お父さんにお世話してもらう僕 | ナノ


▼ 32 結びつき

俺のみっともない勘違いがあってから、ロシェはそれほど頻繁に自室にこもらなくなり、不思議なことに体の触れ合いについても、以前よりオープンに話すようになった。

息子は同性愛者であるレイさんに初めて出会い、自分はどういう存在なのであるかということも、疑問に思ったらしい。
小さい頃に女の子を好きになった経験もあるというから、現実には同性愛者ではないと思うが、今好きでいるのは男だ。しかも父親である。

そうした中で自我を思い悩むのは当たり前のことで、俺としても同様に痛いほど理解できる事柄だった。

俺は親だが、ある意味でもう親ではないのだ。
蓋を開ければ親失格で、人としても倫理からは外れている。

でもロシェが欲しい。ロシェを強くこの腕に求めている。
これは、恋のような気持ちだと思った。
俺は血と愛を分け与えた息子に、恋をしているのだと。

そんな存在を、なんと呼べばいいのだろう。
思い浮かぶ表現はいくつかあったが、まだ息子の前で口に出すまでには、至らなかった。


「……あっ……んあ、ぁ…っ」
「ロシェ……」
「お、と、うさ…!」
「…大丈夫か…?」
「ぅ、うん、…あぁん…っ」

ある晩に、俺達は寝室で互いに触れ合っていた。息子が成長したからだろうか、俺にとってもそれは昔とは違い、より二人の心を通わせる親密で甘やかな行為になっていると感じる。

横たわり、片足をみだらに開いているロシェの後ろに、手を這わせた。優しく揉みながら、中心に指の腹を添える。
ぐるぐるとそこを撫でると、ロシェは高い声を出してまたあえぐ。

「ん、ぁ……お父さん、そこもして……欲しいよ…」

少しずつ行為を進めようと、触る範囲を広げていた。息子は俺が考えるよりもまだ怖さなどはないらしく、こうして甘えた口元で誘ってくる。

「いいのか? 本当に」
「…うん……」

うっとりした表情で見つめられ、柔肌をぎゅっと胸板に寄せてくる。自分を信じきって求めてくる息子が愛しくて、俺は毎回頭がやられそうになる。

でも今日こそは、前進しようと密かに決意していた。
そんな行為は俺だってしたことがなく、しかも相手は息子で、半身に自由のきかない少年だ。

いくら愛していようが、求め合っていようが大人である自分がすべきではないことは、分かっている。
きっと昔の自分ならば、「体を繋げることだけが愛情表現じゃない」と言い頑なに聞き入れなかっただろう。

だが、この時間は愛する者同士の、かけがえのない時間だった。
求め始めてから十分すぎるほどの時間も要した。
だから俺は濡らした指を息子の秘部に這わせ、少しずつ中へと進めていく。

大切な相手を気遣い、自分のことは考えず、ただ解すことに徹する。
俺を受け入れるために、ロシェは体を開こうとしてくれていた。

「あっ、あっ……んぅ、う」
「……どうだ? なんでもすぐに言え、ロシェ」 
「…んっ……だ、いじょうぶ……もっと……」

隣に寝そべり、抱きかかえながら探る。時おり耳に唇を寄せ、気を紛らせるために口づけしたり、撫で上げたりするが、余計に蜜のような声が響いた。

そんなことを繰り返しているうちに、次第に息子の様子が変わる。
びくびくと内腿を震わせ、小さな息を吐き続けている。
心配になった俺は頬をさわり、顎をとって視線を合わせた。

「おい、平気か?」

すぐに答えは返ってこなかった。けれど伏せがちの瞳が数度瞬きをし、うっすらと赤い目元でこちらを捉える。

「どうしよう、お父さん……」
「なんだ?」
「……僕、お父さんの指って考えただけで、とっても気持ちがいいの。……お父さんのおちんちんが入っちゃったら、どうなるの……?」

濡れた口元から発せられた台詞に、俺はシーツに頭をぶつけそうになった。
意に反して固まってしまったが、すぐにロシェを抱きしめる。興奮に押されて唇を塞ぎ、反応して腰を揺らす息子からは更にやらしい声が漏れた。

「あっ……あぁっ……や、んあぁ……!」

そうやって、ロシェが俺の指で快感を得たときは感動した。
もう少しだと、待ちわびた。 


何度か夜を繰り返し、いよいよその時がやってくる。
肌を合わせるたび、身体に蓄積した熱はとけずに燃え上がるようだ。

俺は、シーツに寝そべっていた息子に対し、正常位で覆い被さっていた。両足を開かせて、膝の間に割り入り、自身を押し付ける。

ほぐれきって濡れていた狭いそこは、ひくひくと淡い色で俺を誘っている。薄いゴムで隔たる温かい内壁に先端を挿入させていくと、ロシェの体は大きく跳ね上がった。

「あ、あぁぁ……や、あぁっ」

涙を浮かべ浅く呼吸をする息子に、手を伸ばす。言葉が出ないまま瞳を見つめ、頬に触れた指で落ち着かせる。

「んっあ、お父さんの、大きいの……入っちゃ、う…っ」
「……ああ、俺も感じるよ、お前のなか……」

ようやく待ち望んだ結びつきを得て、全身がぞわりと粟立ち、息子のことしか感じられなくなった。

「ロシェ、……ロシェ」

視線を交じらせ腰を入れていく。息子の奥深くに達するまで、探し、求める。全力で手繰り寄せる。
もっと感じたい、全てが欲しいと熱い芯を打ち込んで、儚い華奢な体を抱きしめ包みこんだ。

「愛してる」

あふれる思いを告げると重なり合う息子の瞳から涙がこぼれた。

「僕も愛してる、お父さん」

答えながら落ちていく滴をぬぐってやる。上からまた体を抱き込み唇を重ねた。片足を持ち上げさらに深くを突いていく。
歓びに開いた口を何度も口づけで塞ぎ、愛しい体を抱いて揺らす。

「あっ、あぁっ、お父さん、好き、大好き…っ!」

可愛らしく自分を求めてくるロシェに、同じ言葉を囁く。
何度でも言ってやりたかった。言い足りない分は体で埋めようと全身全霊でロシェを愛した。

長い夜の時間、そこには二人しかいなかった。
頭で考えていたよりも、感動的な、喜びの交わりだった。
ひとつになりたいと思った。欲しいだけでなく、与えたくなり、感じてほしかった。
俺の思いも、愛もすべて。抱きしめ、熱を分け与えることによって、胸のうちにあるすべてを伝えたくなったーー。



◇◇

「お父さん、お父さん」

肩を揺さぶられて、うなり声を上げた。近くのテーブルから眼鏡を取って薄目にかける。
時刻はまだ朝方だったが、俺は思わず飛び起きた。

昨日ーーロシェを抱いた。
そのことで頭がまた満たされ、シーツの上に横たわる息子を見下ろす。

「すまん。寝てた」
「ううん。いいよ、起こしちゃってごめんね」

恥ずかしそうに布団から顔を出しているロシェが、いつになく可愛いらしい姿に映った。自然な動作で身を屈め、キスをする。
何度も顔を傾けて続けていると、「んん」という声とともに肩をぎゅっと掴まれた。

「もう、嬉しいけど、僕トイレ行きたいの」
「ああ。分かってるよ。ごめん」

そうだとは思ったが何故か今はずっとロシェを抱きしめていたかった。肌から離れがたかった。

昨夜は初めてだというのに二回もしてしまった。もちろん無理しない体勢を心がけてゆっくり行為に及んだが、息子の腰の負担を考えると、今日は俺が全部身の回りの世話をするつもりだった。

シーツから抱き上げて廊下を歩く。

「ねえ、最近僕重くない?」
「全然。お前は? 尻大丈夫か」
「……もうちょっと違う聞き方してよっ」

小さく怒られて寝起きなこともあり混乱する。
だが本当に心配だった俺は、寝室に帰ってきたあとで確認することにした。
息子は嫌がっていたが昨日はあれほど俺にくっついてきて愛し合ったというのに、その雰囲気の差は少し不可思議に思った。

結局大丈夫だということが分かり胸を撫で下ろす。
俺は昨夜からずっと満たされていた。男ならば皆そうだろう。
ロシェもそうだった。だが受け入れてくれた方は、厳密にいえば少し違ったのかもしれない。

「ねえ、お父さん。僕たち、しちゃったね」
「……ああ。そうだな。長かったといえば、長かったな……」

ベッドの中でこれまでの道のりを思い出し、感慨深くなった。
正直もっと後悔に苛まれるかと思っていたが、まったくそんなことはなく俺は、ただ幸せを感じていた。

ロシェと、自分。
この世にはもう二人しかいないという錯覚さえ起きそうなほど、隣で見つめてくる息子が愛しくてたまらなかった。

だが息子には、まだ足りないものがあったらしい。

「じゃあ、これで終わりじゃないよね…? またしてくれる? お父さん……」
「なに言ってるんだ、当たり前だろ」

こいつは未だに分かってないのかと、控えめに見上げてくる瞳をじっと捉えて小鼻をつまむ。
まだ何か不安なのかと、それをゼロになるまで拭いたくなり、強く胸に抱いた。

「じゃあ、じゃあね。お父さんって……僕の彼氏になるのかな?」
「ーーはっ?」

突如違和感の塊のような単語が聞こえたことから、俺はすっとんきょうな声をあげて、思わず胸から息子を離した。
だがロシェは期待するような、眩しい青い瞳で俺の反応を待っている。

「それはちょっと……嫌だよ、か、彼氏だと……?」
「……どうしてっ!?」

途端に不満げに眉毛が落ちて言葉に詰まる。
いい年をした自分がそんな風に呼ばれることがそもそもおかしいと思ったが、……別に年は関係ないか。いくつになっても人の勝手だしごくありきたりな概念だ。

しかし自分にはやはり合わないと思った。息子の彼氏ですとは性格上言えない気がした。
それに俺は勝手に、自分はもっとそれ以上の存在なんじゃないのか?というおごりすら涌き出ていた。

「お父さん、そんなに嫌なんだ。すごい考えてるし…」
「いや、嫌とかじゃなくてな……」

二人で黙りこみ、妙な空気になった。昨日は甘い雰囲気だったのにと、自分の協調性のなさや頭の堅さが憎らしくなる。
けれどもしかして彼氏なんてことを提案してきたのは、あのリハビリの男の影響もあるんじゃないかと思い当たり、やや苛立ちもわいた。

「ロシェ。俺はな、彼氏よりもっと上がいい。ああ、そうだ。そんな言葉にはおさまりたくない。だから違うのを考えろ」

宿題を出したつもりでその場をしのごうとした。
だがもう高校生の息子は俺よりも上手だったようだ。

「いいけど、お父さんも考えて。ねえ……」

甘ったるい声を出してこんなタイミングでキスをねだってくる。
仕方なくまた体を抱えて一度唇を押し付けた。
見つめ合い、俺はやっとのことで口を開く。 

「恋人だろ。とりあえず」
「……ほんとうっ?」
「ああ。……すごい嬉しそうだなお前」
「うんっ、嬉しい!」

ころころ表情の変わるロシェが子供のように喜んだ。
とうとう言ってしまったが、その言葉ですら、俺にはどこか物足りなく感じた。

でも今、目の前で幸せそうにしている息子を見たら、それでもいいかとも思う。とりあえずは。



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