俺の呪いをといてくれ | ナノ


▼ 79 幼馴染との再会 -休暇編 1-

領内から西に数百キロ離れた森林地帯に、ソラサーグ地方でも有数の避暑地『ゼーレン』がある。
季節はまだ冬と春の中間で、朝夕はかなり冷え込むものの、多くの人でごった返す夏よりも静かに過ごすことができる。
聖騎士団の保養地があり団員や役員らが好んで滞在するこの街に、俺は弟とともに初めて降り立った。

しかし馬車などの交通を使ったりという旅の風情はなく、森の入り口までは、いつものようにエブラルの転移魔法で送ってもらった。

そして今、クレッドと二人仲良く、湖畔の別荘に徒歩で向かっている最中なのだがーー標高の高い山中にある上に、騎士団の性質上人気の少ない特殊結界を施した場所に建てられたらしく、想像以上にしんどい道のりだった。

「なあ、クレッド。あとどれぐらいで着く……? もうかれこれ三、四十分ほど結構険しい道歩いてんだけど」
「もうすぐだ、兄貴。もうちょっと頑張って。ほら、そっちの荷物も貸して」

ぜえぜえ息を吐く俺とは対象的に、涼しい顔で山道を登っていく弟。普段の堅苦しい制服姿でなくラフな格好をしているが、今日も奴の美麗っぷりは変わらない。

「でもお前、もうすでに俺の大荷物持ってくれてるだろ。重いだろそれ、本とか酒とかも入ってるし」
「俺は大丈夫だ。野営とかで慣れてるしな。それに、兄貴の体が潰れそうで心配だったから」

そう言いながら、ひょいっと俺のもう一つの荷物を持ってくれた。礼を言うと、にっこりと笑顔を向けられる。
優しいよなぁこいつ。俺はいつも甘えてばっかで駄目な奴だ。

「俺本当に体力ないよな。もう少し鍛えようかな、お前みたいに」
「絶対しないだろ、そんなこと。兄貴はそのままでいいよ」
「えっそう? ……まあ、しないけどさ。たぶん続かないし」
「兄貴が体力なくても、俺は有り余ってる。だから、いつでも俺が代わりに動いてあげるよ」

にやりと意味深な笑みで告げられ、急にどぎまぎしてきた。言葉通りの意味だよな、それ。
平静を装い、しばらく二人で喋りながら進んでいると、前方にやっとそれらしき建物が見えてきた。

「あ! クレッド、あれだろ? 良かったあ、やっと着いたな」
「……ああ。でもあの二人、もうすでに来てるみたいだな」

俺が喜びの声を上げる一方で、弟はどこか不本意そうな声色だった。なんか先に来てちゃまずいみたいな言い方だな。
若干怪しく思いながらも、俺達二人は建物に向かっていった。


近くで見ると、それは単なる別荘というより巨大な邸宅のようだった。白塗りの横に広い一階建てで、周りを綺麗な芝生が植えられた庭園に囲まれている。
門の外から様子を伺うと、全面ガラス張りの居間らしき部屋に照明が点いており、中に人影が見えた。

俺達は顔を見合わせ、玄関へと足を踏み入れた。別荘の中は四人と言わず十人でも余裕そうな、だだっ広い住空間だ。

居間へ向かうとそこには予想通り幼馴染の姿があった。でも何故かカナン一人だ。回復師の装束ではなくパンツ姿の軽装で、ソファの上で伸び伸びと寛いでいる。
奴は俺達を見るなり驚いた顔で飛び起きた。

「あ、お兄ちゃん達! 遅いじゃん〜俺達もうとっくに着いてたよ」
「えっまじで? つうかキシュアはどこだ?」
「兄貴なら家の中うろついてるよ。ねえねえ、この別荘超豪華なんだけど。クレッド、お前いつもこんなとこで優雅に過ごしてたのかよ」

カナンがじっとりとした目を向けると、クレッドが一瞬視線をそらした。

「いや、違う。普段はもっと森の奥深い場所だ。ここはすぐ裏から湖が望めて、眺めが良いんだ」
「あ、確かに! ここの湖、透明ですごい綺麗だぞ。でもよくこんな邸宅押さえられたなぁ。やるじゃんお前、完全に団長の権限使っただろ」

突っ込みと共に感心するカナンを無視して、弟が俺に向き直り微笑みを浮かべた。確かにこの豪邸は団長はともかく、俺みたいな新人が泊まれるとこではない気がする。

「兄貴、この別荘には部屋がたくさんあるんだ。一緒に選びに行こう」
「へ? ……一緒に選ぶの?」

何故かその言い方にドキドキしながら、俺は弟に連れられ、家の中の探索を始めた。
端から端までかなり広く、歩いているだけでも距離がある。近代的な内装で、落ち着いた統一色の家具や装飾品も、洗練された場の雰囲気によく馴染んでいる。

部屋を一つずつ開けて二人で確認していく。室内はどれも広いが個性的で、不思議と同じ内装のものは無かった。しかも全室浴室つきだ。なんて贅沢なんだろう。

「なんか全部凄くて、俺選べないんだけど。お前はどの部屋にするんだ? ……ち、近くの部屋にする?」

ある一室に入り、窓から湖面を見ていた俺は、照れながら後ろにいる弟に質問した。振り返ると同時に奴の腕に抱きしめられ、服にぼすっと顔を埋めてしまう。
お、おい外から丸見えだぞ、誰かが見てたらどうすんだ。

「ちょ、なんだよクレッド」
「俺、本当は兄貴と一緒の部屋が良いな……」
「へ? お、お前、さすがにそれは無理に決まってるだろ。皆いるんだぞ」
「……しょうがないな。じゃあ兄貴、俺についてきて。見せたい場所があるんだ」

体を少し離して、無念さが滲む真面目な顔で告げられ、俺は弟の後を追って部屋を出た。そのまま長い廊下を歩いていると、突き当りにどこか趣の異なる重厚な木の扉が見えた。
この部屋だけ特に離れた場所にあり、なんか特別感を感じる。

「ここだよ。俺、この部屋は絶対兄貴が気に入ると思ってたんだ。なんでかって言うと、天井に天窓が付いていて、夜にはベッドの上から満点の星空がーー」

弟が可愛らしく説明しながら扉を開けようとする。こいつって結構ロマンチストっぽいんだよな。騎士だからかな? 意外とそういう所が自分と正反対だ。

俺もわくわくする気持ちを胸に後に続いた。しかしそこには、思わぬ先客がいた。
しかもあろうことか、目に入ってきた二つの大きなベッドのうちの片方で、すでに体を放り出し寛いでいた。

「なっ、お前、何やってんだここで」
「……あ? ……おおっ、セラウェ! やっと着いたのかよ。クレッドも、久しぶりだなあ。お前ら元気だった?」

飄々としながらベッドから立ち上がった男は、シヴァリエ家の三男で画家のキシュアだった。俺の物心ついた時からの親友でもある。
芸術家のわりに体格が良く身長もあって、褐色の髪と灰色の瞳は、常にどこか奴特有の色気を漂わせていた。

「なあ、ここの別荘凄い豪華だよな。お前の騎士団凄いな、クレッド。ていうか俺、この部屋気に入ったんだけど。見てみて、大きな天窓ついてんだよ」

天井を指差して上機嫌で述べる親友を見て、なんか嫌な予感がした。隣に立っている弟にちらっと視線を移すと、無表情ながら苛ついているのが見て取れる。

「キシュア、ここは駄目だぞ。兄貴の部屋だから」
「は? なんで決まってんだそんなの。俺が先に見つけたんだぞ。今日俺ここで寝たいなあ。駄目? セラウェ」

じろじろとクレッドを見つめながら、楽しそうに俺に声をかけてくる。

「え、なんだよそれ。俺もこの部屋がいい。俺の弟のお勧めなんだぞ。なあ、クレッド」

対抗心を燃やして負けじと述べると、弟は嬉しそうな顔でしっかりと頷いた。だがこの答えが予期せぬ展開をもたらすことになる。

「……おいおい。お前らマジで仲直りしたんだな。カナンの言う事がにわかには信じられなかったが」

キシュアが途端に驚愕の表情を浮かべ、俺はぎくりとした。やべえ、また仲直りのことに突っ込まれるのか。事の成り行きなんか詳しく話せないし、どうすりゃいいんだよ。

「いや別に。お前も知ってるだろ、俺達もともと仲良いし。成長する間ちょっと距離を置くことだってあるだろ普通。あ、あの期間が終わっただけだよ」
「そうだ。俺と兄貴は今すごく仲が良い。だからキシュア、この部屋は兄貴に譲ってくれ」

何がだからなのか分からないが、開き直ったクレッドが珍しく下手に出てお願いしている。こいつらの関係性はどうなってるんだろう。

「え〜。んなこと言われてもなあ。俺もお前らがまた一緒にいるの嬉しいぞ? 四人で集まれるのもな。でも俺この部屋気に入っちゃったし。……あ、じゃあこうするか。セラウェ、今日は一緒に寝よう」

脈絡のない親友の提案に、さすがの俺も言葉を失った。何を言い出すんだこの野郎は。
何故俺が親友とはいえ男と二人きりで就寝しなきゃなんないんだよ。普段の行いを棚に上げてぷるぷると体が震えだした。

「おいふざけんなお前。他にもたくさん部屋あるだろ。どれでも好きなの選べよ」
「冷てえなお前。一年に数回しか会えない親友だぞ、互いに積もる話もあるだろ」

まあ確かにそれはそうだけど。こいつクレッドの反応見て楽しんでるだけなんじゃないのか。
隣の男の様子を恐る恐る窺うと、今度は無表情じゃなくて怒り顔に血管が浮き出ていた。

「駄目だって言ってるだろ、なんでキシュアが兄貴と一緒に寝るんだよ、俺の兄貴だぞ!」

心なしかクレッドの反論はいつもより余裕がなく、全く理路整然としていない。
二人の幼稚な男に呆れていると、開いたままの扉の外からパタパタと足音が聞こえた。
皆が一斉に見やった先に、無邪気なカナンの面がひょこっと現れた。

「何やってんだよ、三人とも。俺一人でさみしーじゃん。……あ、あれ何この部屋すげえ! 窓から湖も見れるし、ベッドもでかい〜。俺この部屋にしよっかなあ」

カナンがどすっとベッドの上に飛び込んだ。おいまた空気の読めない奴が入ってきたよ。

「退けよカナン。そこ俺とセラウェのベッドだから」
「は? どういう意味だよ。兄貴、お兄ちゃんと寝るつもりなのか? ずるい、俺も一緒の部屋がいい〜!」

女顔の回復師が年甲斐もなく手足をジタバタさせている。
はは、俺なんかすげえ大人気だな。つうか皆いい年した男共だからな。恥ずかしくないのかな?

「ふざ……けるなよ、お前ら……俺の計画が……無に……」
「なんだよお前の計画って。おいクレッド。お前は今職場も兄貴と同じなんだろ? いつでも会えんじゃねえか。俺たちに譲れよ」

キシュアがクレッドの肩にぽんと手を置いて、魅惑的な微笑みを浮かべた。珍しく弟も何も言い返せないでいる。

「そうだよクレッド。俺達お兄ちゃんとじっくり過ごすの久しぶりだし。……あ、待てよ。分かった、良いこと考えた! じゃあ順番にしようぜ。今日は兄貴、明日は俺。最後の日はクレッドってどう? 三泊四日だしちょうどよくね?」

おい待て。何妙案思い浮かんだ的に満足気な面してんだ、このクソガキ。
けれど唖然とする俺の気持ちを代弁するかのように、クレッドが前に進み出て、ベッドでゴロつくカナンを睨みつけた。

「……は? なんでお前いつも余計なこと考えつくんだ。兄貴はずっと一人でいいんだよ、二人共自分の部屋で寝ろよッ」
「いいじゃん、もう決まりだから。最後の日まで我慢しろよ」
「そ、それはまあ楽しみだけど……」
「よし。じゃあセラウェ、今日は俺の日だから宜しくな」

キシュアがにこりと気持ちの悪い笑顔を向けてきた。
何このくだらないやり取り。せっかくたくさん豪華な部屋があるのに、こいつら馬鹿じゃないのか。

しかし俺の犠牲によって一旦その場の口論は収まり、よく分からないうちに部屋割りは決まってしまった。



その日は一日ゆっくりと別荘で過ごすことになった。外食も明日以降にしようと決め、夕食時には騎士団の運営により手配された食事と酒類を堪能した。
アクティブに過ごすよりも室内でぬくぬくと寛ぐほうが好みの俺は、一日目にしてすでに最高の贅沢気分を味わっていた。

居間にある暖炉の前に座り、他愛のない話を見知った仲で繰り返し、酒を飲む。
ほんとに至れり尽くせりで、初めて教会に入って良かったと思うほどだ。

「兄貴、それ以上飲まないほうがいいぞ。明日もあるんだから」
「そうだよ、お兄ちゃん。飲むなら最後の日にしなよ。俺達その後どうでもいいから」
「あーはいはい。分かったよ、この辺にしとくから」

ソファに座る年下の奴二人が好き勝手に何かを言ってるが、俺はふわふわのラグが敷かれた床上で、キシュアと楽しくほろ酔い気分になっていた。やっぱり気の置けないメンバーだと酒が進むんだよな。
けれどそんな和やかな空気に水を差す発言が、俺の親友からなされた。

「おいセラウェ。なんかお前、妙な色気出てきたよなあ。もしかして、相手いんの? ……俺の想像だけど、年上の女とかじゃね?」

へらへらと笑いながら、赤らんだ顔でキシュアが尋ねてきた。俺はその言葉に一気に酔いが冷め、途端に真顔になった。
一瞬その場もしんとなったが、どうにかして平静を装い言葉を紡ごうとした。

「な、何言い出すんだお前。くだらない話はやめろ。俺にそんなの有るわけ無いだろ」

若干震える手でグラスをあおるが、これ以上酔える気がしない。だいたい年上の女じゃねえし、年下の弟だし。
こいつ普段はカンが鋭いのに、その予測、少しもかすってねえ。

「そうだよ兄貴。お兄ちゃんはね、たぶん年下の子が好きだと思うよ。甘えるタイプに弱そうだし。多少無理なことでも、何でもわがまま聞いてあげちゃうんじゃないかなあ。セラウェお兄ちゃん優しいからね」

薄笑いのカナンが兄の話題に乗っかってくる。おい、この兄弟何なんだ。俺をからかって楽しいのか。
でもこいつの方が何か当たってる気がする。弟限定だけどな。

決して言えない言葉をつらつらと脳内で語りながら、俺は不自然に黙っていた。
ちらっとクレッドに視線をやると、完全に俺のことを見ていた。珍しく動揺しているのか、何か言いたげな顔をしている。

「あっそうだ! キシュア、俺さぁお前に渡したいお土産があったんだよね。ちょっと俺の部屋来てくれる?」
「あー、俺達の部屋? いいけど。……おいそんな急ぐなよ、お前酔ってんだから」

俺は不自然にすくっと立ち上がり、その場から親友を連れて逃げ出した。
この男はこのまま放っておくとまずい。気を許した仲間内では結構ペラペラと喋ってしまうタイプなのだ。
とくに芸術家という職業柄、そっち方面に奔放で、俺の不得意なそういう話を好んでし始める。

例の天窓付きの部屋に戻った俺は、即座に奴をベッドの上に投げ込み、腕を組んで見下ろした。

「おい何すんだセラウェ、乱暴はよせよ。……え、つうか何? もう寝んの? 俺まだ歯磨きしてないんだけど」
「違えよ、それは後ででいいんだよ。……キシュア。お前な、ああいう話はやめてくれ」

親友は俺の言葉の意図がすぐに掴めてないようだった。とぼけた面のまま、微動だにしない。

「だから、いいか。俺の……か、過去の異性関係とかそういう類の話は一切するな。したら絶交だから。分かったな」

出来るだけ厳しい声で忠告した。自分でも何を言ってるのかと思ったが、一応念を押しとかないとこの旅行中、俺は全く気が休まらない。

「はっ? なんだよ急に。お前の女関係なんて、全然大したことねーじゃねえか」
「うるせえな大きなお世話だよッ」

つい大声で反応する俺に対し、キシュアは呆気に取られたようだったが、すぐににやりと嫌らしい表情を見せた。

「ああ、なるほど。お前あいつらの前でそういう話したくないんだ。でも俺らもう結構いい年だぞ。クレッドとそういう話題しないのか?」

直球的に尋ねられ、心臓がドクンと大きく脈打った。するわけねえだろ馬鹿か。たぶんお互いに切れるぞそんな話。

「俺達はそういう話はしないんだよ。俺も別に聞きたくないし」
「ふうん。まあ俺もカナンに嫌がられるけどな。弟って結構純粋なのかもな。……あ、お前もか」

キシュアが年上の余裕を感じさせる笑みを浮かべる。つってもたった二つ上なだけなんだけどな。

「なあセラウェ。お前今、嬉しいんだろ。またクレッドが懐いてきてくれて。だってお前会う度にさ、あいつの愚痴言ってたよな。冷たくて嫌味しか言わない、可愛くなくなったって」

見透かすような親友の言葉に、なぜか急に力が抜けてくる。完全に図星だ。
俺はずっと弟が離れてしまったことを寂しく感じていた。今思えば、完全に自分に責任のある事だったのだが。
俺は奴が寝そべっている隣に静かに腰を下ろした。

「まあな。……今は、すげえ嬉しいよ。だから大事にしてやりたいなって思ってんだよ。心配もかけたくないしな」

それは素直な気持ちだった。まさか親友とは言え、弟との関係を明かすことなど出来ない。
正直心苦しいし、言い様のない苦しさはある。でもそれ以上に、あいつが大切だという気持ちのほうが大きかった。

「まあ俺も分かってるから。お前もクレッドも重度のブラコンだってことはさ。お前らってほんと、昔から変わってねえよな。逆に安心したけど」

キシュアはまだ顔が少し赤いが、穏やかな表情をしていた。こいつは今まで何も言わなかったが、心の中では俺達のことを気にかけていたに違いない。

「だってさ、あいつ見た? 俺がお前と同じ部屋に寝るって言ったら、本気で焼きもち焼いてたぞ。ほんと何も変わってねえ。可愛いよなあ、あんな立派に成長したのに。騎士団長だろ、部下には見せらんねえだろ、あんな姿……」

小さい頃から知っている為、同じ兄目線で楽しそうに話す親友に、俺は適当に相槌を打った。いや、本当は結構仕事中もそういう一面見せてるけどね。思い出すと俺も恥ずかしいけど。

「……ほんと、可愛いんだよあいつ。だからあんまりからかうなよ」

内心照れながらぼそっと呟くと、何故か返事が聞こえなくなっていた。
え。こいつもう寝てんの? 早すぎだろ。

「おいキシュア? 起きろよ、まだ歯磨いてねえだろっ」
「……うーん……ねみい……起こして」

妙に甘ったるい声を出され、途端に寒気がしてきた。肩を揺すっても意味はなく、完全にすーすー寝息を立てている。

「おい起きろってば、ちゃんと服着替えろよっ」

俺の揺さぶりも虚しく、もう親友には届いていなかった。こいつ積もる話があるとか言って、速攻寝てんじゃねえか。
……でもまあ、ちょっとだけ話は出来たかな。例によって兄弟の話題になってしまったが。

先に眠ってしまった親友の寝顔を見ながら、俺は何故か昔の四人の記憶を思い出し、一人感慨に耽っていた。



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