お父さんにお世話してもらう僕 | ナノ


▼ 13 聖誕祭の出来事

「ロシェ、そろそろ行くぞ。準備出来たか?」
「うんっ。あ、お父さん。プレゼント持った? 叔父さんとお祖父ちゃんの分も」
「全部車に入れたよ。あと積むのはお前だけ」
「もう、僕荷物じゃないんだけどっ」

僕の突っ込みに父の笑い声が漏れる。
その日、玄関口で親子そろって軽口を叩きながら、僕達は出かける準備をしていた。
今日は毎年冬にやってくる聖誕祭一日目で、母の実家である祖父のもとを訪ねるのだ。

祖父の家では車イスは使えないが、一応杖とともに車にも積んでもらう。
父の自動車が発進し、住宅街を抜けていくつか先の町へと向かった。

今年の冬は寒いけれど、雪はまだない。しんしんと降る雪を見るのが好きな僕は、少し寂しい聖誕祭のような気もした。でも車イスを使う立場としては、積もってないほうが都合はいいから複雑だ。

「お父さん、雪降らないね」
「ああ。そのほうがいいだろう」
「どうして? 綺麗なのに」
「家から見る分にはな。運転もだが、雪かきが面倒くさい」

隣にいる父の言い草につい笑ってしまう。その通りだと思うけど毎年の口癖だからだ。
でも、今日のお父さんはなんだか機嫌がよく見えた。去年よりも口数が多いし。
きっとあのお墓参り以降、お祖父ちゃんとの仲が少し良くなったからかもしれないと、子供ながらに考えた。

嬉しく思う一方で、助手席に座る僕は時々父の横顔をうかがっては、目が合いそうになるとふっと逸らす。

冬の侘しい田園風景が移り変わる窓を見ながら、違うことを考えようとした。
なぜなら頭の中では、ときおり父との夜のことが浮かんできてしまうからだ。

この前初めて、僕だけでなく父も一緒に達することが出来た。父は望んでなかったかもしれないけれど、何度も反応していたらしい父が同じ時間にそうしてくれて、嬉しさを感じた。

一人でするよりも気持ちがあふれ出て、繋がりが強くなった気がする。きっと、好きな人だからなのかな。
とにかく僕の中ではすごい出来事として、何回も反芻してしまっていた。

「ロシェ。もうすぐ着くぞ」
「う、うん。ほんとだ、早いなー」

いつの間にか祖父の家が見えてきて、焦ってコートを羽織った。
父が車を道路の脇につけて、エンジンを切る。そして僕に向き直った。

「お前、顔赤くないか? 大丈夫か。ちゃんとマフラーもして」
「平気だよ。すぐ家だから」

とはいえ杖で外を歩くからか、風邪を引かないようにしっかり首に巻かれて、ニット帽も被せられて父に世話を焼かれる。
車から降りてゆっくり玄関に向かった。ベルを鳴らす前に到着が分かったのか、扉が開けられ、中から祖父が出てきた。

すらっとした白髪の老人が笑みを浮かべ、いつもと違ってエプロン姿で出迎えてくれる。

「おお、ロシェ。よく来たな。聖誕祭おめでとう」
「おめでとう、お祖父ちゃん!」

父に片側を支えられながら、笑顔で握手を交わした。頭を撫でられてくすぐったく感じるけれど、僕は優しい祖父が大好きだし、また顔が見れて嬉しくなった。

「聖誕祭おめでとうございます、ブレットさん。……何か作ってるんですか? 良い匂いがしますね」
「ああ、よく分かったなデイル。今年は丸鶏をまた作ろうと思ってな。悪いが、後で仕上げを手伝ってくれるか」

にやりと大人らしい笑みを見せ、祖父は父に声をかけた。驚いた様子の父もすぐに「はい、分かりました」と答え、やや感激した面持ちだった。

やっぱり、去年よりも和やかな雰囲気だ。
心が弾んだ僕は家の中に入り、リビングへと向かった。そこで見た光景に、また驚きで目が奪われる。

装飾品が並ぶガラス棚や、大人数用のソファにテーブルは見慣れた風景だ。
でも部屋の一番広い場所に、大きなモミのツリーがあった。いつもより一段と巨大で、飾り付けも気合いが入っている。

「わあっ、すごい綺麗なツリーだね、キラキラしてる!」

小さな子供のようにはしゃいだ僕の後ろから、背の高い男の人が現れた。
その人は「そうだろ、今年は俺とくに頑張ったぞ〜。いつも頑張ってるけどな」と言いながら微笑む、僕の叔父だ。

母の弟であるギル叔父さんは、明るい金髪が目立つ、美男子である。
30代で年も若く、昔から可愛がってくれているお兄さんという雰囲気の人だ。

「あっ、叔父さん。聖誕祭おめでとう!」
「おめでとう、ロシェ! 元気か? ってこの前会ったばかりか」

手が伸びてきてわしゃわしゃ頭を撫でられながら、二人で再会の喜びを分かち合う。

「ギル。荷物を取ってくるから、ちょっとロシェのこと頼む」
「はい、お任せください。いってらっしゃい先輩!」

仰々しく会釈する叔父さんに、じろっと眼差しをぶつける父だったが、僕はその後無事にソファに腰を下ろした。
二人でお喋りしながら、非日常的な祝日の空気を楽しむ。

父はその後祖父に頼まれた通り、オーブン料理の手伝いをし、姿が見えなかった。部屋の中は香ばしいお肉の香りがしてきて、待ち遠しくなる。 

祝日は毎年二日続き、聖誕祭の一日目はこうして母の実家で過ごす。二日目は父の家に行き、祖母に挨拶するのが恒例だった。

「じゃあロシェ、今のうちにプレゼント並べるか」
「うんっ」

僕とギル叔父さんは夜に家族皆で開封する、それぞれの贈り物をモミのツリーの下に準備する。
といっても僕は役に立たないため、叔父さんにお洒落に見えるように置いてもらった。
男だけの家族になってしまったけど、皆でプレゼント交換をするのは楽しみだった。

ふと棚に飾られた母の写真を見て、考えることもあった。
ここはお母さんの家で、懐かしいような空気が感じられる場所だ。

母もいたらよかったなって思わない日はない。
でも今の僕にそんなこと言う資格も、ないのかもしれない。
だって僕は、母にもきっと神様にも、他の家族にも怒られるようなことをしている。でもずっと止められずに、今では幸せすら感じてしまっているのだ。

そう考えると、僕が祝ってもいいのかなって、暗くなってくる。
輝くツリーをぼんやりと見つめていると、叔父が声をかけてきて、僕にあるものを差し出してきた。

「ロシェ、なにぼーっとしてるんだよ。今からこの日のハイライトだぞ」
「……えっ? なに?」

手のひらに置かれたのは、大きな星型の飾りだ。叔父に耳打ちをされ、意表を突かれる。
でも僕はすぐに首をぶんぶん振った。

「いいよおじさん、恥ずかしいから。自分でやってよっ」
「そんなに拒否しなくても。さっ、先輩が来る前にやっちゃうぞー」

普段は優しくて空気を読む人なのに、時々子供のように絡んでくる叔父に促され、しょうがなく僕は立ち上がった。

支えられてツリーの前に行き、後ろに立つ叔父に両手で腰を持たれる。
もう、僕は13才なのに。いつまで子供扱いされちゃうんだろう。

「大丈夫か、いくよ」と気を使われながらも軽々体を持ち上げられた僕は、手を伸ばして星の飾りをなんとかツリーのてっぺんにつけた。

「あっ出来た!」
「おおー、やった!」

一回でうまく行くとなぜか達成感が湧き、自分のことのように喜んでくれる叔父とハグをする。
そんな時、二人の大人が料理を手に、リビングに入ってきた。

「二人とも、出来上がったぞ。席についてーー」

ご馳走を食卓に置く父の目の色が変わった。僕と叔父さんは視線を合わせ、若干まずいという顔をする。  

「……ギル、お前な。今年は俺がするって言ったよな? お前去年も勝手なことしやがっーー」
「いやいや先輩、どっちがロシェにさせても同じでしょ。うまくいったんだから」
「なら俺でもいいだろ、普通は父親がするものじゃないのか」
「そんな決まりありませんよ、叔父さんがやって何が悪いんですか。なあ親父?」

また始まった。
この二人はいつもそうなのだ。小さい頃から、毎年変なことで競い合っている。
僕には分からないけど、親心のようなものなのかな。

「ふん、しょうもないことで毎年毎年よく飽きないな、俺の息子どもは」

近くに来た祖父が呆れた目で、まだ張り合っている二人にこぼした。僕もつい「うん、そうだね」と同意してしまう。

「そうだ。来年は俺が持ち上げることにするか、ロシェ」
「ええっ? お祖父ちゃんが? 腰痛めちゃうよ、危ないよ」

慌てて止めるけれど自信ありげな笑みが返される。

「おい、今なんか変なことが聞こえたんだが。親父、無理に決まってんだろ止めておけよ」
「そうですよブレットさん、無理はしないでください。俺の役目ですから」
「……なんだと? 生意気なやつらだな。俺だってまだまだいけるぞ。なあ、ロシェ」

冗談なのか何なのか、まんざらでもなさそうな祖父に皆が困り始めていた。
でもそのおかげで、父達の喧嘩も終わりほっとしたのだった。



それから皆で和気あいあいと、夕食のご馳走を食べる。
イルミネーションでさらに美しくなったツリーを眺めながら、美味しい丸鶏を皆で切り分けて、本当に素晴らしい聖誕祭になった。

いつもより賑やかな食卓はさらに楽しく、父も祖父も、叔父も僕だって、去年よりもずっと親密な雰囲気で団らんの時間を過ごせた。

夕食後はソファに移り、夜更かしのできる夜が始まる。
それぞれが持ち寄ったプレゼント交換をして、お喋りをしながら中身を開けていく。

僕はお小遣いで買える範囲だから、大人から貰う物よりもささやかだけど、この日のために親友のニルスくんと買いに行ったものを皆にあげた。

祖父はお茶が好きなので、ティーカップのセット。叔父はいつもカメラの機材やら持ち物が多いから、何かに使えるかと思って革のポーチを選んだ。

そして一段と気合いをいれた、僕からの贈り物を見た父は驚いていた。

「パ、パジャマか? 全然想像と違ったよ」
「うん。普段お父さんが着ないような明るい色だよ。面白いかなと思って」
「それ、見てるのがだろ。まあいいか、ありがとうロシェ。気に入ったよ」

皆が見てる前なのに、隣の父が僕の頭にキスをしてきて、びくっとなった。
祖父も叔父も、なぜかパジャマを「いいな」と羨ましがっていたので、悪くないプレゼントだったみたいだ。

父と叔父はスポーツ用具とか送り合っていたけど、祖父からは皆一律でメッセージカードつきの紙幣だった。好きなものを買えということらしい。

そして僕は叔父からは小型のカメラ、父からは欲しかったタブレットという、大人三人から凄いものをもらってしまった。
二人とも機械に強いため細かく使い方を教えてくれて、わくわくしたし嬉しかった。

聖誕祭のパーティーは続く。
大人達が乾杯を始めると、祖父はふとグラスを持ち父に話しかけた。

「デイル。君もどうだ」
「いや、俺は大丈夫です。ありがとうございます」
「一杯ぐらい付き合え。今日ぐらい」

勧められて父は困っていた。きっと僕の介助があるから気を付けてくれているんだと思う。
でも僕は、父が昔よく好んでビールを飲んでいたことを知っている。
小さかった僕が冷蔵庫から運ぶと、嬉しそうに受け取っていたのを覚えていた。

「お父さん、乾杯しようよ。僕は大丈夫だから」
「そうですよ、先輩。何かあったら俺がいますから。大丈夫です、俺下戸なんで」

父が僕と同じくジュースを飲んでいる、陽気な叔父をちらりと見る。
そもそも僕は家族が酔ってるのを見たことがないため、きっと家系的に皆強いのだと思っていた。

「……じゃあ、一杯だけ」

皆に勧められ、父も飲み始めた。なんだか昔を思い出して、僕も嬉しくなる。
こんな体だと、やっぱり色々な状況が以前とは変わり、僕は周りに不自由な思いをさせている面が多いと思うのだ。
だから余計に、美味しそうに口にする父を見て気持ちが温かくなった。



 
父が素直にそうしたのは、この日、僕達は泊まらせてもらうことになってるせいもあっただろう。
深夜近くになり宴が終わり、皆はそれぞれ寝床に帰っていく。

ギル叔父さんは二階の自室で寝ていて、祖父は居間をはさんだ寝室で就寝していた。
僕と父は同じく一階のゲストルームを使い、それぞれがシングルベッドで眠ることになった。

車イスは使えず移動はずっと杖だけど、父がそばにいてくれるから心強い。

「おやすみ、ロシェ」
「うん。おやすみなさい、お父さん」

穏やかな顔で、ベッドに寝そべる僕のおでこにちゅっとキスをする。
二人きりになって、あんまりドキドキしすぎないように頑張っていたけれど、父は僕の顔を見下ろしたまま、しばらくじっとしていた。

どうしたんだろう?
そう思っていると父は身を屈め、僕の唇にも軽く口づけをした。
途端にぼわっと顔が熱くなり、言葉がつっかえる。

「……だ、だめだよ。お父さん」
「そうだな。すまん」

僕が本当は全然そう思ってない言葉を言えば、父はそっと頭を撫でてベッドから離れた。
ああ、今寝る前に、ほんとは抱きしめて欲しかったな。
そんなことを考えながら、布団の隙間から父の背中を見送った。

ベッド脇の照明が消え、眼鏡を置く音が聞こえる。
こんな風に同じ部屋なのに、別々のベッドで眠ることって、あまりしたことない。 
だからなのか、異様にドキドキした。

しばらく寝返りを打ったりしたけれど、中々眠れなかった。
それどころか、寝る間際にキスをしてきたお父さんのせいで、変なことを考えてしまう。
今日の車の続きだ。体を父の手が這ってきたり、触られていることを想像すると、じわじわ熱がたまってきた。

後ろから父の寝息が聞こえたから、僕は考えなしに、右手をズボンの上に伸ばした。
麻痺で動かない半身を下にして、片手を少しずつ動かしながら、おちんちんを撫でる。

何をしてるんだろう、近くに父がいるのに、こんな馬鹿なことやめないと。
そう思うのに、興奮してきた僕は、ゆっくりと手を寝巻きの中に忍ばせた。 

「……んっ……」

ただ触っているだけでも気持ちいい。
イケないのは分かっているけど、僕は父とどんどん触れ合いが多くなるにつれ、時々こっそり自慰をしてしまうことがあった。
一人部屋になったせいもあるし、決定的なのは、この前父がするのを目の前で見たからだ。

正確には見てないけど、お父さんが僕の上に覆い被さって、掠れた息づかいとか体温を感じて、僕の体に密着してイッてしまったから。

「あ……ぁ、ん……っ」

考えただけで自分の体も火照ってきて、我慢が出来なくなった。
そんな時だった。夢中になり気づかなかった僕のすぐ後ろで、ベッドがぎしりと沈む。

「……こら、何してるんだ?」

暗闇の中で聞こえてきた父の声に、全身が固まった。
どうしよう、バレてしまったかもと手を引き抜こうとしたけれど、父はなんと僕の布団の中に潜り込んできた。

後ろから腕を回し、抱きかかえてくる。
首に顔をうずめるみたいにすり寄られて、肌に当たってぞくぞくした。

「お父…さん、酔っぱらってるの……?」
「一杯で酔うわけないだろ」

尋ねると即答されて、さらにぎゅっと体を抱き締められる。
どうしちゃったんだろう、自分の家じゃないし、こんなことしちゃ駄目なのに。
一生懸命考えても、父の指は僕のズボンの上をなぞってきた。

「ここ、触ってたのか? 悪い子だな、お前」

からかうような囁きにビクビクしてしまう。僕はまたゆっくり、ちょびっとずつ手を動かし始めた。
お父さんにバレている。いけないことをしてることがお見通しで、でも気持ちよくて止められない。

「ん、んあ、お父さん」

もうだめ。僕はえっちになっちゃったのかもしれない。
はあはあ息をしながら、体の向きを直し、仰向けに寝そべる。すると驚いた様子の父と目が合う。

「あっ、だめっ…ん……んっ…い、いっちゃ…っ」

自分でいじっていて、初めてくる感覚だった。がくがく腰がしなり、手でぎゅっと握りながら僕は達してしまった。
お腹を半分出していた為そこに白い液がぼたっぼたっとかかっていく。

「はあ……はあ……」

全部出し切ったあとに、放心する。快楽を手放して、ようやく素に戻ってきたときに、静かにしている父の存在に気がついた。
うそだ。僕は、何をやってしまったんだろう。あり得ない。

「ごめんなさい……」

顔が見れずに、小さく呟いた。
父は間を置いて、なにか咳払いをしたあと、口を開いた。

「いや、大丈夫だが……お前、一人でいけたな」

物珍しそうにお腹を眺める父は、なんだか驚きの中に、褒めてるみたいな声色だった。
反対に僕は、平常ではいられなかった。

片腕で起き上がり拭こうとすると、「待て、ティッシュはよくない」と父が布を取り出し拭いてくれて、証拠隠滅を図る。後で洗えるからだろう。

お祖父ちゃんの家でこんなことをしてしまった僕を、怒りもせずに、そばにいてくれた。
けれど僕の心の中は、恥ずかしさや申し訳なさよりも、さらに強い悲しみが押し寄せていた。

「やだよ……」

思わず涙ぐむと、父はぎょっとした顔で見下ろしてくる。

「おい、どうした? あ、さっきの怖かったか? すまん、冗談だよ。怒ってないから大丈夫だ」

凄く焦った様子で、ベッドの中でのやり取りのことを気にしている。でもそんなことじゃなくて、お父さんは気づいてないのだろうか。
急激に不安に押され、広い胸に掴まって見上げる。

「お父さん、僕、一人で出来ちゃったよ。もうお父さんと一緒にしちゃだめだよね、出来ないよね……」

本当は喜ぶべきことなのに、自分はなんてわがままなんだろう。
けれど実際に、もう介助が必要でなくなってしまったことに、悲しみが隠せなかった。

「ちょっと待て、ロシェ。そんなこと気にしてたのか」
「……そんなことじゃないでしょう?」

顔色を伺うと、父は黙った。長い間何かを考えている。
やっぱり、もう終わってしまうんだ。
でも仕方ない。今まで散々父の手を借りて、優しさを利用して触ってもらっていたから。

けど、お父さんのこと、もっと好きになっちゃったよ。
どうしよう。
じわっときて目尻をぬぐうと、父の指が後からまた拭いてくれる。

「そんな風に落ち込むな。自分で出来たのは、いいことだよ。好きにしたいときもあるだろう。……でも、あれだな。まだ慣れてないかもしれないから、しばらく俺が見といてやるよ。それでいいか?」

一言一言気を付けながら、父が告げてくれる。
その優しい言葉に、単純な僕の心はだんだんと光が差す。

「えっ……? いいの…?」

よくないに決まってるのに、僕は完全に父の提案にすがりつこうとしていた。
甘ったれで仕方がない。分かっていながら、ぱああっと希望が生まれていく。

しかし、ふと投げかけられた台詞を思い返した。

「……けど、待ってお父さん。見ておくって……どういうこと? 見なくていいよ、恥ずかしいから…!」

必死な僕に対し父は困惑した。

「いや、それは言葉のあやだろ。文字通り見てるわけじゃないよ。……待て。見ててほしいのか?」
「違うよっ」

僕達はいったい何の話をしてるんだろう。
もう顔が熱くて全身も熱くて、布団から出たくなる。
もぞもぞして寝返りをうち、まだそばにいる父に背を向けた。

「おい。何でそっち向くんだ、ロシェ」
「何でもないよ。おやすみお父さん。起こしちゃってごめんね」
「いいよ。でもトイレは?」
「……行きたい」

やっぱりお世話にならなきゃいけない自分に呆れるけど、後ろから父の笑う声が聞こえた。

結局、僕はまた抱っこしてもらうために起き上がる。
父の大きな体が近くに来て、ベッドの端に座る僕の隣に並んだ。
まだ行かないのかなって不思議に思っていると、頭を撫でられて、体を抱き寄せられた。

「お父さん……?」
「うん」

何気なく返事をして、逞しい腕の中にすっぽり収めてくる。
今日は他の家族がいたし、あんまりスキンシップも出来なかったから、父が抱擁をしてくれて嬉しかった。

「ロシェ。お前が好きだからな」

そう言って僕の顎をとり、顔を傾けてキスをした。
突然のことに思考を奪われ、まばたきしか出来ない。
今のタイミングで、父からのこんな言動は初めてのことだった。

「どうしたの、お父さん」
「……俺の気持ちだ。今言いたくなっただけだから、気にするな」

途端にクールに告げて、一度眼鏡に触れると、立ち上がり僕を抱き上げた。
何か言いたいのに、うまく言葉が出ない。

廊下に出たときに、僕を運んでくれる父の首にぎゅっと掴まり直す。そうして僕はやっと口を開くことが出来た。

「僕も好き」

自分からは時々言ってしまうその言葉がまさか、父への返事になるとは思わなかった。

「ああ。知ってる」

ちらっと見やって微笑む父の声は、どこか弾んでいた。



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