俺の呪いをといてくれ | ナノ


▼ 21 飽き足りない男 ※

その夜、俺は弟の部屋で時間を持て余していた。十分な広さのあるリビングと台所、他にも数個の部屋を兼ね備えた立派な住居ともいえる空間だ。だが綺麗に整頓された室内にはまるで生活感がなく、おそらく簡易的に泊まるための場所なのだろうと思われた。

暇すぎてどうしようもなくなった俺は、大きなソファで横になっていた。すると、ああ、またいつの間にか眠ってしまっていたのだろう。どれだけ時間が経ったのか分からなかったが、物音がして目が覚めた。

クレッドが帰ってきたのか? そう思い部屋の中をうろつく。どこからか、水の音がする。もしやーー
俺はすでに見つけていた浴室へと向かった。曇りガラスではっきりとは見えないが、中に人影が見える。げ、あいつ風呂に入ってるんだ。
そそくさとその場から立ち去ろうとすると、突然ガラッと風呂の戸が開けられる音がした。

「兄貴、何してるんだ?」
「……いや、何も」

振り向くと、裸の弟が水に濡れた状態で立っていた。湿った金色の髪に白い肌、腹筋が割れていて十分に引き締まった肉体。男らしさに溢れる弟の全身を初めてはっきりと目の当たりにし、醸し出す色気の量に圧倒されそうになる。

「あー……邪魔したな。じゃあ……」

そう言って踵をかえすと、やっぱり弟の手に腕をとられた。落ち着こうと努めるのだが、すでに嫌な予感しかしない。

「離せ。濡れるだろ」
「服脱げよ、兄貴」

……全く会話が噛み合っていない。何故俺が服を脱がなければならないんだ? 兄弟仲良く一緒にお風呂に入れとでも言うのか、この弟は。ーーだが奴の思惑は俺の危惧した通りだった。

「一緒に入ろう、ほら脱がしてやるから」
「離せっつってんだろッ」
「脱がないとこのまま抱きつくぞ」

もうほとんど抱きついてんじゃねえか。クレッドは嫌がる俺に構わず、あっという間に俺の服を剥ぎ取っていく。強引に浴室へと連れられ、シャワーの下へと引っ張られた。お互いに水に濡れ、ものすごく至近距離で見つめ合う。

「俺、人と風呂入るの好きじゃないんだけど」
「そうか? でも昔はよく一緒に入っただろ」
「それはお前が小さい時の話だろ……」

時々こいつが昔の話をしてくるのが理解出来ない。俺達は子供の頃はわりと仲が良かったが、成長してからはあまり会話なかっただろうが。……いや、昔の話はあまり思い出したくない。子供の時の可愛げがあったクレッドのことを思い出すと、とてもじゃないが今の状況に耐えられなくなる。

「兄貴、体洗ってやる」
「はい……?」

こいつは何故、俺の思考を少しでも読み取ろうとしてくれないのかな? 本当に俺のこと好きなのかな?
沸々とそう思っているのに、俺はどうして、すでに石鹸を泡立てて俺の体に塗りつけてくる弟に、好き勝手させているのだろう。

「ちょっと、おいっ、へ、変な感じに触るなよ……ッ」
「変な感じって何だよ? 普通に洗ってるだけだろ?」

向き合って首から耳の後ろ、鎖骨や腕を、大きく滑らかな手が流れるように滑っていく。自慢じゃないがこんな風に体を人から洗われたことなどない。

「後ろ向いて……」

そう言いながら体を反転させられ、泡のついた手が上半身に這わさっていく。……ああ、これはまずいって。何のプレイなんだよ一体。奴の手が胸から腹を撫で、ぬるぬるした感触に有ってはならない快感が芽生え始めていく。

「んん………」

ただ洗ってるだけなんだから反応しちゃ駄目だろ、そう自分に言い聞かせ耐えていると、クレッドの手が太ももへと伸ばされた。しゃがんで足まで丁寧に洗ってると思ったら、再び立ち上がって俺を奴の体ごと壁へと押し付けようとしてくる。

「んぁっ、な、にっ」

とっさに目の前の壁に両手をついて体を支える。背中にピタリとくっつけられた弟の胸板を感じ、じわりと体の内側から熱が高まっていく。

「……兄貴……勃ってる……」

ああ勃ってるよそれがどうした、何か悪いか? こんな風に触られて勃たないほうが男としてどっかおかしいだろうが。

「お前だって勃ってるだろ!」
「当たり前だ。何十時間我慢してると思ってるんだ」

切羽詰まった低い声で囁かれ、体がびくっとする。え、何その口調、団長モード? 言ってることは最悪なんだが。馬鹿な突っ込みを入れてる間に、クレッドの手が俺の勃ち上がったものを包み込んだ。泡のついた手で上下にくちゅくちゅとやらしい音を立ててしごかれ、一気に腰がくだけそうになる。

「あ、あぁ……っ」

弱々しい声を漏らしながら、壁についた手に力を入れる。後ろで同じように短い吐息を漏らす弟の興奮が、密着した体から直に伝わってくる。

「兄貴……足閉じて」

そう言ってクレッドは握っていた俺のモノから手を離し、自分の硬くなったモノを俺に閉じさせた両足の間にねじ込んできた。泡のついた足の間でぬるぬると前後に動かされ、あまりに恥ずかしい行為に頭が真っ白になりそうだ。

「やめ、ろッ……変態っ……」

弟はかまわず俺の腰をもって、ゆっくりと自身を動かす。後ろから追い立てられるように奴のモノが俺のものに擦り合わされ、そのもどかしい刺激にじわじわと快感が広がっていく。

「んんっ、ああ……は、あぁっ」
「……ああ、兄貴の太もも、気持ちいい……」

この野郎、卑猥なこと言いやがって。自分の体をただ使われていることに反抗すべきなのだが、俺はただ喘ぐことしか出来ない。勃ち上がった自身への快感が足りず身をよじると、それを察知したのか弟がさらにぐっと体を押し付けてきた。

「前も、触ってほしい……?」

耳元でそう囁かれ、一瞬体を仰け反らせる。そう思っていても、誰が言うかと心の中で叫びながら黙っていると、クレッドの動きが急に止まった。俺が浅い息を繰り返している間、今度は足を広げさせ、泡のついた指を尻へとあてがってくる。中をゆっくりと前後になぞるように指を入れられ、大きく反応してしまう。

「は、ぁっ、ああっ」

ぐちゅぐちゅと音を響かせながら指を動かす。心なしか、前より違和感が少ない。もしかして、段々この行為に体が慣れてきてしまっているのか。
クレッドは複数入れてた指を引き抜いて、自身の硬いものを入り口へ押し当てた。ああ、やっぱりこっちは、何度その瞬間が来ても、慣れることはない。

「もう、入れるぞ……」

かすれた声でそう呟いてぎゅっと腰を掴み、ゆっくり中へ挿入させていく。大きなものが奥まで達し、その衝撃に足がガクガクと震える。立ったままで入れられるなんて、初めてだ。どう体勢を取っていいか分からず、壁に置いた手が滑りそうになる。

「兄貴……こっち来て」

後ろから抱きしめられるように腕を上半身に回され、腰をぐっと入れられる。そのまま速度を速めてズプズプと中へ突き立てられ、いきなり与えられた大きな快感に耐えられなくなる。それだけじゃない、再び伸ばされたクレッドの手が俺のものを握り、くちゅくちゅとしごき始める。

「んん、待って、ゆ、ゆっくり、して」
「駄目だ、とまら、ない……」
「んぁ、んんっ、や、だっ、ああっ」
「あ、兄貴、すごく、いい」

前と後ろを同時に攻められ、下半身から力が抜けていく。最初から容赦のない弟に腰をガンガン打ち付けられ、浴室中に淫らな喘ぎが響いていく。やがて中にたっぷりと吐き出されたそれが、静かに滴り落ちるのを感じながら、俺は弟の濡れた体に力なく寄りかかった。


風呂を出て体をクレッドに拭かれる。足にまだしっかり力が入らないまま、俺は抱えられてベッドへ連れられた。
俺が懇願した為に掻き出されたのにも関わらず、中にまだ奴の精液が残っている気がして、体の疼きが止まらない。もう無理だ……そう思っているのに、まだ始まったばかりだと言わんばかりに、弟が俺の上へ覆いかぶさってくる。

「兄貴、頼みがある。俺のーー」
「嫌だ」

体は疲れていたが、即答した。出来る時に自分の意志ははっきりと示したほうがいい。どうせこいつには何の意味もないのだろうが。

「……まだ何も言ってないだろ?」
「ろくな事じゃないだろ」

俺の言葉に少し困ったような顔をしている。ほんとにろくな事じゃないのかよ。俺は戦慄しながら体を横にして弟に背を向けた。「兄貴……」と声をかけられ背中に奴の唇がそっと触れられる。腰に手を置いたまま、舌先や口で肌を吸われ、ぞくぞくと体を震わせる。

「んっ、あぁ……何して……んだよ……」

後ろから首筋に口を這わされ、まだ濡れた髪にクレッドの吐息がかかる。熱い手が上半身に触れられ、胸を撫でられる。そのまま下のほうに伸ばされたかと思うと、横向きの体勢でいる俺の片足を持ち上げてきた。

「おいっ」

奴の足が無理やり後ろから俺の足の間に入ってきて、股の間を膝でぐりぐりと押し付けられる。何してんだ、この変態野郎はッーーそう思い振り向こうとしたら、片腕で上半身をがしっと抑えられた。もう片方の手が首の下から忍びより、首筋を撫でる。首と顎を優しい手つきで触られ、全身にびりびりと何かが走る。

「なあ、兄貴……俺の指……舐めて」

弟の信じ難い言葉に、俺の思考が完全に停止した。こいつ、ふざけてんのか? 俺の思いもよそに、奴の手が俺の顎を掴み、指で唇をゆっくりとなぞってくる。

「口開けて……舐めて、兄貴」

耳のすぐ後ろで囁かれ、体がビクつく。奴のもう一方の手が下半身へと伸ばされ、再び弄ってくる。もう嫌だ、なんでまた硬くなってんだよ俺の……。

「ん、ん……っあ……ふ……」

それで、なんで俺は半ば強引に入ってきた奴の長い指を、舐め始めてるんだ。弟にしごかれながら、弟の指を口にいれ、必死に舐めとる。その卑猥な行為に、すでに理性が飛んでしまったのかとも思う。

「あ、あ……兄貴、……もっと奥まで……咥えて」

こいつは、何を想像してんだろう。俺に指を咥えさせて、いやらしい言葉を耳元で囁いて。怒りに反して快感が下に集まり、腰の揺れが大きくなっていく。

「んん、ふ、ふぁっ、んむ、んっ」

もうイキそうだ。ガクガクと腰を痙攣させながら喘ぎだけで訴えようとすると、クレッドの唇が俺の首筋に添えられた。耳まで滑っていくそれが、耳たぶを噛み、舐め上げられていく。そして不意に奴のしつこい指から俺の口が解放された。

「ん、もう、い、イク……あ、あぁ、あああッ」

恥ずかしげもなく声を出しながら、俺は思いきり弟の手の中に自らの精を放った。腹にもかかり、こぼれ落ちた残りの液がボタボタとシーツに垂れる。

「ああ、いっぱい出したな……兄貴」

弟の楽しそうな声が後ろから聞こえ、俺は放心しながら息を吐いていた。
休む間もなく、クレッドは俺を正面へと向かせ、その横に両手をついて見下ろしてくる。その欲望に支配された邪な蒼い目が、今度は俺の番だと物語っている。

「なに、したいんだよ」
「……こうしたい」

俺を抱き上げて上体を起こすと、向き合うようにして座らせた。両脇に腕を回し、唇を自分ので強く塞ぎ、激しく貪ってくる。体力がなくなってきていた俺に対し、自分はまだ余力十分だとでも言うように、軽々と体を支える。
それだけか? と俺が安心しているのもつかの間、奴はいきなり俺を持ち上げ、自分のモノを下から挿入させてきた。

「んああぁッ」

いきなりの衝撃に俺は弟の肩に手を回し、息をつきながら頭をもたれかかる。こいつの底なしの体力はどうなっているのだろう、片隅で考えるのだが、またもや弟の言葉が俺の思考を邪魔する。

「兄貴、自分で、動いて」

……は? なに、なんなんだ。ずっとアレしてコレしてって……今日のこいつは要求尽くしじゃないか。頭が湧いてんのか?

「ふざ、けんな……っ、お前、今日、わがまま過ぎるぞっ」

睨みつけながら言うのだが、クレッドの顔は紅潮して、夢見心地に見える。潤んだ蒼目が俺の目をじっと見て離さない。

「お願いだ……兄貴……俺も、手伝うから」

そう言っておもむろに一回だけ腰を下から打ち付けてきた。俺は短い悲鳴を上げ、奴を信じられないと言った顔つきで見つめる。

「な、……出来るだろ? ……ほら、もう一回」
「んああッ!」

ニヤリと笑ってわずかに低い目線から俺をじっと見てくる。

「やめ、ろ……いやだ……」
「嫌だじゃないだろ? 兄貴が動かないなら、ずっとこのままだぞ……?」

じりじりと広がる下腹部の疼きに耐えながら黙って目を伏せていると、クレッドが俺の腰を両手で持ち、上下にゆっくりと揺さぶってきた。

「んぁっ、や、めっ、ああっ」
「……そうだ、そのまま……動いて」

下からは全く突き上げて来ないのに、俺は弟の手の動きに誘導され、自然に腰を揺らし始めてしまう。こんなことしたくないのに、当てられる快感に段々抑えが効かなくなっていく。

「あ、あっ、いや、だぁ、とめ、止めて」
「自分で、腰……動かしてるんだろ?」
「んん、んぁ、はぁ、あぁっ」
「ほら……もう、止まらなくなってる」

弟の肩にしがみついて、分けもわからず前後に腰を揺らしていく。ぐちゅぐちゅと鳴り響くそれが、自分の卑猥な動きによって生まれてることに羞恥でおかしくなりそうなのに、なんでし続けてしまうんだろう。

「ああっ、んぁ、クレッドっ、も、もう、だめ、だ」
「……ん、兄貴、まだ、もっと、して、動いて」

なんでそう無理なこと言うんだ、こいつは。こっちは必死に耐えているというのに。俺はお前みたいに無限に腰を揺らせる体力など持ってないんだぞーー

「ああ、んあっ、はぁ、い、イッちゃ、ああっ」
「あ、兄貴、いきなり、締まって……あ、ちょっと、待って……ッ」

ビクビクと中が大きく収縮し、体が後ろに倒れそうになるのを伸ばされた弟の手に抱きかかえられる。けれどその瞬間、奥深くにドバっと大量の液体が吐き出された。……え? まだ止まない快感に震えながら、俺の肩に顔をうずめる弟を見やる。

「はぁ、はぁ、はぁ、……あ、あにき…………」

ぜえぜえと息を吐いて俺をぎゅっと抱きしめる弟の顔はまだ見えない。ぼうっとその様子を見ていると、クレッドがゆっくりと顔を上げた。目元まで赤く染まり、とろんとした表情でこっちを見ている。

「……あ、ああ……兄貴に、……イカされた……」

息も絶え絶えにそう呟き、俺を抱えたまま後ろに倒れ、ベッドへ仰向けに横たわる。俺が……こいつをイカせたのか? 初めてのことに混乱しながらも、妙な感情が湧き上がってくる。はは、俺がこいつをーー

まだ弟のモノが中にあるのを感じる。いつもならすぐに取り除きたくてたまらなくなるのだが、何故か少しそのままで息を整えていた。すると弟の手が俺の髪を優しく撫でる。俺が頭を上げると、クレッドの顔が迫ってきて、そっと口づけされた。ゆっくり舌を入り込ませ、丁寧に味わいながら互いに絡ませ合う。

「んっ、……ふ……っあ」

ああ、気持ちいい。ただ身を任せていると、口を離したクレッドが俺の目をじっと見つめてきた。澄んだ蒼い目が綺麗で思わず見惚れてしまう。

「兄貴……またああいうの、してくれ……」
「嫌だ」

俺が即答すると、上からくくっと喉の奥で笑う声が聞こえた。確かに妙な達成感のようなものを感じてしまったのは否めない。だがそれをこいつに明かす気は更々なかった。これ以上弟の要求が増していったら、俺の身がもたない。
そんなことを考えながら、俺はまだ弟の上でしばしの休息を取っていた。



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