メリクリ







いつも私と一緒にいてくれる、君。君と一緒に過ごす瞬間が日に日に、私にとって“当たり前”になっていったよ。

ねぇ、1つだけ願い事をしても良いかな?これ以上、そしてこれ以下もない、1つだけの願い事。




“ずっと ずっと 私のそばにいてください。”




メ リ ク リ




キラキラ キラキラ 光るイルミネーション。


街がキラキラ
その中を歩く人々もみんなキラキラ



「クリスマスだってーのに、何処にも連れていってやれなくてごめんな?」

「ううんっ!こうしてブンちゃんと一緒にいられるだけで、幸せだよ」



キラキラ光って騒がしい街とは対照的で、薄暗く物静かな公園の中。そんな中、1つのベンチにブンちゃんと一緒に座ってキラキラと星が綺麗な冷えた空を一緒に見上げていた。
二人で寄り添いながら座って、途中でコンビニに寄って買ってきたお茶を二人で分け合って飲む。



立海テニス部レギュラー、丸井ブン太。この人が私の彼氏。私の、大好きな人。
入学してから出会って“友達”という関係から始まった私たち。だけどいつの間にか2人の心は変わってきて、今では“恋人同士”という関係で。

“友達”から“恋人”へと変わった関係。最初は少しだけ、とまどった。
だけどね、今では大分変わったよ。



どちらからともなく、自然と腕を組めて。
さっき買った飲み物だって、1つだけ買ってそれを当たり前に分けあって飲む。




そして・・・――――




「那華、来いよ」




こうやって自然に、きみの胸にくるまれている。





抱きしめられたことによって、伝わってくる君の温もり。いつも君が噛んでいるグリーンアップルの香り。
そして、規則的に動いている君の心臓の音。とても、とても、――…心地よい。



「…なーんかさ、」

「ん?」

「幸せ、だな」

「何が?」

「こうして那華と一緒にいれること」



ブン太から想像も出来ない一言に、私はついつい小さく笑ってしまう。



「なっ!笑うなよ!」

「あははっ、だって、ブン太からそんな言葉出るなんて思わなくて…!」

「そうゆう那華はどうなんだよ」

「あたし?」

「おう」




「幸せに決まってんじゃん」




2人で微笑み合って、また寄り添いながら座る。こうしていると、昔片想いしていた自分が嘘みたいだなぁ。





***





君との出会いは、今から2年近く前。たまたま同じ学校で、たまたま同じクラスになって、たまたま隣の席になって、



「アンタが隣の人?ふーん・・・俺、丸井ブン太!シクヨロッ」



ブン太のこの一言で、私たちは仲良くなれた。何でだか知らないけど、私とブン太は縁があるらしく一緒にいることが多かった。席替えしても、隣とか前後とか斜めとか、いつも席が近いし。クラス替えしたって、今までのこの3年間ずっと同じクラスだったし。そして何より、気が合うんだよね。何て言うのかな、言葉にしなくてもお互い分かり合ってるというか・・・。



あれは私が初めて“失恋”というものを体験した時のことだった。



誰もいない放課後の教室。私はこの中で、自分の席に座って机に顔を埋めて声を殺して1人泣いていた。
好きな人がいた。ブン太ほどではないけど、結構仲が良い方で。今日彼の口から伝えられた言葉。“彼女が出来たんだ”って、照れたように、だけど幸せそうに私に伝えてくれる彼。悲しかった。それと同時に、自分の気持ちを相手に伝えることが出来なくて、悔しかった。泣くくらいなら、叶わなくても相手に気持ちを伝えれば良いんじゃないかとも思ったけど、私にはそれが出来なかった。フラれると分かりきった相手に告白する勇気なんて、私にはなかった。だから私はただただこうして泣くことしか出来なくて。干からびてしまうんじゃないかって思うくらい、泣きまくって。
外は夕暮れ。教室を綺麗なオレンジ色に照らしてくれる。そろそろ帰らなきゃ、なんて思った。


―その時だった。



「………。」

「……え、ブン、太…?」



バンッと大きな音と共に教室のドアが開き、驚いて顔を上げて振り向いてみると、そこにはブン太の姿が。中に入る訳でもなく、何か喋る訳でもなく、ブン太はその場に立ったまま私のことを見つめてくる。
(今、部活なんじゃないの…?)なんて思ったけど、ブン太の表情を見ればそんなこと口に出来なくて。教室内に気まずい沈黙が流れた。

私はどうして良いのかわからず、ただこの空気に従って黙っていることしか出来なかった。その沈黙を破ったのは、ブン太が前に進む度に聞こえるキュッキュッという靴と床が擦れる音だった。ブン太が私の方へと1歩、また1歩と近づいてくる。私は訳がわからず、ただただブン太のその行動を見てることしか出来なくて。そうしている内にいつのまにかブン太は私の目の前に。私が座っている席の前の席の椅子を引き、それに足を横向きにして腰を下ろし肘を私の机の上に乗せてきた。



「何してんのよ、ブン太」

「何がって?」

「今、部活中なんじゃないの?」



教室の壁に掛かっている時計に目を向けると、短い針が4の数字を指していた。この時間なら普通まだ部活をやっているはず。(得にテニス部なんて厳しいから、早くあがるなんて滅多にないだろうに)



「別に。ただ…」

「ただ?」

「心配になって、来てみた」

「…へ?」

「―那華が泣いてるんじゃないかって思って、来てみた」

「……。」

「なんかやけに気になって、教室来てみたら思ってた通りお前がいて…あ、大丈夫。部活は仁王に適当に言っててもらってるから」



さっきの表情とはうって変わって、いつものようにへらっと私に笑いかけてくれるブン太。そのブン太の言葉に、笑顔に、さっき止まったと思った涙がまた、大量に溢れてきて、私の頬を濡らした。泣き顔を見られたくなくて、私はまた机に顔を埋める。声を殺したくても出来なくて、嗚咽が漏れてしまう。



ふいに、頭に温もりを感じた。



「ずっと1人で泣いてたのかよ。こんな薄暗い教室の中で」

「……っく、…う、ん……」

「ったく、バカじゃねぇの?こんな時間にしかも人が少ない校舎内で泣いて、誰かに聞かれでもしたら、学校の七不思議にされてたぜぃ?」

「バカって…!ってか悲しんで泣いてる人に対してその言い草酷くない!?」



ブン太の言葉に思わず顔を上げた。その見せたブン太の顔は悪戯ッ子のように笑って表情で。



「ははっ!悪ィ悪ィ!でも…そんだけ元気があれば大丈夫だろぃ」

「はい?」

「…今日1日中元気なかっただろぃ?だから気になってたんだけど…こんな言い方良くねぇかもだけど、吹っ切れたか?」

「……ブン太が来たら、悲しい気持ちもどっかに吹っ飛んでいっちゃったよ」

「なんだよそれ。なんか俺のせいみたいじゃん!」



ケラケラと楽しそうに笑いながら言うブン太。だけど、言葉はとてもとても優しいもので。―また、さっきと同じように頭の上に温もりを感じた。さっきと同じもの。…ブン太の、手の温もり。



「恋なんてさ、生きてる内に何回もするんだよ」

「うん…」

「そん中ではやっぱり失恋したり、別れたり、悲しい想いすることもあるだろうけど」

「うん…」



「絶対“幸せ”な気持ちも味わえるから。いつになるかわかんねぇけど。…だから、いつまでも悔やんでんなよ」



そう言ってくれたブン太の表情は、とても優しいもので。ああ、なんで君はこんなにも優しいのだろう。私、君に好きな人いるだなんて、一言でも言ったっけ?……言ってないよね。だって誰にも言ってないもん。なんか照れくさくて、自分の中で想っているだけだったもん。

なんで君は私の気持ちをわかってしまうんだろう。そして…―――なんで、こんなにも優しい言葉を私にくれるのだろう。
わざわざ部活を抜け出してきて私に会いにきてくれて、元気付けてくれて。



そんなブン太に恋に落ちるまで、そんなに時間は遠くなかった。そしてブン太が私のことを好きだと想っていてくれたことを知るのも、“友達”から“恋人”へと関係が変わっていくのも――――…





***





「…ふふっ」

「ん?何笑ってんだよ」

「別にー。ただ昔のことを思い出してただけ」

「昔のこと?」

「うん。ブン太のことを好きになった時のこと」



私がそう言えば、ブン太は顔を赤くして「ばっ!何変なこと思い出してんだよ!」と、少しだけ怒ったような口調で言ってきた。その怒ったような口調は照れ隠しだとわかっている私は、その仕草が愛おしくて仕方なかった。



「私たちがこうゆう関係になってからさ、大分立つよねー」

「そうだな…もう1年は立ったしな」

「そうそう。ブン太付き合って1周年のこと忘れて、普通に赤也くんとケーキバイキング行ってたよね。あの時はショックだったなぁ」

「だーっ!そのことは忘れろって言っただろぃ!しかもその後ちゃんと埋め合わせしたじゃん!」

「その埋め合わせっていうのもケーキバイキングだったけどね。どんだけケーキ好きなんですかブン太くん」

「良いじゃん。ケーキ美味いし!」



あの時はああだった、ああじゃなかったと、いろんな思い出話をしながら盛り上がっていた。ちなみにさっき言ってた1周年の話、ケーキバイキングの他に、可愛らしいブレスレットをもらいました。(それは素直に嬉しかった、けど…!)


ふと、腕に付けている時計に目をすると丁度夜の10時。私は頃合いを見計らって、自分の鞄をゴソゴソとあさり綺麗にラッピングされた箱を取り出す。



「ブン太、はい!ハッピーメリークリスマス!」

「おっ、サンキュ!」



びりびりと包装を破いていくブン太。(もうちょっと綺麗に出来ないのかな…)なんて思ったけど、それは心の中にそっと閉まっておいた。
箱の中には苺のホールケーキ。何か残る物をあげたかったんだけど、ブン太はケーキが良いっていうからこれになった。



「うっまそー!相変わらずケーキ作りだけは上手いのな、那華は」

「だけってのは余計だけどね?」

「ははっ!…んじゃ、次は俺の番な」



さっきの私と同じようにブン太は鞄を漁り始めた。出てきたのは綺麗にラッピングをされた小さな箱。それをもらえば「ありがとう」とお礼を言い、綺麗に包装を剥がしていく。

包装を取って、箱の蓋を開けた。そこには――…



「ゆ、指輪…!」

「安モンで悪ィけどよ、那華ずっと欲しがってたから…今はそれで我慢して?」箱の大きさからと良い、なんとなく想像出来ていたけれど、まさか本当に指輪だったとは。ブン太が覚えててくれたことが嬉しくて、感動して、涙が出そうになったけどなんとか我慢できた。

「貸してみろぃ」というブン太の言葉に指輪を渡した。ブン太はそれを左手ではなく右手の薬指にはめてくれた。
不思議に思った私は何も言わずブン太の顔を見上げてみた。




「こっちは、もう少し後でな」




ブン太のその言葉に、私は思わず抱きついた。ブン太の言葉が嬉しくて、嬉しくて。驚いたようだけど、ブン太はすぐに私の背中に手を回してくれてギュッと抱きしめてくれて。



「…ありがとう。すっごく…すっごく嬉しい」

「おう」

「ねぇ、ブン太」

「…ん?」





ずっと ずっと 君に言いたかった言葉があるよ。









「私と付き合ってくれて、―…ありがとう」





いつもふざけてばかりいるけど、本当はとても優しくて。私が困っている時、悲しい時、私が何も言わなくてもすぐに気づいて飛んできてくれて。君がいることで私が幸せだってこと、気づいてる?
私、君の隣にいれて、とってもとっても幸せだよ。



だから、ねぇ。
付き合ってくれて、ありがとう。




空から、雪が降ってきた。キラキラと綺麗に輝くそれは、まるで神様からの贈り物かと思えて。
私達はさっきよりもギュッと抱きしめあった。



「なぁ、那華…」

「なに?」









「ずっとずっと、俺のそばにいて」









(――…ずっとお前の傍にいたい)

(――…ずっと貴方の温もりを感じていたい)



(『――…同じ夢を探す旅を ふたりでしたい』)





「もちろん!ずっとずっと傍にいるよ、ブン太」





空から雪が降ってきた。キラキラ輝くそれは、まるで神様からの送りもののように思えて。
私たちは神様から最高のプレゼントをもらいました。

“ずっと ずっと 傍にいる” これ以上、そしてこれ以下もない、1つだけのお願いを。