愛すべきもの | ナノ


▼ 15 初めての続き ※

オルヴィの正体が同僚のハンターに知られてしまってから二週間が過ぎた。今日俺はいつものように森に仕事に出ているが、同伴相手は金髪坊主頭の横柄な男、ベックだ。

「で? チビの様子はどうなんだよ。ちゃんと飯食ってんのか、あいつやたらと小せえけどよ」
「ああ。最近は自炊してんだよ。問題ねえ。……つうか、やっぱり獣の姿で食わせたほうがいいのか、よく分からなくてな。栄養的に、とか。お前どう思う」
「はあ? 俺が知るかよ。ミハイルに聞けよ。あいつカエサゴなんだから詳しいだろ。……だが、あのチビが好んで人化してるんだっけか。お前相当なつかれてんなあ、カエサゴは信用した奴にしか獣人の姿見せねえらしいぜ」

隣に寝転がる奴から、鼻で笑う息が聞こえた。俺達は今茂みの裏で狙撃銃を構え敵を待っている。もうすぐ日が暮れる頃合いに、スコープから注意深く観察していた。

「そうだな、確かにオルヴィは俺になついている。……親のことは覚えてないらしいから、今は俺が親代わりみたいなもんなんだ」

そう口にして、心の中がざわついた。まるで森の中を抜ける冷たい風のように。
「親」を知らない自分が語るのもおかしいが、そもそも俺はその立場にふさわしい行いも出来ていない。

何も知らない同僚はその後もオルヴィのことを話題にした。いつもからかうような奴の態度はこれまで頻繁に苛立ちを覚えることもあったが、お節介な反面、面倒見はいい奴らしい。
それに保護したサゴであるオルヴィについて他人と話すことは、自分にとっても不思議と助かる思いがした。

「……おい、来たぞ」
「ああ、二人組だな。ふざけやがって、アホ面が。……クローデ、右は俺がやる」
「わかった」

銃を携え樹木の間を歩く男達に、狙いを定めた。まだ獲物は見つけていない様子だ。
パン、パンッと森林に高い銃声が響き、一斉に鳥達が羽ばたいた。男らのうめく声を聞き、俺とベックはそこへ向かった。

腕と足をそれぞれ負傷して押さえている密猟者達を発見する。一人はぐったりしていたが、もう一人がライフルを構えようとしたため俺はもう一発そこへ打ち込んだ。

「ぐうッーーくそっ、てめえら、保護団体のやつらか! 邪魔すんな偽善者め!」
「うるせえんだよ善良な動物をいじめんなこの鬼畜異常野郎が」
「はっ! 金持ち連中に需要があるからやってるだけだ、それに獣なんかほっといてもすぐ増えるんだ、駆除して何が悪い!」

ベックが喚く奴の頭を銃で殴り気を失わせた。二人で奴等の応急処置をして、手足を紐で縛る。すると後ろから人の気配がした。三人目がいたようだ。
銃を構え草むらから見えた体を狙うと、その男がふいに横に視線を移し、ひるんだように身をすくめる。その瞬間、肩に当たった俺の弾で奴は崩れ落ちた。

「うお! 危ねえ危ねえ、やるじゃねえか、クローデ」
「……いや、今何かが……」

二人でその地点へ向かうと、驚くべきものに目を見張る。一頭のかなり体のでかいカエサゴがいた。褐色の毛並みに気高く立った獣耳、顔立ちも凛々しく、背中に一本の太い黒線が伸びている。
俺はそいつに見覚えがあった。他の者達とは貫禄が異なる雄だ。

「またあんたか。密猟者を脅してくれたのか?」
「……いいや。君を追っていただけだ。偶然この男が出てきてな」

獣の口から紳士的な声が放たれ、隣のベックも驚いていた。普通はカエサゴはこうして自ら人間には近づいてこない。しかしこの雄は、何かと俺につきまとっていた。

「なあ、お前はカエサゴにモテるんだなあ、クローデ。こんなとこにもお友逹かよ」

余計なことを言うベックを一瞥するが、もうとっくに俺は感づかれているのだと気づいていた。オルヴィの存在に。

「ふふ……まだ友人ではない。その男の、返答しだいだ。……君はカエサゴと一緒にいるんだろう? それも、まだ小さいサゴと」

緑の瞳の鋭い視線で、俺達の間を四つ足で静かにうろつく。黙っていると、ベックがまた口を開いた。

「だったら何なんだ? おっさんに関係あるか、ああ? 何だあんた、ここらへんを牛耳ってる主か何かか、そのサゴに心当たりがあるわけじゃねえなら安易に首突っ込んでくんじゃねえっ」

腕を組み偉そうに見下ろしている。こいつのことはまだよく知らないが、ミハイルと俺との間で交わした約束を守ろうとしているのは分かった。だが、密かに頭を抱える。

「おい、ありがたいが喧嘩を売るのはやめろ。彼はたぶん、あいつを心配してくれてるんだろう」
「……ふむ。その通りだ。クローデ」

俺の名を口にし、彼はその場に大人しく座った。
そのカエサゴは名前をジオといった。別に主でもなんでもない壮年の雄で、俺の体にしみついてしまったオルヴィの匂いがやたらと気になっているらしかった。

「ーーつまり、こういう事情があってな、サゴを保護してるんだ。俺なりに大事に面倒を見ている。だからそっと見守っていてくれないか」

正直に経緯を話し、そう申し出るとジオはあることを提案してきた。なんと、オルヴィの写真を見せろというのだ。人間のそばできちんと生活できているのか確認したいようだった。

「写真だと? 面倒くせえおっさんだな。あんたその年ならミハイルのことは知ってんだろ? 俺達はあいつの知り合いのハンターなんだよ、だから心配はいらねんだって!」
「ほう。あの子の友人だったか。……それは失礼した。だがな、私も気になるのだ。普通は孤児が発生した場合、ハンターの君達は彼らを保護局へ連れていくだろう。……なに、私も責めているわけではない。密猟者達の目をかい潜り抜けながら、家族以外の若い者を新たに世話するのは苦労するからな。しかし……」

思慮深いカエサゴの話を聞いているうちに、俺もやがて軽いため息とともに頭を頷けた。

「分かった、元気な姿を見せればいいんだな。今度持ってくるよ。待ち合わせは……いいか。あんたならまた俺を見つけるだろう」
「ああ。それは助かるよ。礼を言おう、クローデ」

彼は狼のような牙を見せ、一瞬微笑んだように見えた。人間のように少し頭を下げ、視線を交えるとすぐに踵を返し姿を消した。

「おいマジでよかったのかよ。なんか怪しくねえか、あのカエサゴ」
「まあな。だが仕方ねえ。しつこそうだしな」
「……ったくよ。俺もミハイルに聞いといてやるよ、あのおっさん、なんか気になるからな」
「ああ。ありがとな、ベック」

珍しい同僚の親切を受け入れ、その場はひとまず収まった。俺達はその後センターへと捕らえた密猟者を運び、寮へと帰宅したのだった。



その夜は遅めの夕食を取ったあとも、オルヴィは元気だった。床に座りソファを背もたれにする俺の前に立ち、獣耳と尻尾を揺らしながら楽しそうに身ぶり手振りで喋っている。

「それでね、ミハイルのカエサゴの姿、僕今日初めて見たんだよ! 耳も尻尾も普通より短いらしいけど、体も筋肉あるのにすらっとしてて、格好よかったよ!」
「へえ。よかったな、オルヴィ。お前大興奮じゃねえか。他の仲間見たの初めてだもんな」
「うん、そうなんだ〜。やっぱり大人は全然違うね。僕もいつかあんな風になるのかなぁ」

緑色の瞳をきらめかせてしゃがみこみ、尋ねてくる奴の頭を触った。

「ああ。もっと格好よくなると思うぜ、今はちっちゃいが……ていうかお前、ミハイルが好きなんだな」
「うんっ好き!」

間髪入れずに無邪気なオルヴィが答える。俺は奴を引っ張って膝に乗せ、後ろから抱えた。「わあっ」と驚いたあと落ち着かない様子の獣耳を撫でる。

「どうしたの? クローデ」
「いや、なんでもねえ。……ん? 待てよ、お前どこであいつが獣化したの見たんだ? アパートか?」
「うん、ミハイルの部屋だよ。僕がお願いお願いって言っちゃったの」

振り向いて大人しく膝に乗っている少年をつい訝しげに睨んでしまう。

「あのな、勝手に他人の部屋に入るな、オルヴィ。お前は少し無警戒すぎだ。つうか、お前も獣化して見せてやったのか?」
「えっと、そうだよ。見せあいっこしたんだ、でもミハイルは僕達の友達だし、クローデも好きでしょう?」
「そりゃ、嫌いじゃねえけどよ……そういうことじゃなくてな」

話を聞いてるうちに何を自分は苛立っているのかと変に感じた。あいつはいい奴で、信頼の置ける男だということは分かる。なのになぜ俺はオルヴィを捕まえておきたくなるんだ。

「クローデ、もしかして……焼きもち?」
「……はっ? 何言ってんだお前、くだらねえ」
「そうなんだ、わあい! 僕知ってるよ、焼きもちのこと」

どうしてか奴は嬉しそうに跳ねて俺にまとわりついた。埒が明かなくなった俺は頭をぐしゃぐしゃ掻く。オルヴィはどんどん成長して新しい言葉をぶつけてくるため、油断が出来ない。

「あー、そうだよ。悪いか? お前は俺と……一緒なんだろ?」

向き合う体を抱えて、いたずらするように鼻をつまんだ。他にいい表現が見つからなかった。だが奴は頬を赤くしてこくっと頷いたため、俺は少し身を乗り出して唇を押しつけた。

離すと余計にオルヴィの顔が染まる。その様子を見ていると、止められなくなった。

「……んっ……クローデ……キス、気持ちいい……」

膝の上に乗せていた軽い体を抱えたまま、床に寝そべらせて覆い被さる。
角度を変えてゆっくり口づけてやると、手足を俺の体に巻きつけてきた。

こんなことをすべきじゃないことは知っていたが、触れたことのない愛らしい存在に接していると、そして自分にはふさわしくない愛情をその小さいものから感じ取っていると、それがもっと欲しくなった。

そうだ、俺はとっくにオルヴィが欲しくなっていた。

「あ、あぁ……そこ舐めるの、すきぃ」
「……そうか? ……じゃあ、ここはどうだ? なめてやろうか…?」

さらけ出た胸元から下へ行き、手のひらでペニスを包み込んだ。撫でながら声がするのを聞き、背を屈めて奴の太ももの間に顔を近づける。

「んっ……あぁぁ……だめ、だよぉ……舐めちゃだめえ」

口にすっぽり収まって余りある大きさのくせに、敏感に甘い声を漏らす。興奮した俺は丁寧な愛撫を続けた。
やがて奴は細く華奢な腰をびくびくっと動かし、達した。口に吐き出したものを眉をしかめながら飲み込むと、オルヴィが赤ら顔でゆっくり起き上がった。
  
「んあぁ……気持ちよかったぁ、クローデ……僕もする」

体を舐め合うのに抵抗がないのか、オルヴィはやや恥ずかしそうに俺の膝辺りにくっついてきた。俺は奴の茶髪を撫で、頬にも手を伸ばすと、ゆっくり下に誘導した。

下着をずらしそり立つ自身を見て、あどけない少年の顔立ちが色めく。
赤い舌を見せて先端を舐め始め、俺は小さく息を吐いた。

「んっ……う……は、あ……おっきい……」

オルヴィが発情の恍惚とした表情でくわえている。見よう見まねだが懸命にしゃぶろうとする姿に、罪の意識よりも昂りが勝った。

「オルヴィ、反対になれ。向こうをむいて……そうだ」

小さい口からペニスを抜いて、顔を俺の足のほうに向けさせた。奴の小尻が現れる。
尻尾を優しく触り、尻を大きく撫でた。びくん、と反応するがオルヴィは横顔を染めて、また口で続ける。

「ふ、ぅ…あ……あぁ、っんむ……恥ずかしいよ、クローデ…」

時々なまめかしく腰を揺らす様は、俺を誘っているように見えた。奴のことも気持ちよくしようと、股の下からペニスを包み揉む。  

「あっ、あぁっ……ふ、ぅ……えっちだよぉ、これ…っ」
「……ああ……けど、良いだろ? お前もまた濡れてるぞ、オルヴィ……」

わざと指摘すると奴は我慢できずに尻を振る。俺はもう片方の手を尻の割れ目に這わせ、真ん中を指でたどった。
淡いピンク色のそこはひくついていて、いやらしい。愛撫を欲しているのだと、口をつけた。
舌先を這わせてから吸い付くように舐めてやる。するとオルヴィが甲高い声で鳴いた。

「や、あぁ、そこ、あぁっ!」

構わずちゅくちゅくやっていると、なんと中が濡れて湿ってきた。カエサゴはここも刺激を受けると濡れるのか。
下半身が昂り疼く。オルヴィが俺のをくわえながら甘い声を連続して上げる。

ああ、挿れたい、こいつを全部、俺のものにしたくなった。

「クローデ、クローデ、交尾して、してえ」

横目をとろんとさせた獣耳の少年が尻尾を振り腰をくねらせる。
俺は体を起こし、奴の上に覆い被さった。蜜を垂らすせまい場所に、指をそっといれる。

「あ、あ、あぁ、もっと、くちゅくちゅしてっ」

せがまれて探るようにかきまぜるとオルヴィが激しく反応をする。発情期だからなのか、すんなり指を受け入れて快感を得ているようだ。
俺は冷静になれなかった。硬くいきり立った自身を華奢な腰に擦り付けた。そして濡れた場所にあてがう。

「オルヴィ……俺はお前を一生守ると誓ったのに、……お前が欲しい、欲しくなったんだ。それでもいいか……?」

背中を手でなぞって声をかけると、浅い呼吸でオルヴィが振り向く。

「クローデ…? 僕もクローデが欲しいよ。大好きだよ。だから……」

潤んだ瞳に誘われて、俺は奴を後ろから抱きしめた。手を手繰り寄せ、背に腹を密着させて腰を沈めた。入らないと思ったが、徐々に挿入していくと、オルヴィの柔らかい肉体は大人のペニスもなんとか飲み込んでいった。

「んっ、あ、あ……はっあ……!」

それから俺はオルヴィを出来る限り大切に抱いた。こうなることをどこかで望んでいて、求められることに慣れていなくて、本能で心で、この獣人の少年を求めてしまった。

「オルヴィ、ほら、交尾してるんだぞ。どうだ……? お前の好きなようにしてやる、何でも言えよ」
「う、んっ……クローデ、僕……」

ぴたりとくっつけて下半身を密着させ、せりあがる欲望とともに肌の温かさに安心する。オルヴィも同じように感じたのか、嬉しそうに微笑んだ。

「僕、気持ちいい……クローデが好き……ずっとこうしたかったの…っ」

手をぎゅっと握られて俺は奴の気持ちにより応えたくなった。
包み込んだ頬を向かせ口づけをする。舌を入れて絡ませ、深く二人の体を繋げた。

オルヴィをもう離したくなくなってしまう。俺はずっと一人で平気だったのに。
奴の体の奥深くに入り込んで、俺の心の奥深くに仕舞いこみたくなる。

「んあっ、いっ、いく、クローデ、イクっ」
「ああ、……いいか、出すぞ、オルヴィ……!」

ドクドクと流れていく感覚に開放感以上のものを感じた。くたりと体を曲げて背中で息をするオルヴィの上で、俺も脱力する。
果てたあとはさらに奴への愛おしさが増したが、せわしない呼吸をする合間に、俺は我に返った。

「クローデ……ん、あ」
「悪い、オルヴィ……」
「どうして…?」

急に不安そうな声がして、俺は下半身を離した。奴は体を起こし、俺に向き直ってすぐ、首に腕を回してきた。
裸の体はまだ同じように鼓動が脈打っている。俺はなんとも言えない感情になり、全身を抱きしめた。

「お前をこんなところで抱くつもりはなかった。ベッドの上のほうが、良かったよな」

散らかった居間を見渡し、申し訳なく思いながら尋ねると、オルヴィは屈託のない笑みを見せる。初めての交尾の後だというのに、奴は元気そうにぴんぴんしていた。

「ははっ。どこでもいいよ、場所なんて。ここは全部クローデの巣穴なんだから。ねっ?」
「……俺の? 俺達の、だろ」

頭を抱き寄せて頬にキスをすると、オルヴィは一瞬黙った。そしてもっと強い力で首に掴まってくる。

「……うんっ。……僕達のっ。……うう、僕嬉しい……!」

なぜか泣きそうな声がしたため心配した俺は、奴の顔を正面から覗いた。
緑の瞳が涙をこらえて俺をじっと見ている。頬を触るとだんだん柔らかい笑顔になり、ほっとした俺はもう一度唇を重ね合わせた。

その後、俺とオルヴィはようやく二人でベッドの中に入った。
腕の中に誰かを抱きしめたまま眠ったのは、初めてのことだった。



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