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先生の前でオナニーをするなんて、そんなこと、出来っこない。
でも目の前の男は不埒な笑みを浮かべたまま、ただ待っている。
きっと俺を試してるんだ。怖じ気づいて言うことを聞かないと思ってる。
「無理だよ、先生……俺座ったままオナれない。いつもベッドで寝ながらしてるから」
顔が熱くなるのを感じながら、恥をしのんで伝える。
それは本当だった。でも先生はにやにやしたまま首を傾げ、信じてないようだ。
「ううん? そんな話聞いたことないな。よし、じゃあ先生が座ってオナニーの仕方を教えてやろう。こっち来い、田中」
ソファの下に腰を下ろし、俺を引っ張った。
居間の床の上で、俺は先生に後ろから抱き締められる形で座らせられた。
なんで、こんなに密着してるんだ。ベッドに誘えると思ったのに、目論見が外れてしまった。
「ここじゃ嫌だって、明るいし恥ずかしいだろ……」
「んな女の子みたいなこと言うなよ。男同士で恥ずかしいも何もないだろ? ん? ちんぽ出せよ早く」
また言った、女みたいだと。
カチンとくる。俺は男だし、間違ってもそんなふうに可愛く乱れたりなんかしない。
いつもより荒っぽい先生の言動には少し緊張する。
太ももの内側を撫でられるが、焦れったくあそこだけは触られない。
本当にしなきゃならないのか?
「先生、助けてよ。先生が触ってくれればいいじゃん」
「駄目だ。俺捕まっちゃうだろうが。お前が自分でやることに意味があるんだよ」
捕まる? 何を心配してるんだろう。俺は先生のこと、最初から誰かに言いつけるつもりはなかった。
そこまで嫌な奴じゃないし、これは単に二人だけの秘め事なのだ。
「ったく、お前結構頑固なんだな。いいよ、じゃあ俺がベッドまで運んでやるから」
先生はそう言って突然俺を抱いて立ち上がった。
体が浮きぐわん、と視界が高くなったことに仰天する。急いで暴れたが強固な腕の中には敵わなかった。
「ちょっ、何すんだよ! 下ろせ、ふざけんなッ」
「お前がぐたぐだしてるからだろう? 田中、お前はもっと決断力を身に付けろ。そんなんじゃ社会に出て通用しなーー」
「うっせえな! あんた頭おかしいぞ! もう下ろせってば!」
男にお姫様抱っこをされ、屈辱的な思いで沸騰しそうになる。
思ったよりも力持ちな先生は、こっちが叫んでも全く意に介すことなく、あっという間に廊下に出て俺の部屋を探し当てた。
大きめのベッドに下ろされ、近くの照明が灯る。
体を起こそうとした俺はすぐに上に覆い被さってきた先生に、制止された。
寝そべったまま向かい合い、唾をのみ込む。
「ほら、着いたぞ。見ててやるから始めろ」
笑顔を消して真剣な顔で命じられた。
俺が出来ないと思っているんだ。負けたくない。このまま引きたくなかった。
囲うように手をつく教師の前で、俺は自分のTシャツを胸のあたりまでたくしあげた。そうしないと飛ぶからだ。
一瞬目を見張らせた先生を捉えながら、部屋着の薄いズボンごと、下着をずらしていく。
ちんぽは硬いままで、なんで俺はこんな状況でまだ治まってないんだと、そんなことを考えた。
「……んっ……」
左手の指の腹でそっと握り、ゆっくり上下にしごく。摩擦でどんどん大きくなっていく感覚がする。
「せんせえ……見てる……?」
尋ねながら手の動きは止めない。こする度に、気持ち良くなっていく。
俺はいつもより興奮していた。誰かに見られながらなんて、初めてだったから。
「ああ……見てるよ」
ずっと俺の目しか見てないくせに、先生は嘘をついた。だが同じように、呼吸が上がっていくのが伝わる。
「なんかしてよ、先生」
「……駄目だよ、田中」
「どうして? 先生は俺に触りたくないの?」
向き合う瞳に動揺が走った。
ここまでやったんだ。先生をその気にさせたい。自分に屈服させたい。
俺はだんだん目的がすり変わっていた。
けれどやっばり先生のほうが一枚も二枚も上手で、また俺は窮地に陥ることになる。
「うん……まあ触りたいよ。お前、けっこう素直で…可愛いしな」
長い指がほっぺたに伸ばされた。認められると思っていなかった俺は、一瞬手が止まりそうになる。
耳慣れないことを言われてからかっているだけなのは分かっていたが、鼓動がぐんと速まった。
握っているものも、もっともっと硬くなってく。
「じゃあ少しだけ触って……首なめて……」
先生のパジャマの裾を掴んで伝えた。少しの間の後、突然先生が眉間に皺をよせて険しい顔を見せた。
うなった後に突然上の服を脱ぎ、筋肉質な上半身がさらされて目を奪われる。
「お前、大人をからかってるのか? 痛い目見ないと分からないのか。いい加減にしろ、このエロガキ」
やばい、どきどきする。あの温厚な先生が怖い顔で怒っている。俺が怒らせた。先生を変えたんだ。
もっと変わってほしくなる。はぐらかさないで、本気になってくれるかもしれない。
「……はぁ、…あぁっ、せん、先生……」
「んなだらしねえ顔でちんぽ擦って、お前変態だったんだ?」
「んっ、ち、ちがう」
「違わないだろ。なんだよこれは、先っぽよだれ垂らしてさ……濡らし過ぎだろ」
興奮して見下ろしてくる男の指で、ぴんっと弾かれ俺は思わず悲鳴をあげた。
「せんせ、見ないで、出ちゃう」
「さっきは見ろって言ったよな? お前のやらしいオナニー見てほしいんだろ?」
先生が俺の下着を全部剥ぎ取り、両足を開かせて間に入ってきた。
下を脱いでいない先生の布ごしに、大きくなったちんぽが俺の尻にぐいぐい押し付けられる。
ピストンしてるような動きをされて、中が疼くような感覚がした。
挿れたことなんてないのに、何かが欲しくてたまらなくなっていく。
「ん、ぁ、あ、あっあっ」
擦る手の動きも速くなる。イキたい、もう全部出してしまいたい。
溜まった精液を先生の目の前で吐き出して、俺のだけじゃなく、先生のちんぽも欲しい。
「おね、お願い、セックスして、先生」
「だーめだ、フリで我慢しろ。変態なお前にお仕置きだ」
「やだっ、や、あ、あ、ん、ぃ、く」
びくびく根本からしならせて、腰を大きく浮かせた。
何度も飛び散る白濁液に、上半身が濡れていく。
「ああ……っ……ん、あ……ぁ……」
俺は先生に掴まったまま、頭を後ろの枕にゆっくりと埋めた。
全身の力が抜けて息をつこうとする。いつのまにか汗ばんでいた。
「先生、もう終わり……?」
密着している先生のものはまだ硬い。
射精したばかりの俺は、なぜかいつもと違い物足りなさが生まれ始めていた。
「ああ。おしまいな。気持ちよかっただろ?」
「……なんで、俺だけして終わりかよ」
むっとして睨むと、頬を軽くつねられた。先生は近くのティッシュ箱に手を伸ばし、俺の体を綺麗に拭いてくれている。
服もきちんと直され呆気に取られていると、先生はにこりと笑みを浮かべた。
「俺が始めたらお前寝られなくなっちゃうぞ。気を使ってやってんだから感謝しろ、田中」
「……っ。じゃあやればいいだろ! なんでずっと無視すんだよ!」
「しつこい奴だな、じゃあ後ろ向けよ」
腹立つことにあくびをしながら俺の体を反対に向けさせた。
後ろから抱き締められる形になって、また訳が分からなくなる。
「ほら、一緒に寝てやるから。これでもう寂しくねえな? あ。俺眠り深いほうだから、お前動くなよ」
「……は? 寝んなよ、先生、……先生!」
振りほどこうとしても何気に力が強くて駄目だった。
俺は混乱した。
なんなんだ? 俺は一体何のためにオナったんだ。なんでまだ全然萎えてなくて、すっきりしないんだ。
先生だってずっと勃起してるくせに、どうして触ってくれねえんだよ!
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