君といたい | ナノ


▼ 7

まさか自分が体を売る仕事を辞めるとは、思っていなかった。
あれからしばらく時が経ち、信じられないことに俺はほぼ毎日シーガの工房を訪れていた。

「はい。椅子用のスギ三枚と棚用のヒノキ二枚、運び終わったぞ。あと要るもんあるか?」
「ああ、ありがとう。大丈夫だよ。ーーザック、君は物覚えがよくて助かるよ。もうほとんどの材質覚えたんじゃないか?」
「まあな。ものの特徴とか見分けんの得意なんだ。金勘定もだけどな。職業病かもしんねえ」

加工用の材木に手を置きながら冗談めかして言うと、作業中のシーガが苦笑する。
……あ、また不用意な発言をしちまった。
もう堅気になったのだから、口には気を付けないといけないとは思ってたのだが。

製作中の飾り細工から一旦手を離したシーガは、体を起こし俺の近くにやって来た。

「ザック、この仕事…どうかな? 悪くない?」
「……えー、ああ。まあ結構いいと思うぜ。思ったより面白い」

何となく照れくさくなり視線を逸らして答えるが、奴が嬉しそうに笑ったことに気がついた。

俺がここでこうして一緒に働き出したことが、まだ非現実的なことのように感じる。
もう、日々好きでもない男の相手をしなくていいのだ。
仕事を辞めてから妙に安息を得たことには、自分でも驚きがあった。

「じゃあそろそろ家具の製作も始めてみようか。はじめは接ぎっていう、板同士を合わせてから磨く作業をやっていくんだけどーー」

職人の顔で話し始めたシーガに、俺は焦りの突っ込みをいれた。

「え? いやそれはちょっと早くねえか、俺お前のアシスタント的な役割するとばかり思ってたんだけど…」
「そうだね。それも勿論すごく助かるんだけど、俺達の店では一人一人、家具作りの全工程を仕上げていこうと思ってて。……大丈夫、時間はかかるけどザックならきっと出来ると思うよ」

肩に手を置かれて、優しいながらもすでに師匠の顔つきで告げられた。
正直プレッシャーがかかったのだが俺は反論も出来ず、控えめに頷くのだった。

ていうかいつ俺達の店になったんだ。こいつ気がはええよ。

奴の話によると、少なくとも修業に三年、それから職人として三年ほど働き、やっと形になってくるのだという。シーガは16から学び始めたらしいが、今ではすでに店を構え外国などにもオーダーメイド品を送ったりしている、れっきとした家具職人だ。

ど素人の自分が将来そんな風になれるのか、今は想像もつかないが……

一人で何かを作る作業は、きっと楽しいだろうと感じていた。そしていつも近くにシーガがいることも、慣れてきたせいもあるのかもしれないが、本音をいうと居心地がよかった。




工房で作業をし、終了間近の夕方になった頃。突然室内にブザーの音がけたたましく鳴り響いた。
この時間に誰か来たのか、そう思いながら作業をしていたシーガに俺が出ると告げ、地下から一階への階段を上っていった。

玄関扉を開けると、そこにはあのパワフルな老女である大家が立っていた。

「げっ! なんだよばあさん、俺なんも悪いことしてねえぞ」
「……あんたね、まずは愛想よく挨拶出来ないのかい。まったくシーガは何を教えてんだよ」

言いながら俺に向かって、大きめの風呂敷をいきなり押し付けてきた。
受け取ってすぐ目が点になる。

「ほらよ、差し入れだ。二人で食べな。仕事に没頭するのは良いことだが、ちゃんと栄養も取らないとね」

誰かの祖母らしい柔らかな顔つきを向けられ、俺は一瞬怯んでしまった。

「あ、あんた料理出来たのかよ。……つうかやっぱ孫には良いばあちゃんなんだな、見直したぜ。俺には一回もこんなのくれなかったじゃねえか」
「ああ? いつ訪ねてもいなかっただろうが! 余計なこと言わずに食っときゃいいんだよ。ったく、かなり多目に作ったからね!」
「ちょっ、はいはい、悪かったよ、ありがとありがと」

ばあさんを興奮させてしまい平謝りをし、焦って礼を言う。
俺も仕事が変わり心に余裕が生まれたのだろうか、人の優しさを前よりは素直に受け取れるようになったかもしれない。

「おばあさん、ご飯作ってくれたんですか。ありがとうございます」
「あらシーガ。なんだいお前、随分幸せそうなオーラまとってんじゃないか」

工房からやって来た奴が、突然背後から現れた。
なんとなく二人揃ってるところを見られると、あまり落ち着かない。

「はは。分かりますか? 正直幸せです。ザックと毎日一緒にいられるので」

ふぬけた笑顔を晒す年下の男の脇腹を、ぼすっと小突く。
何を言い出すんだこいつは。人前でも自分の気持ちをまるで隠さないシーガには、まだ慣れなかった。

「あーそうかいそうかい。孫が男相手にこんなになっちまって嘆かわしい…と言いたいとこだが、私の人生経験舐めないでおくれよ。二人で頑張って、好きにやんな。島でのことなら私がついてるからね」

珍しくウインクをする上機嫌なばあさんに、唖然とする俺だったが、笑みを浮かべて礼を述べるシーガにつられ、俺も一応頭を下げといた。

ああ、なんだか、流れる時間がゆっくりに感じる。
俺はここで暮らしてたように見えて、違ったんだな。これからまた、島での生活が一から始まるのだと身に沁みたのだった。






仕事を終えた俺達は和やかな歓談をしつつ、和食中心のご馳走を食べ終わった。

今日は金曜日だ。シーガは週末も一人作業をしていることが多いようだが、俺は土日の休みをきちんと貰えていた。

台所で弁当の重箱を洗い、片付けをしている奴の近くに立つ。
さりげなく腰に腕を回すと、シーガがびくりと反応して振り返った。

「……ザック?」 

驚いて何かを言い出しそうな唇を、そっと塞ぐ。
静かについばむようなキスをしてみた。

口を離して見つめ、出しっぱなしの水道を止める。赤くなったシーガは手を拭いて、また俺に向き直った。

「なんだよ。キスぐらいいいだろ?」

呆けている奴の頬をむにっと摘まみ、反応を求めた。
するとようやくシーガが顔を近づけてきて、口づけをする。息が少し上がっているのが分かり、ふっと奴に笑いかける。

「お前さ。俺のこと好きっていうわりに、なんで全然手出してこないの?」

からかうように尋ねると、奴はさらに赤面し、一瞬言葉を詰まらせた。

驚くべきことに俺がここで働きだして以来、俺たちはまだ数回しか寝ていない。奴の最初の変態的な振る舞いを考えると、てっきり見境なしに盛ってくるかと思ったのだが、予想が外れた。

「それは……あの、ほんとは毎日したいぐらい、だけど。これ以上君に溺れちゃったら、だめだと思って……」

意外な言葉に呆気にとられる。
ほう。俺も毎日はきつい。さすがまだ若いな。

「そうか。でも週一じゃ少ねーよ。付き合いたてならもっと我慢出来なくねえ? 普通」

背中に手を回し、目線を上にやる。
抱きついて誘っても、体を強張らせて中々乗ってこない。こいつは思ったより奥手なのか。

「……あー、もしかして違ったか、俺ら」
「違ってない、付き合ってるよ、俺とザック……!」

勢いよく首をふったかと思えば、目を輝かせて必死にうなずいてくる。
じゃあ何が問題なんだと、密かにほっとしていた俺は奴の耳に口を寄せた。

作業中に邪魔をしてはいけないのは、この俺でも分かる。
けどな。こいつのそばにいると、何故だか自分から言い寄りたくなる瞬間が生まれるんだ。

「セックスしたかったら言えってお前が言ったんだろ、シーガ……」

また舌を絡ませて腰をこすりつけた。

「あ……俺すぐ、勃っちゃうよ、ザック」

腰を震わせて拒むのかと思ったら、奴は広い腕の中で俺を抱きしめた。
がっしりと包まれ暖かさに安心した後、また悪戯心がわき起こる。

「ほんとだな、ここ……じゃあ口でしてやろうな?」

台所のシンクを背に、シーガを立たせた俺は目の前に膝をついた。
ズボンに仕舞われた奴のものを取り出し、その大きさに興奮が高まる。

フェラすんのは初めてだ。元々好きでもなんでもないのに、こいつのは可愛がってやりたいという気持ちが起こった。

「……ふ、ぅ……っん、む……」

舌でもどかしげに舐めた後、先っぽを口に含む。唾液を絡ませて大きなものをくわえ、口をすぼませて吸いついた。

「あ、ああ、ザック、ん、あっ、あ」

シンクにもたれて腰をわずかに動かすシーガをちらと見る。
視線を捕らえながら裏筋を舐めてやると、目元をさらに赤らめて喘いだ。

「あー、すげえ、ちんぽ可愛い、お前の」

手で撫でながらまたくわえる。口の中で生き物みたいにびくびくするのが段々愛おしくなってきた。俺もおかしくなってきたな。

「ザック、そんなにしたら、駄目だっ」
「なんで? また俺に入れたくなっちゃった?」
「……っ、う、うん、入れたいよ……もう、」

はあはあ言いながら快感と戦う年下の男に、目を奪われる。

「ダメ。週一だろ? 俺明日もしてえもん。実は土曜日楽しみにしてんだよな」

手でしごいてまた舐めたり愛撫を続けて言う。

「俺も、楽しみにしてるよ……じゃあ、週二にしない?」

おずおずと話す奴の変わり様にがくっと肩が落ちそうになる。だがわざとらしく考えた俺は、にやりと口角を上げた。

「いいぜ。お前がしたいって言うんなら……そうしよ」

笑みを見せてフェラを強める。するとシーガも我慢出来なくなったのか、いっそう声を出して息を浅くし始めた。

「んっ、んあ、もう、出るよ、ザック、君の口に、出して……ああぁッ!」

やらしく腰を揺らしたシーガの精液が、俺の口いっぱいに吐き出された。
突然でびっくりしたものの、俺は普通にそれで喉を潤した。

不思議だ。野郎のを飲んでも、まあいいかという気持ちになるとは。

「はあ、はあ、ザック」
「……お前溜めすぎじゃね? 毎日してんのか?」

何のムードもなくそう言い放つと、シーガは恥ずかしそうに俯いた。

「してる。毎日……」

立ち上がり口を拭った俺は、奴の頭に軽く触れる。
なんでか今、ガキだった頃の奴を一瞬思い出した。俺は変態か。

「へえ。そりゃ良かった。フツーの男子だな。でも抜きたくなったら俺にも言えよ、してやるから」

恥ずかしそうにしていたシーガだったが、いきなり俺の顎を取り、キスをしてきた。
唇を押し付け、舌を激しく絡めとってくる。

奴の興奮を受け止めること数十秒、やがて気が済んだのかゆっくりと解放された。
目を見つめられてやけに鼓動が鳴った。

「俺もザックのする。したいな」
「……んー、今度な」
「今は駄目…?」

俺より背のでかい体格の良い男が、あどけない表情で返事を待っている。
工房ではしっかりした職人の顔で、俺より大人に見えるぐらいなのに。

こういうタイプは、本当に知らない。初めてで、なんというか、不可思議な感覚に包まれる。

「……お前ほんと犬みたいな奴だな。俺犬好きだけどさ」

何気なく言った言葉にシーガが目を丸くした。

「い、犬? 好きなのは嬉しいけど……犬もこんなことするのかな?」

真面目な顔でとぼける相手に思わず吹き出す。
そういう話じゃねえよと突っ込みながら、気が抜けた俺は奴の胸に体を預けた。

訳が分からない様子のシーガだったが、とりあえず俺を優しく抱き締めてくれていた。

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