short story/2013 | ナノ
情緒不安定につき、お薬一錠
正午、イヤホンをお供に一人ぼっちの昼食。ひどく味気ない。
友人がいない訳ではない。けれど、彼らを友人だと思っているのは多分俺だけで、向こうはきっとただの知り合いだと思ってるだろう。だから、昼食は一人。
がやがやと騒ぎながら、おしゃれな服を着た男女の集団がやって来た。茶髪とかピアスとか、憧れはあるけれど、俺がやった所で何の意味も無いだろう。
集団には何人か見知った顔。俺が友人だと思い込んでいた奴ら。俺と話す時とは大違いの笑顔。楽しいだろうな。俺がいないんだから。
急に自分が惨めに思えて、食べかけのトレイを持って席を立った。彼らはみっともない俺を見ただろうか。胃の辺りが意味もなく締め付けられて、食べる気をなくしてしまった。
音楽のボリュームを上げて、食堂を後にする。はしゃぐ声ばかりが耳にこびり付いて、泣きたい気分。俯いて歩いていると、誰かと肩がぶつかった。すいません、とくぐもった声で謝ったけれど、舌打ちされた。
さっきも、今も、きっとみんな俺を笑っているのだろう。そりゃそうだ。こんな情けない奴そうそういないさ。見渡さなくてもわかる。甲高い嘲笑と刺すような侮蔑の視線が全方位から突き刺さる。どんなに音楽のボリュームを上げても、俯いて歩いても逃げられない。心が痛い。
何と無く手持ち無沙汰になって、携帯を取り出す。メール、着信、共にゼロ。昨晩、友人に授業について質問のメールを送ったけれど、返信は無し。16時間経過。さっき見かけた時には、携帯画面と睨めっこしていたのに。俺には義理も友情も感じないよな、そうだよな。
授業を受けるような気分にはなれなかったので、下宿へ向かう。どうせ俺一人いなくなったって、誰も困りはしないだろう。いや、むしろいた方が迷惑だ。多分。おそらく。
けれど、バイトのシフト表を貰いに行かなくてはならないことを思い出し、方向転換。バス停まで向かう途中に、車に轢かれそうになった。青信号の横断歩道だったのに。
バスは待てども待てども来ない。バス停には俺一人だけ。結果、15分の遅延。乗り込むと、思い出したように腹が鳴った。
バイト先に着くと、迷惑そうな顔の先輩。しどろもどろになりながら、シフト表を貰いに来たことを伝えると、面倒臭そうな動作で渡される。早口でお礼を言って、さっさと帰る。店を出る時に、後輩の女の子にあからさまに笑われた。何がおかしいのだろう。また、ちくりと心が痛む。
イヤホンで耳を塞いで早足で帰る。誰も見たくない。誰も見ないでくれ。ようやくバス停に戻って、シフト表を眺める。先月より減っている。先々月よりももっと減った。多分、カウントダウンのようにこれは減り続けて、もう来なくていいよ、と言われる日が来るのだろう。現代社会のギロチンは緩やかに。きっと、笑い者にされるだろう。
そこからどうやって下宿に帰ったか覚えていない。気付いたら軋むドアを開けていた。汚れたスニーカーを脱ぎ捨てて、万年床へ倒れこむ。呼応するようにごみ箱も倒れた。
顔を上げると段ボール箱。そういえば、実家からの仕送りもそろそろ無くなりそうだ。人間食べずにどれくらい生きていけるだろうか。自分一人が我慢すれば、何事も上手く回るのだから。
もう起き上がることさえ出来ない気がする。良いことなど何も無い。きっと俺は世界にいらない人間なんだろう。例えば俺が死んだとして、あの友人達が葬式に来ることは無いだろう。そこまでの関係じゃないんだ。メールか何かで死んだことを知って、たった一瞬神妙な顔になるだけ。
情けない人生だと思う。恥の多い生涯を、これからも送るだろう。神様、もうどうにもなりません。泣く元気も怒る気力も、俺の中からは消え去りました。人の形をした風船みたいなものです。実に、滑稽。皆様、俺を笑って楽しいですか。それならば本望。でも、道端の石ころにもきっと魂はあるのです。この痛みはどこを怪我してるのですか。誰か、誰か教えて下さい。
涙が止まらないのは、きっと情緒不安定だから。良いお薬を下さい。楽しい夢が見れるもの。せめて、少しだけでも。
息をすることすらおこがましい。生きている意味など、何も無い。その内俺は死ぬかもしれない。けれど誰にも迷惑はかけないから。
願わくば、来世でまた会いましょう。それでは、おやすみ。



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