じわりとした暑さを感じさせる季節。
それを待ち焦がれていたかのように歓喜の声で鳴く蝉。
まるで雨の様に降りそそぐその音を聞きながら、僕は祖母の家の庭に水を撒いていた。

学校が夏休みに入り家族で遊びに来た祖母の家。普段はしない手伝いをする気になったのは、去年から園芸を始めたという祖母の自慢の庭を見てみたかったから。

(凄い。野菜がこんなに育ってる…)

向日葵や薊に混じって育っている夏野菜が鮮やかさを引き立てていた。
四方が山に囲まれているこの場所は、緑の多さも空気の美味さも都会のものとはまるで違っていて居るだけで気持ちが良い。高台にあるせいもあってか、雲一つ無い真夏の青にぽっかりと浮かぶ祖母の庭は、まるで一つの絵画の様だった。

(綺麗だなぁ…)

ホースを絞って霧状にすれば小さな虹が出来上がった。光を反射した水がキラキラと流れていく様につい見とれてしまう。周りに生えている木々や、庭を囲むようにして作られた垣根に目を向ければまるで森の中にいるような錯覚を起こさせた。
さわさわと木々を揺らす風が、汗ばんだ肌に気持ちいい。

(…それにしても)

趣味で始めたと祖母は言っていた。
実年齢より若く見えるとはいえ、八十歳近くにもなる祖母が一人でこんな広い庭を活かすのは大変だったんじゃないだろうか。蛇口を調節しながらそんな事を思っていたら、ふと縁側に立つ祖母の姿が目に入った。

「助かるわのんちゃん。どうもありがとうね」
「ううん。他に何かする事ある?」

普段は親に言われて渋々する手伝いも、祖母を前にすると自分からやりたくなるから不思議だ。

「ふふ、大丈夫よ。また何かあったらお願いするわね」

そう言って祖母はふんわり笑った。

「さあさ暑かったでしょ。今スイカ切ったからこっちに食べにいらっしゃいな」

祖母の笑顔につられたように、僕はにっこりして頷いた。







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