愛すべきもの | ナノ


▼ 10 ばれる

あれから数日経っても、僕はまだクローデに体の異変のことを相談できてなかった。
どうしよう、と迷ってるうちにある日突然、彼のほうからこんなことを聞かれた。

「オルヴィ。お前、外に出たのか?」
「……えっ。ううん。どうして?」
「いや、……何でもない」

意味深に見据えられて僕は焦る。ああ、彼に面と向かって嘘をついてしまった。
命の恩人で僕の面倒まで見てくれている、優しいクローデに。

ショックに陥りながらもその場をやり過ごし、また他の日の夜がやって来る。今度は僕は、彼からある逃れられない証拠をつきつけられ、大ピンチになった。

「おい。これはなんだ? 押し入れに入ってたぞ。どこで手に入れたんだ」

休日に彼が手にし、見せてきたものに倒れそうになる。それは透明な袋に入った細々としたお菓子類だった。朝の短い会話のとき、全部ミハイルにもらったもので、僕は余ったやつを大切に全部溜めこんでいた。

「うう……。ごめんなさい、クローデ。僕、僕、嘘ついちゃった。本当は時々外に出てたんだ」
「それは知ってる。お前の靴の裏が少しずつ汚れてたからな。オルヴィ、俺は別に責めてない。誰からこれを貰ったと聞いてるんだ」

そうは言ってくれるけどハンターの彼の目敏さと低い声でじっと見られることに、僕は縮み上がった。もじもじしながら上目使いで見上げる。
内緒だって約束したけど、もう本当のことを言うしかないみたいだ。

「ミハイルだよ。朝のちょっとしたお喋りで、友達になったんだ。でも、僕のこと黙っててくれるし、色々カエサゴのこと教えてくれてただけなんだ」

弁解すると彼は一時目を見開いたものの、すぐに納得したようで頭を抱え、ため息をつく。僕の獣耳にクローデの大きな手がふわっと乗った。

「あいつか……お前、餌付けされてんじゃねえよ。……まあ、俺に言う資格はないけどな」

しゃがみこんでぼやくクローデの黒髪をまじまじと見る。
あれ?もう怒るの終わったのかな。もしかして、僕、許してもらえたのかな。

「クローデ。お仕置きはしない? 僕大丈夫?」
「あ? どこで覚えたそんな言葉」
「テレビ番組だよ」
「……ああ、そうか。……そんなことするかよ、お前に」

彼は気の抜けたように小さく笑い、また頭を触ってくる。僕は心の底からほっとし、気分がぱあっと明るくなった。

「はぁぁ。よかったぁ。……でも、クローデってすごいね、僕のことちゃんと見てるんだ。いつもクールなのになぁ。さすがハンターだね!」

単純すぎると思いながらも肩の荷がおり、元気が戻って彼にまとわりつく。
すると僕の体はがしっと動きを止められ、居間の床に座らせられた。しかもなんと、後ろからクローデに抱きかかえられる形で。
どきまぎするけれど、彼の顔は見えない。

「あのな。俺はこんなだが、お前のことは、心配している。分かりづらくて申し訳ないがな。……それに、もっと外に出たいだろうってことも分かってるんだ。だが、まだ少し時間がかかる」

丁寧に語りかけてくれるクローデの気持ちに、僕はめいっぱい感動する。後ろを振り向いて、彼の青い瞳を見上げた。
でもその時、ドクッと心臓が音を鳴らした。ーーそうだった。興奮して忘れていたけど、僕はまだ彼の近くにいちゃいけないんだった。

「……オルヴィ? 大丈夫か。……そうだ、今度買い物に行くか。あいつにもバレてねえなら、服を着込めば平気だろう」

励まされるように頬をつつかれる。嬉しくて、心がぎゅうっと暖かくなった。
やっぱり、僕はこんなに自分のことを考えてくれるクローデに、隠し事をしていたなんて、なんて馬鹿だったのだろう。
まっさきに何でも伝えていい存在なんだ、クローデは。

「うん! 買い物行きたいっ! 僕、クローデのこと大好き!」
「ふっ。単純なやつだな。じゃあ買いたいもの考えとけよ」

そう言って今日はやたらとハグしてくれる彼にお礼を言い、僕は改めて口を開いた。

「あのね。僕まだ言ってなかったことあるんだ、クローデに…」
「なんだよ。もう隠したりすんなよ、面倒くせえだろ」

僕を気遣う声音に甘えて、本題を切り出した。そう、僕のあの部分のことだ。

「あのね、ミハイルがクローデに聞いた方がいいっておすすめしてくれたんだけど。えっと……ちんちんのことなんだ。朝起きたら、少し大きくなってるでしょう? どうしたらいいの? クローデは何か知ってる?」

話してるうちに段々恥ずかしくなってきて、尻尾を無駄に自分でときながら尋ねた。
だがさっきまでわりと明るく会話していたクローデの表情が固まる。

「……ちんちん、だと?」
「うんっ」
「お前のちんこの話をミハイルに話したのか?」
「そうだよ。でも解決しなかったんだ。思春期だからよくあることだよって、優しく教えてくれたけど」

腕を組んで考える仕草をすると、クローデは目元をぴくぴくさせて眉を寄せた。
それから僕の肩に自分の額を乗せ、うなだれていた。なぜだかクローデをがっかりさせてしまったようで、僕は心配した。

「……オルヴィ。いいか。そういう話を親しくないやつに簡単にするな。誰も彼も信用しちゃ駄目なんだよ。お前が危ない目にあったらどうする?」

彼は顔を上げて、それはまだ怒ったような顔だったけど、根気よく僕に語りかけてくれた。僕はちゃんと話を聞いて、彼の心配を感じ取った。

「そっか……。わかったよ、クローデ。ミハイルはいい人だと思うけど、僕はまだ人間のこと分かってないもんね」

反省して彼の服の端を掴むと、片腕が回されて体ごとクローデの胸につつまれる。

「わ、わあ! ちょっと、どうしたのっ」
「お前こそどうしたんだ、また逃げてるぜ。ひょっとして、俺を嫌がったのは、ここの問題が気になったからか?」

ちょん、と彼の指に触れられて、僕は大きな声で反応をしてしまった。奥深くをのぞきこんでくるような彼の瞳に見つめられると、どんどん体が火照ってきた。



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