愛すべきもの | ナノ


▼ 13 発情 ※

クローデから「ずっと一緒にいたい」と言われた僕は、最近舞い上がっていた。
それって『家族』になってもいいってことだよね? だって家族は、いつも一緒にいるものなんだから。

「おい、オルヴィ。やっぱりやめるか? 怖かったらちゃんと言えよ」
「……うぅ……こわくない……」

僕は今日、初めてたくさん人がいるスーパーを訪れていた。寮から車で隣町まで連れて行ってもらい、しばらくクローデの服の袖に掴まって背後に隠れている。
楽しみにしていた外の世界だが、屋内はまぶしいほどに明るいし、人の声や騒音であふれていて、僕はびくびくしていた。

静かな森と全然違う。近くを早足で通りすぎる人達は、ハンターのように自然の匂いがせず、クローデ以外の様々な年の男女を見たのも初めてだった。

「じゃあ少しだけ、入ってみるか。嫌だったらすぐに出ればいい」

獣耳を隠したニット帽を触り、彼が見せる微笑みに僕は安心した。それに、彼の手が伸びてきて、なんと手を繋いでくれた。そのまま引かれておずおずと店内に入る。
今日は初めて尽くしだなぁと、こっそり僕は嬉しくなった。

「わあ! パンがいっぱいある、僕これ好きっ。お菓子も美味しそうだ〜これなんだろう?」

怖かったはずなのに甘いものコーナーを見つけると、僕は棚の列の間に座り込んでついはしゃいでしまった。服の下に隠れた尻尾も喜びで跳ねている。
すると近くに急に知らない気配が現れて、声が聞こえた。

「見てみて、ボクより大きなお兄ちゃんがおもちゃ欲しがってるよ。ねえお母さん〜ボクにも買ってよ〜」
「だーめ、一昨日買ったばかりでしょう、我慢しなさい」

人間の声に振り向くと母と子らしき二人の背中が並んで去っていくのが見えた。男の子は母親に手を繋がれている。

「ええ、僕、おもちゃが目当てじゃないのになぁ。……そんなに子供っぽかったかな」

へへ、と笑って立ち上がりそばにいたクローデを見上げた。僕は人間の出現にも最初よりかなり落ち着いていたのだが、彼は親子を目で追ったあと僕を気にしている様子にも見え、そのお菓子をかごに入れた。

「クローデ。それ買ってくれるの? 僕はお菓子が欲しかったんだけど…」
「じゃあおもちゃは俺がもらう。半分こしようぜ」

そう言って僕の肩を抱きよせ、買い物を続ける。大人でクールな彼にはちょっと似合わない気もしたけれど、ふいに見せる優しさに僕はまた表情がふわっと緩んでしまった。

最近料理を作ってくれるようになったクローデが、スーバーでは色々お肉や魚などの食材も買っていた。僕もその場の雰囲気に慣れてきて、だんだん楽しさも湧いてきた。自分がカエサゴという獣だということもバレていない。
なんだ、大丈夫そうかも。そうポジティブになっていた。

お金を払う場所でも新鮮でキョロキョロしていると、レジの女の人に話しかけられた。

「あれ、あんた。今日は子連れかい? 随分若くして父親だったんだねー」
「いや、違うよ。こいつはーー」

二人で袋に積めている最中、クローデが口ごもる。どうやら彼女は顔見知りだったようだ。とっさに僕は何か反応したくなり、勇気を出して話に入った。

「クローデはお父さんじゃなくて、年の離れたお兄さんなんです。僕にとっても優しくしてくれるから大好きな人です」

初めて敬語を使ったから緊張したけど、彼のことを紹介すると女性は目を丸くしたあと、わっはっはと声をあげ、「そうなんだ、堅物に見えるけどいい兄ちゃんなんだね」と笑って頷いていた。

初めて他人を笑わせたのも嬉しくなり、僕は最高の気分で店を後にしたが、クローデは若干恥ずかしそうに鼻を掻いていた。
外で荷物を車に積めているとき、さりげなく突っ込まれる。

「オルヴィ。俺はいつからお前の兄貴になったんだよ」
「ええと、ついさっきだよ。人間の前ではそのほうがいいかなぁと思って。……だめだった?」
「……いや、別にいいけどな。顔全然似てないだろ。……まあ親父よりマシか」

ため息まじりに呟くクローデを見てちょっとどきっとする。
確かに外見からすると僕らは共通点がない。彼は黒髪で目は青いし、背も体も大きくてがっしり鍛えられている立派な雄だ。
たいして僕は、茶色の獣耳がやっと彼の分厚い胸板にくるぐらいのチビだし、人化した時の顔も子供っぽい感じがする。

でも、クローデは口ではああ言ったけど、あんまり嫌がってなさそうだった。もしかして、僕の夢がまた一歩近づいたのかな。
なぜなら兄弟が大丈夫なら、家族になるチャンスがぐんと増すからだ。そんな風に考えたのだった。



それから僕は彼の寮にこっそり暮らしながら、時々夜の森林公園へ出掛けたり、近所のスーパーやお店に二人で行ったりと、人間の生活を楽しんでいた。
だがやはり、自分は小さくても獣なのだと実感する出来事が起きる。

夜にまた、じわっとする熱を感じ、この前と同じだと思ったのだが前より体がだるくなる。困った僕はクローデにもたれかかった。

「はぁ。ねえねえ、体が熱いよ。僕、病気なのかな」
「……大丈夫か? だが、熱はないんだよな。ちょっと待ってろ」

クローデは心配してすぐに体を調べてくれた。額や脇の下、口の中もチェックされるけど異常はないらしい。でも、僕は彼に触れられると意識してしまい、くすぐったがった。
それだけじゃなく、やはりまた下半身がもぞもぞっとしてしまった。

そんな様子に気づいたのか、クローデは何か考えた様子で自分の机に積み上げた本達から一冊の分厚い本を取り出した。真面目な顔で読んでいる彼を見上げていたが、僕はくたりと床に寝転び自然に丸まった。

「やっぱりそうか。でも……おかしいな。まだ先のはずだ。どうなってんだ…?」

ぶつぶつ言っていた彼は僕を心配げに見下ろし、抱き上げてベッドに運んでくれた。

「僕、おかしいの? 死んじゃうの? やだよ……」
「死ぬわけないだろ、俺がいる。大丈夫だ、オルヴィ」

そう力強く言って僕の肩をそっと擦ってくれるけれど、深い夜の瞳には迷いが映っていた。彼はしばらくしてあることを語った。

「あのな、どうやら発情期が来ているらしい。本当はあと数年後ぐらいの予定なんだが、個体差もあるんだろう。お前は、あどけない顔つきに見えて結構早熟なのかもな」

ふふ、と元気付けるように教えてくれるクローデに首をかしげる。話によれば、発情期とはカエサゴの成体になりつつある雄雌に訪れるもので、この前彼が話してくれたように、性器が元気で興奮しやすくなり、体が交尾への準備を着々と行っているということなのだ。

「そっかぁ。こんなにドキドキしちゃうんだね。つらいよ、クローデ」
「……ああ。そうだよな、オルヴィ……」

そばに寝転がり寄り添ってくれた彼の口元をちらっと見やった。なんだか、すごく魅力的に見える。クローデの口や太い首、男らしい喉仏……。
僕は興奮してしまっているのだろうか、目の前の雄の裸まで見たいと思ってしまった。

でも、それってなんか変だ。交尾は雄と雌がするものなのに。
僕はなぜクローデのことで頭がいっぱいになってるんだろう。

「ねえクローデ。雄と雄も交尾できる?」
「……えっ? 出来ないことはないが」

動揺する彼を見つめていた僕は、答えに一瞬明るくなる。出来るんだ。そんなこと知らなかった。

「すごい……! じゃあ僕、クローデと交尾したい。いい?」

腕を掴んで尋ねると、彼は額と目を隠すように手で覆ってしまった。脱力した肩が落ちてきて心配になる。

「あのな……いい?じゃねえよ。何するかも分かんないくせにな……」
「でも、でも、僕はクローデが好き。クローデも僕のこと、好き……でしょう?」

少しだけ緊張して尋ねると、僕をじっと見た彼は「ああ。好きだよ」と髪を撫でて言ってくれた。僕は飛び上がりたいほど嬉しくなる。
僕達は、両思いなんだ。こんなに素晴らしいことって、あるのかな?

夢見心地でいると、クローデは僕のほっぺたを指先で触る。びくっとしていると、それが腰に下りてきて、優しく撫でてくれた。そのままぺニスにも触れていく。

「あっ…あん……クローデ……っ」
「……今は、難しいことは考えるな。また俺が……してやるから。……な?」

静かな二人だけの暗闇に彼のぞわりとする低い声が響く。
彼の手はごつごつして強そうなのに、とても優しい。僕に気持ちのいいことばかりくれる。

初めて手伝ってもらったときから、そうだった。あれから僕は何回か、クローデにしてもらっていた。自分では難しかったのもあるけど、彼にかかれば僕はあっという間に達してしまうのだ。

「あ、あぅ、気持ちいいよぉ……ちんちん、出ちゃう…っ」

腰がすぐにしなって、達しそうになる。これは射精の前の反応で、「イク」っていうのだと教えてもらった。
でも僕は、今日はものすごい頑張ってイクのを我慢した。ある願いがあったのだ。

「はぁ…はぁ……クローデも一緒にしようよ、ねえ」

寝そべる僕の真上にいた彼は、びっくりしすぎて手の動きを止めた。予想通り「俺はいいから任せろって」と言われるけれど、僕は諦めずに行動に出た。
クローデの腰に足を絡ませて、本能的にこすりつける。

「……おいっ、お前な……!」

怒られるかと思ったけど、僕は体が熱くてたまらなくて、交尾がしたくてたまらなくなっていた。一度火がつくと止められないことも知って、ぺニスの先もどんどん濡れてくる。

「あ、んぁ、もっとくちゅくちゅして、触ってえ、クローデ」

口を半開きでお願いすると、彼はぐっと僕の体を覆うように抱き締めて、肩に頭を埋めた。ドキドキする。くっついた胸同士がうるさくなって、下半身も触れていてキツくなる。

「そんな風に誘うなって、言ってんだろ、オルヴィ……」

僕の名前を呼んだあと、彼は抱き締めたまま、ゆっくり腰を押し付けてきた。ベッドに擦られるようにズボン越しのぺニスの硬さを感じて、びびびっと何かが走る。

クローデも雄だから、興奮してくれているようだった。僕のとは比べ物にならないぐらい、力強い腰の動きが気持ちよくて、何かを深く入れたがってるような色っぽい動作にクラクラした。

「クローデ、クローデのぺニスも見たい、見せて」
「ああ、ちょっと、待ってろって、」

息を浅く切らす彼は僕を抱きしめて密着したまま片手で服をずり下げた。僕は暗闇でも目がきくからそのぺニスの存在感に瞳を瞬かせる。
おっきい……! やっぱりクローデはすごい、オスの中のオスなんだ……!

尊敬と感動が増した僕はその後、余計に興奮をおさえきれず逞しい体にしがみついた。彼の大きなぺニスに全然短い僕のものが押さえつけられる。

「ひ、ひぅっ、んあっ、あぁっ、やぁっ、んぁあっ」
「……くっ……っう、……っあ、……オルヴィ……ッ」

先が濡れたぺニスがこすり合い、刺激が広がりすぎて彼のことしか考えられなくなった。彼は興奮した目つきで一度起きあがり、長袖のシャツに首をくぐらせ脱ぐ。
隅々まで鍛えられた屈強な裸体が現れ、視線が根こそぎ奪われた。すぐに僕の体に覆い被さり、手が寝間着の下に入ってくる。

胸を撫でられて僕は甘い声を上げた。すると目の前の雄の瞳が色づくのが分かる。
クローデは僕の胸を撫でて、やがてそこにしゃぶりついた。温かい気持ちいい舌が舐めてきてもう下半身もとろとろになる。

僕今、大好きなクローデにおっぱいを舐められてるんだ。これってもう、交尾みたい。二人でぺニスをこすって、しかもーー。

「オルヴィ、もう、イクか?」
「ん、んぅ、い、いっちゃうよ、気持ちいい、クローデ…!」

ぎゅうっと背に腕を回して抱きつこうとしたら、彼の顔が迫ってきた。少し傾けて、突然唇が奪われる。
久しぶりのキスだ。すでにとろけていた体がさらに形を失っていく。

「ん、んん、っふ……ぁ……あーだめえ、きもち、いい……」
「……っ……ああ、……俺もいいぜ、お前の口ん中、すげえ甘い……」

気がつくと彼は僕の体の下に手を回し、腰をかかえながら熱い口づけをしていた。尻尾も触ってほしくなるほど細かく震えている。キスは初めて舌が入ってきて、唇も中も気持ちよく吸われてしまって、もう力が出なかった。

そして僕たちのぺニスはびくびくっとしなって達してしまった。僕は獣なのに子供だからか、腹にべっとりついた精液はほとんど彼のもので、やっぱり本物の雄なんだと圧倒された。

「クローデ……ねえ、クローデ。いっぱい出しちゃったよ。お風呂入ろうよ」
「…………は? 風呂……? 今そんなの、どうでもよくねえか……」

僕の上で鼓動を鳴らしたままのクローデが心配になり、揺さぶる。すると彼は体を起こし、ゆっくりと僕の隣に仰向けに寝転がった。
天井を見て呼吸をしている。自分も射精したあとは放心状態になることがあるし、おとなしく寄り添うことにする。

クローデは今の行為は、どう思ったのかな。僕と同じように、幸せな気持ちかな。
そう思いながら、いつも彼がしてくれてるように、ティッシュでお腹をきれいにした。すると彼はこらえきれず小さく笑う。

「……オルヴィ」
「なに?」
「こっちに来い」

呼ばれて喜ぶ尻尾を撫でられて、僕はひゃんっと背をすくませる。だがクローデは構わず僕を引き寄せ、顔を少し起こした。
またキスをされて数秒、目を閉じる。さっきとは違って、激しくないやつだ。

でも、これもすごく好き。僕は一瞬彼のものになったみたいに、幸福に包まれる。
それからも、僕達は一緒にお風呂に入るまで、何度か優しいキスを繰り返した。



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