貰ってばかりだから」
「えっ。いやいや、今日のは俺がお礼したんだぞ。あ、いや別に単なる礼ってわけじゃ……俺もお前にいつも何かしてあげたいと思って……」

予期せぬ事態にしどろもどろになってしまう。

さっきのクレッドの気持ちが分かった。何かをあげる分には堂々としていられるのに、逆の立場になるとどうしていいか分からなくなる。
もちろん嬉しいのだが。

「兄貴はいつも俺にくれてるよ。言葉じゃ簡単に言い表せないもの、たくさん……」
「……く、クレッド……」

それは、俺がお前に感じていることと同じだ。

「お前もだよ、クレッド。そばにいてくれるだけで……幸せだから」

言葉にすると、さらに思いが溢れそうになる。
ああ、なんでここは外なんだ。
二人きりだったら、きっと我慢せず抱きついていただろう。

「俺も幸せだ、兄貴。毎日そう思ってる」

弟がぽうっと頬を赤らめて、大事そうに告げた。
しばらくして邪魔な声が入るまで、俺たちはそうやって二人の幸福に浸っていた。

もう少ししたら、こっそり今夜弟の部屋を訪ねてもいいか、聞いてみようと思う。
たぶん弟はいいよと微笑んでくれるだろう。ああ、楽しみだ。



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