ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 96 怒る騎士

「兄貴。準備は出来たか?」
「うん、ばっちりだぞ。魔力もちゃんと戻ったし」
「良かった。……でも騎士の制服も、よく似合ってる。格好いいよ」

朝の光が差し込む部屋の中で、向き合った弟がにこりと笑みを浮かべた。
俺はというと、昨夜の恥態を思い出し、軽く顔向け出来ないのだが。こいつはいつも通り優しい。

ーーと思っていたら、俺をじっと見下ろすクレッドの瞳が急に燃え上がった。

「では行くぞ、セラン。一仕事だ」
「えっ。……は、はい団長!」

団長&従騎士プレイに戻った俺たち兄弟は、二人ともかっちりとした青の制服に身を包み、颯爽と部屋を後にした。

はぁ、怖え。これからまさか大乱闘とか、騎士団抗争に巻き込まれたりしないよな。
俺の媚薬事件が発端とかマジで笑えないぞ。


部屋を出て長い廊下を歩いていくと、見知った騎士達を発見した。
大柄すぎるほどの男と、朝から爽やかな笑顔を見せる騎士が立っている。

「ああ、団長。待っていたんだ。昨夜は楽しめたか? 俺達の調査は特に問題なしだ」
「ユトナ。こっちは問題ありだ。参謀はいるか」

苛つきを隠さずクレッドが告げると、二人の騎士の顔つきが変わった。

「皆食堂に集まっているが。何があった?」
「セランが薬を盛られた。今からあいつを捕らえる。ユトナ、お前はヴェスキアを抑えろ。グレモリーは騎士達の指揮を取れ」

簡潔に伝えた団長に、部下達の驚愕の目が向けられる。すぐさまそれは、当事者である俺にスライドした。

おい頼むから媚薬云々は言わないでくれ、そう思いながら俺が口ごもっていると、美形の騎士がいやらしい好奇の眼差しをぶつけてきた。

「本当か、可哀想に……さぞ辛かっただろう、セラン。俺が助けてあげられれば良かった」
「い、いや別にそれほどでも……ありましたけど。じろじろ見ないでください隊長」
「おい従騎士。なんの薬だ? もう平気なのかよお前。ったく鈍くせえな、休んどけよ」

何かに勘づいたユトナとは逆に、荒っぽくも何気に俺を気遣ってくれる巨体の騎士。
まぁ悪いが詳しくは話せないんだけど。

二人はすぐに頭を切り替え、怖いオーラ全開の団長と共に、食堂の広間へと向かった。

そこは昨日夕食を取った場所と同じで、すでにソラサーグとラザエル両騎士団員たちがテーブルごとに分かれて座り、賑やかな雰囲気を醸し出していた。

縦長の食卓を見渡せる位置に幹部席があり、中央にヴェスキア団長がどっしり構え、隣にはあの憎き参謀ヘーゲルがのうのうと腰を下ろしている。

反対側には意外なことに、問題の野生児キイラもつまんなそうな顔で、食事にフォークを突き刺していた。

「おお、ハイデル殿。おはようございます。昨夜はよくお休みになられましたかな?」

貫禄ある笑みで声を発した団長に、弟と部下らが無言で突き進んでいく。
その場の全員が、即座に異変を察知したかのように見えた。

クレッドは問答無用で、参謀の胸ぐらを掴み上げた。

「貴様、どういうつもりだ。なぜ俺の従騎士に手を出した」

怒りを滲ませ言い放つと、途端にしん、と静寂が襲った。

……お、おいおい。もうちょっと陰で恫喝するレベルかと思ってたが、こいつ頭に血が上ってるのだろうか、皆の前で何を言い出すんだ。

同時に全員の視線を感じ、すでにその場から逃げ出したくなってくる。

「ちょっと待ってください、ハイデル殿。な、なぜお怒りになられてるのでしょう。僕にはさっぱりーー」
「シラを切るつもりか? あんたの指示か、ヴェスキア」

弟の蒼目が、そばで言葉を失う大男をきつく捕らえる。
組んでいた腕をゆっくりと下ろしたヴェスキアは、その場に立ち上がり、弟の真正面に向いた。

「どういうことですか。うちの参謀が何か失礼を?」
「そんなもので済むか、奴はセランに薬を盛ったんだ。しらばっくれるのならば尋問を行うが、構わないな」

両者が険しい顔つきで真っ向から対峙し、食堂の空気が否応なしに張りつめる。
だがそこで、少年のからっとした笑い声が響いた。

「あのさぁ、言いがかりじゃねえ? そんなの。昨日部屋でこいつピンピンしてたぜ? それどころか俺の大事なとこに、豪快な蹴り入れやがって」

ちょ、おい何いきなりぶっこんできやがんだ、このクソガキ!黙ってろ!

すごい勢いで睨みつけると、ヴェスキアの訝しい視線が俺と少年を行き来した。

「キイラ。お前、従者殿の部屋に行ったのか。なぜそのような勝手な行動を…」
「身体検査だよ。ヘーゲルだって同じことしただけじゃねえの」
「……なんだと? そうなのか、おい、正直に言え。事実ならば、許されることではない。だいたい、この団にはいかなる薬物も持ち込むことは禁じているぞ」

苦渋の表情で部下を問い詰める団長だが、参謀は依然としてはっきり語ろうとしない。

「たいしたものではありませんよ、私はただ良かれと思って……」

しかしその言葉が、今度は俺の怒髪天を突く。

「はっ? 何言ってんすかあんた、僕がどんな目に合ったか分かってるんですか? そんな非人道的なことして、マジで許せないなぁ! もうやっちゃいましょうよ、団長っ」

虎の威を借りてクレッドの腕を掴むと、奴も真剣な顔でしっかりと頷いた。

だってほんとやばかったんだぞ昨日、結局俺の熱は何度放っても治まらず、なだめる弟の世話になりまくった挙げ句、あんなことやこんなことにーー

「ではヘーゲル、別室に来い」
「待って頂きたい、ハイデル殿。奴は私の部下だ。同行させてもらおう」
「それは不可能だ。従騎士の名誉をこれ以上貶めてたまるか」
「え? なんだって? 従者殿はいったいどんな状況になったというんだ。何も言わず勝手な尋問をされては、こちらも納得出来ないぞ」

食い下がるヴェスキアに業を煮やした弟は、ユトナに視線をやる。
美形の騎士は優雅に二人の間に割って入り、大男を牽制した。

相対する二人の目つきがガラリと変わる。
両者とも剣に手をかけ、こんな朝の食堂でまたもや殺気が充満し始める。

後ろに控える隊長のグレモリーは、隊の騎士達を束ね、周囲を囲み一触即発となったラザエル騎士団員らの動向をにらんでいた。

「団長。ひとまずヴェスキア殿に尋問室へと案内してもらったらどうか。俺達は部屋の外で待機していよう」

冷静なユトナの一言に、弟は一瞬思案顔を作り、やがてこくりと頷いた。

「そうだな。あんたに何もやましい事がないのなら、文句は出ないはずだ」
「……仕方がない。貴殿の怒りは相当のようだ。ただし、不要な真似は遠慮して頂きたい。まだ事実が分からぬ以上、私も黙ったままではいられないのでな。そもそも、これが我々に対するでっち上げでないことを祈るのみだ」

このおっさん、俺の弟が言いがかりをつけてるとでも言うのか?
無性に腹が立ったが、こんなとこでぶちまける訳にはいかない。

早くこの参謀の目的を暴かなければ。



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