▼ お兄ちゃんのが出ちゃってる
僕の兄は夏になると、お風呂の後に下着姿で出てくることがある。
母がいるときは注意されるからちゃんとTシャツも着てるけど、下は平気でトランクスのままだったりする。
僕はパンツだけだと恥ずかしいから、暑くてもきちんとズボンを履いているけど。
お兄ちゃんはあまり気にしてなくて、お家の中でも自由人だ。
でも、ある日困ったことが起きた。
リビングのソファで片膝だけ上げて座っていたお兄ちゃん。
トランクスの裾から、おちんちんが出ていた。
僕はびっくりして、何度も確かめた。でも、どう見ても、おちんちんの頭が見えちゃっている。それなのに兄はまったく気づいていない。
どうしよう。長いからといっても、これは、まずいんじゃないかな。
僕は小さいながらに、男同士はいいけど、いくら親子でも男女の間では隠したほうがいいんじゃないかと考えたのだ。
「あの、お兄ちゃん」
「ん? なに?」
暑そうに金髪をかき上げて、ぱたぱたと薄い雑誌で顔を扇いでいる。
僕は恐る恐る近づいて、ソファの隣に乗り上げた。耳の近くで内緒話の手を作る。
「あのね……おちんちんが……」
「……えっ。ちょ、ルカ。今やばいから。その話はあとで……、なっ?」
赤面して顔を緩ませ、僕の話を遮ろうとする。
あとでじゃ駄目なのに。もうすぐ台所にいるお母さんが帰ってきちゃう。
「でも、お兄ちゃんのもっと出ちゃうよ、早くしないと」
「え! 出ないよまだ、さすがに。……あー、まって、でもそういうこと言われるとヤバい。分かった、後でね、寝る前にしよ、ルカ」
一人で興奮して何ひそひそ喋ってるんだろう。僕が焦って説明しようとすると、後ろから母の影が現れた。
ああっどうしよう!
母がソファから回り込んできた瞬間、僕は体をくるっと後ろに向けて、兄の上にどすん!と腰を下ろした。
急に上に座られて、「うわ!」と兄の声が聞こえた。
「る、ルカ……?」
「今日僕の席ここ! いいお兄ちゃん?」
「え、うん。いいよ全然。なにそれ、可愛すぎる」
笑顔で両腕を回され、抱き抱えられる中、僕ははあーっと心の中でひと安心していた。
もうお兄ちゃんてば、僕のがんばり分かってるのかな。一生懸命隠してあげたのに。
「なあにあんた達、暑いのに仲いいね〜」
母がアイスの袋を開けながら、テレビの前を陣取っている。
今日はお気に入りの俳優の二時間ドラマスペシャルだから、近くで見たいのだという。
「そーだよ、いいだろ。なあ、ルカぁ」
「んあっ、暑いよもう〜べたべたしないでっ」
「ひどくねえ? お前がくっついてきたのに」
僕たちがぺちゃくちゃ喋っていても、母はすでに画面に夢中で聞いていなかった。
僕はまたくるり、と体を反転させて、兄に向き直る。
すると「えっ?」という赤い顔で見つめられた。
また二人とも小さく口を開く。
「どうしたのルカ、あとでって言っただろ?」
「もう、まだ気づいてないの。ここだよお兄ちゃん」
僕はいそいそとトランクスからはみ出た兄のおちんちんを仕舞ってあげた。
「……っく!」
びくんと兄が腰を反応させたけど、うまくおちんちんは元の場所に帰ってくれた。
あーよかった。
と思ったのに。お兄ちゃんは背を曲げてうずくまってしまった。
「どうしたの? 大丈夫?」
「いや……しまってくれたの……ありがとうって言いたいけど……もっと大変になった……」
「ええっ?」
ちょこっと触っただけなのに。まだ治療の時間じゃないのに、元気になってしまったことに僕は慌てふためいた。
「どうしようっ?」
「大丈夫、俺だってな、ルカより大人なんだから我慢出来るんだぞ。ほら、じっとして」
「……うん、分かった。……あれ、全然駄目だよお兄ちゃんっ、まだまだおっきいーー」
「しーっ! そんなすぐに無理だから、もう少し待て、あぁあやべ、動くなっ」
二人で押し合っていると、振り向いた母に「ちょっと聞こえないでしょ静かに!」と突っ込まれてしまい、僕たちは「ごめんなさい」と平謝りして汗をかいた。
「もう、怒られちゃったでしょ、お兄ちゃんの馬鹿っ」
「えっ。俺がバカなの? まあそうだけど……ルカのせいなのに…」
「なに?」
「なんでもない、ごめんね。怒んなよ」
甘い声を出してほっぺたをきゅっとつままれる。
「しょうがないなぁ。じゃあ僕が後でちゃんと見てあげるからね」
「……え、ほんと? お願いしますルカ先生!」
兄は急に目をキラキラさせて頷いた。
お医者さんごっこは内緒なのに、口が滑った兄のことを今度は僕が「しーっ」と静かにさせる。
はぁ。全然言うことを聞かないお兄ちゃんのおちんちん。僕はもっと目を光らせないとダメだなぁ。
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