愛すべきもの | ナノ


▼ 9 悩み

「ねえ、見てみてクローデ、僕前より大きくなってない?」
「……ん? そうだな。重さも増してるか。成長したみたいだな、お前」

カエサゴの獣姿の僕を、クローデが両手で抱きかかえ持ち上げる。前は片手でひょいっとされていたため、自分の成長具合が嬉しくなった。

「……っく、おい! 急に人化するな、オルヴィっ」
「はは! ごめんね、でもびっくりした?」

まだ子供で元気一杯の僕は、普段涼しい顔の彼の焦った様子が面白くて、素っ裸のまま首に腕をまきつけ笑った。しっかり僕を横抱きしてくれていた彼は、目をそらして床に下ろす。

「ったく、風邪引くぞ。ほら、ストーブの近くに寄れ」

僕を毛布でくるみ一緒に熱源のそばに座る。冬が近づいてきたから、ぬくぬくして気持ちがいい。僕は獣のときはわりと寒さに強いけど、獣人のときは寒がりなのだ。

「っくしゅん!」
「大丈夫か? だから言っただろう」

完全な偶然だけど、くしゃみが出てしまい僕は少しラッキーだと思った。なぜならクローデがもっと近くに寄り添って、暖かくなるように抱きしめてくれたから。

けれど翌朝になると、僕の体に異変が起きた。こんなの、初めてのことだった。

「クローデ、僕、なんか体が熱い……」

同じベッドでむくりと起きて、着替え始めていた隣の彼に訴えた。すると途端に「え?」と心配げに見下ろされる。
クローデは僕のおでこを触って確かめた。そしてなぜか顔を寄せてきて、そこに数秒自分の唇を押し当てた。

「うわぁっ、何してるの」
「じっとしてろ、……熱はねえな」

青い瞳にまっすぐ見つめ直され、どきどきする。彼は僕にすぐ暖かい服を着させて、仕事の前なのに簡単なスープまで作ってくれた。朝食は彼は家では食べないし、僕はいつも適当にサンドイッチを作って食べている。

「ありがとう。どうしたの、そんなことして」
「おい、あんまり動き回るなよ。風邪かもしれないだろ、オルヴィ」

優しい声で台所に立っている長身の男を見て、僕はふふっと笑ってしまった。変なの。いつも優しいクローデだけど、こんなときはもっと優しくなるんだ。
なんだか不謹慎にも嬉しくなった僕は、おとなしく彼の言うことを聞いた。

その日はクローデが出かけるのを、居間の温かい場所から見送ったのだった。
そんな甲斐あってか、次の日には熱っぽさは和らいでいた。僕も彼も安心したが、代わりにとんでもない異変が体に現れる。

(なんだろう、これ……)

僕はクローデよりも先に目が覚めて、布団の中から出た。急いで別室に行き、パンツの下を確認する。僕のぺニスがなんと、おかしな形になっていた。
驚愕した僕は考えこんだけど、全く理由が分からず混乱した。

でも、あることが思い浮かぶ。そういえばクローデのぺニスも朝、なんとなく大きさが違ってることがなかったっけ?
うなりながら思い出すと、彼は寝起きの不機嫌そうな顔で、普通にそこを触り位置を直していたような気がする。

もしかして、僕にも同じことが起こったのでは。
ひとまず結論づけて、その日起床したクローデの股間をさりげなく確かめようとした。だが彼は早々朝のシャワーを浴びに行ってしまったのでよく分からなかった。

「オルヴィ。お前、もう熱は大丈夫か。寒くないか?」
「……うんっ、平気だよ。心配しないで、クローデ」

笑顔で言うものの、代わりに変なことが起きたとは言えなかった。
僕は最初は臆病だけど、すぐ裸になれるし動物だし、人間みたいな恥じらいとかはあまりないほうだと思っていた。けれどこのことは、なぜかクローデに言うのが恥ずかしかった。

「……どうした? なんで逃げる?」
「えっと、なんでもないよ。あ、仕事遅れちゃうよ」
「……変なやつだな。ほら、来いって」

玄関前でそわそわしていると、クローデの力強い腕に捕まってしまい息苦しさに悶えた。
おかしい。
最近彼にくっついていると胸騒ぎというか、鼓動が速まってきてしまい、僕は前みたいにじゃれつくことを控えていた。

クローデは不思議に思ったみたいで、僕ももっとくっつきたいけど、なんだか体がまた熱くなりそうで心配だった。キスなんてもっての外になってしまい、悲しくもなった。



「ミハイル、おはよう」
「おはよう、オルヴィ。今日はクッキーだよ。君の好きなバニラ味のやつ」
「わあ、ありがとう!」

そんな日々が続いても、僕は時々駐車場で知り合った寮長の金髪の青年と会っていた。獣耳は帽子で隠してるし、見た目も完全に人間に変装している。
でもまだクローデには言ってないし、どんどん秘密が増えていてどうしようとも思う。

「ーーそれでね、大人のカエサゴは見た目は結構荒々しいんだけど、性格は大半が温厚で、とても知的な種族なんだよ。人間への警戒心は当然最初は高いとはいえ、俺達ハンターに出くわしたときも、最近ではよく理解を示してくれて、円滑に会話をすることも出来るしね」
「へえ〜。そうなんだ。勉強になるなぁ。僕も他のカエサゴに会ってみたいな」

まだ子供のサゴだけど、一応本物のカエサゴである僕は、彼から為になる話を毎回教えてもらった。そんなミハイルのことを僕は心の中で密かにカエサゴ博士と呼んでいた。

もちろんクローデからも色々教えてもらうけれど、僕のほうが人間の彼に興味があり、人についてたくさん質問してしまうことが多かったのだ。

「ミハイル。そういえば、僕最近困ったことがあるんだ。君ならなんでも知ってるんじゃないかと思って…」
「なに? 教えてあげるよ」

優しく言われてほっとした僕は、朝の五分間のお喋りの中で短めに伝えた。

「あのね、僕起きたらぺニスがちょっとおかしいんだ。最近になって気づいたんだけど。大きくなってるというか。どうしたら治るんだろう?」

真面目に彼の緑の瞳を覗きこむと、彼は口につけていたコーヒー缶から盛大にコーヒーを吹き出した。
ごほごほ咳き込む彼を見て驚き心配し、背中をさする。

「そ、それは……ええと、思春期だからかな。男ならおかしなことじゃないよ。大丈夫」

彼はぼうっとした顔つきで考えこんでしまった。でも、きっと何でも知ってる博士だから答えをもらえるだろうと僕は待つ。
しかし結局、ミハイルはこう言った。

「ごめんね、オルヴィ。さすがに俺が説明するわけにはいかないかもしれない。バレたら彼に何されるか……。そうだ、このことはクローデに聞いてみるといいよ」
「ええっ。でも、彼にはちょっと、聞きづらいんだよ」
「どうして? 君は彼が好きなんだろう? 大丈夫だよ、きっと」

ミハイルに微笑まれて、そうかな…と首をひねる。確かに僕はクローデのことが大好きだし、一番信頼してる人だ。でもだからこそ、そんなことを打ち明けるのは勇気がいることだった。



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