短編集 | ナノ



大好きな双子の兄に部屋を出ていかれた


「おい、眞人。起きろ」
「……んん〜。あと五分。みー君…」

休日なのに朝に起こされ昨夜は夜通しゲームで疲れていた俺は唸った。しかし頭上から静かな圧力を感じ、うっすら目を開ける。そして不審に思った。

「あれ…? みー君? お前の荷物ないよ…。布団も片付いてるし。もう干してるのか?」

体を起こし幼少期から使っている二人部屋を見回す。机や寝具、棚などちょうど半分のスペースが空になっており呆然とした。

「いいや。布団も全て違う部屋に運んだよ。僕らももう高校二年生だ。というわけで僕は今日から、お前とは別の自室を持つことにする。今までありがとうな」

さらさら黒髪ヘアーに知的な眼鏡をかけた愛する双子の兄、深人(みひと)が優しく目を細め、非情な宣言をした。

何かが音を立てて崩れていく。信頼、愛情、絆ーー17年間二人で積み上げたものが、雪崩のように襲いかかる寂しさと悲しみで吹雪き、涙で前が霞んでいった。

「いやだよ!! なんでいきなりそんなこと言い出すんだみー君ッ! ひどいぞ、何があった、俺なんか悪いことした!? もしそうなら今すぐ直すから考え直してくれ! お前がいないと俺寝れないんだよ!! 寂しくてひもじくて死んだらどうすんだあッ!」
「……大袈裟な奴だな。お前は僕が電気をつけて勉強してても三秒で寝るだろう。毛布と枕があれば大丈夫だよ」
「そういう意味じゃなくてな、みー君がいるっていう安心感が失われるだろうがッ!」
「斜め前の部屋に移るだけだ。……ああ、こうやって錯乱すると思ったからギリギリまで言わなかったんだ。ごめんな、眞人。だが、僕ももう決めたことだ。分かってくれ」

聖人のごとく優しい深人の手が頭にそっと触れる。寝癖をいつものように直されたが、俺は素直に礼を言えなかった。
なぜだ。理由がどうしてもわからない。苦悩した俺は、ひとまず退いてその後も兄に注視した。


「さあ眞人。昼飯はお前の好きなジャージャー麺を作ってやったぞ。母さんも父さんもデートで出かけているらしい。今日は僕にしてほしいことがあったら特別に何でも聞いてやる。遠慮するなよ」

五秒先に産まれただけの双子の兄がこれでもかというほど先手を打ってくる。俺は食卓前で好物を見たあと、涙をこらえて深人に視線をやった。

「やけに優しいんだな、みー君。あれか、やっぱり罪悪感があるんだろ、俺を一人にすることに。なあ理由を教えてくれ。……あ、分かったぞ、出したあとのティッシュを俺達の部屋のゴミ箱にそのまま捨てたのを怒ってるのか? もう二度としないから! あとはなんだ、寝間着を何日も洗濯しないで着続けてるのが嫌だったか? ちゃんと着替えるよ、だから!」
「あのな、眞人。ティッシュも服も好きにしろ。もうお前一人の部屋なんだから。これからは誰にも小言を言われないんだ。素晴らしいことじゃないか?」

にこり、と笑まれた大好きなはずの深人の顔が悪魔に見えた。
酷すぎる。これがかつて幼い頃「みー君のパジャマのほうが格好いい!」とワガママ言った俺をあやし、一日ごとにパジャマを交換し合った心優しい双子の片割れの言う事か。

俺は、嫌われたのかもしれない。一卵性双子なのに楽観的で面倒くさがりの自分に対し、頭がよく綺麗好きでしっかりした知的ボーイのみー君に。
とうとう愛想を尽かされたのだ。悔やんでももう遅い。

しかし、納得できる理由を教えてもらわなければ、人生で唯一執着しているこいつのことを性格上諦められない。
なにより俺は一人になどなったことがなく、確実に生活と精神に異常を来すと恐れていた。



その週末は地獄だった。マジで深人は別の部屋で寝起きし、夜は俺がぎりぎりまでリビングに居ろと強いて聞いてくれたが、就寝時はあっさりと帰っていった。
まるで家庭内別居のような辛さ。その負の感情は学校にいるときも引きずった。

「深人! もう昼飯食ったーー」
「眞人くうん! もう、またお兄さんに会いにきたの。ブラコンなんだから。そんなとこも可愛いー。ねえねえ私達お菓子作ってきたの、よかったらーー」
「うおー! ありがとう、すげえうまそう! これみー君と一緒に食うね!」
「えっ、ええ? まあいいか。じゃあちゃんと二人で寄り添って食べてる写真送ってね、気になるから!」
「おう!」

いつものように廊下で待機している女子達を通り抜け、遠く離れたクラスの教室に昼休みにやって来た俺は、ガラの悪そうな友人の近くで本を開いている深人に向かっていく。

俺は場所を問わずいつでも双子の片割れのことを考えている。しかし成長するにつれ、あまりに自分と似た風貌の相手に言い寄られたら居心地が悪いんじゃないかと思い、差別化を計るため明るい髪色にし緩やかなウェーブもかけた。

すると高校からは一気に学校の女の子達にモテてしまい困ったが、俺が一番好きなのはみー君なので致し方ない。

「よ! 深人、もう飯食ったか?」
「ああ。もう終わったよ。遅かったな」
「くそ、俺も一緒に食いたかったのに。女子達に捕まっちゃったよ」

へらりと笑ってごまかし、「はいこれもらったよ」と先程のお菓子をプレゼントすると、深人は真面目な顔になり眼鏡をくいっと上げた。

「眞人。ああいう受け取り方は失礼だ。女子の気持ちも考えろ」
「へ? 聞こえてたの、みー君」
「お前の声がでかいからな。それと僕のことは学校では名前で呼べと言っただろう」
「う、うん。わかったよ。ごめんなみーく……深人」

なぜか機嫌のよろしくない説教モードの兄にドキドキしながらも謝っていると、突然後ろからケツにどすん!と膝蹴りをされた。

「ぐえっ」と情けないうめきを漏らし、すぐに怒りの形相で振り向く。すると俺達とは違いブレザーをだらしなく気崩している金髪男に凄まれた。またこの野郎か。

「……ってえな何すんだてめえッ! てめえな、みー君のこの高校の友人第一号だからって調子のってんじゃねえぞこの野郎!」
「別に乗ってませんけど? お前こそ女の視線根こそぎ奪ってんじゃねえこのブラコン兄狂いが! あ? やんのかコラ? いいのか? おめーのお兄ちゃんに見てないとこでキスすんぞ?」
「なっ……おまっ、そんな凶行妄想でも許すわけねえだろが!!」

掴みかかろうとした所を呆れた顔の深人に制止される。
またやっちまったと深く反省するが、にやにやするどう見ても不釣り合いな兄の友人には恨みが募る。

「まったく、毎回飽きない二人だな。君も、僕の弟に面白がって喧嘩を売るのはやめてくれ。こいつは素直で何事も一生懸命だから、本気にしてしまうんだ」
「わりいわりい、つい愉快でよ。でも深人、ぶっちゃけお前もムカつかねえか? 弟だけこんなに女にモテてよ、俺だったら一回締めとくわ」

へらへら笑いながらみー君を呼び捨てにし肩を抱く不良に憎悪が湧いたが、それは単純にも次の一言で浄化された。

「いいや。家でのおっちょこちょいな眞人を知ってるからな。ソースをよくシャツにこぼしたり、それを僕に洗濯してくれと申し訳なさそうに泣きついてくる弟だ。可愛いやつだと思わないか」

学校ではクールなのに、珍しく見せた朗らかな笑みに俺は瞬く間に昇天しそうになる。
人前でみー君に可愛いと言ってもらえた。これほど幸せなことがあるだろうか。

「おっしゃー! みー君のほうが百倍可愛いけど、俺も愛してるぞ!!」
「ふう。あまり話が通じないとこは困るんだがな。まあいい、ほら、今日も来てくれてありがとうな」

お駄賃代わりに好物のメロンパンを手渡してくれる優しいみー君。不良には「なんだこいつら」と引かれ俺達双子の絆は理解されなかったものの、俺はつかの間の幸福を感じていた。

そうだ。急に現実を思い出す。
こんなにも深人からの愛情を感じているというのに、じゃあなぜ部屋から出ていった?
学校が終わり帰宅すると、再び問題に頭を悩まされた。


それから数日間、悶々と一人で過ごすうちに考えを巡らせる。
もしかしてみー君、好きな女でも出来たんじゃ。それで俺が部屋にいると色々都合が悪いため、一人になりたいと思ったのかもしれない。

この間女子から貰ったものを受け取った時の反応も引っ掛かった。
深人は一見地味なタイプに見えるが、成績も良いし顔もいいし背もスポーツをやってる俺より五センチ低いが十分高い。
スタイルもすらっとしていて、何より老若男女に優しい。そして異様に柄の悪いやつにモテる。

それだけでも心配の種だったのに、女の影などができたら、俺はどうすればいいんだ。

「みー君。もう寝るのか」
「いや、まだだが。宿題をしてからな。お前はしたか?」
「まだだよ。それでさ、一緒にお風呂に入らないか」
「嫌に決まってるだろう。急にどうしたんだ」

普通に拒否されてダメージを負うが俺は引かなかった。
思えば中学一年のときに俺が二人のちんこを見比べてしまって以来、兄弟水入らずの付き合いはなくなった。自分のせいだから反省はしたが当時はかなり悲しみに暮れた。

「おい…? 眞人。そんなに落ち込むなよ。風呂は家族旅行のときに温泉入ったりするじゃないか。それまで待て」
「やだよ、なげえよ。それいつだよ。ーーみー君。じゃあ、キスはいいだろ?」

廊下で双子の兄に向かって後ろの壁に追いやり迫る。
顔をゆっくり近づけ傾けて、ちゅっと触れた。深人はまばたきもしないで顔を離したときも俺の瞳をまっすぐ見ていた。

「これはいいんだな。よかった…」
「……よくはないが、挨拶だからな」
「そうそう。寝る前と朝制服に着替えて部屋を出る前のな。最近は俺が寝坊して出来てなかったけどさ」

頭を掻いて笑うと、深人は眼鏡を直し軽い息を吐く。
これは昔からの習慣なため今さら変えることは出来ない。小さい頃はしょっちゅう俺からやっていたが、親に注意され、そのうち深人にも「人前でやるな」と言われ大人しく二人きりになった時だけにしていた。

「もうしなくていいよ」
「……え? どういう意味だよ」
「だから、なんの意味もないならしなくても同じだろうと言ってるんだ」

冷静な声音で告げられてカチンとくる。

「あのな、みー君おかしいぜ、好きだからやってるんだ、意味ありまくりに決まってんだろ!」
「そうか。だが僕は困るんだよ」
「……なんでそんな事言うんだ。もしかして、それが嫌で部屋を別にしようとか言い出したのか。そうなんだろ、好きな女が出来て綺麗な体に戻りたくなったんだろみー君!」
「なっ、ちがう、何を言ってるんだお前は、僕は綺麗なままだが」

俺は手を引っ張り、奴の自室へと初めて押し込んだ。
整理整頓されていて俺のぐっちゃりした部屋とは大違いだ。
そのベッドに押し倒し、凄んで見下ろした。

「誰だよ、吐け、深人。俺の知ってるやつか?」
「……勘違いだ。好きな女子などいない。それに、家で名前で呼ぶな…」

なぜか居心地が悪そうに赤くなった頬をぴんぴん指ではたくと、深人は小さい声をもらし過剰反応した。

「言わないともっとディープなキスするぞ。いいのかよ」
「……だからいないものはいないんだ。するなら勝手にしろ」

え?いいのか?
許可をされると逆にこっちの動きが止まる。
しかし深人の顔と体を眺めていると、自然に髪に触りたくなった。優しくかきあげて眼鏡を取る。

俺は遠慮なく口づけをした。初めて少しずつ唇を動かし、舌を差し入れる。くちゅくちゅ食んでいると柔らかさに悶絶し下半身を押し付けてしまった。

「ああ、やべえ、みー君、たっちゃった」

告白しながら口も止まらない。深人は俺の腰をもって受け入れていたが奴の腰も時おりビクリと震えた。
こんなことをしたらもう二度と部屋に戻ってきてくれないかもしれないと無理矢理冷静になり、息を切らして顔を上げる。

「安心しろ。僕も勃っている。お前と同じだ」
「…えっ? ほんと? あ、本当だ。初めて触った、みー君の硬くなったやつ」

柔らかいやつはすでに経験済みなため無邪気に話したのだが、呆れ顔を向けられた。

「どうしてそんなに嬉しそうなんだ。兄弟でこんな事態は、普通ではない。お前は何も思わないのか」
「なにもって……みー君と一緒に気持ちよくなったんだなって、すげえ喜んでるけど」

言葉にするとさらに興奮が募ってしまい、体と顔を寄せる。
またキスをすると今度は温もりが欲しくなり、深人に抱きついた。

「なあ、もうどうでもよくねえか? また一緒に寝ようぜ。お前がいなけりゃ俺無理なんだって。キスとか触るのが嫌なら我慢するから」

平然と嘘をついて双子の兄の首にすりすりし懇願した。
頭を抱かれて軽く撫でられる。

「嫌なんて言っていない。……部屋を出たのは、個人的な理由だ。お前にキスをされたりするうちに、こうして体に反応が出てしまった。だが、二人部屋だと抜くタイミングが分からなくてな。困った末にお前に切り出したというわけだ」

はあ、と白状した深人に、俺は目をがっちり開けたアホ面をしていた。普段はほぼ下ネタを言わないクールな深人が、そんな悩みを打ち明けてくれたとは。

「そうだったのか。つうか、みー君も、オナニーすんのか。やばっ……すげー興奮する……ああっ、勃つわこれ、くそっ」
「どれだけ変態なんだお前は。僕だって健康な17才男子だ。抜かないと体に異常をきたす」
「まあ、そりゃそうだよな。そんで、もう思う存分したのか? どうだった?」
「あのな……別に初めてなわけじゃない。お前みたいに自由奔放にはやってないさ、眞人」
「おいおい、俺だってちゃんとみー君に気を使って、いないときを見計らってなーー」

必死に弁解するが「僕が鉢合わせないように気をつけてたんだ」と釘をさされた。確かに一日二回はやってたから反省する。

「なあ深人。一緒にしよ?」
「……なっ! お前はどこまでバカなんだ、いくら大事な弟でも怒るぞ! ちょ、そこに触るな!」
「おお〜、反応がいいな。可愛いなぁ、みー君のちんぽ。あー愛しいぃ」

我慢できずにズボンをめくり、深人の勃起したものと対面する。向かい合わせに座り、自分のも取り出すと不思議と形がちがうことに気づいた。

「あれ? 俺のが若干大きいのは知ってたけど、特徴も結構ちげえな。先っぽとか、ほら」
「……あっ! そんなふうにいじるな、……やめろっ、眞人!」

亀頭を指の腹でぐるぐる撫でると敏感に反応し、眉を色っぽくひそめる。
興奮が増して手で竿全体を包み動かしてやる。すると深人は細かい息を吐き始め、クールな表情を少しずつ崩していった。

「んっ……あ、あ……だ、めだ……眞人、やめ…ろ」
「なんで? ちんぽ気持ちいいんだろ、ほら、先っぽぬるぬるだぞ」
「くっ、うっ」

このままイカせたくなったが俺のも触ってほしくなり、深人の手を股間にもっていった。非難の声があがったものの俺の手の動きにだんだんと反抗が緩まり、やがて一緒にシゴきはじめてくれた。

「ああ〜……最高。……みー君とオナニーしてる……気持ちいい、やべえ〜……」
「……く、静かにしろ、眞人」

下から欲求がせり上がってきてしまった俺は上半身裸になり、深人のシャツも脱がせた。自分は趣味で鍛えているがこの双子の兄も細身の筋肉質で実になまめかしい体躯をしている。

座った状態でもっと近くに行き、奴の両足を開かせて俺の膝の上に乗せさせた。
ちんぽ同士も近くてかなりエロい。

「う……いやだ、こんな格好は……」
「でもみー君すげえやらしいよ、興奮する。足開いて、もっとこっち来て」
「あっ…く、あぁっ」

このまま上に乗ってくれたら対面座位だなと妄想しながら、唇を重ねてこじ開けた。ちんぽを互いに擦ってるうちに体に火がついてしまい、一気に快感が放出されそうになった。

「い、いく、眞人、出る」
「俺も出そう、一緒にだそ、深人」

ぶるる、と先端を震わせてほとんど同時に果てた。
深人の顔面はまだとろけていた。
扇情的な姿に治まるはずもなく、完全に裸になった俺たちは深人のベッドの上に絡み合った。

「あぁ、もうやばいって、かわいすぎ。ほら見て、まだ柔らかくなんねえ、俺の」
「ま、まひと、重いからどけっ」
「なあ、だめ? セックスしよ。みー君に入れたい、アナルに突っ込んでめちゃくちゃ突きたい。中も気持ちよくしたいよ」
「だ、だめだ、セックスは、したら駄目だって、眞人…っ」

咎めてくる唇を塞ぎ、俺は体に吸いついてくる肌に愛撫を施した。舌先で首筋や胸をなめて、手のひらで優しく揉み、我慢できない腰をぐいぐい押し当てる。

双子の兄への想いが爆発し、今すぐに全てを手にしたい貪欲で性急な気持ちに駆られた。それからしばらく淫らな時間が経過する。

「あ、ああ…っぅ、く…っ……指、ぬ、抜い…っ」
「まって、みー君、……ここ、反応変わった、…良い?」
「んく、あぁぁ」

まさか一夜にして深いキスからこんなところまで来てしまうとは。
俺は深人の足をもちローションをそこに塗りたくっていた。
思ったよりもすんなり指を受け入れ、かなり柔軟な体をしている。

「お前、どうしてそんな風に、慣れてるんだ…お前こそ、付き合っている人間がいるんじゃないか…!」

しかし突然涙目で追求されて、唖然とした俺は手を止めた。

「心外だな、みー君。俺もお前も童貞だ、知ってるだろう。ただ知識が豊富なだけだよ。あと想像力」
「信じ、られるかっ……じゃあなんでこんなに…っ」
「気持ちいいかって? それは自分のせいじゃね? 真面目な顔して深人、すげええっちな体してんだもんなぁ。ほら、ここももう感じてるし」

くいくい押したり引いたりすると、深人のアナルがヒクつく。
暖かくてちんぽを気持ちよくしてくれそうな性器に導かれるように、十分に解したあと俺は硬く張りつめた自身をあてがった

徐々に挿入していくと深人の下半身が震え、小さく跳ねる。

「ああ、きっつ……だめだ、もう気持ちいい、腰動かせねえ…」

愛する者の中に入ったというだけで快感が何十倍にも増し、両手をついて必死にイカないようにする。
初めてだというのに深人は口を半分開いたまま、頬を染め上げたうっとり顔で胸で息をしていた。

「はやく、動け、眞人…」
「えっ……でも、いいのか?」
「わからん……だが、いま、すごく気持ちがいい……」

ぼうっとした顔つきでそんなことを明かされたら弟として動かないわけにはいかない。
俺は後先を考えず「わかったぜみー君!!」と俄然やる気をだし全力で腰を振った。

「んくっ、んう、ああっ、ひ、あっ、ま、まてっ」
「深人、あぁ! すげえ、やばい、きもち、いい、ぜえっ!」
「あ、あぁぁ、だめ、だめだ、い、ぃく、いく、まひとぉ」

ガクガク腰を掴み揺らしながら重なり合い中を前後に突きまくる。
奥にちんぽが当たり連続で打ちつけるとときゅうっと締めてきて余計に離れられなくなった。

「んっ、んん、またいく、イクっ、なんで、あぁ!」
「はっ、はっ、みー君、いって、いっぱいイッてね、ほら、突くぞ!」
「ん、ああぁっ!」

ぐちゅぐちゅと繋がるやらしい音が部屋中に響きベッドがきしむ音も構わず夢中で貪った。唇を奪い絡めあって背中を掴み抱き、ぴたりとくっついたまま俺達はひとつになった。

半分半分のものがさらに完全になるために。
これはそういう愛に満ち足りた交わりそのものだった。

「みー君、もう出したい、いい? 中に出しちゃうよっ?」
「だめだっ、外に出せ、馬鹿、おい、まひとっ」
「ぐっ、いやだ、絶対お前の中でいきたい、俺のもんだ、みー君は!!」

ぎゅうっと力いっぱい腕に包み込み下半身を最後の一搾りまで出しきる。どくどく流れ出るものを感じながらこれまで経験したことのない幸福と充足感に頭までいっぱいになった。

「はあ、はあ、ああぁ……深人ぉ……」

しばらくうつぶせだった顔を上げ、深人の頬をなぞる。
汗ばんだ兄の顔色はまだ淡く染まったままで、遠目な表情も柔らかく見えた。

「みー君。言うのが遅くなった。好きだ。好きで好きでしょうがない。だからこんなことしちゃったんだ。許してくれる?」

繋がったまま俺は汗のしたたる顔を下げた。
頭が優しく触れられ、兄の手に撫でられる。

「……いいよ。お前が僕のことを好きなのは、生まれた時から知っている。でも、僕が同じぐらいお前を好きなことは、まだ気づいていないのか?」
「……ほ、ほんとう? キスしても? セックスしても?」

だめ押しで尋ねると、深人はやや恥ずかしそうに頷いた。俺は「ああああやったぜー!!」と絶叫し「声を抑えろ」と咎められる。

「じゃあもうこれで、みー君俺の部屋に戻ってくるよな? また一緒に、もっとラブラブになっちゃうな?」
「いいや。部屋は別のままだ」
「はっ? なんで!? 今の流れでおかしくね? もう双子どころの仲じゃないんだぜ、俺達! なあ深人!」
「……それはそうだが、だからこそ、節度を保たないと駄目だ。眞人、お前はきっとセックスの味を覚えたら、またきっとそればかりになるだろう。僕はそれを危惧している」

真面目な顔で近くの眼鏡をまた装着し、色気を隠そうとする愛しい兄。

「そうかもしれないけど、何が悪いんだ? 大好きなみー君をいっぱい抱いて何が悪いっ? 俺本気でわかんねえよ!」
「僕の体力もだが、お前が新鮮味を無くして僕に飽きてしまったら、少し悲しい。だからだ」

冷静に意見する双子の兄は相変わらずなのだが、俺はそのしなくてもいい心配に胸がときめかされた。

「もう、みー君かわいすぎるぜ……なんで17年一緒にいて一度も飽きないお前に飽きるんだよ。あり得ねえ。むしろこれまで以上に愛をぶつけたらお前に引かれるかもって、俺はそっちのほうが心配だけどなぁ」

肩を抱き寄せてさっそくベタベタする。深人は小さく笑った。

「そうか……ならいいんだが。僕は、今さらお前に引くことなんてないよ。何でも受け入れる自信はあるから大丈夫だ。わずかな差だが、一応兄だしな」

みー君の緊張が和らいだかのように微笑まれて、俺はまた調子に乗りそうになった。

「ありがとう、みー君。そこまで言ってくれるなら俺も少しの間辛抱してみる」
「本当か? じゃあ、一人部屋でも頑張れるな」
「うん。その代わり、俺がみー君の部屋に遊びに行くね。それは自由だよな? とくに夜」

にやり、と笑えば深人の眼鏡がずり落ちる。
正直部屋の件はまだ全然諦めていないが、こちらから向かうのもそれはそれで趣が生まれて興奮する。

「眞人。やっぱりお前には、少し厳しくしたほうがいいかもな。今まで甘くしすぎたか」
「ええ! いや十分厳しいでしょ! 俺ほんとに一人寝つらいんだぞ、お前が思ってる以上になあ! それわかってる? ねえ!」

思い出してすがりつくと兄に頭をよしよしされた。
ああ。みー君を手に入れたという幸せすぎるご褒美を堪能しながら、しばらく俺も頑張るしかないみたいだ。



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