お父さんにお世話してもらう僕 | ナノ


▼ 22 お父さんの不思議

一緒に暮らして十四年だけど、お父さんには不思議がいっぱいある。
まだまだ僕の知らないことだって、たくさん隠されてるのかもしれない。

「お父さん、もう八時だよ。起きなくていいの?」

軽く扉をノックしたあと、車イスで父の寝室に入った。
今日は支援学校で講演会のイベントがあり、休校の日だ。でも僕はいつもの習慣で目覚めてしまっていた。

平日で仕事のはずの父は、家にいる僕に合わせてくれたらしく、遅めに出て早めに帰るって言ってたけれど。

「…………」

よっぽど深い眠りなのか、広いベッドの真ん中に父が丸くなっている。だが一緒の時とは違い、長いクッションを抱えて寝息を立てていた。大人なのに、なんだか子供っぽくて面白い。

「なにこれ、抱き枕かな…?」
「……っ!!」

見慣れぬものを指でちょこんと押すと、がっちりした肩が跳ね起きた。

「あっ、ごめんね起こしちゃった。おはようお父さん」
「……おは、よう……ロシェ」

呟きながら、なぜか後ろ手で布団の中にクッションを隠す。父は目をこすり、眼鏡を装着した。

「ねえねえ。そんな抱き枕いつ買ったの? 僕初めて見たよ」
「……あー、……これはな。お前の代わりだ」
「え!?」

朝から衝撃的な事実を教えられ、僕は反応に困った。理由を聞くと平然と「居ないとき寂しいだろ」と答えられる。

お父さんてば、この前僕がお泊まりに行ったときもそうだったけど、結構寂しがり屋なのかな。普段涼しい顔してるし、イメージがなかったからびっくりした。

それから父はベッドの端に座り、車イスの僕とほぼ同じ目線で見つめ合っていた。ぼーっとしてるみたい。

「大丈夫? まだ眠いの?」
「……いや。もう起きたよ」

寝間着のズボンの両膝に手を置き、顔を上げた。

「なあ、ちょっとこっちに来てくれるか」

父に言われて僕は立ち上がり、半身をゆっくり捻って、ベッドの上に腰を下ろした。
いつもと違う様子に少し心配してると、伸ばされた腕がいきなり抱き締めてきた。

「怖い夢見たの? もう大丈夫だよお父さん」

空気を察し、片手で背中を優しくさする。いつもと立場が逆だけど、僕は真面目にやった。
すると、くくっと喉から笑い声がもれてきた。訝しんで体を離す。

「もう。なに笑ってるの。分かってるもん、変って」
「変じゃないよ。……息子にされるのもいいもんだなって思っただけだ」

穏やかに主張して、まだ小さく笑っている。
起きたばかりなのに、普段クールな父が上機嫌に見えてやっぱりおかしい。
不思議に思いながらも、僕たちはその後も並んで会話を続けた。

「夢は見たけど、悪夢じゃない」
「そうなの? お父さんが夢見るの珍しいね。どんなやつ?」
「それは言えん」
「ええっ、どうして? すごい気になってきたよ」

腕に掴まって教えてとせがむ。すると父は分かりやすく困り顔を作った。

「お前の夢だよ。だから起きるのが遅くなった」

眼鏡をさりげなく直し、隣にいる僕に目をやった。まったく予期していなかったから、僕は興味をひかれる。

「ほんと? 嬉しいな。何してたの僕たち」
「……こういうこと」

すぐに顔が近づいてきて、僕は肩をすくめる。
お父さんは構わず唇にキスをしてきた。

「んっ」

離されて一気に顔がのぼせていく。
父はいつも、こっちの準備が出来てないときに仕掛けてくるのだ。

「もう少しだったから、今した。でもいきなり起こしたのお前だからな。責任とれ」

ぽん、と頭を触ったかと思うと、もう立ち上がっている。伸びをする父を見て、僕はますます混乱したけど、台詞からだんだん想像を膨らませた。

お父さんもそんな夢見るんだーー。
僕のこと、そのぐらい考えてくれてるってこと…?

顔から熱が逃げないまま、僕もまるで夢の中に入ってしまったみたいに、ふわふわ落ち着かなくなった。


◇◇◇


その日の夜。また父のおかしな行動に遭遇する。
いつものように夜にリビングで過ごしていた時のことだ。

普段テレビを見るとき、父はほとんど微動だにしない。車のレースを見るときも無言でじっとしているし、ホラー映画とかも僕だけリアクションしてるのに父は無反応だ。
見終わったあと感想をよく言うから、楽しんでるのだとは思うけど。

「ねえ、いま何考えてるの?」
「……? 何も考えてないよ」

シンプルに衝撃的な答えが返ってきた。また画面を黙って見ている。
納得出来ずにもう一度尋ねると、僕に振り返った。

「なんだ、構ってほしいならそう言え」

肩を抱きよせられて頭をぽんぽんと触られる。
そういう意味じゃなかったんだけど、まあいいか。 

少し嬉しくなりつつも、しばらくして気になって見上げると、父は目を瞑っていた。
え、寝てる……?

信じられず見つめるけど起きない。
もしかして、疲れてるのかな。僕のお世話のせいで。ぼうっとしてるように見えたのも休んでたのかもしれない。
どうしよう、邪魔しちゃったのかも。

僕は父の胸にぴたりと寄り添いながら、勝手に思いを巡らせる。
でも、お父さんの無防備な姿って珍しい。

段々キスしたくなってきた。身をわずかに乗り出してちゅっとする。
でも届かなくて口の近くになってしまった。

ちょっといけないことをしてるって気分でドキドキしていたら。
一分後ぐらいに、父が微かに動いた。眼鏡の後ろのまぶたがぴくぴくしている。  

「お父さん起きてるの?」
「……お前が起こしたんだろ。最近、よく寝込みを襲ってくるよな…」

ぱちりと開けて、ほっぺたを摘ままれる。
バレちゃっていた。しかも「届いてなかったな」と指摘され口にキスし返された。
僕は当然恥ずかしさにまごつく。

「どうして分かったの」
「ん? 体重が乗れば分かるよ」

黒髪をかいてあくびをしている。やっぱり疲れてるんだと思い、心配が再び戻ってきた。

「お父さん。眠いならベッドで寝たほうがいいよ」
「まだ眠くない」
「でも今寝てたでしょう」

すると困惑した父が、固い意思を示すように腕を組む。

「テレビ見てるから」
「もう番組終わっちゃったよ」

見ていたドキュメンタリーは終わり、画面はニュースに切り替わっていた。
しかし親子そろって一向に譲らないやり取りが続く。

「なんだ、俺を寝かせたいのか? 父親が邪魔なのか、ロシェ」

凄んで迫ってくるけど、口元は笑っている。
僕も腰に置かれた手がくすぐったくなり、つい笑い出してしまった。

「違うってばっ、心配なんだよ、休んだほうがいいんじゃないかって。……あっそうだ、ここに横になれば?」

二人では余りあるソファを指差して勧めた。
そんな姿を滅多に見たことないからきっと断られると思ったけど、父は考えた後、なんと頷いた。

「そうするか。じゃあ膝枕してくれよ、ロシェ」
「ーーええっ?」

父の口からまさかそんな単語が出るとは。
冗談かと思ったけれど、どうやら本気らしい。
大丈夫か、とか重くないか?とか気遣われながら、揃えた太ももに父の頭が乗る。

な、なにこれ…こんなの初めてで、父の行動についていけない。しかも眼鏡まで取ってソファ前の机に置いてるし。

「急に静かになったな」
「……だ、だってお父さん休んでるんでしょ」

僕は緊張してそのままでいた。親にこんなことしていいのかな。
ていうか、今度僕もしてもらいたいなぁ。お父さんずるい。なんて考えてたら、かなり時間が経った。

横たわっている父は静かだ。本当に寝ちゃったのかも。
でもたまにもぞもぞしていた僕に事件が起きた。

「お父さん」
「……ん?」
「トイレ行きたい…」

我慢が限界になり白状すると、吹き出された。声をこらえて笑っている。

「もう、笑わないでよっ。僕頑張ったんだからね!」
「頑張るなよ、早く教えろって」

体を起こした父に、髪をくしゃくしゃ撫でられた。
抱き抱えられて立ち上がり、目線が急に高くなる。自分で行けると言ったけど、「さっきのお礼だよ」と微笑まれて何も言えなくなった。




その後、二人で浴室の洗面台の前で、歯磨きをした。
僕は椅子に座っていて、父は後ろの壁に寄りかかっている。

「今日一緒に寝るか、ロシェ」
「えっ。でも、平日だよ」

週末しか一緒に眠る約束してないから、いいのかなってドキドキした。
けれど「たまにはイレギュラーもあるだろう」とさらりと述べる父に、急遽寝室に連れられることになる。

それからしばらくして、僕は広いベッドの上で、大きい体に異様に抱きつかれて身動きが取れなくなっていた。また照れくささからぎゃーぎゃー喚くと、父はしかめっ面を向けてきた。

「なんだ、したいのか?」

という直球的な問いから始まり、「したいなら教えろよ」と勝手に結論告げられてしまう。
なんだか普段より粗野で男らしい感じに見える。やっぱり疲れが溜まってるんだ。

「お、お父さんがしたいんじゃないの、僕のせいにしないでよっ」

本当はしたい。でも恥ずかしさのあまり反抗すると、父は真上で動きを止めた。
長く考えている。やっぱり、父と気持ちいいことしたいと思ってるの僕だけなんだよね。

「じゃあ、俺もしたいよ。それでいいか」
「じゃあってなに? ひどいよお父さん」

最近僕はよく口答えをしてしまってると自分でも思う。
この前だって気持ちをぶつけて困らせたり、甘えたりもした。反抗期なのかもしれない。

でもうるさい口は塞ぐぞとでも言うようにキスされると、結局僕は父の望み通り静かになるのだ。

「一緒にしてね」
「ああ」

二人で気持ち良くなりたいから、予め注文もしておく。父に脱がされて、父も寝間着に首をくぐらせ上半身の裸体が現れる。

そこからはもう、お父さんに任せっぱなしだ。
僕は半身しか自由にならないってせいもあるけど、父の大きな手のしなやかな動きに翻弄されて、ちっちゃい喘ぎみたいなのしか出せない。

「あ、あ…っ、だめっ」

首や鎖骨、胸などに唇が這って、肌にさわる黒髪がときどきくすぐったい。
僕の腰を優しく掴んで、分厚い胸板がさらに密着してきた。
上から抱き締めるように首にキスをされ続ける。

しかも驚きはもっとあった。父が腰をゆっくり動かす。ぴたっと合わさった下半身がゆっくり揺らされて直接刺激が伝わる。

「や、やぁっ、んあぁっ」

こんな夜に父の腕の中に入ってしまうと、気持ちいいことしか待ってないのは分かってたけど、まだズボンの上からなのに快感が強すぎて、僕どうしちゃったんだろうと怖くなる。

「おとうさ、ん、んぁ、まって、あぁっ」

擦りつけられてる間に、興奮した顔つきの父に唇を奪われた。
僕はおちんちんへの摩擦のせいで片足が震えてへろへろになる。

一度口が解放され、また近づいてきた時に、とっさに顔を横に向けた。
すると父はぴたりと動きを止め、明らかにショックな表情を浮かべた。

「おい、待て。なんで避けるんだ」
「……だって、僕キスされてるとすぐにいっちゃいそうになるの。気持ち良すぎるんだもん」

正直に伝えると、瞳に混乱を宿していた父の力が見るからに抜けた。
低い一点を見つめたまま何も答えない。
僕は僕で、動きが止まったことに少し安堵していた。

「……すぐイキたくない?」

しばらくして気を取り直したのか、柔らかい声で尋ねられる。
頷くと「可愛いな、お前」と微笑み髪を撫でられた。今度は僕が何も言い返せなくなる。

だって、この時間が早く終わってしまうのは寂しいから。
からかってるのかと思ったけど、今度は短めに口にちゅっちゅっとされる。

「じゃあ違うとこ触ってやるから」

また熱を帯びた愛撫が始まる。胸から脇腹をなぞられて、やがて下着にたどり着いて、おちんちんをもどかしく撫でられる。

そして父の上体がだんだん下のほうに移動する。また口でされちゃうかもと焦った僕は、再び声を上げてストップさせてしまった。

「ご、ごめんねお父さん」
「いいよ。してほしいこと言えって、なんでも」

余裕がない僕に対しても、父はいつだって優しい。
対して僕はやっぱりわがままだ。少し考えたあと、つい口からこぼれ出てしまった。

「あのね。じゃあ……全部裸がいいな」
「ーーえっ?」

何でもって言うからずっと思ってたことを伝えたのに、父は押し黙ってしまう。表情は変わらないけど、ぐるぐる考えてそうな様子だ。

「ロシェ。それはな……」
「お願い。二人とも裸にしよう? そのほうがもっと気持ちいいよ」

それにお父さんともっとぴったりくっつきたい。
自分だけよりも、一緒にすることに僕は相変わらずこだわっていた。
目をじっと見ていたら、父は喉を鳴らした後、悩ましい顔で見つめ返した。

「俺もう全部お前のお願い聞いてきた気がするんだが……なぜか断れん……いや、自分のせいか……」

独り言のように呟き、真上にいながらほっぺたをつつかれる。

でも結局、僕の願いはまたもや叶えられた。父は渋々ではなく、完全にすぱっと脱いでくれた。
僕達の体はすぐに布団の中に隠されてしまったけれど。

すごく嬉しいのと同時に、さらなる羞恥がやって来て、重なる体が熱い。
さっきの続きか、父が「どうしてほしい?」と難しい質問をしてくるので、僕はこう答えた。

「やっぱりお父さんに任せるね」

照れながら伝えると、その後予期せぬことが起きる。
僕は横たわる父の腕の中にいた。キスしてもらったり、おちんちんを撫でてもらったりしたのだが、もう片方の手に突然お尻を揉まれた。

「わあっ!」
「悪い」

今の謝るスピードすごい早かった。
そんなとこを触られたことはあんまり無かったから、驚きすぎてしまった。

「ええと……気持ちよくて、つい触っただけだ」

珍しく小声で伝えられた。
気持ちいいって言葉が父からでるとドキドキする。もっとそうなってほしい。

「いいよ、好きなように触って。お父さん」

承諾してからは、時折もまれながら愛撫された。
「平気か?」と足を気遣われるけれど、僕もマッサージみたいで気持ちよくなってしまった。

お父さんの手って心地いいなぁ、すぐにとけちゃいそう。

「お父さんのも、一緒に触って……っ」

快感が溜まっていき、耐えきれずお願いする。
浅い息を吐く父は、横向きで体を寄り添わせ、二人ともに擦ってくれていた。
父の大きいものを肌に感じてると、さらに我慢できなくなってしまう。

「あ…っ……んあぁっ…い、いく、ぅ…っ」

僕は先に達してしまった。ぼたぼたとシーツにこぼれ落ちていく。
放心状態で何も考えられなくなる中、父はまだ胸に抱き込んだまま、僕のおでこや頬にキスを落とした。

汚しちゃったことも謝るけれど、「心配するな」と囁かれる。
でも僕はすぐにまた思い出す。ひとりで先にいってしまったことを。どうしよう…。

「分かった。いいこと考えた!」
「なんだ…?」

まったりしていたのに、突然声を上げた僕は警戒されたのか、じっと見つめられる。

僕の考えを話すと、父はまれに見る焦り顔になった。そこでもまた押し問答が行われたが、意思の固い息子に負けたのか、最終的に意見を飲んでくれた。

「お前はほんとに……わがままだぞ、分かってるのか」
「うん。ごめんねお父さん。でも、僕もお父さん気持ちよくしたいんだよ」

そう言うと黙って、僕の上半身にパジャマを着せてくれた。
暗がりの中、僕は寝そべる父の上に乗った。このポーズ、結構好きかも。僕を覆うほどの体格である父の様子が見れるからだ。
反対に父は、気まずそうというか恥ずかしそう。

「はぁ、はぁ……やっぱり難しいや」

上に股がって、腰を支えてもらって、一生懸命片手でしごく。
この前教えてもらったとおり、ちょっと強めに。
ちらっと顔をあげると、父の腹筋が見えて格好いい。少し日に焼けた体が色っぽくも映る。

「ああ…ちょっとまて……あんまり、動くなよ」

父の視線は僕の手だったり体だったりをさまよって、顔にきて目が合うとゆっくりそらされる。

突然「まずい」と小さくもらした父が起き上がった。

「だ、だめだよ、僕一人でするの」
「……分かってる、だがな……」

座って足を少し開き伸ばした父に、前から抱きかかえられる。背に両腕がしっかり回され、唇も塞がれた。体勢の変更にドキドキする。キスされながらしごくのって難しい。

「ロシェ、気持ちいいよ」
「ほんとう…?」
「ああ」

告げられた言葉に心が暖かくなる。してもらうだけじゃなく、自分も何かしてあげられるんだってことが嬉しかった。

「お父さん、僕のも触って、……またして欲しくなっちゃった」

でも僕は何度も言うけどすごく甘ったれで。体温を感じていると安心から、つい欲求が生まれてしまう。

近づいてきた顔に、また優しく唇を重ねられた。舌先でしっとり絡められて、くちゅくちゅ音が響く中、同時におちんちんも擦られる。
お尻も手のひらに包まれながら、父の腰が少しずつ揺れる。その心地よい振動が気持ち良くて、刺激はさらに高まってーー

「あ、んあぁっ…だめえっ…またいっちゃうよぉっ」
「っ……ああ、く、……俺も出すぞ……っ」

父は僕の手の中でビクビク波打ち、達した。いっぱい精液があふれて肌の間を濡らす。そして僕も、二回もいってしまった。ちょびっとしか出なかったけど。

ぼんやりするうちに、僕の盲目になった恋が再び広がっていく。
熱い体に抱きしめられて何もかもが煌めいて見えた。

「好き、お父さん…っ」
「俺も好きだよ、ロシェ……お前が可愛い」

優しい顔で伝えられて、キスを何度も繰り返した。
僕は長い長い幸せの真ん中にいた……。





今日はいつもよりさらにもっと気持ちよく感じて、二人の息が合わさった感覚で、一言でいえば凄かった。
夜が更けた後も、僕は興奮から目が冴えてしまい父に話しかけていた。

「ロシェ……俺はもう眠い…」

あくびを噛みころし、ぎゅうぎゅう寄り添ってくる。子供みたいに抱きつかれて、また面白く感じた。

「お父さんってイッちゃったらすぐ寝ちゃうよね」
  
微笑ましく思ってつい口が滑ると、急に肩を起こした父にじろっと見られる。

「そんなことないぞ。俺だってまだまだ元気だからな」

はっきり主張されてはてなマークが浮かんだ。でもまた起きてくれて嬉しくなった僕は、しばらく会話を続けた。
そこで突然、父から思ってもみなかったことを言われる。

「なあ、今度ほんとの映画見に行くか?」

腕枕をしていた父に尋ねられて、僕はわずかに頭を起こす。

「……えっ。それって、映画館ってこと…?」

こくりと頷かれて、驚きのまま考えた。この数年で、そんなことを提案されたのも初めてだったからだ。

父は夜にテレビを見ていた時、新作映画のCMを目にしたことから思いついたのだという。そういえば僕もそのとき「これ面白そうー」とか何気なく呟いていた。

何も考えてないと言ってたのに、全然そういう訳じゃなかったみたいだ。

「お前が行きたかったら、だよ」

僕の体のことを思いやり、そっと話しかけてくる。
確かにちょっと緊張はする。けれど、初めてのお父さんとの、ちゃんとしたお出掛けだ。
なんか、それってーー。

「僕、行きたい。お父さんと一緒に、映画館に」

口に出してみたら、自然と目が輝いてしまったかも。
不思議だな。不安とかよりも、楽しみのほうが勝っていった。

「じゃあ俺達の初めてのデートだな」

真面目な顔で言われて、僕は思わず吹き出してしまった。

「いま笑ったか、失礼なやつだな」
「だってお父さん、デートって言葉似合わないんだもん」

まだくすくす笑っていると、「……ロシェ。お前ときどき辛辣だよな」とわざとらしくぼやかれた。
 
「うそだよ。僕もお父さんとデートしたい。すっごく楽しみだよ」

広い胸に体を寄せて、素直な気持ちを伝える。するとほっぺたにキスが降ってきた。
「そうか?」と珍しく照れた様子の父に、また笑みがこぼれるのだった。



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