短編集 | ナノ


▼ 悩める男クリニック

Dr.ゼベインルクス・クリニックには、泌尿器科を専門とする三人の男性医術師が勤務している。
院長として彼らをまとめ、医院にその名を冠する者こそが、この私ーーゼベイン・ルクスだ。

日々訪れる多くの悩める男たちの実に八割が、男性器に問題を抱えているか、あるいは問題があると思い込んでいる。

私はそんな人々を救うためーーいや、愛するペニスたちを自然な形へと導き癒すために、今日も診察を行うのだ。

「先生。患者さんを診察室Aに案内しました。よろしくお願いします」

診察を終えた患者に処方箋を渡している最中、礼儀正しい受け付けボーイのルイ君に、声をかけられる。
私は「分かりました」と頷き、男性に向き直った。

「ではお大事に。何か問題があればすぐに連絡を」
「は、はい。本当にありがとうございました、先生……! また絶対にここに来ます!」

医術師として来訪は望んでいないが、男性はよほど私の施術に満足したらしい。
心なしか顔を赤らめさせてお辞儀をし、去っていった。

さて、診察へと向かう。
医院は朝の八時から夜の六時まで開かれており、通常休みの土日を除き、メインの診察は私が行っている。

地域でも群を抜いた水準の高さと、独自治療が評判を呼んだのか、昼休みにあまり十分な時間が取れないほど、忙しい。

しかし生き甲斐ともいえる、個性豊かなペニスとの出会いの為ならば、その多忙さも己の使命と言えよう。

真っ白くモダンな造りをした廊下を歩くと、突き当たりに診察室Aがある。
分厚い扉は開かれており、書斎机の前に腰をかける男性の下半身がちらりと見えた。

落ち着かない様子で指を絡めたり、離したりしている。

「こんにちは、ヘルマンさん。Dr.ゼベインです。では、お脱ぎください」

診察の時間を十分に取りたいせっかちな私は、中に入り扉を閉めるとすぐ、男性にそう願い出た。
すでに提出された問診表によると、彼の年は35才、既婚者で職業は会社員。来院の理由は「男性器の痒みおよび匂い」だという。

「……えっ? もう脱ぐんですか」
「ええ、もちろんです。私の目にかかれば、物を言わぬペニスは一本たりともございません」

事実に基づく台詞を言い渡すと、男性は目を見開いた。そしてうろうろし始め、勝手に近くの寝台に上がろうとする。

私はそれを制止し、目の前でスーツのズボンを下ろすように伝えた。初診の患者には驚かれることも多いが、まずは立った状態での見極めが重要なのだ。

「わ、分かりました。少し恥ずかしいですが……同じ男ですからね」

そう自分を慰めた男性は後ろを向き、なにやらごそごそと準備をしている。
早く下ろせばいいのに……と思いつつも、初診であるから私も気長に待っていて差し上げる。

しかし彼の手元を注意深く見やると、不審な動きが認められた。
皮を指先で少しずつ剥く作業である。いわゆる見栄剥きというものを、この方は医術師の前で行われた。

涙ぐましい努力を貶めるつもりはないが、診察に当たっては少々困りものだ。

「ヘルマンさん、そのままの状態でお見せください。皮が被った状態というのは、けしてその全てが悪いというわけではありませんよ」
「……えっ、あ、はい。すみません先生。……いや僕は完全な包茎というわけじゃ……」

焦った様子で振り返った男性が、ネクタイをしたシャツを出した状態で、まだ恥ずかしそうに股間を両手で隠して振り向いた。

私は「では失礼しますね」と、やんわり手をどけて彼の男性器とようやく対面した。

ペニスは平常時が10pほど。やや細めだが勃起をすれば14〜15pほどだろうと想像が出来る、標準サイズであった。
彼が今必死に剥こうとしていたせいで亀頭は赤らみ、皮もまた亀頭の先まで隠すように、ゆるゆると元の位置まで戻っている。

「勃起をすると全て剥けますか?」
「はい、大丈夫です」
「では仮性包茎ですね」
「……そう、なんですが……あの、先生。僕の、匂いませんかね…?」

おずおずと申し出た患者に、私は椅子ごと近くに寄る。そうして男性器に鼻を近づけると、シャツをたくしあげていた彼の手が、びくりと震えた。

静寂の中、注意深く匂いをかぎとる。診察においては、嗅覚も重要な素質のひとつだ。

「ごくごく許容範囲だと申し上げます。もっと凄い匂いの方いらっしゃいますからね……気になるのですか?」

男性ははっきりと頷いた。どうやら最大の関心ごとはペニスの匂いらしい。
痒みも時おり起こるというが、湿疹や炎症は見られず、雑菌によるものではないかと推測する。

立ったままで大人しく会話をしている患者のペニスを、私は触診することにした。百戦錬磨の医術師ならば、見て触れば、大抵の問題は解決法が見つかる。

むぎゅっと根本を掴み、竿の表から裏筋まで、すみずみまで観察した。

「あッ……ちょ、せ、先生……一言言ってください、触る前に……ッ」

患者が腹をのけ反らせ、身悶えしている。
だが私にとってはペニスの声を聞くことが最重要であり、ここだけの話本体は二の次だ。

「……うん? ……陰茎に問題はございませんね。血腫や出来物もなし、色ツヤとても良いものをお持ちですな」
「ん、あ……くぅっ!」

感心していたのだが男性は急に身をかがめ、赤い顔で私を苦しそうに見つめた。

「おや。勃起してしまいましたかな? 恥ずかしがることはありません。私に触れられれば誰でもそうなってしまうものですよ」

優しく声をかけ寝台に寝るように促した。
納得した様子の男性だったが、気まずそうに横たわる。その後の触診を続ける間も、彼は勃起しっぱなしであった。

「元気ですねえ。自慰行為の頻度はいかがですか」
「……それは……もう毎日……でも匂いが気になって、妻を誘えないんですよ。匂うから洗ってちょうだいって、きつく言われてまして」

私はさすっていたペニスへの動きを止め、そばにあった椅子を引き近くに座った。
その話を聞き、ようやく患者の悩みに合点が行く。

「なるほど、そうでしたか。匂いというのは自分では分からぬものですし、奥様が人より敏感だという可能性もありますね。あまり気にしすぎる必要はないと思いますが……ヘルマンさんは、何か対策など?」
「はい。二日に一回は必ず風呂に入りますし、それとは別にちんこは毎日洗ってます。周りの男連中より、気を使ってるほうなんですけどね……」

真面目な顔で話してくれる患者だが、二日に一回とはやや不十分であろう。この地域は乾燥地帯で毎日入浴する者は少ないとはいえ、三十代半ばで活動的・精力的な男性のことだ。さぞや匂いはたまるはず。

他にも気になることがあった。

「しばらく入浴は毎日にしてみましょうか。そして出来るだけ湯船に浸かるように。私の見解を申しますと、ペニスに異常はございませんが、洗い方に問題がある気がします。……どれ、目の前で実際に見せては頂けませんか」
「……えっ!? 先生の前でって……どうやってですか」
「こちらです。ペニス専用洗浄場がありますので」

提案をすると、男性は目を白黒とさせた。

私の医院には、様々な設備がある。検査の質の高さはさることながら、どれもペニスを安心して迎え、労ることの出来る特別な空間だ。

初診の患者にとっては最もポピュラーな、自慢の入浴室へと彼をご案内した。

灰色の壁に白の蛍光灯が並ぶ、一見してガラス張りのシャワールームの様相だ。
二つあるうちの一つに患者を入れ、ペニスの洗浄を実践してもらうことにした。

「先生、上まで脱ぐんですか?」
「もちろんです。せっかくのスーツが濡れてしまいますよ。タオルとバスローブも用意してありますから、ご安心を」

男性は戸惑いつつも全裸になり、籠に服を入れると、シャワーのお湯をひねった。
私はそれを外から真剣な顔で眺める。彼は身長はやや高めで私と同じぐらいだが、体つきは優男風の外見からすると、意外にも逞しく鍛えられていた。

白い肌に、髪と同様の茶色の体毛。ペニスを包む陰毛は、男性らしく茂っている。

彼は自身を左手で持ち、また皮をするすると少しずつ剥いて見せた。石鹸の泡がついた右手でおざなりに竿をこすると、パパッとお湯をかける。

ものの五秒ほどの出来事に、私は目を剥いた。

「終わりましたけど……何か問題あったでしょうか?」

おずおずと尋ねる患者に、私は半分憤りを抑えてしっかりと頷いた。

「ヘルマンさん。問題は大有りでございます。そのような洗い方では、あなたのペニスが可哀想だ」

腕を組み辛辣に伝えると、彼はぎょっとした顔で怯んだ様子だった。

「いいですか、まず洗浄について説教をする前に、この剛毛。剃ってしまいましょうか。これほど茂っていますと、皮が巻き込みやすく、洗いにくいこともあるでしょう」

私は白衣を脱ぎ、自らのシャツの腕をまくった。
そしてシャワー室の扉を問答無用で開けようとすると、ガシッと焦った様子の男性に押さえられた。

「ちょ、ちょっと、待ってください先生! 何いきなり入ろうとしてるんですか、そ、剃るって……俺の下の毛のことですかっ?」
「ええ。その通りですよ。抵抗がございますか?」

医術師として真剣に見つめ合うと、彼の瞳が動揺にゆらめいた。しかしやがて覚悟を決めたのか、譲歩の声を頂けた。

「全部はちょっと……男らしくない気が……す、少しなら……」
「そうですか。分かりました、ヘルマンさん。今回は長さを整えるだけに致しましょう」

こちらも妥協をし提案すると、彼は安心したように頭を数回頷けた。

それから私は無事に彼と一緒にシャワー室へ入ることに成功し、背後から処理を行った。
患者には天井に備え付けられた、伸びるつり革の輪の部分に、掴まってもらう。

「せっ先生、このポーズ必要ですか? なんで後ろから抱きしめてくるんですか!」
「動かないでください。これは患者と同じ目線で行うべきことなのです」
「でも、濡れちゃってますよ先生っ」

彼の言う通り、私は足元やら膝やら、飛び跳ねたお湯により肩まで濡れていた。
しかし診察時にそんなことはたいした問題ではない。患者のペニスの為ならば、自身のことなどなんら気にはかからないのである。

腰を持ち、銀色のハサミで形を整えること数分、ようやく陰毛が短く刈り上がった。
素晴らしい見た目に自画自賛したくなる。患者も度々文句を言ってきたが、出来映えに納得してくれたようだった。

「はぁ……はぁ……泌尿器科ってこんなことまでするのか……もういいですか、先生」
「何を言っているのですか。洗浄はこれからですよ。さっきのように数秒で終了などと、言語道断です。ペニスを清潔に保つには、最低でも五分はかけないといけません」

そう言って彼自身の根本を持ち、皮を剥いて差し上げる。すると半勃ちだったものが、むくりと動き始めた。

「くっ……あっ……待っ」

彼が腹筋で息をしている。露になっている尻を私の下半身へと押しつけ始めた。
毛を整えている時は必死で我慢していたのか、勃起は見られなかったが、やはり直に触られることには弱いらしい。

「くそっ、また……違うんです、これは生理的なアレで……最近人から触られてませんでしたから……」
「はい。心配ご無用ですよ、ヘルマンさん。私はただ医術師として、ペニスの処置をしているだけですから」

とはいえ、接触によって男性器が膨らむ様子というのは、毎回のことながら微笑ましいものだ。
まるで二人だけの会話のやり取りのように、診察の醍醐味が感じられる瞬間でもある。

「今日は医院に来る前に入念に洗われたようですから、綺麗に見えますが。ここの、亀頭の溝にいつもは恥垢が溜まっているはずです。これを指先で丁寧に……こすってはいけませんよ、さするように……こうです」
「あっ、あんっ、んあぁっ」

実践して教えて差し上げると、男性は急に甲高い声を出し、腰を大きく跳ねさせた。
私は見て見ぬふりをし、洗浄を続ける。

陰部には弱アルカリ性やオーガニック素材の石鹸が適しているのだと説明するが、口のそばにあった彼の耳元は真っ赤にそまり、忙しなく喘ぎを漏らしていた。

「ひっ、ぐぅっ、せ、せんせい、どこ、触って……っ、な、なにやってんですか、ああっ、ちんこ、んあぁ、やば、ん、んんあぁぁっんッ」

泡のついた両手で皮と竿の間から、亀頭の先端まで丁寧にさすっていく。
男性らしからぬ喘ぎ声が少々大袈裟な気はしたが、私の洗い方がよほど気持ちいいのだろう。

患者のこのような姿はとくに珍しくはない。

「さあ、ヘルマンさん。綺麗になりましたが……ううむ、完全に勃起してしまっていますね。しかしながら、全長は16pほどですか。いやはや失礼、推計を見誤っておりましたかな。中々良いものをお持ちで」
「ひゃ、ひゃい……それほどでも……あの……もう、終わりですか、先生……」

手の動きを止め、勃起ペニスをまじまじと見下ろしている私に、なにやら物足りなさそうな顔をはあはあと半分後ろに向けてくる。

間近で彼の瞳を覗き込み、私はゆっくり首を横に振った。
正直に言うと彼の為ではなく、私の手の中でびくりびくりと反応している勃起ペニスを思ってである。

「苦しそうですねえ……もしやヘルマンさん、この洗浄だけではまだ不明な点がございますか」
「えっ……そんなことは……いや、やっぱり……そうですね、じゃあ……タマはどうやって洗えばいいんでしょう…?」

明らかに何かを期待している患者に、私は少々スッと冷めた気持ちになる。

睾丸? ……睾丸か。

ペニスの下にぶら下がったその生殖器には精巣があり、生命の源ともなる精子を生産する大切な場だ。
勿論すでに触診で確認は行っていたが、喜ばしいことに、彼の場合何も異常は見られなかった。

「タマ袋はですね、ヘルマンさん。優しくささっと洗えばよいのです。まあ簡単ですが……あなたは初診ですから、特別にそちらの方も私が実践して差し上げましょうか」

勃起ペニスを労るのと同時に、睾丸も丁寧に泡をつけて撫でる。手のひらに包みこむように揉むと、患者はさらに淫らな声を連発した。

「あーっ、ああッ、先生、だめです、それ一番、やばい、き、気持ちいいです…っ」
「そうですか。私はあなたを気持ちよくする為にやっている訳ではないのですが……まあ良いでしょう。勃起したペニスを放っておくことは出来ませんからね…」
「ひっ、ひあっ、せんせ、もう、出てしまいます、ん、んあっ、あぁあっ、んぁああっ!!」

両手で隙のない特別洗浄が功を奏したのか、彼は私の手のうちでペニスを大きく波打たせ、やがて先端から大量の白い液体をほとばしらせた。

よく飛ぶ、実に良い精液だ。
患者の精力の強さと、健康具合に感心する。

「あ……あぁ……すごい……出しちゃった……すみ、ません……せんせえ……」

遠い目で私の胸に背を預け、まだ腰をびくびくと震わせ、肩で息をしている。
私はその間に床にこぼれた男の勲章を、切なげな気持ちで洗い流して差し上げた。

「構いませんよ。あなたのペニスは発散したがっている様子でしたので、これも私の大事な診察のうちのひとつです」

笑みを見せて述べると、驚いた患者の瞳が一瞬ぎらりと光った気がした。

タオルを手渡しバスローブを着てもらい、体の疲労を考えて、少しの間そばにある長椅子へと座ってもらう。

「ヘルマンさん。洗浄の仕方は心得て頂けたでしょうか。適当に扱うのではなく、まさしくもう一人の自分として、大切にペニスを労ってあげてください」
「は、はい。よく分かりました先生」
「本当ですか? ではこれから一週間、あなたの成長を見守っていきたいと思いますので、毎日通院するように。無事に実践されているのを見届けたのち、診察は完了いたします」
「……えっ!?」

目の前に立ちカルテに記入する私に対し、大きく驚く彼の声が投げられる。

「毎日、ですか? それは嬉しーーい、いや、ちょっと困ります。仕事もありますし、……妻になんと言えばよいのか……毎日入浴して帰ってきたら、絶対怪しまれますよね…?」

途端に怯える様子の患者から、私は不安を取り除こうと微笑みかける。

「時間は融通がききますし、奥様へは私から電話をしておきましょう。なあに、心配は不要です。どの患者さまも私の治療方法に納得して、最終的にはとても満足して帰って頂いているのですよ」

私の方針として、一度知り合ったペニスとは納得の行くまで付き合うということがある。患者にその心得を伝えきったと判断するまでは、この私が心配で夜も眠れなくなってしまうからだ。

「……そ、そうですか? 先生が……そこまでおっしゃるなら……良いのかな」
「もちろんですよ。ではヘルマンさん、一緒に頑張っていきましょうね」

患者と堅い握手を結び、清々しい気持ちで医院を去られるのを見送る。


その後ヘルマンさんは約束通り毎日クリニックへと通い詰め、洗浄の仕方もみるみるうちに改善されていった。
指導が肌に合っていたのか、ペニスを洗う度に必ず勃起してしまい、射精も日課となってしまったのは唯一困ったことですと彼は笑っていた。

しかしながら勃起をすれば皮をめくる必要もなく洗浄もしやすかろうと、私は時おりタマ揉みを施しながら、彼を励まし奮い立たせた。

そうして彼はやがて、名残惜しそうな笑顔で、私のクリニックを卒業することが出来たのだった。

この出会いが一期一会であることを願いつつも、健やかな香りと健康的な輝きを放つペニスに対し、私は「またどこかで……」と声をかけずにはいられなかった。


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