ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 116 占いの町

いよいよハネムーン旅行最後となってしまったこの日。
俺とクレッドは、人口の少ない小さな観光の町『スイラン』にいた。

ここはなんでも魔界で随一の占いのメッカであり、的中率100%の運命占いを求め、オカルトチックな観光客がぞろぞろと集まってくる町でもあるという。

「兄貴。せっかくだから、占いしてみる?」
「え……? お、おう」

真っ黒な石畳を歩きながら、隣のクレッドが微笑みかけてくる。

どうしよう。
弟には話したことないが、俺は正直占いという、自分のことを誰かに見透かされる儀式が苦手だった。
普段は好奇心の塊なのにおかしいとは思うが、対象が己となると、そもそも俺はチキンなのだ。

別に運命なんて知りたくないし、お先真っ暗だったら誰が責任取ってくれんだよという怒りすら沸々とわいてくる。

「楽しみだな。俺と兄貴の運命。どんなのだろう」
「……えっ。ちょっ、お前いつからそんな、占い好きになったんだよ」

俺の心も知らずに弟が楽しそうに笑う。こいつは現実的な奴だし、そんなこと一切信じないタイプだと思ってたのに。
どうしちゃったんだ、魔界に来てからおかしくなったのかな。

弟を心配しつつ、なんとなく気が進まないまま、二人でとある『占いの館』へと入っていった。





ドーム型の屋根がついた、黒光りする洋館。
内観はまるでお化け屋敷みたいに、これでもかという程暗くしてあり、俺たちは受付で渡されたランプを手にゆっくりと廊下を進んでいた。

仮面をつけ黒の外套を羽織った男が、ドアの前で俺達を待ち受ける。
室内に通されると、意外に明るい紫色の照明とピンク色のカーテンが飛び込んできた。
その前に椅子が二つ並んでおり、客である自分たちはそこに座るのだと悟る。

「はぁ〜、どきどきすんなぁ。やっぱ帰らねえ? クレッド」
「えっ。もう無理だよ、入っちゃったし。……まさか怖いのか? 兄貴」

驚きの目で見られ俺はすぐに何食わぬ顔で首を振る。
兄の威信にかけて怖がってる事実など知られるわけにはいかない。

そんな時、カーテンの裏に人影がさあっと現れた。
何やら大仰な民族衣装らしきものを羽織った女性が、目の前に腰を下ろす。

同時に間を隔てていた幕がゆっくりと上がった。

うおっ。すげえ美人。

意味ありげに視線をふせる黒髪美女に、目が釘付けになる。
この人が占ってくれるのか。なんか当たりそうだな、と単純な俺は一瞬心が傾きそうになった。しかし。

「……うう″っ、げほっ、おおっ、ゴホンッ、……ええと、ようこそいらっしゃいました。……ハイデル……? ご兄弟なのですね。分かりました」

不自然な態度で形の良い口元から吐き出されたのは、完全に男の声だった。

えーーまたそっち系の人なのか。何かとオカマの人に縁があるものだと内心驚きが隠せない。
しかし隣の弟はすぐさま身を乗りだし、さらに俺の度肝を抜いた。

「はい。俺達は人間界から来た兄弟なんです。ちなみに愛を誓い合った恋人でもあります。どうぞ、よろしくお願いします」

姿勢を正して礼をする弟。
おいお前いつから占いの信者になったんだよ。ていうか初っぱなから恥ずかしい自己紹介やめろよ。

「なるほど。……あなたが弟さんの、聖騎士ですね。しかも団長。……責任感は強いがやや盲目的で、恋人第一主義。……精力のほうも中々だと。……当たっていますか? お兄さま」

化粧ばっちりの妖艶な流し目に問いかけられるが、それを俺に聞くのか?
目を泳がしつつオーラに逆らえなかった俺は、「は、はい。お恥ずかしながらどんぴしゃですね」と控えめに答えた。

俺たちの事は姓名しか伝えてないはずだが、なぜ全てをすらすらと当てたんだ。
魔界に来てから異次元の出来事が続き、もうすっかり慣れたと思っていたのに。この占い師、まさかチート能力使ってねえか?

「すみません。俺の兄についても教えていただけますか?」

抜かりのないクレッドが占いの信憑性を得るため、質問を続けた。だが待ってくれ、俺のこと今みたいに容赦なく言われたら軽く立ち直れないんだが。

「よろしいでしょう。……お兄さまは……至って普通の魔導師ですが、ぼけっとしておられるので、常に危険にさらされています。……動物好きで、獣が二匹見えますね。……そして恥ずかしがり屋の……ブラコンです」

……え!? なにその酷い人格否定の後にとってつけたような属性は。
初対面なのにかなり当たってる感じが腹立たしい。

「す、すごい……完全に当たっている。貴方の力は本物のようだ…!」

まずい、弟が感動的な眼差しで占い師に心酔し始めている。
つうかこいつ俺のことそんなふうに捉えていたのかよ、心外なんだが。

「ふふふ。私の力をわずかばかりお見せ出来たところで、本題に移りましょうか。お二人の運命を知りたいのですね……?」

台の上で占い師が手を組み、意味深な視線で尋ねてくる。
確かにこの人は本物っぽい。けれど、俺はやっぱり中々気が乗らないでいた。というか、普通に色々知るのが怖かった。

「クレッド。俺やっぱ自信ねえよ。今が幸せだから、なんか言われたらショック受けそう」

隣に座る弟にこそこそ打ち明けると、奴は目を丸くした。

「……えっ。本当か? 俺は……実は逆なんだ。今が幸せ過ぎて、この後のことに備えておきたいっていう気持ちが、勝手に湧いちゃって……」

少し焦り気味に話す弟の気持ちを知り、驚く。
でもこいつなりに、そんなことを考えていたのかと思い、ちょっと親近感が湧くような気もした。

「そうだったのか……じゃあ、やっぱ、いっか…?」
「……いや、でも兄貴がどうしても不安だったら、やっぱり……」

兄弟で思いやっている間、占い師は独特の佇まいで静かにしていた。
しばらくして、またあのだみ声の咳払いが聞こえてくる。

「ふふ。なるほど、結果が怖いという気持ちは理解できます。……ではこうしましょうか、なるべく明るい話題のみをお伝えするというのは……?」

突如投げかけられた提案に、二人がすごい勢いで振り向く。

「えっ? そそそそれはつまりあれか、この先暗い話題もあんのか? え?」

動転した俺が立ち上がると、慌てたクレッドに優しく肩を抱かれた。
不気味な占い師の沈黙を恐れながら、俺はまたすとんと腰を下ろす。

「お兄さま。人生は色々ありますでしょう。これまでの30年近い人生も、色々あったのではないですか」

やけに上から目線で諭しに入られるが、確かにその通りだな…と肩の力が抜けていく。

「兄貴……大丈夫だよ。俺がついてるから。……二人一緒なら、今までみたいに乗り越えていけるよ。……な?」

顔を近くに寄せられて、俺はこくりと頷いた。

そうだ。俺は負けねえぞ。
辛いことがあるからこそ、楽しいことはさらに素晴らしく感じるんだろうが!舐めんじゃねえ!

「だよな、クレッド。俺達は大丈夫だ。よし。……でもやっぱ、今日のとこは、とりあえず明るい未来だけ教えてください。ハイ」

自信を持って頼み込むと、一瞬弟の肩ががくっと落ちたように見えた。
だってさ、あれじゃん。ハネムーン最後に爆弾抱えたくねえだろ。普通に考えて。

「分かりました。お二人のお覚悟が出来たところで……運命占い、開始いたします」

突然占い師の声色が変わり、辺りがふわっとした気配に包まれる。
まったく聞き取れない言語が淀みなく唱えられ、緊迫した空気感に圧倒されながらも、俺とクレッドは自然と片手を握り合い、結果を待っていた。

きらきらと宙に光の粒が舞い降りる。
一瞬部屋が眩しいほど明るくなり、やがて中央の闇に集束されるように、室内全体が真っ暗闇に落ちた。

後ろのドアが開かれ、びくっとするも、外にいた仮面の男が燭台に火を灯し、また出ていく。
目の前の占い師ははあはあと芝居じみた感じに呼吸を切らせ、やがて落ち着いたようだった。

ど、どうだったんだろうか。
俺たちの未来。ここまで来たら気になってきたぞ。
 
「ーー見えましたよ、ハイデル兄弟。いいですか」
「「は、はい!」」

前のめりになった俺たちに下された審判とはーー。

「……大きな家が見えます。お部屋がたくさんありますが……普段はほぼ同じ部屋で寄り添って、過ごしているようですね。……そして白い大きなふわふわが……自由に遊んでいます」

ふむふむ。もしかしていつか移り住むであろう、新居のことか。
よかったあぁぁ。普通の幸せな未来じゃねえか。俺の使役獣もちゃんといるみたいだし。

嬉しくなった俺は、クレッドと顔を見合わせて笑った。

「そして多くの男たちが……出入りしていますね。……平穏というには、いささか遠いかもしれません」
「「……えっ!?」」

俺の声にクレッドの声が大きくかぶさる。
おい多くの男ってなんだそれは、心当たりは多いが、騎士たちか? まさかもっとやばい奴らか?

「……くそっ………でも懸念はそれだけですか? それぐらいなら俺がなんとか……っ」

焦り顔の弟が藁にもすがる思いで尋ねている。

え、ていうかやっぱ問題が起こるとしたら俺のせいなのかな? 相変わらずまた何かに巻き込まれてる生活なのかよ。

「明るい話題というのならば、言えるのはここまでです。お二方の人生、少しばかり覗かせて頂きましたが、実に興味深いものでした。……人間の一生は短いものの、中々濃いものなのですね」

感慨深げに言われて、こちらも少ししんみりしてきた。
結果それだけかよ…という気はしたが、あまり色々知りすぎても良くないだろう。

「ご安心を。あなた方ご兄弟は、末永く仲良く暮らしていきますよ。この先の未来も……ね」

にこりと微笑まれた瞬間、俺は一気に高揚感に包まれた。
再び立ち上がり、大きく拳を振り上げる。

「本当すか先生ッ! よっしゃー!! それが聞きたかったんすよ、ていうかむしろそれだけで良かったです! やったなクレッド!」

テンションマックスで弟に飛び付き、広い腕に受け止められた。

「うん、兄貴、……良かった! 嬉しいよ、俺も……!」

緊張から解き放たれたクレッドも、心から笑顔を見せてくれている。


占いなんて必要ない、なんて思ってた俺だが、単純なものである。
やっぱり二人の明るい未来は信じたいし、頑張ってそれに向かって突き進んでいくだけなのだ。

でもこいつとならそれが出来る。胸の中にある自信は、誰かに裏付けされたものではなく、二人で培ってきたものだ。

ーーとはいえハネムーン最後の日、ちょっとした贈り物の言葉をもらったようで、俺とクレッドはともに幸せな気分に包まれていた。



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