passing love







自分が今この世界で生きている理由は何だろうと、いつも考えていた。



朝起きて、学校行って、バイトして、ベッドに入って寝て。
これをずっと続けて行って、同じようなことが繰り返されていく毎日。正直、この同じ毎日に飽き飽きしていた。



友達が嫌いとか、学校でいじめられてるとか、そういうのは全くなかった。周りの人たちは皆とても優しくて、良い子ばっかだし。
問題は、あたしのこの性格だと思う。

何事にも興味がわかなくて…無関心、っていうのかな。何に対してもどうでもよくて、ふーん、ってただ客観的にしか物事が見えなかった。



よく学校の先生に「お前たちの人生だ、一生懸命考えなさい」って言われるけど、あたしとしてはそんなんどうでも良かった。

将来のことなんかどうでも良かったし、やりたいことというのもなかった。お金を稼がなきゃこの世界で生きていくことなんて出来ないのに、おかしいくらいにあたしは全くそれについて関心がなかった。



お金がないと死ぬ?いつかなくなる命、いつなくなろうが困らない。
“死”に対して恐怖を抱いたことなんて1度もなかった。だって、いつしかみんな、ここからいなくなるんでしょ?人との別れを1度も体験なんてしたことないから、そう思うのかもしれないけど。





そんなことをいつも考えていたから、実際に“それ”が突然起こってにも動じなかったのかな…?





「…俺を目の前にしても、驚かないんだね。」

「漫画で何度か読んだことあるしねー。アンタ、死神でしょ?」

「そう。…ってことは、今自分に置かれてる状況とか、」

「死んだんでしょ?あたし、交通事故で。んで、そのあたしを連れに、アンタが現れた」

「説明をしないで良いから助かるよ。」

「まーね、でもまさかほんとに死神がいるなんて、思ってなかったけど。」



目の前には、大きな黒い翼をつけた小柄な少年。整った顔立ちに、スラッとした体系―…その黒い翼さえなければ、普通の人間に見えるのに。
―そう、彼は“死神”。死んだ人の魂を天界に送るのが彼等の仕事。…漫画からの知識だから、本当かどうかは知らないけど。



「アンタみたいなの、初めて会ったよ。」

「そー?」

「うん、普通なら皆“死にたくない”とか“嘘だ、元の場所へ帰してくれ”とか言うんだけどね。」

「ふーん…そういうものなんだ。」

「俺もよくわかんないけど。」



でもアンタが普通と違うってのは確かだね、と綺麗な顔をくしゃっとして微笑んだ彼に、不覚にもドキッと胸が高鳴った。



「なんか、最後に叶えたいこととかないの?」

「叶えたいこと?」

「ほんとはこんなこと駄目なんだけど…アンタなんか面白いから。」

「……そんなことしちゃって、大丈夫なの?」

「さぁ、大丈夫なんじゃない?」



面白そうにクツクツと笑う少年…いいのか、そんな適当で。
良いって言ってるんだから早く、―そんなことを考えていると少年から発せられた言葉。心の中が読めるんですか、なんて突っ込みたいところだけど、めんどくさいから気づかなかったことにしておくよ。



「願いごとって、何でも良いの?」

「だいたいはね。あ、生き返らせてくれっていうのはもちろん駄目だから」

「わかってるよそんなこと。」



生き返る、なんて思いもしない自分に正直吃驚した。
漫画とかだとこういう展開だと主人公みたいな子が「生き返らしてほしい」って言っているのをよく見たけど…、実際にこう体験してみると、なんか冷静でいられるもんだな。



「はいあと10秒ー。」

「え、これって時間制限あり!?」

「もち、早くしないと上の人達に怒られるしね。」

「だったら最初から言ってよね!」

「9、8、7、……」

「うわ、ごめんなさいごめんなさい!決まったから、カウント止めて!」



焦って頼むあたしに、にやりと口角を上げ―…え、何。あたし今からかわれただけ?少しむっとしたけど「早くしてよ」と急かされて、なんか一言だけでも言ってやりたい所だけどそれをぐっと我慢する。そしてあたしより少しだけ高い位置にある彼の目をじっと見つめ、目があったことを確認してから口を開く。



「貴方の名前、教えて。」

「……は?」

「だーかーらー!あんたの名前!」



ぽかん、と口を開けたまま少年の動きが止まってしまう。
だけどそれはほんの一瞬で、すぐに彼はまた楽しそうに声をあげて笑った。



「ちょ、なんで笑ってんのよ!」

「いや、なんか予想してたのと全然違ってたから、つい。…やっぱアンタ、普通の人と違うよね」

「何でよ、いたって普通の人でしょ?」

「だって俺、そんな願い事聞いたの初めてだし。普段なら最後にだれだれさんと会いたい、ってのばっかだし。」

「…いーの!だってせっかく会ったのに、名前知らないなんて、なんか損じゃん」

「そういう考えが変わってるんだって。…ま、見てて飽きないけどね」



変わってるのかな?だって、なんかよくわからないけど、知りたいって思ったんだもん。きっとこれから会うことなんてないだろうけど、それでも彼の名前を知っておきたいと思った。



「リョーマ。」

「…へ?」

「俺の名前、正確に言えば人間だったころの俺の名前。」

「そっか。リョーマ、か。あ、あたしの名前は…」

「那華、でしょ?」

「!な、なんで…!」

「だって俺、死神だし。」



たったそれだけの理由でも、名前を知っててくれたことが素直に嬉しかった。
知っていて、その声であたしの名前を呼んでくれたことに、少しだけくすぐったかった。



「ありがとう、リョーマ。」

「こんぐらいなら、全然楽だし。……悪いんだけど、そろそろ」

「あ…もう、時間?」

「うん…」



時間、ときいてさっきまで全然感じていなかった恐怖が、今さらになって感じてきた。それは“もっと生きていたい”とか“死ぬのが怖い”とか、そんなものではなく、

リョーマに会えなくなるって思うと、すごく寂しくなった。



「大丈夫、痛みは感じないと思うから。」

「…うん、」

「…あっちは人間界と違って楽できるから、心配はいらないよ。」

「うん、ありがとう。」



それじゃ…、とリョーマが言葉にした瞬間、どこからか現れた銀色の刃。それは昔、何かの漫画で読んだものと同じもので、ああ、これであたしの魂抜かれるんだなってわかった。

刃をリョーマが片手に持ち、持った方の腕を空に向かって上げた瞬間、両目をぎゅっとつぶって振り落とされるのを待つ。
ザシュッと音と共にあたしの意識はだんだんと遠のいてきた。たしかに痛みはなかったけど、頭がグワングワンと貧血に似たような感じの感覚に陥る。

そんな時、ふいにぎゅっと誰かに抱きしめられ、温かい温もりを感じる。強く瞑られていた瞼を開ければ、そこはさっきと変わらず真っ暗で、―ああ、今あたし、リョーマの腕の中にいるのか。
だんだんと遠のいていく意識を必死に繋ぎとめ、リョーマの背中に自分の手を回す。そうすればリョーマはもっと力をいれて抱きしめて、顔をあたしの耳元によせて囁くように―…





「今度会うときは、人間の姿で―」





passing love


(もしまた君に会うことが出来たなら、本当の僕の想いを隠すことなく伝えるから―…)





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