ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 117 お土産

「うわ〜すごい、本当にこれもらっていいんですか、マスター!」
「おう。もらっとけ、もらっとけ。あ、この変幻自在ローブは俺のだから。まぁたまにお前に貸してやってもいいけど」
「ありがとうございます! 何に使えるんですか? この紫のマント」
「それがな、なんと自分が思い描いた姿に何でも変身出来るらしい。制限時間は一時間だけどな。やろうと思えば透明にもなれんだよ」
「ええっ、面白そう〜! 今度これ使って皆のこと驚かせようかなぁ♪」

魔界旅行から帰ってきた日の夜。俺は領内にある仮住まいで、弟子を相手にお土産披露会を行っていた。
オズには師匠らしく、魔界の特殊実験キットや魔術書、魔法使い風のガウンや空飛ぶほうきなど、いかにもな欲張りセットを与えた。

「セラウェ。俺の土産はなんだ? まさかこの獣肉と骨じゃないだろうな」
「え、そのまさかだけど。お前ジャーキー好きじゃなかったっけ、それ地上では絶対手に入らない魔力練り込んだレア食品なんだぞ。魔界の空気味わえるじゃん」
「俺をそこらへんの犬と一緒にするな。……まあ食えんことはないが」

低いテーブルの前でわいわいやってる弟子と俺を、優雅に横たわるソファから見下ろす使役獣。ぶつぶつ言いながらも納得したようだ。

お土産なんてそもそも役に立たねえもんばかりが普通なんだし、俺のチョイス結構いいと思うんだけどなぁ。

「兄貴。この赤狼族の秘酒、本当に何本かもらってもいいのか? あと選んでくれたお菓子類も…」
「いいよいいよ! 四騎士達に配るんだろ? ぴったりじゃねえか、謎の効能っていう訳の分からない感じが」
「う、うん。ていうか兄貴も飲むのか、これ。なんか心配だな」
「へーきだよ、一人じゃ飲まないから。つうかクレッド、今度一緒に飲んでみる?」
「……うーん、そうだな。まずあいつらに飲ませてからにしよっか。念には念をな」

笑顔で恐ろしいことを言う団長に、俺も若干ひきつった笑みで「お、おう」と返した。

旅行後、荷物が多くなった為クレッドにも一緒に運んでもらい、こうして皆揃って仮住まいで楽しく喋っていた。
弟が買ってくれた写真装置なんかも見せびらかした後、俺はおもむろにポケットからあるブツを取り出した。

実は船でこっそり入手していた、弟への贈り物だ。

「あ、あのさぁクレッド。実は俺もうひとつ面白いもん買っちゃって。これ一緒に使わないか?」

それは銀色に光る楕円形の魔法石だった。
同じものが手のひらに二つあり、驚いた皆の視線が集まる。

くっくっく。写真装置と同じぐらい、いやそれ以上の魔界最先端技術だぞーー奴の反応が楽しみだ。

「……ん? なにこれ、兄貴。紙に置く重石か?」
「ちげえよ。この石はな、驚くなよ。なんと…………『遠距離通話装置』なのだっ!!」

ドヤ顔で言い放った俺の前で、皆のぽかんとした表情が生まれる。
あれ、反応遅いな。耳慣れない専門用語伝わらなかったのかな。

温度差に焦っていると、先にはっとなったオズの大声が響いた。

「……あっ! それ俺、本で読んだことあるかも……たしか遠くに居ても二つの地点で会話が出来るっていう装置ですよね……!? 魔法鳥みたいに一方通行じゃないし、転移魔法みたいにわざわざ出向かなくってもいいっていう……!」

目を輝かせる勤勉な弟子に、俺はしたり顔で頷いた。

「その通り。さすが俺の弟子だな、合格だ。つまりこれで俺たち離れててもお互いに喋ったり出来んだよ、すごくね?」

心を踊らせて、固まるクレッドに話しかける。
奴はやっと合点がいったのか、目を潤ませて次第にぷるぷる震えだした。

「す、すごい……そんなことが出来るのか? つまりあれか、兄貴の声がいつでもどこでも聞こえると…? 俺の好きな時に!!」
「いやそこまでは……録音装置じゃないから、これ通話だから。お前が同時に受け取らないと作動しないんだよ」

勘違いをしている弟に細かく説明をする。しかし実はこの装置には、ひとつだけ難点があったのだ。
勘の良いオズがまた空気を読まず、会話に入ってきた。

「わあ、いい贈り物ですね〜良かったですね、クレッドさん! ……あれ、でもちょっと思ったんですけど。……これ魔力で動くんですよね? 呪文が使えないクレッドさんからはマスターにかけられないんじゃ……」
「……え? 嘘だろう、オズ。急にそんな残酷なこと言うなよ…」

弟も重大なことに気づいたのか、みるみるうちに顔が青ざめていった。
まあ写真のときと同じで正しい指摘なんだけどな。そこまでショック受けなくても。

「あっ、すみません! でも会話は出来ますから、はは」
「……まさかオズとそこの白虎は使えるのか? 俺だけなのか、魔力がないのは……っ」
「ふっ。元気を出せ、小僧。お前が無力なのは事実だが、その石で出来ることは通話だけではない。呪文によっては宙に映像が浮かび上がり、セラウェの顔も見ることが出来るぞ」

慰めなのか貶してるのか分からないロイザが、俺のことをちらりと見て述べた。
俺はびっくりして口を開ける。

「確かにそうだけど、なんでお前そのこと知ってんだ?」
「……ほ、本当か? これ、兄貴の顔まで見れるのか。信じられない……すごすぎる!!」

表情がくるくると変わる弟の喜びように、つい照れた俺は奴をなだめた。
なんだかんだで喜んでもらえたようで、こちらも嬉しくなってくる。

弟子と楽しそうに通話魔石を触るクレッドを微笑ましく思いながら、俺は使役獣に向き直った。

「お前、人生経験長そうだもんな。まさかこの装置見たことあるのか?」
「ああ、あるぞ。グラディオールも持っているからな」

しれっと口から出たあり得ない人物の名前に、俺は思わず全身を震え上がらせた。

「え? え? 嘘だろ、師匠も持ってんのこれ、やべえだろそれ!」
「何故だ? 俺は一度だけ、あいつがそれを使っているのを見たことがある。だが通話呪文を教えた相手から、何度もかかってくることが煩わしくなったようでな。それ以来引き出しの奥で眠っているようだ」

ロイザはソファで伸びをしながら、あくびとともに事実を打ち明けた。
俺はすぐさまオズに向き直り、目をきょろきょろと挙動不審に動かす。

「おい、オズ! 一応お前にも呪文は教えとくけど、絶対に師匠には教えんなよ! 分かったな!」
「ええっ、分かりましたけど……そんなに怯えなくても。ていうか、せっかくなら俺にも一個買っといてくれれば良かったのに、マスターのケチっ」
「うるせえ! これすげえ高えんだよ、一個いくらすると思ってんだッ。つうか俺ら同じ家だし必要ねえだろっ」

俺に迫られ確かに、と苦笑する弟子を見てため息を吐く。

師匠の名を聞いた途端、頭のてっぺんから爪先までが最大警戒モードに移るが、用心にこしたことはない。
あの男にこの装置がバレてしまったら、俺のパシリと不運な出来事が加速するかもしれないのだ。

でも師匠まで持ってるというのは、まさか本当に魔界に行ったことがあるのか?

「大丈夫だよ、兄貴。内緒にしておけばバレないだろう。そんなことより、俺にはいつでもかけてきてね。今からすごく楽しみだ」

俺の肩を優しく抱いて、にこりと天使のような笑みを見せるクレッド。
……はぁ〜もう癒された。
単純で弟好きな俺は、すぐに懸念を消し去り、気の緩んだ笑顔を見せるのだった。

ーーなのに。

「あ、あのー。二人が和んでるところ言いづらいんですけど、実はその、お師匠さまから伝言が……だよな、ロイザ?」
「ああ。そうだったな。セラウェ、何日か前にグラディオールがここに来た。お前たちの旅行の土産話を聞きたいから、数日後に奴の家へ来い。という話だったぞ」

…………え?

どうして今一件落着っていう雰囲気出してたのに、最後に爆弾落としてくんの?
なんで俺が弟と師匠の家に訪問しなきゃなんないの。恐ろしい命令さらっと受け取ってんじゃねえよこの弟子と使役獣。

「ちょ、待てって……ぜってー俺ら絞められるだろ……何されるんだよ」
「……どういうつもりだ? あの男……メルエアデは何を企んでいる」

途端にクレッドが渋い顔つきになり、思案を巡らせている。

このタイミングで師匠が俺たちの土産話を聞きたいなんて、絶対に信じられない。
俺も寸前まで行き先を知らなかったから、魔界だということは知る由もないはずだが。

やっぱり楽しいことの後には、また困難がやってくるのだろうか。
……いや、師匠だってちょっとは俺たちのこと認めてきてくれてるはずだし。取って食われたりはしないだろう、たぶん。

恐怖に追われるように楽観的推測へと逃避した俺は、なんとか腹をくくろうとするのだった。



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