▼ 25 求めるロシェ
放課後、学校の玄関口に父が迎えに来てくれていた。いつもはニルスくんと一緒に出て来ていたため、一人だったことを不思議に思われたが、僕は適当にごまかした。
車に揺られて家に帰ってからも、あまり父の顔が見られなかった。
僕、お父さんじゃない人と、キスしちゃったよ。
心の中で呟いてもまさか言えるはずもなく、出来事を思い出す度に胸がキリキリ痛み始め、口の中に苦味が広がった。
明らかに元気を失った僕に、父が気づかないわけもない。夕食が終わって僕はひとりで部屋に戻ろうとしたけど、声をかけられた。
「ロシェ。なんかお前、元気ないな。どうした」
「ううん、何でもない。僕、課題が残ってるから」
ちらりと父の唇を見て、また落ち込む。車イスに座ったままうつむいた僕の前で、父は廊下にひざまずいた。
肘掛けに手を置き、心配げに覗きこんでくる。
「そうか? だが……心配だ。何かあるなら、いつでも言えよ」
こんな時に限って、父はいつものように深く尋ねたりせず、優しく頬を触ってきた。僕は途端に罪悪感と渦巻く気持ちに、飲まれそうになった。
「お父さん……僕のこと、抱きしめて。今日、一緒に寝て」
消えるみたいな声で訴えてしまった。当然父は驚きに目を見張ったが、すぐに広い腕の中に僕を引き寄せてくれる。肩に口元が押しつけられ、僕はそれ以上何も言わなくてもよくなった。
「わかった。一緒にいるよ、ロシェ。大丈夫だからな」
大きな手に頭をさすられて、背中も抱きしめられる。何も知らない父に、僕はまたつかの間の安心を与えられていた。
夜になり、平日なのに僕は父の寝室にいた。小さい時みたいに、眠る前からがっしりとした腕に包まれている。部屋が暗くなり、目を閉じようと努めたけれど、そうするには心の余裕がまるで足りなかった。
父に話しかけると、眼鏡を外した父はまだ起きていたようで、うっすら目が開いた。
「……お父さん」
「ん?」
「キスして…」
僕は甘えた声を出してお願いした。今日あんなことがあった後で、自分でも最低だと思う。それでも、求めずにはいられなかった。
僕と父は恋人同士じゃなくて、親子だ。けど、二人で好きって言い合ったし、まるでそんな気分で僕は生活していた。
だからこんなに、今苦しいんだと思う。
「ロシェ」
そっと名前を呼ばれて、それがあたかもそばに来いという合図のように、僕の体はさらに父の近くに招かれた。
分厚い胸の中で、ゆっくりながらも、熱く深いキスをされる。
「ん、…ん、う」
重なる唇から吐息がもれ、やがて舌をからめられて、僕はどんどん父に力も思考も吸いとられていく。暗闇に唇の音が響き、味わわれているうちに、足のつま先までじんわりと熱が回ってしまった。
「……して欲しいか?」
父の深い瞳の色が興奮を滲ませ、尋ねてくる。僕は頷いたあと、「して、お父さん」と恥ずかしげもなく告げて、片腕を父の首に回した。
腰に回された手が、パジャマの中に入ってきて、背中を撫でる。父の両手は僕を抱きかかえたまま下に落ちていき、下着の中に、しかもお尻のほうに滑り込んできた。
「っん、あ、あ」
優しく揉むように撫でられて気持ちよくなってしまう。そのままズボンごと徐々にずり下ろされ、布団の中で僕の下半身は露になる。
父の片方の手はお尻に添えられたまま、もう一方は僕のおちんちんを愛情深く撫でてくれた。
「あ、あぁ、きもち、いいよ、お父さん」
少し体を離して目を見つめると、父はどこか嬉しそうに、柔らかく微笑んだ。僕は思いが深まると同時に、また胸がきゅっとする。
でも好きな人がくれる快感には勝てなくて、何も考えられなくなっていった。
「ロシェ、なんでもしてほしいこと言えよ、いいな?」
「…んっ、う、ん…っ」
「ここは? 気持ちいい?」
「ひゃぁっ、んあぁ、だめっ」
巧みな手の中で、僕はあっという間に半身をがくがくさせた。もう我慢できない、そう思ったときに父が僕にキスをする。
少し性急な口づけだ。揺れる腰に時おり触れる高ぶりからも分かるように、父も興奮してくれているみたいだった。
「ん、んむ、…ふ、ぁ…っ……あ、……お父さんも、して」
「お前が先。…ほら、イッて、ロシェ」
「あっ……ん…ぁ、……んあぁ…っ!」
耳元で囁かれて、腰が勝手に震えて動いてしまった。お腹にぼたぼたっと飛び散った液のせいで、達してしまったことを知る。
仰向けになったまま、僕は父に見下ろされて力尽きていた。愛しいものを触るように、繊細な手つきで父が僕の髪をとく。
「お父さん、気持ちいい…」
「……ああ。休め、ロシェ」
体を拭かれている間、思考が徐々に戻ってきた。
僕は隣に寄り添って横たわる父に、ゆっくり体を向ける。
「お父さん、まだいってない」
「……まあ、そうだな」
気にするな、とか言われそうだったから、僕はあることを申し出た。
「ねえ。お父さんの、口でしてもいい?」
「あっ?」
父の口からおかしな声が出た。きっと反対されるとは思ったけど、今日の僕は半ば自暴自棄になってたこともあり、とにかく父に対して何かしたかった。
自分の強い思いを、勝手な都合で表したくなっていた。
「駄目に決まってるだろ。そう言うって、分かってるだろ?」
「うん。でも、約束だよね。この前お父さんがしたからーー」
「そうだが、まだ二回目はしようとしてないだろ、だからーー」
さっきまでのムードが崩れ、また言い合いになってしまった。僕は力もあまりなかったこともあり、素直に意気消沈した。
父はそんな僕を見て、おでこに唇を触れさせてくる。
「じゃあ、もう少し大きくなったらな」
半分諦めたように告げられて、思わず顔を上げた。表情で分かったのか、「そんなことで喜ぶな」と呆れられ、きつく抱き締められてしまった。
でも僕は、その行為を許してもらえること以上に、僕と父の関係はまだ続くんだ、ということが分かって嬉しくなったのだ。
まるで僕たちにはもっと未来もあるよって、約束してもらえたみたいに。
「僕、全部お父さんのものになりたいな……」
独り言のつもりで呟いた。そうしたら、僕はお父さんのなんだよって言えるのに。……なんて、絵空事みたいなことを考える。
「おい。なにで悩んでる? ……俺は、本当は、そういうつもりで……お前のことを愛しているよ」
伝える言葉を考えながら、僕にそう告げてくれた。
「……本当に?」
「ああ。そうだよ、ロシェ」
証明するようにしっかりと頷いた父に、口づけをしてもらう。気持ちよくて、すぐに意識がぼんやりしてしまう。
「嬉しい、お父さん……。ねえ、お父さんも気持ちよくなって……」
与えてもらうばかりの僕は、ちょっとでもお返しがしたくて、父の胸にすがって見上げた。
「あのな……。お前にそういう事を言われると、俺だって、我慢できなくなるんだぞ」
じっと見下ろされ、また口を何度かはまれた。やがて名残惜しそうに唇を離した父は、僕の体を優しく抱えて横に寝返りを打たせた。急に後ろを向かされて、僕はびっくりする。
父は僕を背後から抱きしめて、顎に手を添え、ふたたび唇を奪う。この体勢でのキスには、とってもドキドキした。
背中には父の胸板がくっつき、しかもお尻には父のものが押しつけられている。
キスを交わすたびにそれが硬くなっていくみたいで、二人とも息づきながら、かなり興奮が高まっていくのが分かった。
「ん、んあ、お父さん、おちんちんが…」
「ああ……ごめん」
素直に謝られるが、僕は嫌とかじゃなくて、どうしたらいいか分からず、でも父が少しずつ擦るような動きをしていたから、だんだん変な気分になっていった。
やっぱりお尻の間で、上下に動かされている。僕の体を気遣いながら、ほんとうにゆっくりだけど。もしかして、これが気持ちいいのかな。
そう考えたら、父の行動が急に嬉しくなってきた。
「お父さん、これ好きなの?」
「……えっ? ああ、いや……すきだよ」
「本当? じゃあもっとしてね。前も、言ったでしょう。お父さんの好きなこと、僕でなんでもしてねって」
揺さぶられながら一生懸命伝えた。すると父は一瞬動きを止めてしまった。けれどすぐに僕をぎゅっと抱きしめる。
「……ロシェ…ッ」
息を荒くして、僕の口を塞ぐ。腰の動きは激しくなる。
僕のおちんちんまでぶらんぶらん揺れてしまい、「あっあっ」って変な声が止まらなくなった。
父の手が僕の太ももを撫でる。感じる右側だから、反射的に体がしなる。大きな手は足を這って、腿の付け根までやって来た。股の間を優しくさすられて、その手つきにまた感じてしまう。
「ん、く、っ」
「……ロシェ、もうちょっと、足開けるか」
僕はえっ?って聞き返したけど、やんわり足を持ち上げるように開かれて目を見張った。
「少しだけ、開かせていいか?」
「ん、ぁあ、やっ、……恥ずかしいよ…っ」
父は後ろにいるから見えてないのに、そんなポーズをすること自体に羞恥が生まれ、戸惑った。でも父の唇が僕の首筋をねらって口づけてきたりするから、力も抜けていく。
「大丈夫、すぐ……閉じて」
言いながら父は呼吸を浅くし、もっと腰を寄せてきた。そこで、再び閉まった自分の太ももが、むぎゅっと何かを挟んでいることに気づいた。
「えっ、あ、ああっ」
知ったときにはもう遅く、父の腰は揺れっぱなしになる。弱めの力だけど、後ろから前後に動かしてくる。
でも父のものがずっ、ずっ、って抜き差しされるたびに、振動で僕の下半身にまで刺激が伝わった。
「やあっ…おと、うさん、…なにっ…んあぁ…っ」
声を上げても父は構うことなく僕をぎゅっと抱き、快感を求めているようだった。時おりうなじや頬にキスをし、僕の胸まで手を這わせ揉むようにしてくる。
気持ちいいけど、父もすごく感じているみたいだけど、すごく恥ずかしい。
こんなの初めてで、いつもと全然ちがって、さらに過激な感じがする。
「ロシェ、…っく、すまん、このまま、させてくれるか」
「んえっ? あ、あぁっ、んぁ、まっ、まって、んあぁっ!」
揺さぶられて分からなくなっていたけど、父が僕のおちんちんもまた触ってきたため、もっと気持ちよくなってきた。
だんだんこれは、本当の、まるで大人のセックスみたいだなって思うようになる。
そう考えると、父からそんなことをしてくれたことが信じられず、けれど僕の中でいとおしい気持ちが沸き上がってきた。
激しく思いをぶつけられてるようで、嬉しい。
もっともっと、お父さんのものになりたい。僕が求めてるように、いっぱい求められたいーー。
「……っ、もう、出そうだ、ロシェ、いいか?」
「ん、んん、僕も、がまん、できない、お父さんっ」
そのあと僕らは、ほとんど二人同時に達してしまった。父の掠れた声が響き、僕の太ももの間がほとばしった液によりびちゃりと濡れる。いじられていた僕のものも、少しだけど、またお腹を濡らしてしまった。
「んっ…あぁぁ……や、ぁ……いっぱい出てる……」
耳元でまだ父の荒い息づかいを聞きながら、僕は自身の体を見下ろす。大変なことになってしまっていたけど、気持ちはすごく満たされていた。
「ロシェ……」
「……お父さん。休んでね…」
さっきと逆の立場でそっと声をかけた。すると一瞬小さく吹き出す音が聞こえたが、父は僕を体ごとまた温めるように抱きかかえてきた。
しばらくして、またベッドに寝そべり、父が体を綺麗に拭ってくれた。
「すまん、無理させた。大丈夫か」
明らかにやってしまったという、後悔に満ちた眼差しで見つめられる。
僕はさらに強い父の抱擁に捕まっていた。
「大丈夫だよ。体もどこも痛くないし。気持ちよかったよ、僕」
お父さんも?と聞くと、やや困った顔で「ああ…すごくな」と認めてくれたので僕は満足したのだった。
「俺は……お前が一番大事なんだが、一緒にいると……つい我欲に走ってしまう。どうしたらいいんだろうな…」
向き合って、なぜか父は一人で反省会をしていた。僕は、よく分からなかったけど、くすくすと笑いがこぼれる。父の気持ちはいつも伝わるし、結果的に僕は幸せにしかなっていない。
そこをもう少し、父にも分かってほしいなって思っていた。
「笑うと可愛いよ、お前。すんとしてても可愛いが」
鼻を軽く押されてからかわれた。途端にまごつくけれど、きっと今日の僕の様子を見たあとだから、ほっとされたのかもしれない。
またあのことを思い出してしまう。秘密のままで、まったく言えそうにないこと。
「何も考えなくていいから、眠れ。ロシェ。俺がここにいるからな」
頭におやすみのキスをされて、父は目を閉じる。僕もその言葉に安心して、一緒にゆっくりと眠りに誘われたのだった。
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