反抗少年 | ナノ


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今日に限って俺は、世界一不幸な息子だと思う。
何も高校二年生でありながらおたふく風邪にかかり、7日めの欠席を余儀なくされているからではない。それはもう治ってきた。

加えて幼い頃に母を亡くし刑事の父に育てられるも、仕事の忙しさからあまり会うことが出来ず、寂しい思いで過ごしてきたからでもない。家政婦の吉井さんのおかげで180センチになるまで成長だって出来た。

俺が今短い人生の中で最大の怒髪天を衝かれているのは、和室の畳の上でテーブルをはさみ、向き合う二人の男のせいだ。

「息子さん、お父さんをどうか、僕にください……! 必ずや一生をかけて、幸せにします!!」

整えた黒髪を机にぶつける勢いで頭を下げる男は、高そうなスーツをビシッと決めたイケメン青年だ。だが家に入ってきて数分後、突然告げられた言葉は完全に意味不明だった。

俺の真顔を見て焦ったのは、久しぶりに帰宅した40代の父親。正座をしたまま隣の男の肩をどつく。

「おい、やめろって、俺の息子が完全に引いてるだろうが! 今日は挨拶だけって話だったのによ、お前なんでいつも暴走すんだよ!」
「……だ、だって大切な隆さんのご家族には、俺達の関係を包み隠さず伝えたかったんだ!」

暑苦しい男二人が揉み合い始めた。意味が、マジで意味が分からない。
背中からぞわっとしたものが這い上がり、瞬きすら出来ずに凍りつく。

「ちょっと待てよ父ちゃん……本気でこの男と付き合ってんの? 冗談だろ。え、僕のお父さんホモなの? いつからホモだったの? 僕に隠してたの? ……ふざけんじゃねえよこの色ボケ中年!!」 

怒りに任せて立ち上がった俺は、気がつくと心の中の独白をぶちまけていた。
二人の男を見下ろしながら、早く質の悪いジョークだったのだと明かしてくれとひたすら祈る。
ついでに小学生以来流したことのない涙を目の奥で必死に堪えていた。

しかし父によって無情な宣告が下される。

「悪い、育太。これは……事実だ。父ちゃん、こいつと付き合ってんだよ……キモくてすまん、だが、本気なんだ……」

心が粉々に砕ける音がした。
それは見たことのない真剣な父の顔だった。
俺だってもう子供ではないが、知りたくもない父親の性的な部分を嫌悪することは、どうしても避けられなかった。

部屋の空気が張りつめる中、突然家のインターホーンが鳴り響いた。
俺はぐっと拳を握りしめ、奴等に背を向ける。

「まだ話は終わってねえ、そこを動くなよ変態ども」

釘を刺して和室のふすまを乱暴に開ける。すると目の前にはエプロン姿の老婦人が立っていた。

「あらあら、込み入ったお話の途中でごめんなさいねえ。育太さん、あなたにお客様ですよ」
「……俺? ありがとう、吉井さん。今行くよ」

呼びに来てくれた彼女に礼を告げ、玄関へと向かった。
頭の中は未だ沸々としていてそれどころではなかったが、一呼吸置きたい。

そう思ったものの、扉を開けた先にいた男の顔を見てびっくりする。
立っていたのは眼鏡をかけた俺より一回りほど年上の、学校の担任だった。

「おお、田中。元気そうでよかったよ。もうおたふくは治ったか?」
「……ああ、先生。なんとか。何の用すか」
「今日は溜まった課題届けに来たんだよ。……というか本当に元気か? すごく顔が赤いが」

心配そうに尋ねられ、そっぽを向いて頭を掻く。
この数学教師は普段から、その変わった家庭環境のせいか俺のことをよく気にしてくれている。

「今ちょっと、腹立たしいことが起きて……」
「なんだよ。話なら聞くぞ。今日はもう学校に戻らなくていいんだ」

嬉しそうにはにかむ気の良い優男に対し、俺はにやりと悪いことを思いついた。
そうだ、ちょうどいい。この男には何の落ち度もないが、少しだけ利用してやろう。

「先生。ちょっとついてきてくれませんか。俺一人じゃ解決できない問題があって……大人の意見を聞きたいんすよ」

一見驚いた様子の担任だったが快諾してくれ、和室に連れていった。


俺の目論見通り、一緒に部屋に戻ると、二人の男は大きく目を見開いた。
くく……自分でもいささか卑怯な手だとは思うが、こうでもしない限り気持ちの行き場がないのだ。

「さあ先生、隣に座ってください。実は今日久々に親父が帰ってきたんですけど、いきなり訳分からん男の恋人連れてきたんですよ。どう思いますか、思春期の男子に対してこの仕打ち。家に帰ってこない日は息子じゃなくてこの野郎優先して会ってたってことっすよね?」

幼稚なファザコン感は否めないが、腹の虫が治まらない。担任に全部バラしてひとまず鬱憤を晴らしてやる。そう思ったのだが、担任はなぜか固まった表情で、父の相手の男を凝視していた。

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