反抗少年 | ナノ


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県立高校に勤続して6年。やんちゃだった自分の青春時代を省みて、悩める青少年達の将来を支える手助けがしたいと心に決め、今日まで数学教師として一生懸命働いてきた。

だがそんな俺の人生も、目をかけてきたクラスの男子生徒の家庭問題に首を突っ込んだことにより、完全に歯車が狂ったかもしれない。

「なあ先生、どう思う? このふしだらなおっさん達。よりによって同性とか、しかも親父の相手、俺のほうが年の近い若い男とかさ……色々ありえねえだろ!」

ヒートアップする生徒を横目で見た直後、前からじっと視線を感じた。
俺と同じくスーツを着込んだ男の何か言いたげな瞳に、「頼むから何も言うな」という念を必死に送る。しかし、その願いは速攻で破られた。

「向田? 向田だよな? うわ、凄い偶然だなぁ! 教師になったのは知ってたけど、お前、隆さんの息子さんの担任やってたのか!」

突然はしゃぎだした男に絡まれ、俺はずっしりと重い頭をうなだれた。
今の状況で、この男と知り合いだと絶対にバレたくなかったのだ。

案の定肩を並べる生徒、田中が怪訝な目つきを向ける。奴の仲間だと思われたのか眼差しに敵意がにじみ始めた。

「あ? 先生こいつと知り合いなのか。嘘だろ?」
「い、いや。嘘だよ。そんなの決まってるだろう。こいつ嘘ついてんだよ」
「酷いな、なぜ知らないフリするんだ向田。育太君、俺達は大学時代同じサークルに所属していて、いわゆる先輩と後輩の間柄なんだ」
「……へー。すげえ偶然だな。なんのサークルだよ」
「それは子供の君にははっきりとは教えられないが、まあ簡単に言えば同じ性的指向をもった者同士が夜な夜なーー」
「ヤメロッ!! ふざけんな先輩! 生徒の前だぞ!!」

怒り狂い机をドン!と叩いて立ち上がるが、三人の呆気に取られた視線が突き刺さる。
なぜだ。なぜこんな事になった。
俺はただ生徒の見舞いに来ただけなのに。

ぷるぷる震える俺に声をかけたのは、田中のお父さんだった。

「ま、まあまあ先生。落ち着いてください。……えっ。てことは、先生もそっち方面の方だったんですか?」

同志が見つかり自分の不利が軽減されるとでも思っているのか、どこか安堵したように尋ねてくる。

たとえ事実だとしても、保護者の前で認められると思うのか?
同性愛に寛容を示す運動が目立ってきた昨今においても、教師が同性愛者だと噂が立てば、よく思わない人間は山ほどいる。

この隣で容赦ない眼差しをぶつけてくる生徒のように。

「はっ? なに、先生も? じゃあこの四人のうち三人がゲイってこと? 俺だけ仲間外れかよ、もう俺のほうがおかしいみたいじゃねえか!」
「育太、発狂するな。大体お父さんはもともと女好きだ。だがこいつだけは特別でな、気づいたらそうなってたというかーー」
「うるせえ父ちゃんは黙ってろ!」

親子の修羅場を呆然と眺める俺に対し、元凶である先輩が焦り気味に止めに入ろうとする。
俺はそんなごたついた部屋の空気に、たまらず手を上げて制止した。

「……仕方がありません。確かに俺はゲイです。田中、黙っていて悪かった。……しかし自慢じゃないが、今の俺は不純な関係は一切絶っているし、教師という仕事に邁進しているんだ。何より大事な生徒達のことを考えて、毎日自分を律して生きているつもりだよ」

プライベートな話をする必要はないと思うが、教師とは日々の生活態度も尊敬されるものでなければならないと、個人的に考えていた。
正直いうと教師になる前はめちゃくちゃな生活を送っていたため、いかに今の自分が生まれ変わったのかを胸に、覚悟表明のごとく訴えかけた。

「お父さん、同じ同性愛者として言わせてもらいますが。もちろん人を愛することは素晴らしいことです。けれど田中はまだ高校二年生で、父親が若い男と致しているという事実は、思春期のうちに受け止めきれることではないでしょう。つまりあれですね、タイミングを完全に誤ったと思います。せめて成人後まで待てなかったんですか」
「……すみません先生、本当にその通りです。面目ない」
「隆さんを責めないでくれ、向田。俺の我が儘でこんな事態になってしまったんだ」
「ああ分かってるよ、ほんと相変わらず常識ないなあんたは」

先輩は海外生活が長かったため、感覚が一般の日本人とかなり異なっている。同性愛にはオープンだし、たとえ血の繋がりがなかろうと、相手の家族との関係を築こうする強い信念なんかを持っているのだろう。
立派なことだが、ふさわしいやり方というのは人それぞれ違うのだ。

不気味に黙っていた田中が、やがて強気な態度を示した。

「もういいよ、あんたらが好き勝手すんなら。俺も勝手にしていいんだよな」
「……どういう意味だ? 育太」

田中のお父さんが困惑した様子で聞き返す。
不敵に笑う生徒を見ると、なにやら非常に嫌な予感がした。

「じゃあ俺は先生と付き合うわ。いいよな、先生」
「……はっ? ……付き合うって、どこにだ? ああ、補習なら何時間でも見てやるぞ」

ははは、と焦りながら眼鏡を直すが、田中の目が笑っていない。
奴は俺の腕を強引に掴むと、自分の父親と交際相手に向かって、高らかにこう言い放った。

「俺がどんな奴と付き合おうが文句ないよな? こうでもしないと父ちゃん俺の気持ちなんか分からないだろ」
「……た、田中。急に何言い出すんだ。教師と生徒が付き合えるわけないだろう」
「そうか? 先生なら付き合ってくれるだろ? なあ、俺は口固いぜ」

言葉の裏に隠されている意味にすぐに気がつく。
こっ……このクソガキ、まさか親の前で俺を脅しているのか。学校に素性をバラされたくなければ、言うことを聞けとーー。

「ふざけるな育太、そんなことが許せるわけないだろう!」
「は? 別にいいだろ。俺前から先生のこと気になってたんだよなぁ、優しいし。つうか自分のこと棚に上げて人の交際に文句つけんなよ」
「ちょっ、田中、交際してないから。俺全然OKしてないから。お父さん、田中を止めてください」
「……お父さん? お前にそんな呼ばれ方をする筋合いはねえッ!」
「え、いやずっと呼んでたでしょう、勘違いしないでくださいよ」

似た者同士の親子なのか、興奮した田中のお父さんに「いいからもう出てってくれ!」と迫られ、俺は彼らの一軒家から追い出されてしまった。

玄関先で慌てて靴を履き、足をもつらせながら外へと飛び出る。

鞄をもち前屈みで呼吸しながら、ふと考える。
今のは、一体何だったんだろう。 
なぜ俺はゲイだとバラされた上に、生徒から告白をされたんだ。

いや、冷静になるんだ。単に怒りに身を任せ、田中の口が滑っただけに決まっている。
来週になれば、あいつもこんな馬鹿げた話、忘れているはずだ。

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