俺の呪いをといてくれ | ナノ


▼ 109 受け止めたい ※

弟は、呆然とユトナのそばに座っていた俺を抱き上げ、隣のベッドへと下ろした。
俺が脱いだ服を拾い上げると、裸だった上半身を隠すように包ませる。

その様子を腕組みしながら見ていた騎士は、ふうと溜息をついた。

「待ってくれ団長。こんな夜更けに、突然俺を外に放り出すつもりか?」
「そうだ。さっさとしろ」
「だが、まだ任務の途中だ。セラウェの様子がおかしい。俺のことを団長だと思いこんでいた。この宿の怪奇現象と関係があるのかは分からないが……」
「兄貴のことは任せろ。報告も俺が行う」

クレッドがはっきりと告げると、騎士は諦めたかのように再び息を吐いた。そばに置いてあった服を着込み、身支度を整える。
ユトナがこの部屋で起こった現象を説明する間も、弟の視線はまだ俺の方に向いていた。俺は何も言えず、ただ心臓の音が鳴り響くのを感じた。

剣を携えた騎士が部屋を出る寸前に振り向く。

「団長が俺と同類だとは知らなかったな。セラウェは寂しそうに泣いていたぞ」
「……お前と一緒にするな。俺には、後にも先にも、ただ一人だけだ」

クレッドはぎろりと騎士を睨みつけた。
騎士は興味深そうにふっと笑った。静かに部屋を後にし、二人だけが残された。

弟の言葉を聞き、さらに胸がトクトクと脈打ち始めるのを感じる。
腕を掴み、瞳をじっと見つめた。まだ信じられない、ずっと待ち望んでいた弟が目の前にいる。
依然としてぼんやりと意識が漂う中、躊躇いがちに口を開いた。

「戻ってきてくれたのか? クレッド」

弟は俺の問いに、一瞬つらそうな顔をした。体には力が入り、強張ったままだ。

「分からない。兄貴を傷つけたくない。でも……近くにいたい。誰にも、渡したくない」

これは夢じゃないのだろうか。
俺にとっては、その言葉だけで十分だった。一気に幸せな気持ちが広がっていく。
弟の胸に縋り付くように抱きつくと、クレッドの体が微かに震えた。

「じゃあ、もう離れるな。勝手に消えたりするなよ」
「……兄貴。けど俺は、駄目なんだ」

また体を離され、険しい顔で見下ろされる。家を訪れた時と同じ表情だ。
まるで憎まれているみたいな、殺意のこもった顔。こいつに何が起こっているんだろう。
知りたい、自分に出来る事があるのなら、何でもしてやりたい。

頬に手を触れ、そこへ口付けた。また拒否されるかもしれない。
けれどもう一度全てを開いて、分かり合いたかった。

「……っ」

俺は迫るように体を寄せて、弟をベッドに押し倒した。上に跨り、呼吸を浅く吐きながら、じっと見下ろす。
髪を優しく撫でて、頬や首筋に口付けを落としていく。
クレッドの全身が緊張している。押しやられないことに安堵しながら、制服のボタンを外し、中のシャツをはだけさせた。

「やめろ、兄貴。駄目だって言ってるだろ」
「どうして? 俺は、お前が欲しい。どうなったっていい、お前が欲しくてたまらないんだ」

愛撫を続けようとすると、首の後ろをがしっと掴まれた。俺は驚き、短い悲鳴を上げる。するとそのまま力強く引き寄せられ、首筋に弟の口が這わされた。
そして突然、激しく噛みつかれる。

「ああぁぁッッ」

この間と同じように、強い痛みが体を通り抜ける。抱きついたまま喘いでいると、舌先で舐められ、しつこく吸われる。
この噛む行為には何の意味があるんだろう。
ぼんやりと考えながら、初めてではないからだろうか、不思議と落ち着きが生まれていた。

クレッドは時折俺の肩や首を噛みながら、下から体を揺らしてきた。
すでに昂ぶっている互いの腰をすり合わせたまま、刺激を求め合う。

「はぁっ、あ、あぁっ」

下着の中が濡れ始めるのを感じ、身じろぐ。もっと直接触れ合いたい。
ふと見やると、弟の瞳が暗く淀んで見えた。部屋の暗がりのせいだけじゃない。
蒼目が何故か暗闇を映し出しているように見える。

「兄貴、下も脱いで」

弟が腰を両手でもち、短く呟いた。
俺は体を起こし、言われた通り服を脱ぐ。まだ制服がはだけたままの弟の上に、裸でまたがろうとする。

でも自分だけなのは嫌だ。一緒に肌を重ね合わせたい。
弟のズボンに手をかけて、脱がせようとする。
抵抗しない弟の腰にぴたりと合わせ、再び体を揺らした。もう、少しの刺激にも耐えられそうになかった。

「あ、あぁ、気持ちいい」

熱を感じ、ぼうっとしてくるのを堪え、腰を揺らし続けた。性器の先の漏れる音が部屋に響く。
かすれた声を出してあっという間に達してしまい、倒れ込むように弟の体の上に身を預ける。
肌の間で濡れる精液を不快にも感じず、早く全て繋がりたいと、そればかり考えていた。

もっと弟が欲しい。
顔を上げると、クレッドは天井に目を向けたまま息を荒げていた。

「どうしたんだ、クレッド」

体を起こし顔を覗き込む。するとぎろっとこちらを見た弟の瞳が、真っ黒に見えた。
さっきと同じだ。蒼い瞳が暗闇のごとく色を変えている。

「お前、目がーー」

頬に手を伸ばすと、ぱしっと掴み取られた。鋭い目つきで睨まれ、息が止まりそうになる。

「見るな……ッ」

うなる様な声色で告げられ、唖然とした。同時に上体を起こした弟は、俺を抱き上げたかと思うと、すぐに体を反転させベッドの上に勢いよく押し付けてきた。
起き上がれないように肩を押さえつけられ、咄嗟のことに分けがわからなくなる。

「なに、……ああぁ!」

再び肩を後ろからガブリと噛みつかれ、急な痛みに背中を大きく反らせる。
そのまま首筋に手のひらを這わされ、撫でられる。顎に指先が触れ、口を手で塞がれた。
息苦しくなり、必死に落ち着こうと努める。

「ン、んんッ」

やっぱり、明らかに前のクレッドとは違う。攻撃性が増している。
呪いのせいだとは思うが、感情も関係あるのか? 俺への思いに、何か変化があったのだろうか。

体を激しく弄られながら考えるが、自分だって余裕がない。
どんな状態になっていても、クレッドが欲しくてたまらない。体は疼き、心は絶え間なく欲している。

そう思っていたのに、次の行為には、拒絶反応を示さずにはいられなかった。

弟は俺の腰を持ち上げ、上に突き出させた。尻をがっしりと掴むと、舌で愛撫を始めた。
それで終わりでなく、尻の真ん中に舌を這わせ、中へ入り込ませてきた。

「ん、ああぁッ、や、だ……やめろ……!」

そんな事をされたのは初めてで、有り得ないほどの羞恥に全身が震えだす。
嫌だ、見られたくない、舐められたくない。
必死に体をよじって抗おうとしても、クレッドの執拗な愛撫は止まらなかった。

「はぁっ、あ、ん、んぁ、や、だぁ」

温かい舌が中まで入り込み、じれったい動きで中心を犯される。
頭の芯まで熱にうかされるまま耐えていると、やがて口が離された。
すぐに重い体がのしかかり、弟は無言のまま自分の滾ったモノを同じ場所に押し付けてきた。

尻にあてがい、ぐいぐいと挿し入れてくる。強引な振る舞いに耐えかね、俺はベッドについてあるクレッドの手を握りしめた。
なんで何も言ってくれないんだろう。
もっと顔を見て、安心したい。俺は、体だけじゃなく、心もつなぎ合わせたい。

「クレッド、まって」
「嫌だ、待たない」
「でもお前の顔が、見たい」
「……駄目だ、このままする」

俺が求めても、弟は冷たい声で言い放ち、激しく腰を突き立ててきた。
今どんな顔をしているんだろう。
もし何かを恐れていたり、不安だったりするのなら、俺が抱きしめてやりたい。

手を握り、前後に揺さぶられながら喘ぎをもらす。
中を大きなモノに擦り上げられ、脳まで痺れそうなほどの快感が走り抜ける。
俺は弟に翻弄されたまま、何度も簡単に達してしまった。

「出すぞ、兄貴」

まだ快感が冷めやらぬ中、焦燥に駆られた声が後ろから聞こえた。
待ち望んでいたものを受け止めたい、一心に思いながら、腰をくっつけて、少しでも体の温もりを感じようとする。

「クレッド、ああ、お前の、ちょうだい……!」

訴えても、思うような反応は返ってこない。
激しい突き上げの後、中に吐き出され、糸が切れたように弟の体が背中に覆いかぶさる。
ああ、これだけじゃ足りない。もっと溶け合いたい。
出されたものが浸透してくる。触れ合えていなかったせいで、懐かしくも感じるあの快感がーー

「うぁ、あ……ん、んぁ……っ」

その時、違和感を覚えた。何かがおかしい。
急激な目眩に襲われ、脱力した体をさらに伏せる。下腹部に伝わるびりびりとした、断続的な刺激。
まだ中に入ったままのものが、少しでも動く度に脳まで痺れさせるほどの快楽が駆け巡る。

「ま、って……クレッド、あぁぁ……変だ、俺」

背中から伝わる弟の心臓が大きく鳴り響く。
はぁはぁと息づき、熱いほどの体温に安心する一方で、体内にある性器が、質量を変えないことに焦りが募る。
弟はゆっくりと体を起こした。再び腰を動かされ、その度に声を上げてしまう。

「ああ、もっとだ、兄貴。……兄貴を、俺の手で、めちゃくちゃにしたい」

首に噛みつき、強く歯を立て、また舐め取る。
鋭い痛みのすぐ後にじんとした疼きが生まれる。
悲鳴をあげながら激痛に耐えるが、弟は思いのままにガンガン腰を突き立てる。

揺さぶられ意識が遠のきそうになりながらも、まだ思いを通わせることを諦めきれない俺は、後ろにいる弟に顔を向けた。

「どうして……クレッド、やっぱり俺のこと、嫌になったのか?」

揺り動かされたまま、必死で問いかける。
するとクレッドは動きを止め、目を見開いた。荒々しく凍るような態度だった弟に、激しい動揺の色が浮かぶ。
初めて俺の言う事をちゃんと聞き入れ、言葉を失った様子だった。

「……そうじゃない。……わから、ない。俺は……」

眉を顰め、黒かった瞳はまた深い蒼を映し出し、揺れ動いていた。
俺は我慢できずに弟の頬に手を当て、顔を寄せた。ずっとしたかった口付けを、自ら施す。

口を離すと、クレッドの表情が今までと変わって見えた。一瞬だけ弱さが垣間見えたように、目元が柔らかくなる。

「兄貴が愛しくて、たまらない。……かわいくて、大好きで、誰にも……奪われたくない。自分だけの痕をつけて、俺だけのものに……したかった」

言うと同時に、弟ははっとした顔をして、自分の言葉に驚いているように見えた。
俺は腹に回されたクレッドの腕をぎゅっと握りしめた。

「そうなのか……? 俺のこと、まだ思っててくれてるのか」

久しぶりに心からの言葉を聞けたような気がして、ずっと寂しくて、不安だった気持ちがゆっくりと薄れていくような感覚がした。
クレッドは俺の顔をじっと見た。

「……当たり前だ。でも、気持ちが強くなりすぎて、抑制出来ない。本当は傷つけたくないのに、抑えられないんだ。呪いのせいなのか、自分のせいなのか、もう分からなくなって……俺は、最低だ」

頭を俯かせ、片手で顔面を覆う。
苦しそうに気持ちを示す弟の姿に、胸が焼かれそうなほど締め付けられる。

「大丈夫だ、クレッド。お前がどんな風になっても、俺は傷ついたりしない。お前が不安なら、俺は全部受け止めたい。……俺はお前と一緒に居られないことが、一番嫌だ」

きちんと伝えようと思うのに、気がついたら涙が滲みそうになっていた。
俺はいつからこんなに弱くなってしまったんだろう。こいつの事になると、今までの自分がいとも簡単に存在をなくしてしまう。

「兄貴、俺が怖くないのか……?」
「怖くないよ。それよりもお前が離れていくほうが、俺は怖い。ずっとそうだった……」

無意識に昔から感じていたことだった。懐いていたと思った存在が、俺のほうを見なくなり、去っていってしまう。
孤独を感じるようになっても、どうしようもならない寂しさに気づかない振りをしてきた。

けれどもう、俺はクレッドのことを離したくない。自分の意思で、そばにいたい、いて欲しいと強く思う。

目を見開いて動きを止めている弟に、再びキスをする。
舌を潜りこませ、丁寧に気持ちを伝えるように唇を合わせる。すると弟の手のひらが頬に添えられた。
力強く口付けを返され、途端にふわふわと体が浮き上がる感じがする。

気持ちがいい。弟にしかもたらされない特別な感覚だ。

「兄貴、愛してるんだ」

口を離し視線を交わした瞬間に、そう告げられた。
俺は何も反応できずに、固まってしまう。

「愛してる。兄貴」

時間が止まってしまったかのように、頬を赤くして俺を見つめる弟の顔が向けられる。
じわりと目が濡れてきて、身体が震えだす。
心臓がトクトクと聞こえ、ぐらつく頭を必死に抑えようとする。

「クレッド、ちゃんと顔見せてくれ。俺も、お前に伝えたい」

はやる気持ちを抑えてはっきりと口にする。
弟は俺の体を持ち上げ、ベッドに座る自分の上に向き直らせた。

体をぴたりと密着させ俺の目をじっと見つめる。
俺は弟の首に手を回し、強く抱きしめた。腕の中にぎゅっと包み込み、離れ離れだった寂しさを埋めるように、その感触を確かめる。
背中に両手を回され、安心感に包まれていく。

もう、一人じゃないんだよな?
何があっても、ずっと俺のそばにいてくれるんだよな?

体を少し離して、透明な蒼い瞳を真っ直ぐに捕らえた。

「俺もお前のこと、愛してるよ。クレッド」

夢見心地で告げる俺の口を、今度は優しく塞がれた。
体が、心が自分たちの想いに満たされて、頭の芯から蕩けていく。

ああ、俺は、お前さえいればもう何も要らないんだ。
お前が一番大切な存在なんだ。

愛しているんだ、この先もずっと、お前だけをーー

身体を強く抱きしめ合い、何にも引き裂かれないように、もう解けることがないように、俺達は互いの熱を与え合った。



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