俺の呪いをといてくれ | ナノ


▼ 73 頑張りたい ※

騎士団本部の最上階にある弟の部屋は、団長専用の住居ともいえる空間だ。
以前は仕事が遅くなった時だけ泊まっていたみたいだが、クレッドは今、ほぼ毎日ここで寝起きしている。
同じ領内に住んでいる俺と、いつでも会えるようにしているらしい。

その夜、合鍵を使い部屋に忍び込んだ俺は、居間のソファで一人休んでいた。
クレッドの長きに渡る深い愛情を知って以来、俺の頭の中は、実際に弟のことでいっぱいになっていた。

(早く、会いたいな)

柄にもなくそんなことを思っていると、胸が熱くなり、再びうるっときてしまう。
そんな情緒不安定ともいえる状態を周りからも怪しまれたが、仕方がなかった。
あんな風に想いを告げられて、心を揺り動かされないわけがないのだ。

前よりもさらに、愛しく思ってしまう。早く顔が見たいと考えてしまう……
思いを巡らせながら、俺は弟の帰りを心待ちにしていた。

それなのに、どうやら俺はまたいつの間にか、うたた寝してしまったらしい。
目が覚めると、寝室のベッドの中にいた。しかも何故か裸の俺の上には、同じく全裸のクレッドが覆いかぶさっていた。

「うわああああっ何してんだお前ッ」
「ただいま、兄貴。寂しかった……キスしてもいい?」

全然会話が噛み合ってないのだが、あんぐりと開いたままの俺の口を、宣言通り弟に塞がれた。強引に入ってきた舌に絡め取られ、みるみるうちに力が奪われる。

「ん、……んんっ……っふ……」

口を離され目を開けると、すでに恍惚状態の弟の顔が前にあった。優しく俺の頬を撫でて、またそこに何度も口付けしてくる。

「いつ帰ってきたんだよ、クレッド。なんで俺ここにいるんだ」
「一時間ぐらい前だ。風呂から出た後、俺が運んだ。兄貴に色々してたけど、全然起きなかったぞ」

聞き捨てならないことを言いながら、俺への愛撫を止めない弟に唖然とする。
おい、前にもこんな事あった気がすんだけど。
でも今日の俺は何故か抵抗出来ない。すんなりと受け入れてしまいそうになる。

「い、色々って、何したんだよ?」
「知りたい? じゃあ今から、教えてあげる……」

不敵な笑みを浮かべて、首筋にきつく吸い付いてきた。思わず俺は体をビクビク震わせてしまう。

弟から過去にあった触れ合いのことを聞かされて以来、俺はよくその事を想像してしまっていた。記憶がないという失態は勿論のこと、子供の弟との秘め事は兄として許されることではない。
でもお互いに初めての色々な事を、この弟としてしまったのかーー思いを馳せると、何とも言えない感情が沸き起こった。

「兄貴、何考えてるんだ?」
「……えっ。……お前のことだ。クレッド」
「本当に? どんな?」

そんなの言えるわけ無いだろバカか。そう言ってしまいそうな気持ちを抑えて、蒼い目をじっと見つめた。
胸にじわりと灯る熱は本物だ。これからは俺がこいつを幸せにしてやりたいし、寂しくてつらい思いをさせた分、今度は俺が愛情を与えてやりたい。

一人で感傷的になり、また目が潤んでくる。咄嗟に自分の状態を隠そうとした俺は、奴の首に手を回してひっつき、顔を見せないようにした。

「どうした、兄貴……かわいい事して」
「……クレッド。俺、お前が好きだ。お前が欲しい」

普段の俺なら伝えるのに物凄く時間がかかることを、一気に言ってしまった。顔が急激に熱くなり、火照ってくる。
クレッドは一瞬動きを止めたが、すぐに俺をベッドに押し付けて、体重をかけてきた。

「俺も好きだよ、兄貴。俺はいつでも兄貴のことが欲しい……」

耳元で切なそうに告げられ、全身に熱が駆け巡る。前よりももっと深く感じる想いが、胸をさらに締め付けてくる。
ああ、俺はどうしてしまったんだ。頭がぼうっとしてきて、身も心も弟に溺れそうになるーー


……いや、待て。実は、今日の俺はいつもの俺ではないのだ。ある考えというか、覚悟を持ってこの場にいる。
俺は、これまでずっと受け身だった。それはもちろん恥ずかしいのもあるし、元々積極性がないというのもある。

でも今は、俺もこいつのことを、出来ることなら何か喜ばせてやりたい。
それがベッドの上だというのがちょっと問題かもしれないが、とにかく頑張りたい。自分では珍しく、そんな決意で挑んでいた。

本音を言えば、今度こいつに媚薬を試す際、色々試したいことがあるので、それの予行練習も兼ねている。でも今はその事は秘密にしようと思う。

「あの、クレッド……。俺、今日は……お、俺が上になりたい……ッ」

かなりの勇気を出して伝えた。弟の反応が気になり顔をじっと見ると、奴は目を見開いて硬直していた。

「……え? どうしたんだ、兄貴。……ほ、本気か? 分かった。ちょっと待って。じゃあそうしよう。俺の上に跨ってくれ」

急に饒舌になったクレッドは俺を起こし、自分はさっさとベッドの真上にあるクッションに背をあずけ、座った体勢で俺を招いた。
気がつくと、すごくスムーズに俺が奴の上に跨るポーズを取らされ、全ての準備が完了していた。

「さあ、兄貴。いつでもいいぞ」
「えっ、何が? 俺どうすればいいの?」
「……そうか。さすがに全部一人でやるのは難しいよな」

苦笑しながら背にぎゅっと腕を回されるのだが、俺の想像以上のことをやらされそうになっていたと気付き、冷や汗が流れた。

「ん、んあぁ……は、ぁっ」

結局いつものように後ろを指で慣らされ、じっくりとほぐされて、はしたない声を漏らしてしまう。
でもこのままじゃ前と同じだ。俺も頑張らなければーー

ドキドキしながら掴まっていた弟の肩から少し離れ、そこに自分の口を這わせた。恐る恐るぺろっと舌で舐め上げると、クレッドはビクリと体を強張らせた。

「……ッ、……な、何? 兄貴」

弟の様子を確認すると、顔をサアッと赤くしてかなり動揺してるみたいだった。
……なんだこれ、変な気持ちになってくるかも。

「俺がお前にこういうことしたら、嫌か……?」
「ぜ、全然嫌じゃない。びっくりしただけだ」
「本当か? じゃあもう少し、してもいい?」

やや興奮状態に陥りながら尋ねると、クレッドは躊躇いがちに小さく頷いた。
許可を得た俺は、また弟の肩に吸い付いた。時々ぺろぺろと舐め、同じところを執拗に狙って攻め立てる。

考えてみたら、俺はこいつの体に今までほぼノータッチだった。もちろん舐めたのも初めてだ。
男から見ても惚れ惚れするような肉体……これだけ肌を重ねていれば、性的興奮を感じることもある。

でもやっぱり自分から色々する勇気は、今までなかった。なんせ小さい時を知っている、弟だからな。

「……っ……あ、兄貴……ま、って」
「お前も、首弱いの?」
「……そんなに、したら、駄目だ……っ」
「なんで? そんな声出して、お前、気持ち良いんだろ?」

段々自分で言ってて恥ずかしくなってきた。弟の首筋を丹念に舐めあげている間も、俺は弟の指にせわしなく与えられる快感に必死で耐えていた。
クレッドは小さな喘ぎを漏らしながら、俺のこともちゃんと気持ちよくしようと頑張っているのだ。

自分から攻めるのって、こんなに難しいのか。弟のことを尊敬しつつ、俺は次の段階に入ろうとしていた。

「クレッド、い、入れてもいい?」

自分が入れてもらう立場なのに、変な聞き方になってしまった。
普段ならば積極性のない俺には稀な台詞なのだが、もう勇気を出すしかない。
顔を赤らめて浅い息を吐く弟が、言葉なく頷いた。

「兄貴、自分で出来る? …………そう、そのまま……腰下ろしてみて」
「ん、…んん……は、あ……」

俺の腰をもつ弟の手により誘導され、徐々に下半身を沈めていく。ズプっと中に侵入してくるものを奥まで受け入れていき、深呼吸をしながらその大きさにひたすら耐える。

「んあぁっ……きつい、クレッド……」
「大丈夫。もう少し、我慢して」

最初からこの体勢で始めたことは無いため、圧迫感が凄い。とはいえ、すでに弟の性器が中に収まったままで、じわじわと快感の波が押し寄せるのを感じ、自然に身をよじってしまう。

「は、あ……はあ……っ」
「兄貴、動いてほしい?」
「……ま、待って……まだ」

俺は今日、決意を持ってこの場にいるのだ。いつも弟にさせてばっかりでは、兄としての面目が立たない。
たまには俺だって、こいつのことを、幸せな気分にーー

その前に大事なことを済ませよう。後で自分もきっと余裕を失うだろうから、もう一度はっきりと伝えなければ。

「クレッド、俺、お前のこと……好きだよ。これからも、ずっと好きだから」

目を真っ直ぐと見つめて、頬に手を添えた。親指で愛おしむように撫でて、自分の顔を寄せる。
口を近づけ、弟の柔らかい唇にそっと重ねる。ゆっくりと舌を潜り込ませ、丁寧に絡ませ合い、出来るだけ深いキスを心がけた。

「…………ん、ん」

俺が口を離すと、弟は目元を赤く染め、ぽーっとした顔つきをしていた。
どこか遠いとこを見つめたまま、すぐに反応を示さない弟を心配していると、背中をぐっと近くに引き寄せられた。

「うあっ」
「……兄貴。俺、すごく幸せだ。……俺もずっと兄貴のこと、好きだ。この先もずっと、変わらない」

揺れる蒼い瞳にじっと見られ、甘やかな言葉を囁かれる。俺が与えようとした気持ち以上のものを、こいつは返してくれる。
体も心も熱を帯びてきて、大きな幸せを実感して、たまらなくなってきた。

何度かそのままキスを繰り返すと、クレッドの腰が揺れ始めるのを感じた。
焦った俺は弟の肩をぎゅっと掴んだ。何故なら俺の計画は、まだ終わっていないのだ。

「……ま、待て。今日は、俺がしたい。……俺がお前のこと、気持ち良くしたいんだ」

そう告げた瞬間、クレッドは大きく目を見張らせた。だが俺は恥ずかしさを堪えて、おずおずと自らの腰を揺らし始めた。
最初は下を確認しながら、ぎこちない動作で上下に動かそうとする。

「……う、ぁ……兄貴……」

両肩に手を置いたまま、ちらっと様子をうかがうと、悩ましげに眉を寄せる弟と目があった。
こんな風に能動的に動いて、弟の反応を確認するのは、すごくドキリとする。

「んあっ、クレッド……む、難しい……っ」

けれど頑張っているうちに、弟の様子を眺め続ける余裕など無くなってきて、早速弱音を吐いてしまった。自分から宣言しておいて、直ぐにこの様だ。
するとクレッドは俺の腰をがしっと両手で掴み、自分のほうに力強く引き寄せた。

「な、なにっ、ああっ」
「大丈夫、上手だ……もっと続けて」
「ん、んっ、でも、あんまり、出来ない」
「そんな事ない、すごく気持ちいいよ、俺……」

目線をじっと合わせて優しく告げられ、トクトクと鼓動が高鳴っていく。
途端に安心感と嬉しい気持ちが湧いて、思わずクレッドの頬に手を伸ばした。顔を近くまで迫らせて、そこに小さく口付ける。

「ほんとに?  俺の中……良い?」
「……ッ、ああ、やばい」

気になって尋ねると、クレッドは急に顔をうつむかせ、目を伏せた。
時々微かに声を漏らす弟を前にして、自分もどんどん余裕が失われ、自然と腰の動きを抑えられなくなる。

「あっ、あぁ、クレッド、俺も、変だっ」

自分で揺らしてるせいで、いつもとは全然違う感じがするけれど、それでも急速に快感が高められていく。
抑制が効かなくなりそうな俺に対して、突然弟が予期せぬ行動に出た。

「兄貴、もっと良いとこ、教えてやる」

余裕のない声色で呟くと、俺の腰を掴む手に力を入れ、ある場所へ自身を数度打ち付けてきた。

「んああッ! や、やだ!」
「ほら、ここだ、覚えて」

奥にぐりぐりと押し付けるように、腰をもって中を探るように当ててきた。
自分では分からない部分を知っている弟に焦ると同時に、与えられた強い刺激に、崩れてしまいそうになる。

「だめ、そこやだ、ま、待って!」
「もう何もしてないぞ……よく見て、兄貴が揺らしてるんだ」

弟の言う通り、教えられたとこに弟のものを押し付けたくて、夢中で動かしてしまっている。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音が下から聞こえてきて、恥ずかしいのに、止められなくなっていた。

「ああ、だめっ、クレッド、もう、いくっ」
「いいよ、兄貴……いって」
「……で、でも、お前は……っ」

俺がいかせてやりたいのに、すぐにこんな状態になってしまう自分が恨めしく感じる。けれど弟は顔を赤く染めたまま、俺をぼんやりと夢見心地で見ていた。

「先にいって、兄貴、お願いだ」
「駄目だ、お前も、一緒に……いって」
「……っ、……じゃあもっと……してくれる?」

赤ら顔の弟にお願いされ、もう少し頑張ることにした。本当は足がガクガクして力が入らないけど、一度始めたら、動いてしまうのを自分でも止められない。

「あ、んあ、クレッド、気持ちいいっ、もうだめ、い、イク……!」

急激に締め付けが起こるのを感じ、思わず前にある肩にすがりつく。すると弟の微かな喘ぎが聞こえてきた。
体がわずかに細かく震え、それを抑えるように俺の腰をがっしりと掴む。

「あ、兄貴、すごい……締まってる、……あ、……うぁ……ッ」

いつもより冷静さを欠いた声が届き、その瞬間、俺の中で弟の性器がビクビクビクっと何度か波打った。
ぎゅっと背中を抱きしめられ、受け止めようとすると、下腹部にじわりと温かい熱を感じた。

「……っは、……はあ、はあ、は、あ」

弟が俺の耳元でぜえぜえ言いながら息を整えている。さらに体をぴったりとくっつけ、休息を取り始めた。
じわっと中に広がる液に意識を取られそうになるのを堪え、俺も弟の背中に強く手を回した。でもなんとなく聞かずにはいられない。

「……クレッド、気持ち……良かったか?」 

ドキドキして尋ねると、弟の動きがまた一瞬止まった。すぐに顔を上げて、俺の目をじっと見てくる。
何を言うんだろうーー濡れた蒼い瞳に釘付けになってしまう。

「ああ。最高だ、兄貴。……俺、危なかった」
「えっ?」
「兄貴が自分で腰……振って、かわいい事ずっと言うから。我慢するのが大変だった」

そう言ってにこりと笑うと、俺の口にそっと自分の唇を重ね合わせた。
弟の言葉に一気に羞恥が蘇りそうなのを堪えて、俺は与えられるキスを受け入れた。

上手くいったみたいだ、良かった……人知れず安心していると、クレッドが再び視線を俺に合わせてきた。

「またこういうの、してくれる?」

どこかうっとりとした顔でお願いされ、俺は恥ずかしさから、一瞬言葉に詰まってしまった。
……あれ? でもなんか、前も似たような場面があった気がするんだけど。

「分かった。いつもは無理だけど。またするから」
「本当に? ありがとう、嬉しいな」

さすがに面と向かって礼を言われると照れてくる。
けれどその笑顔を見ていると、何だか自分まで満ち足りてきて、いつもは心で呟いている言葉を、実際に口に出そうと思った。

「クレッド、お前……すげえ可愛い」

そう告げて金色の柔らかい髪を撫でると、弟はさらに嬉しそうな顔で、俺の手に懐いてきた。
なにかいつもと違う達成感と、温かい気持ちを胸に、俺はしばらくの間そんな弟の表情を楽しむことにした。



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