▼ 3 受け止めてくれ
「おいっどういう意味だそれ! ヤメロまじでッ」
これは真剣にまずい、鎧を全て脱ぎ去り俺に覆いかぶさる弟の顔が上気しハアハアと息遣いがすぐそばに響いてくる。
目が、目が異常な雰囲気を醸し出している。何だろなコレ、少なくとも実の兄に向ける目つきじゃねえぞほんとに。
「あ、兄貴……俺、もうっ……」
何がもうっだふざけんな今すぐ退け、早く退けと俺はぐいぐいと力任せに奴のでかい図体を押しのけようとするけれど当たり前だがビクともしない。身長も体格も違いすぎる。クソッ本当にこいつの存在自体が憎くてたまらない。
「って、おい、何してんのかなぁ? お、お前」
脳内で冗談を言ってる場合ではない、今まさにクレッドがズボンのボタンに手を掛けている。イヤッ無理ッそれだけは止めろおおおお!
見たくもないのに何故かその手つきから目が離せない、一体どんな代物が出てくるのかと俺はこんな時にまでくだらない興味を抑えられないとでもいうのか? いや絶対気色悪いだけだろそんなもん見たって。
「はあ、はあ…………これは、俺のせいじゃない……ッ」
いやいやいやどう見ても自分で出そうとしてるし自己責任だよねそれ、つうか俺の上に跨って自分の出して何するつもりなんだよ一体。
「あ、アァッ」
もう止めてくれ、弟の喘ぎ声なんて聞きたくもないしそんな風に手で握って上下にシゴき出す姿なんて一生見る機会ないだろうと思っていたのに。
「ああっ、あ、はぁっ」
こ、こいつマジで俺の上で自慰してやがるーー。真上で繰り広げられる一方的なプレイに俺は真顔でゴクリと喉を鳴らした。両腕は解放されたが、クレッドは片手を俺の顔の横につけてもう片方で自分のをシコっている。
この体勢、俺には無理だ。腕の力すげえな、とか関係ないことを考えながらやり過ごすしかねえ。
動こうとすれば可能かもしれないが、さすが騎士の威厳とでもいうべきかこっちも何故かもはや自主的に動きを封じられているような気になってくる。
でも唯一目線をどうしたらいいのか分からない。時折俺を見つめてくる潤んだこいつの瞳と目が合うと物凄く気まずい。何故こいつは平気なんだ、近親者に自慰を見せつけられるほど騎士の精神とはそんなに頑強なものなのか……。
「はっ、あぁっ、も、い、イ……くッ」
えっもう? 考えながらだったからか割と早く感じたななどと若干失礼なことを思っていると、クレッドは一度体勢を立て直し膝をついて俺の上へ跨がる。片手が俺の服と肌の隙間から入り込んできて、さわさわと長い指で撫でられる。
「うおっ、おい! 何すんだこのッ」
これは反応しないわけにはいかない、さすがに今まで自由を許してきたお兄さんも抵抗しとかないとおかしい案件だろうこれは。
勢いよく手を掴んで止めようとしても何の意味もなかったのか、強引に服を胸の上までめくられた。腹が露わになってひんやりと冷たい風を感じる。
「……大人しく、してろ」
一瞬だけ正気に戻ったかのようにそう一言だけ呟いて、クレッドは少し身を屈めた。
は、はああ? 俺はお前の兄貴であって思い通りになる人形じゃないんですけど? と大声で抵抗したい思いは湧いたが、出来ない。出来ないのである。
俺、変態なのかな? 今まさに変態的なことを俺の上でしている男の兄貴なのに、いつの間にかこれ、どうなるんだろうという結果を最後まで見届けたい欲に駆られていた。
分かってる、たぶんこいつ、俺の腹の上に出すつもりなんだろう。そんなことは分かっているんだ。変態だよな。
もちろん俺はホモじゃないしこんなことをされたとこで興奮したりはしない。けれど偉そうに上から目線なこの弟が一体どんな顔してイッたりするんだろうな、とか冷静に考え始めてしまったのである。一応研究者としての探求心なのかなぁこれも。
「は、あっ、うぁっ、もうっ、イ、ああッ」
イキそうって言ってからわりと長かったなと思っていたがどうやらいよいよらしい。クレッドの顔は汗ばんでいて苦しそうに眉をひそめている。わずかに開いていた口がその時大きく開かれ赤い舌が少し見えた。うわなんかちょっとエロい。
「なぁ……もうイキそう?」
止せばいいのにゾクゾクと内側から湧き出る好奇心が勝りぽろっと口をついて出てしまった。限界だという表情のクレッドが一瞬俺のほうを見てブルルルっと体を震わせる。
「…………あッ、ああぁっーー!!」
男のチ○コに興味の無い俺は最中なるべく見ないようにしていたが、視界に入ったそれはイッた瞬間ビクンビクンと波打ち大量の精液を俺の腹の上にぶちまけてくれた。
手の動きを止めずに最後の一滴まで丁寧に絞り出してくれる愛しい弟の赤ら顔を見ていると、自然と殺意が沸いてくるものだ。
まあいい、イッた時の顔は脳裏に焼き付けた。これからこいつがどんな澄まし顔で嫌味を言おうが正論を唱えようが、この記憶は永遠に俺の心に刻まれ何物にも変え難い優越感を生み出してくれるはず……。
ああ、その前に。
「おい、とっととその汚ねえもんを仕舞ってくれないか。あと今すぐ退け」
いまだに俺の上で呆けた表情の弟に言いながら、腹の上に出された精液を何気なく指で少量すくって舐め取る。うーんこれは……粘り気が少し強いが、匂いは普通だ。だが口に入れるとその異常さを即座に感じとる。
苦味の中にほんのり甘さを感じる。この甘み、知っているぞ……これは、まさかーー成分を確かめるようにペチャペチャとやっていると、いつの間にか服を正して俺の前に座っているクレッドに、一連の行動を凝視されていることに気が付いた。
「あ、兄貴…………何してるんだ」
えっと、その驚きと蔑みと興奮が入り混じったように見える表情はナニかな? 俺はお前のような変態じゃないぞ?
「ああ? 勘違いするな、これはただの研究材料としてーー」
「…………兄貴ッ!!」
「うおぉっ!」
再び俺に覆いかぶさってきたクレッドを俺はとっさに両手でガードする。なに、なになになに何だよ。もう終わっただろうが、すっきり全部出してお終いだったんじゃないの、え?
「や、ヤっていいか……?」
俺が精液舐めることのどこに興奮する要素があったというんだ。呪いのせいでお前がおかしくなっているとしても、俺は男でしかもお前の兄貴だぞ。
「いいわけねえだろ阿呆ッ!」
拒否したにも関わらずはーっ、はーっと顔に似合わないゲスな欲情の仕方してる俺の弟よ、女が泣くからもう止めてくれ。つーかこれ以上はさすがの俺も泣くし無理。
若干涙目で睨みつけているとクレッドは俺を抑える手をゆるめてゆっくりと身を引いた。ああ良かった俺の貞操が守られたようだと心臓バクバクの俺に、こいつはとんでもないことを言いやがった。
「じゃあ……今は我慢する。次はさせてくれ、頼む。言っただろう? こんなことは兄貴にしか頼めないと」
なんだよ、マジトーンじゃねえか。真面目な顔で俺の目をじっと見て頼むクレッド。さっきまでおそらく他の誰にも見せられないだろう痴態を晒していた男と同一人物だとは思えない。俺の返事を待たずにすでに鎧を身に着け始めてるし。
「いや、ちょっと待てよ……俺、分かったって……言ったっけ?」
「……そうだな。数日後またここへ来る。その時、兄貴から納得出来る返事が貰えるように頑張るさ」
扉に手をかけたまま振り向いたその端正な顔立ちに釘付けになってしまう。格好良い体を装ってはいるけどさ、内容酷いからね? つまり今度来た時俺のことどうにかこうにかして犯しますよってことでしょう?
ねぇ俺の意志関係ないのかな、この変態野郎には。
「では、またな」
パタンと閉められた扉の中には、絶望に満ちた表情の俺が一人残されていた。腹にへばりついた精液をティッシュで虚しく拭きながら、ああ、瓶に入れて採取しとけばよかったなぁ……などと職業病を思わす若干の後悔を抱えて。
prev / list / next