▼ 夏休みの過ごし方 前編
むくり、とベッドから起きた僕の朝は、『お兄ちゃんのおちんちんチェック』から始まる。学校はもう夏休みに入ったため、時計の針が8時を過ぎても兄はまだ寝ていると思う。
僕は寝巻きのまま部屋を出て、兄の寝床へと向かった。
ベッドの上では、片腕を上げ目を閉じている兄が、すーっと寝息を立てていた。今は寝るときも暑いから、上半身は裸みたい。
「お兄ちゃん、入りますよー」
布団の下から潜り込んで、足下からパンツに向かってほふく前進をする。
すると顔の前で、なにか膨らんでるものを見つけた。
「あれ? これはまさか。触ってないのに大きくなってるなぁ」
ちょんちょん、と突っつきたくなるのを我慢して、じっくり観察する。
布団の下で息が苦しくなってきた頃、突然がばっと視界が明るくなった。
「おい。なんつう起こし方してんの、お前……」
仰向けのまま、頭だけ上げた兄と目が合った。僕は嬉しくなり両手を伸ばし、お腹の上にダイブする。
「お兄ちゃん、起きたあ! おはよう」
一瞬下から「んぐぅっ!」と聞こえたけど、抱きつくと長い腕を回されて、背中をさすられた。
「ん。おはよう。俺のかわいい弟……」
まだ寝ぼけた感じで褒められながら、僕はまじまじと兄の下半身を眺めた。そうだった、僕の目的は朝の恒例チェックだったのだ。
「おや? お兄ちゃんのおちんちん、朝立ちしてますね〜」
先生らしく診察を始めると、兄が上半身を起こす。
「ルカ……そういう言葉は使っちゃだめ。お前にはまだ早いからね」
僕の頭のてっぺんを触って、やんわりと教えられた。でも兄はよく使うのにって、僕はちょっと納得できない。
「じゃあなんて言えばいいの?」
「……えーとな。……おっき、かな?」
言ってすぐにニヤける兄の顔。
ますます不思議に思ったけれど、その言葉も結構かわいいかも。
「分かった、じゃあお兄ちゃんのおっきしてますねー。朝からすごぉく元気そうみたい」
話しかけながら、もういいかな?と思ってようやく指で触ってみる。元気なおちんちんすぎて、ぴんってすると跳ね返ってくるから楽しい。
遊んでいると、強い力でぐいっと脇の下から持ち上げられた。
「うわぁぁっ、びっくりしたぁ!」
「ルカ。お前可愛いすぎ……」
抱っこされて真正面から抱き締められる。
「じゃあどうしますか、ルカ先生。先生のせいで、僕のこんなになっちゃってますけど」
間近で見つめる兄が真剣な顔で尋ねてくる。しゃべり方がドラマみたいでくすくす笑いそうになる。
「そうですねー。じゃあお兄ちゃん、このまま動いてみますか? 一緒にこするの好きでしょう?」
先生役の僕も、たまには患者さんのお気に入りの方法を聞いてあげる。
なぜなら驚いて赤くなった兄の、嬉しそうにする顔が好きだから。
でもちょっと、優しくしすぎたかもしれない。
「あ、あ、お兄ちゃんっ、やぁそこっ」
「先にここ舐めよっか、ルカの乳首、ぺろぺろする?」
兄はいきなり、赤く染まった顔で僕のTシャツをぐいっと捲し上げた。
下にいる金髪頭を抱えながら、兄の唇におっぱいを吸われる。
お兄ちゃんてば体は大きいのに、こんなときだけ動物の赤ちゃんになったみたい…。
最近見つかってしまった胸いじりは、始まってしまったら止められないのだ。
僕も動き回る舌のせいで、勝手におちんちんのほうがきゅんってした。
伸ばされた両手にパンツも下ろされて、お兄ちゃんの上に乗ったまま、おちんちん同士が擦り合わされる。
「やあぁ……もう濡れちゃったよ、お兄ちゃん…っ」
「ほんとだ、ぐちゅぐちゅしてる、ルカの……やらしー」
いつもの興奮顔が近くにあるけど、お兄ちゃんの先っぽからあふれてる、透明な液のせいなのに。僕のせいになっちゃっている。
下からゆさゆさ揺れる兄の腰で、もっと濡れる音が大きくなっていった。
「ひあっ、あぁっん、ぐりぐりだめえっ、んやあぁっ」
「ルカ、可愛い、ああっ、出したいルカぁっ、もう出す、出すぞっ!」
二人の密着した腰が同じぐらいに跳ねて、お兄ちゃんが僕のことを力一杯抱く。
するとお腹の間にびゅるるるって温かい液体が飛び散った。
「あーっ……く、ぁ、あっ……」
おちんちんが脈打ちながら、長い長い射精が終わり、下にある大きな体の力が抜けていく。
僕もお兄ちゃんの体の上でくたあってなって、細かく震える腰がおさまるのを、じっと待っていた。
「はあぁ。こんな風に起こされるの、マジやべえ……」
放心して呟く兄の上で、僕はむくっと起き上がる。
「お兄ちゃん、気持ちよかった?」
「ああ。ちょー気持ちいいよ」
「やったぁ。僕も。びくびくってなっちゃった。あと、朝からお兄ちゃんのいっぱい出るの嬉しい!」
「……ルカ、そういうこと言われるとまたお兄ちゃんおっきしちゃうからね…」
焦りながら小声で注意してくる。
そのあと僕はシーツの上に降りて足を投げ出し、せっせと体を綺麗にしてくれる兄のつむじを見ていた。
でも急に思い出したように、兄の腕をつかんでせがむ。
そうだ。もう夏休みだったんだ。
「ねえねえ。約束覚えてる? 今日は本屋さんに一緒に行ってくれるんだよね!」
僕の顔を見た兄が、にこりと笑って頷いた。
「そうだよ。ルカの好きな本買ってあげる。バイト代入ったからな」
「ほんとっ? ありがとーお兄ちゃんっ」
僕は飛び上がって抱きついた。
ベッドに押し倒す形になってしまい、僕をのせた兄の「お前喜びすぎ」という笑う声が聞こえた。
夏休みの間、兄は車で配達のアルバイトをしている。去年運転免許を取り、今は母の車を時々使ってるけど、もうすぐ自分の車を買いたいらしい。
だから母が仕事じゃないときに限って、兄がいなくなっちゃうのでちょっぴり寂しくなる時はある。
でも、自分でお金を稼ぐなんてほんとの大人みたいで、やっぱりお兄ちゃんはすごいなあ。
「よし、じゃ朝ごはん食べて少し休んだら、出発するか」
「うん! 僕すっごく楽しみ!」
「はは、かわいー。俺も楽しみ。ルカとのデート」
そうして僕とお兄ちゃんは、本屋さんのある街に向かうことにしたんだけれど……。
僕と兄はバスで15分ほど揺られ、駅近くにあるショッピング街にやって来た。
この街はあんまり大きな街じゃないけれど、人も車もまあまあ多くて、いつも商店がにぎわっている。
僕たちはさっそく、普段学習の本や文房具などを買っている、行きつけの本屋さんへと向かった。
お兄ちゃんと手を繋ぎ、広いフロアをきょろきょろしながら歩き回る。真面目な顔で本を探してる人、雑誌を立ち読みしてる人、僕より小さな子供を連れて絵本を選んでる人など、様々だ。
「さあ何でも選んでいいよ、ルカ。どんな本が欲しいの?」
「えっとねー、僕ね。狼のフォトブックが欲しいの」
思い描いてたことを告げると、兄が目を丸くした。
「え。なんで狼? えらいピンポイントだなあ。動物好きなのは知ってるけど……うさぎさんとかじゃなくていいの?」
「うんっ。狼格好いいし、最近のお兄ちゃんのイメージなんだ〜。あ、でも髪は金色だから、ライオンのほうがいいかな? どうしよう…」
腕を組んでうんうん唸っていると、兄はなぜか感動した面持ちになっていた。
「俺そんな強そうなイメージだったのか、すっげえ嬉しい。じゃあルカはやっぱりミニウサギかな? ていうか俺のことで一生懸命悩んじゃってるルカ可愛い……」
頭上からぶつぶつ聞こえたけど、僕はあるものが目に入って手をぐいっと引いた。
「あ! 写真コーナーあった! 見てみてお兄ちゃん!」
その場に入った僕たちは、一緒にじっくり本を見て、最終的にたくさんの野生の狼が載っている写真集に決めた。
きりっとした顔つきと、ふわふわで暖かそうなところもそっくりで僕はさらに気に入り、兄も一緒に喜んでくれる。
「よし、いいの見つかったな。ルカ、それだけでいいのか? まだなんか買っていいよ」
「ううん。ありがとうお兄ちゃん、十分だよ」
「ほんとに? 遠慮すんなよ。そうだ、他にお前の興味あるものとか…」
優しいお兄ちゃんが色々勧めようとしてくれるので、僕もふと頭を巡らせた。
「うーん。……あっ、じゃあおちんちんの本ってあるのかなぁ」
何気なく呟いたら、大きな体が素早くしゃがみこむ。そして手のひらに、ふわっと口を塞がれてしまった。
一瞬のことでビックリする。
「……ルカ、そんなのあるわけないでしょ。ダメ。ていうか、え、なに。まさか他の奴のものに興味なんかないよな? な?」
両肩を掴んですごい心配そうな顔をする兄に、首を振る。
「ううん、ないよ。お兄ちゃんだけだよ。でも勉強になるかなぁって…」
「ならないならない。俺ので勉強して、何してもいいから。ね? ルカ」
そこまでお兄ちゃんが言うなら、と思って「はーい」と返事すると、安心したのか長い息を吐いていた。
その後、「俺も車の雑誌買おっかな」と言う兄の近くにくっついて、僕も大人に混じり雑誌を眺めていたけど、やっぱりちょっとさっきのことが気になってしまった。
僕は兄が見てない隙にこっそりその場を離れ、本屋さんの中を探索することにした。
わりと近くのラックに、なんだか男女それぞれ裸みたいな格好をした表紙の本が並んでいた。
それをぼーっと左から右に眺めていると、近くの男の人の存在に気がついた。黒いスニーカーに黒いジーンズを履いていて、Tシャツも黒い。
黒髪にキャップを被っていて、白い肌の体つきはがっちりしていて、逞しい感じだ。
あっ、この人……。
じろり、と帽子の下から横目で見られて僕はどきっとした。
「……なんだあ? お前、知ってるぞ」
「えっ」
「こんなとこで何してんだよ。あのブラコンは一緒じゃないのか?」
鋭い目つきに見下ろされて、ドキドキしてきた。でも僕は兄と同じぐらい背が高くて、でもちょっと強そうで怖そうなこの男の人のこと、知っている。
「あの、ブラコンってなんですか? お兄ちゃんも一緒ですけど……あなたは、お兄ちゃんのお友達ですよね…?」
勇気を出して尋ねると、その人は「ふっ」と笑って頷いた。
「そーだよ。ブラコンっつうのはお前の兄貴のように少しイカれた奴のことだ。チビ」
「ち、チビじゃないです。僕はルカです」
一生懸命話すけれど、にやにやしている。イカれたってなんだろう。この人の言ってること、ちょっと難しいよ。
「んで? おいルカ。ここは子供が突っ立ってていい場所じゃねえぞぉ。ほーら、こういうのお前も興味あんのか?」
その帽子の人は突然にんまりと笑って、自分が読んでた雑誌を両手で僕の前に、ばっと開いた。
一瞬だけ肌色が目の前に飛び込んできたあと、突然その本が僕の後ろから伸びてきた手にひったくられた。
「おいお前、俺の弟になんて汚らわしいもん見せてんだコラッ」
「……ちょっ、なんだお前いたのかよ。びっくりさせんなや。つうかそれ汚くすんじゃねえぞ俺買わねえから」
やれやれと言った顔でその本を取り返し、再びラックにしまった。
うそ、お兄ちゃんが来てしまった。内緒で離れたことが見つかり焦ると、手をぎゅっと握られて顔を覗かれる。
「こら、ルカ。一人でどっか行っちゃ駄目だろ? いつどこでこういうおかしな不良に遭遇するか分からないんだから」
「うん、ごめんねお兄ちゃん。僕もうしないから」
ちゃんと謝ると「いいよ」と頭を撫でて、兄は許してくれた。
そしてくるりとお友達に向き直る。
「サミ、お前何やってんだよこんなとこで。そんなもん堂々と読むなよ恥ずかしい奴だな」
「うっせーな。お前こそ休日に弟と外出とか平和ボケしすぎじゃね? 17才男子なら街出てもっとガツガツしろよ、なあルカ」
僕はえ?え?という顔で二人を交互に見た。やっぱりこの人ーーサミさんの言うことはよく分からない。大人の専用言葉なのかな?
「おい待てよ、何お前ルカのこと呼び捨てにしてんだ。くんをつけろ、くんを」
「ああ? 寒いこと言ってんじゃねえ。俺たちもうダチになったんだって。んなの必要ねえだろ?」
ダチって、友達のことかなとピンとくる。
「えっと、はい。そうですっ」
「ばーか、仲間内で敬語とか使うな。もっとラフでいいんだよ。それともあれか、俺が怖いのかお前」
まっすぐ見られて僕はぶんぶん首を振る。ほんとはちょっと怖いけど、せっかくお兄ちゃんのお友だちの仲間に入れてもらえたんだから。
「怖くないよ、僕男の子だから。大丈夫だよ!」
すると「へっ。そーか。それならいいぜ」と認めてもらえた。なんだろう、なんか嬉しい。
兄と同い年なのに、全然違うタイプだけど、面白そうな人みたい。
兄はなぜかそんな僕たちを見て、「はっ?」という明らかにショック混じりの、唖然とした顔をしていた。
「そうだ、ダッジ。あいつも来てるから会ってけよ」
「……ええ? どこにいんだよ。俺たち今デート中なのに…」
「知らね。服買いに行くとか言ってたぜ」
あいつって誰だろう。もしかして、もう一人のお友だちの人かな。
ちょっとだけワクワクしながら、僕は二人についていった。
本屋を出て、空の光が差し込むアーケードの下に長椅子が並んでいる。
その中のひとつに、茶髪で優しそうな男の人が、携帯を手に足を組んで座っていた。
シャツを着てすらっとしてて、大人びて見える。
「おいエディス! お前なんで優雅に座ってんだよ、本屋の中つっただろーが」
「……えっ? そうだっけ。お前、本屋の前って言ってなかったか?」
立ち上がって「あ」と僕の兄の顔を見て手をあげたその人は、そのまま視線を下にいる僕にスライドさせた。
僕も慌てて「こんにちは」と頭を下げた。
「おっ、ルカくんじゃん。初めましてー。今日はダッジとお出掛け?」
「はいっ、そうです。初めましてエディスさん」
なんだか話しやすそうな人だなぁ。そう思い、さっきよりも余裕が出た僕は、笑顔で挨拶をした。するとエディスさんは、僕の目線になるようにしゃがんでにこりと笑った。
「かっわいいなぁ〜。敬語じゃなくていいよ。今何歳だっけ? 8才?」
「ええっ。違うよ、僕もう10才だよ」
「そっかそっか。ごめんねキュートすぎて間違えちゃった。あっ、ルカくん喉渇いてない? 近くに美味しいミルクシェイクのお店あるんだけど、お兄さんがごちそうしてあげようか」
「……ミルクシェイク?」
「うん。好き? じゃ行こっか、そこ何種類もあってねー、フルーツとかチョコとか、好きなの試していーよ」
「そうなの? すごぉい美味しそう…」
「ちょっと待て!!!」
突然まわりに兄の叫び声が響きわたる。
「なんだよダッジ。俺とルカくんのファーストデート邪魔すんなよ、いいとこだったのに」
「ふざけんなッ! 今俺とルカのデート中なんだよ、つうかな、ルカ、今完全に怪しい男にナンパされそうになってたぞ? こーいうチャラ男には絶対ついてっちゃダメ! 分かった!?」
すごい剣幕に反省した僕は「はあい。ごめんねお兄ちゃん」と言って兄にくっついた。
危ない危ない。
やっぱり大人の世界って分からないことだらけだなぁ。もっと気を付けないと。
「まあまあ、良い勉強になったじゃねえか。外の世界はもっと怖いっつーことだ。いつも兄貴にくっついてたら分かんねえぞ? なあルカ」
サミさんが帽子をいじりながら、悪い顔でにやにやしている。
「サミ、お前今すごい余計なこと言ってる。俺の弟たぶらかすのやめてくれるか」
兄がまた噛みついているけど、僕はずっと握ってくれている大きな手を握り返した。
「でも僕……まだお兄ちゃんと一緒がいいな…。大人の勉強もちゃんとするから。ねえいいでしょう?」
「いやしなくていいよ。こいつらの言うこと信じんな。ルカはまだまだ子供で大丈夫なんだから」
「お兄ちゃん……っ」
僕は兄の言葉に甘えて、嬉しくなってそばで見上げた。
「それはどうかなぁ。なあサミ、あの話、ルカくんも連れてこうぜ?」
「おー、アレか。いいねえ。あそこで俺たちが色々教えてやるとするか。兄貴の代わりに」
二人が勝手に喋り始めている。
なんの話だろう?って僕も聞き耳を立てた。
「皆でお出掛けするの? 僕も行っていいの?」
「おう。当たり前だろ。お前ももう俺たちの仲間だからな」
「そうそう。ダッジといるより、もっといい思いさせてあげるよ。ルカくん」
大人の笑みを浮かべる高校生二人に、またお兄ちゃんの叫び声が響き渡った。
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