君といたい | ナノ


▼ 8 終

シーガの寝室は木目の床板にカントリー風の大きなベッドが置かれ、暖かみのある橙色のランプが灯っていた。

あの後俺は、奴の腕に引かれここへやって来た。
そして抱かれ続けること数時間ーーいつもより興奮状態だった男を余すことなく受け入れ、俺達は眠りについた。

……そして俺は、ひとりでこっそり起きた。
目が覚めたのは、まだ夜が更けた頃合いだ。

隣で背を丸めて寝ているシーガの黒髪を、とくように触る。
俺達は付き合っているのだとさっき確認したばかりなのだが。俺はやっぱりこいつのこと、結構好きなのかもしれないな。

柄にもなくそんなことを考えながら、体を起こした。
脱ぎ捨ててあった下着をはいて、ベッドから離れようとした時だった。

「……どこ行くの、ザック」

小さい寝起きのような声が後ろから聞こえた。振り向くと仰向けに体勢を変えたシーガが、俺に手を伸ばしてくる。

「あー、悪い起こして」

申し訳なく思い微笑みを向けると、奴はどこか心配そうな面持ちで俺を見つめる。
広い背中がシーツからのぞき、扇情的な男の姿だ。

「帰らないよね…?」

遠慮がちに問いかける声が響き、目を見開いた。
そういえばいつも土曜の夜を過ごした際は、俺は律儀に自宅へと帰っていたのだ。

出会った最初の日はやむ無く奴の家に泊まったのだが、仕事場である奴の家に入り浸ってしまうことは、よくないことだと考えていたフシがあった。

「ちげえよ、シャワー借りようと思ってさ」

奴の顔を見ていると、こちらが見透かされてしまう気になる。普段なら強気に「俺の勝手だろ」となるところだが、そんな言葉は出てこなかった。

シーガは起き上がった。あぐらをかいて、俺をまたベッドに引き寄せ、抱きついてくる。

「な、なんだ」
「ザックがいつも帰っちゃうの、俺寂しいよ。今日は泊まってほしいな」

色々と考えは巡るが、言葉に詰まった。

俺に甘えてくるなんて、やっぱりこいつはよく分からない。寝た男に引き留められるのは初めてじゃないが、なんとなく胸がきゅっとなるような気持ちは初めてだ。

「……分かったよ。帰んねえから。ほら、まだ起きなくていいから。寝てろって」

頭を触って伝えると、奴の瞳が揺れ動いた。そして何を思ったか、突然俺をベッドに押し倒してきた。
重みのある体重がのしかかり、腹がぐっと苦しくなる。

「おい、どーしたお前、急にっ」
「ザック……」

ああ、これはまた好きだって言われそうな顔だ。
この切なげな表情、だんだん覚えてきた。

俺は上に乗っているシーガのほっぺたに触れた。軽くキスをし、一呼吸おく。

「あのさ……俺お前のこと好きだよ。じゃなきゃ一緒にいねえから。そんだけ覚えとけ」

言い慣れてないためあまり抑揚のない台詞になってしまったが、何とか伝えた。
人に愛情を伝えるのとか、距離が近づきすぎるのとか、本当は苦手なのだ。でも今ぐらいは、歩み寄ろうと思った。

自分に真正面から向き合ってくれるこいつとの縁は、失いたくなかったからだ。

「……俺も好きだ、ザック、君のこと……!!」

奴はこっちが引くくらい表情を輝かせ、精一杯応えてくれた。
俺はすぐに顔を逸らす。

「分かってるから。じゃあちょっと退け。シャワー浴びたいの俺」

少し熱くなった顔を隠すように、俺は奴を退かせて起き上がった。
寂しそうに一緒に浴びる?とあり得ないことを言ってきた男をすぐさま拒否し、浴室へと向かう。

冗談言うな。気持ちを伝え合うことはしたが、俺は男と一緒に風呂に入る趣味などない。




寝室がある二階から一階へ向かう。
もう何回か借りたことのある浴室に入り、温かいお湯を出した。

髪を洗いながら、備え付けの鏡を見る。自分の白い肌に、淡い赤みがかった痕がついていた。

……またか。こんなガキみたいなもん、つけやがって。
こんなことを客にやられようものなら、二度と相手はしねえぞ。

心の中でぼそりと呟くものの、とくに文句を言うつもりも起きないのだから、俺も阿呆だ。

「はあ……」

ため息を吐いて、体を洗った。後ろに手を伸ばし、まだ違和感のある中を探り始める。
指を入れてみてゆっくりと掻き出した。

「んっ……く……」

中から少しずつ液がこぼれていく。
あいつは一緒に入ると言ったが、これがあるから絶対に嫌だ。
こんな姿、見られたくない。遊び慣れた俺にも羞恥はあるのかと、自分でも笑えるが。

しかし、予期していないことが起きた。
外の扉ががらりと開き、すりガラスの向こうに男の影が見えたのだ。

「ーーあ? お前、何入ってきてんだよっ」

俺の剣幕に、扉を開けたシーガが一瞬怯む。
だが奴はそばに来て、あろうことか俺の背中をその腕に収めた。ぎゅっと抱き締められ、半分パニクってしまう。

「な、に…!」
「そんなに慌てないで、ザック。……ごめん、今どうしても、君と一緒に居たくなって……」

そう言って頬にキスすると、顔を後ろに向けさせられて、唇も塞いでくる。
仕事中はのんきな顔して接してくるくせに、なんで今こんな風に迫ってくるんだ、この野郎は。

きつく舌を絡められると、自分でしていた行為を思いだし、余計に卑猥なものに感じられる。

「……お前結構、強引なとこあんだな。別にいいけどよ。……また元気になってるぜ?」

落ち着きを取り戻そうと、腰に当たった奴のものをからかうと、ぎらついた目で見返される。

「君のせいだよ…」

シーガは呟いて、しばらくキスを繰り返した。
熱いシャワーの湯煙が立つ中、俺はこの後の続きを夢想した。しょうがねえかーーそう思いつつ奴を受け止める。

しかし向き合った男の視線が、戸惑いに変わる。

「あの、……君にいっぱい出しちゃったから……」
「自分でやるからいーよ。お前は気にすんな」

平静を装って伝えるが、シーガはとんでもないことを言ってきた。

「俺がするよ、ザック」
「い、いいって。いつも自分でしてるから」

口走ったことにより、一瞬沈黙が流れた。やべえと思った俺は奴に目を合わせる。

「……あ、違うぞ。俺前は絶対ゴム使ってたから、勘違いすんなよ」

俺は何を弁解してるんだろう。格好悪い姿を見られてるようで決まりが悪くなる。

「俺には、使わなくていいの? ……どうして?」

その問いに内心頭を抱える、
いつか突っ込まれるだろうとは思っていた。そもそも俺が誘った初めの日以外は、真面目なこいつから示されたのに、俺は無視してきたのだ。

「わ……わかんねえ。そんなこと、聞くな…」

顔が熱くなる。裸になって間近で見下ろされていると、頭までぼうっとしてきて、いつもの冷静な自分が失われていく。

けれど沈黙に耐えられなくなった俺は、自分でも訳が分からず口を開いた。

「お前に、だ……出されたかった」

肩にシーガの顔が埋まる。抱き締めながら、耳に口が近づいて、息づかいに上半身が震えた。

「ここに……? 中に、出して欲しかったの?」

囁きながら耳と頬に口づけされて、一気に熱が膨張する。
尻に長い指が這わされ、真ん中を探ってくる。俺はこらえきれずに奴の背中に掴まった。

「そうだよ、お前ので満たしたくて、たまらなかったんだ。なあ、もう入れろよ」

目を見つめて懇願すると、浅い呼吸をするシーガに壁に押し付けられて、ゆっくりキスをされた。

片方の太ももを持ち上げられ、やらしい格好をさせられるが気にしてはいられない。
早く、早く奴のものが欲しがった。

「ザック、俺も君が欲しい。全部欲しくて、すぐに足りなくなる」

堰を切ったように云うとすぐに硬くなったものが入ってきて、胸をのけぞらせた。
濡れた中を前後に擦られる。中に出されたものが掻き回され、より大きな刺激を生んでいく。

「んっ、んあ、あぁ、っく、んうっ」

前から揺さぶられて、立ったまま挿入が繰り返される。卑猥な水音とともに声が止まらず、俺はきちんとした意識を手放しそうになっていた。

「ああっ、シーガ、だめだ、もういっちまう、イ、いく、イク……っ」

その瞬間、ぐっと抱き締められた。
同時に熱いものが中に注ぎ込まれ、また満たされたことを知る。

だらりと手を放して、俺は短く呼吸をするのが精一杯だった。
重なったままの肌から心臓の音がうるさいぐらいに伝わる。

行為を終えた後でも、奴の腕の中にいるのが心地いい。
すぐに逃げたくなる俺の習性が、影を潜める。

「ザック……好きだ……」

またぼうっとした顔で呟いて、しつこくキスをされる。
俺は奴の後ろ髪を撫でて、文句も言わずにただ受け入れる。

こいつと一緒にいたら、俺はたぶん、もっと変わってしまうだろう。
気持ちを隠すことがもう出来なくなってしまうかもしれない。

でもシーガはそんな俺を見て、きっと嬉しそうに笑って、喜ぶはずだ。
昔一瞬だけ会ったあのときの小さなガキを、今も笑顔に出来るのなら、それも悪くないのかもしれない。

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