不器用な恋心







( あ……また、来た… )


誰でも一度は体験したことあるんじゃないだろうか。悩みとかなんにも無さそうな人でも。前触れもなく突然やってくる、なんとも言えないこの気持。モヤモヤ感。頭の中が霧掛かった感じで上手く神経が働かなくて、何か考えたとしても嫌なことばっかりで。黒い闇で体全身を覆われてる感じがして…気分を変えようと音楽聴いてみたりするがこのモヤモヤ感は消えなくて。



コツン―…



そんな時、ふいに窓の外から音がした。
風かな?って思って最初はあまり気にも止めなかったけど、その音は何度も聞こえてきて。不思議に思った私は、音がする原因の窓付近に近寄り、カーテンを開ける。



カラカラカラ―…


もう夜も遅いからか、シンと静まっている暗闇の中。窓を開ければ少し冷たい風か私の頬を触れる。もう春だけど、夜になるとまだ少し肌寒い。窓から少し身を乗り出して暗闇の中を見下ろす。

そこには―…



「…っ……う、そ…!!」



適当にそこら辺にあった羽織るものを手にして、玄関に走った。着てる暇もなく、靴もかかとをちゃんとはかないまま玄関の扉を開ける。


だって、すぐ側に



「翼!」



大好きな、彼がいたのだから。




「う、わっ!」

「このバカ!風邪引いたらどうすんだよ!」



いきなりぎゅっ、と翼に抱きしめられた。突然なことで吃驚する私を尻目に、翼は私が手に持っていたカーディガンを奪い取り、そっとかけてくれる。その行為が終わったら「よし、」と翼は呟いて、また先ほどと同じように私を抱きしめた。


いつもと違う彼に、ドクンドクン、とさっきから心臓がうるさかった。



「つば、さ…?」

「…ん、なに?」

「いきなり、どうしたの…?」



先ほど自分の部屋で見た時計は夜の10時を示していた。 (こんな遅くにどうして、)(家だって遠いのに) … 疑問はたくさん出てくる。 …また、私の身体を抱きしめている翼の腕に力が入った。



「玲が、さ。」

「玲さん?」

「そう。女の子は温もりを感じれば安心するって聞いてさ、」

「……へ?」

「こうやって抱きしめれば、温もり感じるんじゃないかって思ったんだけど。…どう?」



抱きしめたまま少し腰を屈めて私の顔を覗いてきた。 …こういう時だけ、そんな優しい顔して、優しい声して、ずるい。今日は朝からなんとなく気分が晴れなくて、だけどみんなにいつも通り接していたつもりなのに。多少なことでも、翼はすぐに私の変化に気づいてくれる。体全体で感じる翼の温もり、そして翼の優しさに、目尻から涙が零れそうだった。



「…翼には、隠し事できないね。」

「あたりまえじゃない、僕を誰だと思ってるの?」

「サッカー世界の舞ひm…」

「那華?」

「あは、うそうそ!頭がよくて優しくて頼りになって、…私の大好きな人!」

「…ふーん、よくわかってんじゃん。」



普段はこんなこと言ってあげないけど、…今日だけは特別。私なんかのために、こうして夜遅くに私に逢いにきてくれた君に、素直じゃない私にとっては珍しい言葉。



「…翼、」

「ん?」



「ありがとう」



私の隣にいてくれる君に感謝をこめて、愛のこもったキスでも1つあげようか。






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