▼ 102 魅惑的な兄 ※ -クレッド視点-
騎士団長として神経をすり減らすことが多い日々の中、兄の存在は俺に大きな安息をもたらしてくれる。
とはいえ、安らぎだけでは収まらず、無視できない刺激を与えてくるのも常だ。
「なークレッド、お前いつ風呂はいんの?」
居間のソファで俺の足の間に腰を下ろし、胸に背をつけて振り返ってくる。
上目遣いの横顔に見とれてすぐに返事をしないでいると、完全にこちらに向き直り、ちょこんと座り直してきた。
「おい聞いてんのか? お、ふ、ろ!」
眉を吊り上げて大きな深緑の瞳で睨まれるが、全然怖くない。かわいい。
「ああ、風呂か。もうすぐ入るよ」
今日は早めに業務が終わり、部屋に帰ると予期せず兄が待っていてくれた。
嬉しさのあまり素早く着替え、それからずっと腕の中に抱えたまま寄り添っている。
二人でいられる時間を考えると、風呂に入る手間すら惜しい。
「そっか。じゃあ俺先に入るぞ」
「一人で? 俺も一緒に入っていい?」
「……駄目だっ」
最近いつも断られてしまう。理由としては兄いわく「絶対変なこと始まっちゃうだろ!」らしい。
仕方なく俺は風呂場へ向かう兄を見送り、ソファに背を深く沈めた。
いつものことだが、風呂が長い。十五分程度で終了する俺に比べ、四十分ほど入っている。
何をそんなにする事があるのだろうと考えるのだが、余計な妄想が頭を過り自重する。
数十分後、待ちくたびれた俺のもとに、兄は信じられない格好で戻ってきた。
「あ〜さっぱりしたぁ。やっぱお前んとこの浴槽、すげえ広くて最高。俺寝ちゃうかと思ったわ」
寝てしまうのは危険だから止めてほしいが、それどころじゃない。
体にフィットした半袖のシャツからはちらりとへそが見え、短めの半ズボンの下は魅惑的な太ももを晒している。
普段は肌を見せない人なので、すらっとした手足に釘付けになってしまった。
「兄貴、その格好は……」
「え? ああ、長袖の寝間着全部洗っちゃっててさ。夏用しかなかったんだ」
「そ、そうなのか。薄着だな、寒くない?」
心配してるのは事実だが心の中では猛烈に喜んでいた。すでに夏が待ち遠しい。
沸々と湧き上がる欲望を隠しつつ目の前の肢体を眺めていると、兄は部屋は暖かいから平気だよ、と言い残し台所へと消えた。
しばらくして牛乳瓶とグラスを手に戻ってきた。そばにあるカウンターに肘をつけて、瓶の蓋を開ける。だがドジなところがある兄は、それをポロッと床に落とした。
「あれっやべえ、どこいった?」
俺の足元に転がってきた蓋に気づかず、床に膝をついて探し始める。
近くの食卓の下に潜りこみ、四つん這いになって腰を上に突き出している。
ちょうど真正面で兄の扇情的な姿を見せつけられ、俺は喉をごくりと鳴らした。
勿論手助けなどせず稀少な光景を楽しんでいると、兄が再び怒り顔で鋭い目つきを向けてきた。
「おいっ見てないでお前も探してくれよっ」
言うと同時に俺は即座に蓋を拾い上げ、兄のもとへ返しに行った。
案の定見つけたなら早く教えろよッと怒られたが、俺の視線はいつもより肌の面積が多い体へと注がれていた。
気を取り直してゴクゴクと牛乳を飲み始める兄を見て、はたと気がつく。
「兄貴、なんでもう牛乳飲んでるんだ? いつもは運動の後だろ。まだ俺と運動してないぞ」
意図しているのは勿論二人の触れ合いのことだ。
率直に尋ねると、兄が口から盛大に牛乳を吹きこぼした。
俺の服にも飛んだがそれは何の問題もない。だらりと白い液体が兄の唇から首筋へ、胸元へと溢れ落ちるのを見て、俺の中の何かが反応する。
だがすぐに兄の大きな声に引き戻された。
「変なこと言ってんじゃねえ! いつ飲もうが俺の自由だろうがッ」
顔を赤くして反論されると余計に怪しく思える。揺れ動く瞳をじっと見下ろし、様子を窺った。
「じゃあ、また……一人でしてたわけじゃないのか?」
これを言えば怒るだろうと思ったが、抑えきれなかった。
兄への呪いのせいで、最近は常に心配がつきまとっている。個人的なことに首を突っ込む主義ではないが、兄の事となると自分でも常軌を逸してしまう。
傲慢にもそういう欲求は全て自分に向けて欲しいとさえ思っていた。
「してねえよ。だって後で……お前とするだろ? なんで一人でするんだよ……」
兄は恥ずかしそうな面持ちで、素直な気持ちを示してくれた。
ああ、なんて俺は愚かで恥ずべき人間なんだ。途端に申し訳無さが募り、力強く抱き締めてしまう。
「そうだよな、後でたくさん……俺と……」
言いながら、目線が下へ向かう。サイズがぴったりの半ズボンの上から、張りのある尻の形がはっきりと分かる。
ーー今すぐに触りたい衝動に駆られた。
背中に回していた手を伸ばし両手で掴むと、兄の腰がビクついた。
服をぎゅっと掴まれるが、構わず優しく手のひらを使って揉んでみる。
「ぅ、あぁ……」
いつもならば凄い勢いで抵抗されるのに、されるがままになっている。
疑問に思いつつもこの機会を逃す俺ではない。尻の感触を楽しんでいると、さらに邪な発想がよぎる。
「兄貴。触られるの、嫌じゃないの?」
「……嫌、じゃない」
衝撃的な答えに思考が止まりそうになるが、なんとか堪えて耳元に口を寄せる。
ちゅっと口付けると、細い体が微かに震え、力が抜けていくようだった。
耳と首付近にキスしていくと気がゆるむのか、さらに尻もほどよい弾力になる。
「兄貴のお尻、柔らかくて、気持ちいい……」
手の動きを止めずさらに恥ずかしい文句を囁く。さすがに機嫌を損ねるだろう、予想しながら様子を見ると、兄はぐっと俺の背中を掴んだ後、顔を見上げてきた。
ぼうっとした赤ら顔で、予想外の言葉を告げられる。
「……クレッド、早く、ベッド……行きたい」
その一言で、俺の理性が崩壊した。
兄の望みとは完全に逆方向の振る舞いをしてしまう。そのまま体を抱き上げ、自分にしがみつかせたまま、ソファへ連れていき押し倒した。
目を見開く兄を見下ろし少し考えた後、体を反転させ、上からのししかかる。
「なに、バカ止めろっ、ここじゃやだっ」
「ごめん兄貴、ベッドまでもたない」
短く告げて再び尻を撫で回す。太ももと半ズボンの隙間から、下着の中にまで手を滑り込ませる。
直に尻をさわりその感触を心ゆくまで味わう。そのまま真ん中に指を這わせ、優しくぐるぐると円を描く。
浮いてくる腰を抑えつつ、力を抜いてと囁いた。
指をゆっくりと挿し入れ、複数に増やす。窮屈そうに身じろいだのを見て、下着ごと太ももの位置までずらした。
「い、やだぁっ」
羞恥で耳まで赤く染まっている。最近の兄はかなり積極的になっているが、やはり後ろからされるのは抵抗があるようだ。けれどそれも初めだけだと俺も気づいていた。
じっくりとほぐし、硬さをもって張り詰めた自身をあてがう。声をかけながら徐々に腰を沈ませる。
その瞬間兄の体から緊張を感じ取り、優しく背中から尻を撫でて落ち着かせる。
はやる気持ちを抑え前後に慣らしながら、内側を擦り上げるように動かしていく。
ぎゅうぎゅうと締め上げる中に思わずくっと声が漏れるが、冷静さを保とうと努める。
兄の声がしだいに艶めいたものに変わり、聞いている自分の興奮も上り詰める。
「兄貴も俺の、奥まで感じる?」
気分が高揚し確かめたくなった。きっと兄は恥ずかしがるだろう。
「……ん……っあぁ、……おく、感じる……っ」
素直な答えに目が眩み、思いもよらぬ多幸感が押し寄せてくる。
さらなる衝動を振り切って目の前で喘ぐ兄に集中した。
けれどもっと聞きたい。何を望んでいるのか知りたい、全てを与えてあげたい。
一気に欲求が生まれ出て行く。
「どうして欲しい? 言ってみて」
優しく問いかけると、やはり黙ってしまった。
俺は兄が乱れに乱れることを危惧しているはずなのに、自分の前だけではどんな姿でも晒してほしいと反対のことを思っている。
兄は顔を横に向けて、はぁはぁと小さく息づきながら、俺の手に自分の手を重ね合わせた。
「お前の、俺に……もっとちょうだい」
艶めかしい兄の台詞に、図らずも動きが止まってしまった。
聞き間違いじゃないのだろうか、混乱する俺をよそに、腰を揺らめかせ誘うような仕草をしてくる。
その後も、もっともっととねだられ、俺は迷わず自身を打ち付けた。
淫らに跳ねる腰を押さえつけるように上から突き立てる。
その度に兄の嬌声が耳に届き、重ね合わせた手を互いにぎゅっと握りしめる。
尻を撫でていた手を前に伸ばした。
触れていなかった兄の性器に指先を這わせると、駄目だ、と言われた。
「どうして? 触っちゃだめ?」
愛しくて仕方がないその場所に触れるのを禁じられると、途端に辛さが襲う。
けれど兄は頑なにうんと言わなかった。
「いいから、触るなっ、で、出ちゃうから」
可愛らしい理由を明かされるが、それの何が悪いのかと考えてみる。
この体勢でソファを汚してしまうのが嫌なのだろう。前も同様のことがあり自分の欲を優先して怒らせてしまった。悲しいが今度はちゃんと言う通りにしようと思う。
けれど二人して理性が飛んでしまうほどの行為の最中なのに、いつか何も気にならないぐらいまでになってくれるのだろうか。
俺は今すぐにでも、そんな兄の全てを受け止める自信がある。勿論その都度、喜びに悶え震えるのは確かだろうが。
「分かった。でも、座ったほうがいい?」
兄の好きな体位に切り替えようかと思ったが、ぶんぶんと首を横に振られた。
「大丈夫だ。このままで……」
「本当に?」
「だって、お前好きだろ、これ」
恥ずかしそうに消え入るような声で告げられた。
俺の為に受け入れようとしてくれてるのか? 兄の気持ちが嬉しくてさらに熱が回るのを感じた。
急にその優しい思いに寄り添いたくなり、自分勝手にも自身を引き抜き仰向けにさせた。
色めく悲鳴が上がり、上から見下ろす。余裕なく息を上げる俺に向かって、兄は驚いた表情を見せた。
黒髪をそっと撫で上げる。
「俺、顔見ながらするのも好きだよ。兄貴みたいに」
優しく告げると途端に目を見開き逸らされてしまう。指先で頬に触れ、そのまま唇をなぞるときゅっと目を閉じた。
再び開いた瞳は熱のこもった視線で見つめてきて、今度はこっちの言葉が中々出てこなくなる。
「クレッド……」
俺の腕を握って自分の腰をわずかによじらせる。引き寄せられるように覆いかぶさり、もう一度挿入すると自然に奥深くまで導かれた。
「兄貴、気持ち良い?」
確かめるようにじっくりと動かし中を探っていく。
「うぁ、あ……きもち、いい……」
熱を帯びたままこぼれ落ちる声音に耳を澄ませる。速度を早めるにつれ兄の腰が更にいやらしく波打つ。
「んあぁっ! もっと、来て、クレッド……!」
しがみつかれながら可愛い声でねだられると、動きも止められなくなる。そのまま思いの限り揺さぶり続けた。
奥深くまで達するとまたぎりぎりまで腰を引き、反動をつけてさらに深くを穿つ。その度に漏れる兄の声が俺の頭の中まで痺れさせる。
こんな風に愛しい兄と体を繋げていると、他の事は何も考えられなくなるほど、一瞬にして蕩けてしまいそうになる。
「ああ、兄貴、すごく良い、気持ちいい」
すぐそばの耳元で告げると、握る手に力を込められ息も絶え絶えに、嬉しい、と小さな声が返ってきた。
兄の素直な気持ちに翻弄されてしまう。顔が見たくなり体を起こし、自身を堪えさせながら腰を突き入れて上から快感に震える兄の姿を見る。
「やだ、クレッド……近くに、きて」
「すぐ行くよ、もうちょっとだけ、兄貴の体、見せて」
肌を密着させるのを兄が好むように、勿論俺も好きだ。だがこうして時折全身を眺めたくなる。
俺の下でびくびくと反応し、顔を紅潮させ、目元を潤ませている。
口元は口づけを望んでいるのだろう、時々薄く開かれやらしく兄の舌で拭われる。
今すぐにでも塞ぎたくなる衝動を抑え、無心で腰を打ち当てる。
兄の腹の上には先を濡らした性器がぴたりとくっつき、腰を揺さぶるたびに震える様子が何とも言えず艶かしい。
「んぁ、あぁっ、はぁっ」
息をあげて視線を交わし、腰をビクつかせる様子から、もうすぐ絶頂が近いのだろうと予測する。
さらに奥を突き上げると、甘やかな喘ぎが部屋中に響き渡った。
熱っぽい目元が訴えてくる、自分もそろそろ限界だった。
最近は本当に余裕がない。兄の仕草や声、言動全てに心を乱され、同時に頭をやられてしまったかのような歓びと幸福が襲い来る。
「もう、イキたい? 兄貴……」
「んっ、んっ、い、いく」
「じゃあ、もっとしてあげる」
「……っはぁ、……っ、たくさん、して、クレッドっ」
濡れた瞳で懇願されまた頭がぐらつく。
おそらく一緒に達してしまうだろう。冷静に考えながら大きく揺さぶる。
すると兄の中で自身が急激に締め付けられた。
耐えるように勢いよく打ち付ける。
「あ、あ、だめ、い、いっちゃ、う……!」
体全体をしならせ、大きく跳ね上げた腰を押さえつける。すると更に予期せぬことが起きた。
「んぁあ、ああぁっ! クレッド……!」
その瞬間に何度も俺の名を呼んでくれる兄に目を奪われていると、兄の腹の上で震えた性器が痙攣し、触ってもいないのにびゅるる、と白い液が肌の上に飛び散った。
衝撃的な光景に意識を取られ、連鎖的に昂ぶった自身が兄の中で数度脈打つのを感じた。
「……く、あッ」
腰を震わせ中に吐き出したことにやや呆然としていると、腹にだらりと自らの精液をまとわせた兄が、両手で一所懸命自分の顔を覆っていた。
「なんで……や、だ……」
ぼそりと呟き、表情を見られまいと隠している。
思いがけず出してしまったことが恥ずかしいのか? なんて可愛いんだろう……
「兄貴の……触ってないのに、いっちゃった?」
止せばいいのに聞かずにはいられない。兄は手を外し、真っ赤な顔で俺を睨みつけてきた。
さっきまでの色めいた表情は消えてしまったが、怒っていても十分愛らしい。
何も言葉が出ないのか黙っているので、その間性器にそっと触れた。液をまとわせ官能的なそれを愛撫すると、まだ敏感な様子で震え出す。
「かわいい、兄貴。それだけ気持ち良かったってことだろ? 俺は嬉しいな」
「……き、気持ちよかったけど……お前のせいだっ」
自分の気持ちを述べたのだが、やっぱり怒られてしまった。
予想通り俺のせいにされているが、その事実には喜びしか湧いてこない。
どうやって機嫌を直してもらおうか考えつつも、強硬手段に出ることにした。
兄の体を下から抱きかかえ、そのまま寝室に向かう。
「ちょ、降ろせよっ、どこ行くんだ!」
「兄貴がベッドでたくさんしたいって言ったんだろ。早く続きしよう」
「お前風呂まだだろッ」
「いっぱいした後で兄貴が寝たら入るよ。起きてる間は離れたくない」
率直な思いをぶつけるが、まだぶつぶつと文句を言っている。
そんな可愛らしい口元にまだキスしてなかった事を思い出し、抱きかかえたまま兄の唇を熱烈に塞ぐことにした。
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