俺の呪いをといてくれ | ナノ


▼ 33 言って欲しい ※

弟と無事仲直りが済んだ俺は、性懲りもなく奴の部屋を訪れていた。勿論すでに夜である。
俺とクレッドはソファにいた。何をしているかと言うと……さっきから、ずうっっっとお互いの口を貪り合っている。そう、もう長い間キスだけをしているのだ。

何故なのかよく分からない、でも凄く気持ちいい。
時折口を離すと、欲情にまみれた蒼い瞳と目があって、火照った体がさらに疼いてくる。
いつまでこうしているんだろう。そう思った時、クレッドが口を開いた。

「兄貴、ベッドに行こうか?」
「え、う、うん……」

俺が挙動不審気味に答えると、弟は穏やかに笑みを浮かべ、俺のことを軽々と抱き上げた。ちょ、俺一応男なんでそういうの恥ずかしいんですけど。

「ま、待て、降ろせ」
「何故だ? もうすぐ着くぞ」

確かにベッドまではすぐだった。クレッドは俺の体をそっとシーツの上に降ろして、すぐに服を脱ぎ始めた。しなやかな筋肉に引き締まったウエスト、その異常な色気を醸し出す肉体が露わになる。

俺は何故か今更なのに目のやり場に困り、視線を外す。それを見抜かれたのか、弟がにやりと笑って裸体のまま迫ってきた。

「兄貴も脱いで……」

言われるがまま自分の服を脱ごうとする。でも待てよ、こいつに噛み跡を見られると、またさっきみたいに鬼畜じみた行動に出るんじゃ……
一抹の不安がよぎり、手が止まる。様子を見ていたクレッドが、いきなり俺の服を脱がせてきた。

「お、おい」
「大丈夫だ……さっきは、悪かった。酷いこと……したよな」

謝りながら俺のシャツをめくり、肌を晒させる。肩の傷跡を見た弟は、……やっぱり怖い顔してる。
こいつ全然大丈夫じゃねーじゃねえか。心の中で怯えつつ、俺はシャツだけを再び着込んだ。

「このまましよう……な?」

出来るだけ優しい声を出そうと努め、弟に告げる。だが何を思ったのか、弟は急に俺のことをベッドに押し倒してきた。そしてやっぱり俺の服を全部脱がす。

「今日は兄貴の好きなことだけ、したい」

そう口にして、俺を見下ろしてくる。俺の、好きなこと……? どういう意味だ?
考えを巡らせて、途端に全身が熱を帯びてきた。

「な、なにそれ……」
「あるだろ? ……俺にして欲しいこと」

一見単純に聞こえるが凄い台詞だ。どうやったらそんな恥ずかしいこと言えるんだ。この状況で、なんて返せばいいんだ……
俺は真顔だったが、頭の中はパニック状態だった。

「……お前の、好きなことでいい」

精一杯考えた答えがそれだったが、言ってすぐに後悔した。何故なら、弟の顔がみるみるうちに赤くなり、息も荒くなり、簡単に言えば即興奮状態に陥ったかのように見えたからだ。

「おい、お前何考えてんだよ」
「え……? 本当に、俺の好きなことで……いいのか?」

俺の問いを素通りし、先走ろうとする弟をギロっと睨む。たぶんろくな事じゃないと、俺はもうすでに感づいていたのだ。

「じゃあ兄貴、俺の、舐めーー」
「お前俺の好きなことだって言ったよな?」

奴の不埒な言葉にかぶせるように、はっきりと釘を刺す。するとクレッドは悔しそうに黙り込んだ。ああ、良かった。それはもう少し先にして欲しい。なんか精神状態が保たないかもしれない、絵面的に。

「分かった。兄貴、さあ言ってくれ……まずは、どうして欲しい?」

……は? 何それ、いちいち聞いてくるパターンなの? そんなの無理だろ。難易度高すぎだろ。
だが弟は俺の心も露知らず、期待を込めた目で見つめてくる。まずい、俺かなりの困難に直面しているかもしれない。

「じゃあ、その……首触って……あと頭撫でて」
「……えっ?」

熟考の末、本音を発したらどうやら引かれたらしい。でもクレッドはわりと優しいというか、真面目な奴なんだろう。俺の言うとおりにしてくれた。
キスしながら親指で喉をなぞり、首筋を滑らかな指で撫でていく。

「ん、あぁ……」

やばい、すげえ気持ちいい。ぼうっとしそうになると、今度は大きな手が髪に触れられた。優しく中に入り込み、上に掻き上げられる。ぞくぞくして全身に快感が走り抜けていく。こいつの指って、こんなに気持ちよかったっけ……

「……あっ、んぁ……」

頭を撫でる時も口付けを絶やさない。これは正直はまってしまいそうだ。

「次は……? 兄貴」

クレッドが甘い声で尋ねてくる。どうしよう、こいつ本当に何でもしてくれるのか? されるのは自分なのに、逆にその程度を色々試してみたくなるのが恐ろしい。

「ん………手で、して……」

以前の俺にとっては考えられない台詞ではあったが、もはや結構普通といえるかもしれない。色々麻痺してきてるな。俺の注文を聞いた弟は、何故か一瞬怪しい笑みを口元に浮かべた。

「分かった。前からでいいか?」
「……うん」
「じゃあ俺の上に跨って……兄貴」

なんでそこはお前が決めてんだ? 一瞬不満に思ったが、まぁ良いかと流して言われた通りにした。
おずおずと、座っている弟の上に跨ると、腰に手を回され体を支えられる。

ちょ、ちょっと待って。俺もだけどこいつのも、もう勃ってる……だってこれ向き合って、あああ、やっばり裸でこんなこと始めるなんて馬鹿じゃないのか。

「ん、んぁ、あぁ……」

クレッドの手が俺のを握って、指の腹を緩やかに上下に滑らせる。優しい手つきに翻弄され、すでに腰が砕けそうになる。先の濡れてるとこを親指で撫でてきて、時折きゅっと押したり弱めたりしてくる。

「あ、ぅ……だ、め……」
「こうすると、良いだろ?」

弟の色づく声と湿った音のせいで、羞恥に顔をうつむかせた。すると弟のものが目に入り、どきっとする。ちょっと悩んだ末、俺はそろそろと手を伸ばした。指先で触れると、クレッドが短く声を漏らす。

「……っ……兄貴」
「俺も、お前のする……から」
「……本当に? 嬉しいな」

弟が目元を緩ませ、少し照れたような顔をする。なんだこいつ、ちょっと可愛いかも……。
硬くなり、大きくそそり立つそれに手を這わせる。ゆっくり握ると熱が伝わり、何故か自分の頭までぼうっとしてくる。
これを何度も受け入れたんだ……そう思ってさらに全身が熱くなってくる。

「ん、……っ、あ……兄貴……」

クレッドが掠れた声を出して俺のことを呼ぶ。弟のものに触るのは初めてした時以来だ。あの時とは、全然気持ちが違っていることが新鮮に思えた。
二人で擦り合い、次第に気分が昂ぶっていく。

「クレッド、あぁっ、はぁ」

前を触られてるのに、どうしても後ろが疼く。体を寄せて動きを合わせていると、振動が伝わって、その事ばかり考えてしまう。
自然に腰が浮き上がってきて、体をわずかによじらせた。早く、もう……

「兄貴、もう……したい? 俺の、欲しい……?」

熱を帯びた声に問われ、快感に打ち震えながらクレッドの目を見た。こいつも余裕のない顔をしているのが分かる。

「ん……もう……欲しい、……して」

恥ずかしさを押し込めて呟くと、弟の顔が近づいた。せわしない息づかいをする唇が突然俺の口を塞ぐ。

「んんんっ、ん、んむっ……ふ……っあ」

吸い付くようなキスをされ、体が自由を奪われる。まだ手で愛撫を続けながら、もう一方の手を腰から下に伸ばす。
尻を撫でられ、真ん中に長い指を滑らせた。中心に潜り込ませ、ゆっくりと中へ挿入させていく。

「あ、あっ、んぁっ」
「……中、柔らかい……さっきのまだ、残ってるかな?」

クレッドが耳元でやらしい言葉を囁いてくる。こいつに出されたものは掻き出してもらったのに……中々疼きがおさまらない。

「ゆっくり、腰下ろして……そうだ」

言われるがまま素直に弟のものを受け入れる。いつもと違って自分の意志があることに、何とも言えない恥ずかしさが沸き起こってくる。

「んあぁっ、は、ぁッ」

入ってみると太さのせいでまだキツく感じる。でもやっぱり途端に襲い来る快感の波に、飲み込まれそうになっていく。

「それから、どうして欲しい? ……兄貴」

……え? 何言ってんだ。まだ続いてたのか、その質問攻撃。こんな状態で、何を言わせようとしてるんだ。
俺は困惑した顔で弟を見つめた。でもどこか楽しそうな顔を向けられる。

「いや、だ……っ」
「何が嫌なんだ? 兄貴のして欲しいこと、教えて」

こいつ、意地が悪い……もうお前が言わせたいこと、言ってるだけみたいになってるじゃねえか。そういう悪巧みだったのか?

「……う、動いて……早く」

ずるい事しやがって。内心悔しさを滲ませながらも、素直に懇願してしまう自分が憎くなってくる。

「……分かった、兄貴……たくさん、気持ち良くするから……」

弟はすでに恍惚とした表情で俺のことを見ている。この野郎……ッ。
おもむろに下から腰を突き上げ、それを何度も繰り返す。される度に俺は大きな喘ぎを漏らし、さらに弟を喜ばせてしまう。

後ろはぐちゅぐちゅと断続的に卑猥な音を響かせ、前も奴の手にしごかれ、唇も強く塞がれている。
もう、我慢出来ない。こんな一気に全部責められて、平気でいられるわけないんだ。

「クレッドっ、あ、んぁあっ、も、もう、だめだっ」

口を離された隙に必死で訴える。だが弟の動きは激しいままだ。気持ち良すぎて、おかしくなる。恥ずかしいのに、少しずつ自分でも揺らしてしまう。
それを弟に感づかれたら嫌だと思うのに。たぶんこいつは、全部分かってるんだろう。

「い、い……イクっ…………あ、ああぁッ」

奥が痙攣し、きゅうっと下腹部が締まるのを合図に、腰がビクビクっと跳ねる。前も弟の刺激のせいですぐに勢いよく精液が溢れ出した。
がくっと力が抜け、回された腕に背中を預けると、目線を下ろした先に、液まみれの弟の手が見えた。

「……ああ、すごい、兄貴の……」

興奮した顔で呟くと、手についたものを淫らに舐め取る。その卑猥な行為にまた羞恥が募っていく。
クレッドは自分の上体をベッドへと倒し、仰向けに横たわった。
上に置かれたクッションに頭を埋め、俺を下から見上げてくる。……え? 俺はどうすればいいんだ?

「なに、してんだよ……っ」
「兄貴……このまま……」

弟が息をつきながら、口をわずかに開けて次の言葉を紡ごうとする。……ふざけんなまさか動けとか言わないよな?

「嫌だ、出来ないッ」

先手を打とうと、少し声を荒げて反論する。こいつに全部見られてる距離からそんなこと、耐えられるはずがない。

「……出来ない?」
「無理だっ、俺の好きなことって言っただろッ」
「……分かった。俺が下から突いてあげるから、そのまま……いいだろ?」

なんだその譲歩してやるぞみたいな顔は。あんまり状況変わってないじゃないか。俺結局この体勢で我慢しなきゃなんないのか?

半分涙目で睨みつけても、全然この変態には効果を示さない。くそっ。
クレッドは宣言どおり下からゆっくりと腰を突き動かしてきた。

「や、やだって、言ってっ…………うあ、あ、んあぁッ!」

ゆさゆさと腰を振られ、必死に体勢を取ろうと、奴の引き締まった腹筋に両手を添える。忘れてたはずの屈辱が、行為を通じて段々蘇ってくる。

「あ、あぁッ、い、や……み、見るな……あぁッ」
「隠さないで、俺には、全部見せて」
「や、やだ……も、う……無理だ……っ」

言葉では抗おうとしても、体が言うことを聞かない。さっきイッたばかりなのに、中で弟のモノがうごめいて、それを何度も締め付けて、再び快感がどんどん登りつめていく。
もう、俺は一体、どうすればいいんだーー

「…………クレッド、もう、……あぁっ、こっちに、……近くに、……来てっ」

腰を揺り動かしながら弟の姿が視界に入り、考えていた事が自然に出てしまった。依然として女々しい自分に呆れるけれど、やっぱり近いほうがいい。
すると弟が一瞬驚いたような顔で俺を見やった。

「兄貴……ッ」

すぐに体を起こし、俺に抱きついてくる。いきなり互いの体がまたぴったりと密着し、深く入ってきたそれに身じろいだ。

な、なに、もういいのか? 俺が、来てなんて言ったから……?
クレッドの両腕が背中にがっしりと回され、少し汗ばんだ体からじわりと体温が伝わってくる。

「……ああ……兄貴……っ」

再び腰を深く突き立てながら、弟が激しく息づく。蒼い目が俺のことを真っ直ぐ映し出し、何かを言いたげな眼差しを向けてきた。
二人で揺さぶり合う中で、心臓がドクンと大きな音を立てる。

「ああ、もう、……兄貴っ…………俺の、ものに、なって……」

短い吐息の合間に、縋ってくるような切ない声で言う。思いがけないその言葉に、俺は大きく目を見張る。
なに言ってるんだよ、まだそんなこと、言ってるのか……?

「クレッド……」

こいつはきっと、俺が思ってるよりずっと不安なのかもしれない。
子供みたいに、俺の言葉を、気持ちを欲しているんだ。でも、何故だろう? 前は戸惑っていたのに、今はそんな弟を愛しいと感じる自分がいる。

「……ちゃんと聞けよ、……俺は……お前とじゃなきゃ、こんな事しない。したくない……だから……」

渇望に揺らめく蒼い瞳が、俺を見つめる。その先を言って欲しいと願っている。
繋がっている体のせいだけじゃない。溢れ出す気持ちが身を焦がしそうになるほど、全身を熱く駆け巡っていく。

「だから……クレッド、……俺はもう、お前のものだ……」

静かに告げて、弟の頬に手を当てる。
安心させるためだけに言うんじゃない、心の底から出てきた言葉だった。それに、こいつに言わせてばかりなのはずるい。

だからもう苦しそうな顔をするな、俺はお前の優しい顔がみたいんだ。そう言い聞かせるように、そっと頬を撫でる。

「……本当に? 兄貴……」

クレッドは震える声で呟いた。少し眉を寄せて、目を閉じる。再び俺の心臓がトクンと音を響かせる。
長いまつ毛が一瞬揺れ、もう一度瞼が開かれると、その澄んだ蒼い瞳に自分が映し出された。

「……ああ、兄貴……嬉しい……」

弟が柔らかい笑顔を見せてくれた。俺は衝動的に、奴の唇に自分の口を重ね合わせる。わずかに震えたクレッドの体に、きつく腕を回した。見つめ合い、何度も何度もキスをする。

弟のことを愛おしいと思う自分がいた。
この先何が待ってるか分からない。でも今はこれでいいんじゃないかと思った。
だってもうどうせ、止まらないんだ。思ってしまったら、止められないんだ。

気持ちを認めた後は、不思議と霧が晴れたような感覚がした。
今はただ、二人で抱き合って思いを確かめ合いたい。幸福に包まれる中、そんな事を考えていた。



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